列車ダイヤのはなし-世界一正確なダイヤと定時運行のしくみ-


978-4-425-96072-9
著者名:富井規雄 著
ISBN:978-4-425-96072-9
発行年月日:2022/10/28
サイズ/頁数:A5判 316頁
在庫状況:在庫有り
価格¥3,850円(税込)
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「電車を見て時計を合わせることも可能」ともいえるほど、世界一の定時性を誇る日本の鉄道。この正確さはどのようにして実現されているのかについて、列車ダイヤの成り立ち、作り方、働く人々について長年運転システムの構築に携わってきた立場から詳細に解説。安全性の向上への貢献、ICカードやスマホとの関係、AIやWithコロナ社会での鉄道のあり方についても記述。さらに50ものコラムを配し、多くの知見を盛り込みました。


【まえがき】

世は第三次AI ブームなのだそうである。少なからぬ数の仕事がそのうちAIに取って代わられ,なくなってしまうという。「この先10年でなくなる職業」という表を目にしたこともある。しかし,列車ダイヤを作る仕事,いわゆるスジ屋の仕事は,少なくとも日本の都市鉄道については,この先10年,AIに取って代わられる可能性はないと思う。日本の都市圏の列車ダイヤは,稠密に走る列車を対象とした実に複雑なものであって,その作成にあたっては,様々な制約条件のもとで,時には相反する多数の利用者の利便性を考慮した上で判断をくださなければならない。また,関係する部署や会社との調整も必要になる。きわめて困難な業務と言える。
本書の前著にあたる『列車ダイヤのひみつ』を執筆していたのは,今からおよそ18年前であった。前著は,おかげさまで何度か版を重ね,多くの方に読んでいただくことができた。なかでも,筆者にとってやや意外であったのは,鉄道会社に勤務される方にも読者が多かったことであった。鉄道会社のいわゆる運輸部門(列車の運行計画の作成や運行の管理にたずさわる部門)以外の人が気軽に列車ダイヤに関する知識を得られる本として受け入れていただいたようである。
そこで,本書を出すにあたっても,気軽に楽しく読みながら列車ダイヤに関する知識を得られるような本を目指すことにした。無味乾燥な,いかにも教科書的なものではなく,かつ,「何がどうなっているのか」ではなく,「なぜ,そうなっているのか」を記述するようつとめた。この本は,もちろん,鉄道会社に勤めている人というよりは,一般の方を読者として想定している。鉄道のしくみ,特に日本の鉄道の定時運行がどのようなしくみで実現されているのかを知りたい人に,その背景とそこに至る事情をわかりやすく解説しようとしている。そのためには,表層的な事実の列挙だけでは不十分だと考えるからである。
この18年間を振り返ると,変わったこともあり,それほど変わっていないこともある。変わったことのひとつとしては,安全性向上の再認識があるだろう。2005年4月25日に発生した福知山線列車脱線事故,同年12月25日に発生した羽越本線列車脱線事故などの重大事故の発生をうけて,鉄道の安全性向上策が議論されることとなった。無論,それまで安全が軽視されていたわけではない。「安全は輸送業務の最大の使命である」(これは,日本国有鉄道の安全綱領の最初にあった文だが,現在の各鉄道会社でも同様である)との認識のもとに,安全性向上に向けて,たゆまぬ努力が続けられていた。しかし,上記の事故や他の事故の発生を契機に,安全性向上策が明示的に議論されるようになった。また,それを受けて,運輸安全マネジメント制度など様々な方策がとられることとなった。さらに,安全性向上に関連する話題として,ホームドアの急速な普及,台風接近時などの計画運休の定着などもあげられるだろう。
もうひとつ変わったこととしては,情報技術の応用がある。SuicaやPASMOなどの交通系ICカードが普及した。また,スマートフォンが急速に普及し,今では,列車の位置や遅れなどの情報をリアルタイムで得るとか,事故発生や復旧などの知らせをメールで受け取るとか,駅の混雑状況の画像を配信するなどのサービスも一般的になってきた。さらに,運転士や車掌がスマートフォンやタブレット端末を携帯し,業務上の連絡・情報取得や案内に活用することも実現されている。
一方で,ダイヤを作って,その通りに列車を走らせるという点については,この18年間に様々な進展があったとも言えるし,本質は,それほど変わっていないとも言える。朝のラッシュ時の電車は,以前とくらべれば「マシ」になったとはいえ,相変わらず混雑しているし,相互直通運転のむくいか,小規模の遅延も頻繁に発生する。業務の面でも技術的進展はあるにせよ,あいかわらずダイヤは「人手」で作られ,事故が起こった時には,「人手」でダイヤの変更が行なわれる。その理由は,一言で言うと「難しいから」とい
うことになる。では,何が難しいのだろうか? なぜ難しいのだろうか? 今後ともそうなのだろうか?
そして,最近になって問題をさらに複雑にしたのが新型コロナウィルス(COVID-19)である。ご承知のように,これは,鉄道に多大な影響を与えている。鉄道に対しては,「いつかは来ると思っていた未来が突然やってきてしまった」という声も聞かれる。需要の低迷や利用者の行動の変容などへの対応が必要となった。本文では,鉄道会社各社のCOVID-19への対応についても,1章を割いて記述させていただいた。
なお,本書をお読みいただく前に,一つだけ注意事項がある。本文中で記述しているように,日本の鉄道は,都市圏・都市内の鉄道と,都市と都市を結ぶ在来線の鉄道,新幹線,それに,貨物鉄道に分類することができる。それらは,かなり性格を異にする。本書は,利用者の多い都市圏・都市内の鉄道について主に記述し,必要に応じて,新幹線や地方の鉄道,海外の鉄道についても触れている。対象を明確にして,混乱することのないように説明をしているつもりであるが,このことに注意してお読みいただければと思う。

