コラム

2022年3月29日  

粒子の大きさには訳がある?『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』

粒子の大きさには訳がある?『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』
コロナ禍によって私たちの生活は色々と変わりましたが、最もわかりやすい変化は外出時のマスク着用です。しかしこれまでは、マスクは一般的に冬〜春のものでした。冬はインフルエンザ、春は花粉を防ぐためです。より高性能なマスクが出回り、いつも身につけていることで、「インフルエンザにならなかった」「花粉症が少し楽な気がする」等、プラスの影響があった人もいるようです。
実はそんな「新型コロナウイルスのついでに防いでいた」微粒子に、「PM2.5」があります。2013年に大騒ぎになったことを覚えている方もいるのではないでしょうか。ビルの上階が隠れてしまうほどの大気汚染物質が、中国から風に乗って運ばれてくる!という報道により、当時もマスクが品薄になる地域がありました。
人体への吸入はマスクで防げるとはいえ、環境への影響は変わりません。地球環境の悪化が深刻な現在、PM2.5はどのような物質で、どこでどのように発生し、人体や環境にどのように影響するかを知っておくのも重要ではないでしょうか。黄砂は中国から飛んできますが、それとは同じなの、それとも違うの?何が含まれているの?
当時を覚えている方もそうでない方も、PM2.5の入門編としてぴったりの1冊をご紹介します。『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』は、豊富な図とグラフを添えて、大気粒子の専門家がPM2.5の基本から応用まで解説を行っています。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』はこんな方におすすめ!

  • 環境問題について関心のある方
  • 黄砂の影響が心配な方
  • 越境大気汚染について知りたい方

『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』から抜粋して5つご紹介

『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』からいくつか抜粋してご紹介します。最初の章ではPM2.5の定義と測定方法、基準値等を解説します。次に発生と輸送のメカニズム、続いて影響と対策、最後に他の大気汚染や気候変動との関係を解説していますので、最初から順に読み進めていただければ理解が深められるでしょう。

PM2.5とはそもそも何なのでしょうか?

PM2.5が話題になり始めたのは2013年の1月、中国北京で起こった大規模な大気汚染のニュースがきっかけでした。世論に押される形で、環境省は2009年に制定されたPM2.5に関する環境基準値の見直しを行い、1日の平均濃度を70㎍/㎥という暫定指針を発表しました。

PM2.5とは、「空気力学的直径2.5㎛以下の粒子状物質」のことです。その物質が何であるかは問いません。ではなぜ、この大きさ以下の粒子に限って問題にすることにしたのでしょう?
空気中を漂う粒子のサイズと重さを調べると、2.5㎛あたりを境に2つのピークがあります。大きい粒子は(粗大粒子)主に自然由来、小さい粒子(微小粒子)は主に人間活動由来(燃料等を燃やした際のガスなどが粒子に変化したもの)という特徴があります。自然物の制御は難しいですが、人間活動に伴って発生するものなら規制を設けることができます。

また、10㎛より小さい物質は鼻や口でブロックされず、肺にまで到達して人体に影響する可能性があります。
つまり、「大気汚染等の原因となり人体に悪影響を及ぼす可能性のある、人間活動によって発生する物質(微小粒子)」が多く含まれる範囲として、PM2.5が設定されているというわけです。

2013年当時、北京の空が靄のようなもので覆われている衝撃的な映像がニュースで繰り返し流れました。そのときも、マスクが店頭から消えるなどのパニックが起こったのを覚えています。「肺に到達して沈着し、健康被害を引き起こす」ことが注目されていました。

PM2.5とはどんな物質ですか?

PM2.5の言葉自体は、その中身のことを定義してはいません。では、PM2.5はどのような物質から構成されているのでしょうか?

PM2.5粒子は無機成分と有機成分で構成されています。無機成分には、水溶性のイオン成分と、金属酸化物等の金属成分、またスス等の炭素粒子(元素状炭素:EC)があります。一方、有機成分は多種多様な物質を含むため、炭素を含む有機化合物の総量として有機炭素(OC)として測定されます。さらに、OCは水溶性の有機化合物WSOCと非水溶性の有機化合物WISOCに分けられます。
水溶性イオン成分には、海水の飛沫や黄砂粒子のような自然由来のものと、燃焼過程で生成された二酸化硫黄や窒素酸化物等が酸化されて生成した硫酸塩や硝酸塩のような人為起源のものがあります。

エアロゾルの中でも有機エアロゾルは、粒子が非常に小さいためPM2.5の主要成分の1つとなっています。様々な有機化合物が人体への影響を示しており、発がん性の観点から注目されているのは多環芳香族炭化水素(PAH)です。大気中の物質の中でもPAHがエアロゾルの発がん性の35〜82%を占めているとされています。

PM2.5には、食塩のようなほとんど毒性のないものも、水銀やヒ素のような毒性の高いものも含まれています。黄砂粒子もPM2.5に分類されているのですね。含まれるイオン成分は、陽イオンとしてはカルシウムイオン等、陰イオンとしては硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン等が含まれます。

大陸で発生したPM2.5はどのように日本に運ばれてくるのでしょうか?