2022年9月
富井規雄

【目次】

1. 定時運行の歴史
2. 日本の鉄道の特徴
3. 鉄道というシステム  3.1 定時運行を支える人たち
 3.2 分散協調システムとしての鉄道
 3.3 共通の情報としての列車ダイヤ

4. ダイヤとは?  4.1 ダイヤ図のはなし
 4.2 ダイヤ図の工夫
 4.3 ダイヤ図の歴史
 4.4 列車ダイヤの中身
 4.5 列車番号へのこだわり
 4.6 毎日違う列車ダイヤ – 基本計画と実施計画

5. ダイヤを作る  5.1 ダイヤを作る準備
 5.2 需要を予測する
 5.3 物理的な制約をまもる
 5.4 基準運転時分
 5.5 時隔– 2 本の列車の間の最小の間隔
 5.6 ダイヤの種類 – 都市間路線のダイヤ,都市圏路線のダイヤ
 5.7 スジを引く – 便利なダイヤを作る
 5.8 ダイヤ作成の工夫 – ダイヤ作りの定石
 5.9 きめ細かい工夫 – 神は細部に宿る
 5.10 スジ屋見習い
 5.11 列車ダイヤ作成の手順 – 調整の連続
 5.12 ダイヤの評価 – どういうダイヤがよいダイヤなのか?
 5.13 ダイヤ作成システム

6. その他の輸送計画  6.1 4 つの計画
 6.2 車両運用計画とは
 6.3 乗務員運用計画 – 運転士と車掌の勤務の計画
 6.4 構内作業計画とは

7. ダイヤを伝える  7.1 全員がダイヤを共有する
 7.2 輸送総合システム

8. 遅れずに運転する  8.1 乗務員の仕事
 8.2 運転士を育成する
 8.3 正確に運転する

9. 遅れに強いダイヤ-列車ダイヤの頑健性  9.1 小規模遅延はなぜ起こる? どのように対応する?
 9.2 余裕時分をつける
 9.3 ダイヤを工夫する
 9.4 頑健性の向上はトータルな考え方で

10. 遅れたダイヤを回復する  10.1 運行管理の中枢 – 指令室
 10.2 進路の制御とは?
 10.3 事故が起こればダイヤが乱れる
 10.4 事故を未然に防ぐ
 10.5 自然災害への対応
 10.6 運転整理 – 一時的なダイヤの変更
 10.7 なぜ運転整理は難しいのか
 10.8 運転整理を支援する – 運行管理システムとその機能
 10.9 レジリエントな鉄道システム

11. AI はダイヤを作れるか?  11.1 なぜ,コンピュータでダイヤを作ることは難しいのか?
 11.2 世界中で研究開発が進んでいる
 11.3 データを活用する

12. with コロナ,after コロナの時代へ  12.1 COVID-19 の影響
 12.2 COVID-19 への鉄道会社の対応
 12.3 人が増えれば電車は遅れる
 12.4 愚策であった減便の要請



この書籍の解説

朝夕のラッシュ時、ホームに列車が次々とやってきます。多少遅れることもありますが、多くの場合はホーム上の発車案内板に出ている時間とほぼ同時刻に、列車は発車していきます。この正確な運行のもとになるのは列車ダイヤです。時刻表や案内板には分までしか表示されていませんが、実は秒単位で定められています。秒単位まで記入された業務用の時刻表が、ホームの柱などに貼ってあるのを見たことがある方もいるかもしれません。
列車のダイヤは、列車の運行やその運転時刻、番線などを定めたものです。図にすると、横軸に時間の経過、縦軸に駅を配置した上に、ある列車がその駅にいる時間を配置して直線で結んだものになります。鉄道好きの人なら、冊子の時刻表があれば簡易版を描けるかもしれません。このダイヤは、列車の運行に関わる様々な要素を考慮し、試行錯誤の上で作り上げられたものです。現在は色々な分野でAIが使われるようになりましたが、首都圏の過密ダイヤを作るためには、やはり人の手が必要です。
今回ご紹介する『列車ダイヤのはなし』は、この列車ダイヤについて、列車運転システムの専門家が解説します。列車ダイヤの歴史と基本、作り方、ダイヤを実現するための技術、列車が遅れた場合の対応等、列車ダイヤに関わる多くのことについて、豊富な図表を用いて詳解します。またAIによる支援技術の活用や、コロナ後の鉄道ダイヤ等、最新の話題にも触れています。
乗っている路線で何かトラブルがあったとき、列車と乗客を安全に目的地へ運ぶため、鉄道会社では何が行われているのでしょうか?ダイヤ上で列車の運行を指す線は、トラブル時にどう引き直されるのでしょう?これが理解できれば、運転席や駅や指令所で奮闘する現場職員の姿が見えてくるかもしれません。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『列車ダイヤのはなし-世界一正確なダイヤと定時運行のしくみ-』はこんな方におすすめ!

  • 鉄道会社を目指している方
  • 鉄道会社に勤務する方
  • 鉄道ファン

『列車ダイヤのはなし-世界一正確なダイヤと定時運行のしくみ-』から抜粋して3つご紹介

『列車ダイヤのはなし』からいくつか抜粋してご紹介します。正確さで名高い日本の鉄道ダイヤ。その正確さはどのようにして実現されているのでしょうか?列車運転システムの専門家が、列車ダイヤの成り立ち、作り方、現場での運用方法やトラブル時の回復方法などを解説します。

ダイヤ図から何がわかるのか?