PM2.5が注目されるきっかけとなった2013年1月当時のデータによると、西高東低の冬型の気圧配置のもと、大陸から高濃度の硫酸塩を含む気塊が輸送されてきたことがわかります。冬の季節風に乗って、大気汚染物質が運ばれてきたのでしょう。濃度は西日本で高く、東日本では低くなっています。

しかし一般的には、大陸の大気汚染物質が大規模に日本にやってくるのは、むしろ移動性の高気圧や低気圧、前線などが日本の南岸を通過するときです。
PM2.5の発生には、発生源から直接大気中に放出される一次粒子と、輸送中に気体が粒子化する二次粒子があります。

また粒子は、輸送中に既存粒子が気体を凝縮したり、粒子同士が凝集したりして成長し、自由落下や乱流拡散による乾性沈着、雲や降水による湿性沈着によって除去されます。

エアロゾル粒子やそのもととなる気体成分は、対流が活発な大気境界層に多く存在します。しかし、この高度範囲では除去の可能性が高いので粒子の寿命は短く、長距離輸送の可能性はそれほど高くありません。

それより上の自由対流圏は地上からの影響を普段直接は受けませんが、低気圧に伴う上昇気流などの影響で微量物質が持ち上げられたときは、除去が効率的に進まないので粒子は長距離輸送されやすくなります。

従って、東京の大気汚染が大陸由来のものであるかどうかは、自由対流圏におけるPM2.5の濃度を計測すれば予測ができます。計測結果によれば、2013年1月末〜2月上旬の東京のPM2.5は都市大気汚染によるものの可能性が高いようです。

現在では気象予測技術が発達し、気象関係のサイト等でPM2.5分布予測を時間ごと、地域別に確認することができますので、該当する地方の人は対策ができます。自由対流圏の観測を行う場所としては富士山頂が最適だそうですが、現在では通年での観測は行われていません。富士山頂の富士山測候所はNPO法人によって夏季のみ開所され、様々な研究・観測が行われています。

PM2.5を吸入することによりどんな病気になるおそれがあるのですか?

まず一番大きな影響を受けるのは肺です。粉じんは肺の中に沈着し、その沈着量が一定量以上になると肺に障害を引き起こします。PM2.5は大きな粒子よりも肺内の沈着率が高く、吸入量が少なくても障害を誘発しやすい粒子です。

急性影響(当日から数日以内)では気管支喘息の発作やCOPDの急性増悪等、慢性影響では肺がん等の原因となる可能性が挙げられています。また、PM2.5への長期的曝露が肺機能や気管支に影響するとの報告もあります。

肺以外の臓器では、心血管系への影響が報告されています。PM2.5は、心血管系疾患による死亡率を増加させることが認められています。PM2.5への曝露とともに動脈硬化が進行し、心血管系疾患の発症につながると考えられています。

PM2.5によって自律神経が変調をきたし心拍数の調整がうまくいかなくなることも、その大きな原因といわれています。

心血管系への影響が起こるメカニズムは、肺を通過した粒子が血管や循環器に直接作用することの他に、呼吸器内に存在する知覚神経終末を刺激して自律神経に影響を与えたり、呼吸器内の炎症反応を介して血液凝固系を促進したりすることが考えられるそうです。咳が出れば心拍は乱れますし、脈が乱れれば心臓にはよくない、といった流れでしょうか?

PM2.5と黄砂とはどう違うのですか?

PM2.5の定義は単に粒径2.5㎛以下のエアロゾル粒子の総量ですので、粒径2.5㎛以下の黄砂粒子があればそれも含まれます。黄砂発生時に計測してみると、PM2.5の大部分が黄砂粒子であった、という状況もしばしば生じます。
しかし、現在問題になっているPM2.5は、大気汚染に起因する微小粒子の意味で使われることがほとんどです。

黄砂は中国やモンゴルの乾燥地域の砂が強風で舞い上がり、西風に乗って日本に運ばれてくるものです。中国からの大気汚染物質も、同じく西風に乗って運ばれてきます。黄砂と微小粒子とは発生源は異なりますが、黄砂を含む空気塊が大気汚染の激しい東シナ海沿岸部の工業地域や人工知能過密地域を通過する際、大気汚染物質も同じ空気塊に混じり合うことが考えられます。

黄砂粒子が表面に大気汚染物質を吸着(内部混合)したり、大気汚染物質が吸着されずに独立して同じ空気塊の中で黄砂粒子と混じり合ったり(外部混合)して黄砂粒子と大気汚染物質粒子は大気中を運ばれます。

従って、大気汚染物質と黄砂が混合した状態では「分けて考える」ことは難しいといえます。しかし大気汚染物質を含む可能性があることを考えれば、黄砂粒子もPM2.5と同様、健康被害の可能性について留意する必要があるでしょう。

黄砂粒子は火山灰のようなイメージで考えていましたが、より細かい粒子も当然含まれているので、小さいものはPM2.5になるのですね。私たちは普段マスク等を使用することで空気をある程度「分けて吸う」ことができていますが、成分で分けて吸うのはなかなか困難です。普段の生活では、粒子の大きさに着目して防御していれば、その範囲に存在する有害物質も防げると考えていればよいのでしょう。

『みんなが知りたいPM2.5の疑問25』内容紹介まとめ

ここ10年、大気汚染の原因として注目されてきたPM2.5。その定義や発生源、発生メカニズムと大気中での動き、人体をはじめとした様々な影響とその対策について解説します。図表やグラフを用いて、微粒子の振る舞いを視覚的に理解することができます。

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