ダイヤ図は鉄道におけるもっとも重要な帳票です。高密度で列車が運転される線区のダイヤ図は複雑なものになりますが、その線区の列車の運転に関わるあらゆる情報が格納されているのです。

JRの場合、多くの線区で列車の時刻は15秒単位で決められています。大都市圏のJRや民鉄では10秒または5秒単位です。都市圏では基準運転時分や運転時隔などを守った上で利用者の利便性を考慮し、多数の列車を運行することが求められているからです。この場合、駅と駅の間を運転するのに要する時間 (運転時分)も、ダイヤと同じ単位で定めることになります。

ダイヤ図では、列車の着発時刻は「秒記号」によって 5秒の単位まで読み取ることができるように工夫されています。この記号を「爪」「ヒゲ」「ちょうちん」と呼びます。2分目の場合、時刻線は2分ごとに引かれているので、線の中間は奇数分です。秒記号は全てを足し合わせていくので、時刻を読み取ることができます。上り列車の秒記号は駅線の下に、下り列車の秒記号は駅線の上に描きます。

ダイヤ図には、列車が使う番線、速度種別などが記されていることもあります。また、線の種類から列車の種類を読み取ることができます。JRでは、旅客列車は実線、貨物列車は破線で描くことになっています。また、太い線は特急などを表します。さらに線に記号をつけて、列車の種別を表すこともあります。小さい四角形を貫くようなスジは、その列車が回送列車であることを表しています。

ダイヤ図に含まれているのは列車の情報だけではありません。設備に関わる情報、例えば駅間の距離、勾配、信号方式、単線複線の別、変電所の場所などの情報も、ダイヤ図の左右の端などに記載されています。またその線区以外の線区のダイヤの情報も含めることもあります。新幹線との接続や、相互直通運転を行なっている場合などです。つまりダイヤ図には、その線区の運行管理に必要なすべての情報が含まれているのです。

何故ダイヤ図を使うのかといえば、すべての情報が視覚的に把握できるからです。列車の速度は、スジの傾きが列車の平均速度を表すことになるので、線の傾きから直感的に把握できます。「スジが立っている(所要時間が短い)」「スジが寝ている(時間がかかっている)」などと表現します。2つの列車の待避関係も一目瞭然です。2本の列車がどれくらい近づいているのか離れているのか、ダイヤ図からは一目でわかります。

最近では、東京圏の一部鉄道会社のダイヤや走行位置などのデータをオープンデータとして公開し、それを活用したアプリケーションを募集するという企画も実施されています。それらのデータを活用して、現在までの列車の運行状況をダイヤ図形式で表示するサービスも作成されています。

ある線区の列車の運行計画の概略、特に多数の列車の相互の関係とその読細の両方を同時に迅速に把握する手段として、ダイヤ図にまさるものはありません。スジ屋がダイヤを検討する時には必ずダイヤ図を使います。今では列車ダイヤはコンピュータを使って作られていますが、その場合も、ディスプレイにはダイヤ図を表示して作業を進めていくのです。

私(担当M)は鉄道旅行のとき、冊子の時刻表を持っていきます(スマホアプリの普及で大分減ってしまいました)。自分が乗りたい列車の列車番号を追いかけていくと、この駅に何時に着いてここで別の電車に抜かれて、というのがわかるのですが、数ページにわたって情報が書かれているのでなかなか面倒です。ダイヤ図なら、読むのに練習は必要ですが、これが1枚の紙に書かれているのでひと目でわかります。

都市間路線のダイヤ、都市圏路線のダイヤ

列車ダイヤの作成手法は次の2つに大きく分類されます(本文中には民鉄の解説もありますが、抜粋はJR東日本の例です)。

作成手法1:列車1本1本、各駅に対して時刻と番線を決める。列車によっては、同一種別であっても駅間の運転時分や停車時間が異なる可能性がある
作成手法2:列車のパターンをあらかじめ準備する。パターンとは、駅間の運転時分と各駅の停車時間を定めたもの。結果的にパターンは各駅の始発駅からの所要時間としての時刻を含むことになる。一部の駅については時刻を定めないこともある。ダイヤはパターンを並べる形で作成する

実際には、色々な例外事項があります。特に昼間については、どちらの作成方法を用いても、結果的には駅間の運転時分や停車時間は同じになり、できたダイヤの見かけは変わりません。パターンを用いて作成しても、何かの事情で一部の列車のダイヤがパターンから外れたものになることはよくあります。

作成手法1は、基本的には都市間輸送のダイヤの作成法です。特急列車や貨物列車等多種多様の列車が運転され、駅間距離も比較的長い路線です。JRにおいては、JR東日本の一部の区域以外はすべてこちらの方式です。ダイヤの作成単位は15秒、ダイヤ図は0時から24時の2分目、基本的に各駅の時刻をダイヤ図上に秒記号を使って表示する、時刻表を作成するなどの特徴があります。

作成手法2で作られているのは、JR東日本のE電線区です。具体的には山手線、京浜東北線、中央・総武緩行線、中央快速線、総武快速線、常磐緩行線、横須賀線などです。この作成方法は、都市圏都市内を対象としています。電車列車だけが走り、ラッシュ時の列車の頻度が高く、駅間の間隔が短いという特徴があります。

E電の場合、走行時分と停車時間を時間帯によって変えたパターンをあらかじめ準備しておき、それを用いてダイヤを作ります。ダイヤ図は4時から翌4時までの1分目とし、時刻表は作成しません。ダイヤ図では主要駅のみ時刻を表示し、表示する時刻の単位は10秒です。列車番号は運行番号をもとにしたものとします。

おそらく元はどこも作成方法1でダイヤを作成していたのでしょう。しかし都市圏では駅も列車本数も多いので、大変な労力がかかります。それよりも主要駅間の所要時間を先に定めてそれをもとに主要駅の間にスジを引き、中間駅の時刻はそこから読み取るという方式の方が圧倒的に楽です。ほぼ同一種別の列車ばかりが走行する路線では、この方式でも特に問題はありません。

最近ではダイヤ作成システムの導入により、各駅の時刻を簡単に決められるようになりました。 その結果、この2つの方式の本質的な差異が少なくなっているようです。

「E電」という言葉は一般的にあまり馴染みがありませんが、分割民営化されたJR東日本の首都圏の列車をこう呼びます。世の中では定着しませんでしたが、JR東日本社内では普通に用いられているようですね。昔は市販の時刻表でも時々この表記を見かけたような気がしますが、いつの間になくなっていたのでしょう。

ダイヤを変更する

ダイヤが乱れた場合、運転整理上の制約等を考慮した上で、運転再開見込時刻をもとに、方針に沿って具体的なダイヤの変更案を考えます。以下に具体的な変更手段を解説しますが、実際はこれらを複数適切に組み合わせてダイヤ変更が行われています。乱れの規模や列車の本数や運転整理の内容にもよりますが、都市圏の場合は30分から1時間程度の不通でも、変更箇所は軽く百を超えます。

《順序変更》 基本的な運転整理手法の一つで、列車の発順序を変更するものです。
例えば快速列車が駅4を出るところで遅れてしまったとします。各駅停車は駅3で退避する予定でしたが、遅れを防ぐため、駅3での発車順序を変更して各駅停車を先に行かせ、次の駅2で退避することにします。
これとは逆に、待避が設定されていない緩行列車と快速列車との間で、緩行列車に遅れが生じた時、待避が計画されていなかった駅で緩行列車を待避させて快速列車をスムーズに走らせることもよく行なわれます。

《番線変更》 所定の番線を変更します。前の列車の発車が遅れて、本来入るはずだった番線をふさいでいる時などに使います。着発線変更とも呼ばれます。
列車2の駅1からの発車が遅れてしまったとします。列車3もその折り返しになる列車4も同じ番線1を使う計画になっているので、このままだと列車3は駅の手前で止まってしまいます。そこで、列車3および列車4の番線を、空いている番線2に変更します。
番線変更は比較的単純でよく使われる手法ですが、折り返して始発列車になる場合、多くの乗客が列を作って待っているかもしれません。駅の係員とも調整の上、十分に時間の余裕を持って乗客に案内する必要があります。

《車両運用変更》 例えば、列車1が列車4で、列車3が列車2で折り返す場面を考えます。列車3が遅延した場合、折り返しである列車2の発車も遅れます。こういう場合には、すでにこの駅に到着していた別の編成を列車2に充当します。列車3で到着した編成は、列車4に充当します。こうすれば列車2は遅れなしに発車することができます。
注意事項は、列車1と列車3、列車2と列車4の車両のタイプが違う場合です。変更した場合は後で再度車両運用の変更をするか、ダイヤの乱れが一段落した後、回送列車を走らせて辻褄を合わせます。これも運転整理の一環ですが、特に「運用整理」と呼ぶことがあります。

《延長運転》 列車1-列車2は駅1で、列車3-列車4は駅2で折り返すとき、列車3が遅れてきたら、列車4の駅2からの発車も遅れます。こういう場合、延長運転を含めた運転整理を実施することがあります。駅1で折り返す予定だった列車1を駅2まで運転します(延長運転)。列車4は、その編成で運転します。 一方列車3は駅1で運転を打ち切り (部分運休)、その編成を列車2として折り返します。列車3の乗客で駅2方面に行く人には後続の列車に乗り換えてもらいます。こうすれば折り返し列車の遅延を防ぐことができます。
この場合も、編成の行先が変わる可能性があります。また乗務員運用が変更になるので、間違いなく指示を行うことが必要です。

《運休―山切り》 列車の運転区間の一部を運休(部分運休)することによって、遅延を回復する手法として「山切り」があります。列車を途中の駅で折り返して、折り返した列車の遅延を小さくしようとするものです。
この場合の注意事項は、この列車に乗って駅2まで行く予定であった乗客への案内と、乗務員への行路変更の連絡、勤務の調整です。

《タスキ切り》 大幅に遅れてしまって運転する意味がない列車は運休にした方が遅延回復に有利です。一方向の運休では折り返しの列車に充当する編成がなくなってしまうので、上下方向の列車をセットで運休します。ダイヤ図で見ると、タスキのような形で運休する(切る)ことになります。
タスキ切りの場合も乗務員の行路を変更しなければなりません。タスキ切りを行なった時には車両運用が変わります。

《取込み特発》 「取込み特発」と呼ばれる運転整理手法は、車両基地と駅が隣接している場合によく用いられます。遅れている列車1を駅1から車両基地に収容し(「取込み」)、別の編成を車庫から出して(「特発」)駅1から駅2まで列車として運転します。それによって列車1の折り返しの列車2が遅延しないようにするのです。

《区間折り返し運転》 不通となっている区間以外では列車を運転したい場合に行われます。駅1と駅2の間が不通になったときに全線を止めず、不通区間の手前の駅1ですべての列車を折り返します。部分運休と車両運用変更の合わせ技です。
区間折り返し運転の注意事項は、車両運用計画と乗務員運用計画以外に、駅1が折り返しできるような配線になっているかどうか、またそこで降ろされた乗客が乗り換えられる他の交通機関があるかどうかということです。

《迂回運転》 日本においては会社単位で見れば線路はほぼ一直線状に伸びているため、ある箇所で事故が起こった時にそこを迂回して運転を継続することは困難です。例外的に東海道線と横須賀線、湖西線と琵琶湖線の間では迂回運転が行われることがあります。

ダイヤ乱れのときの運転変更で思い出すのは、京急の俗に言う「逝っとけダイヤ」です。ダイヤ乱れといったら全部普通列車になるかと思うのに全部臨時快特になったり、車掌さんが「この列車はどこまで行くかわかりません」と言い出したり、普段なら有り得ないタイプの車両が有り得ない種別で走ってきたりという大混乱が起こるのですが、私(担当M)はイライラを通り越して結構楽しんでいました。

『列車ダイヤのはなし-世界一正確なダイヤと定時運行のしくみ-』内容紹介まとめ

「スジ屋」の職人技は、どのようにして実現されているのか?AIを駆使しても作成の難しい都市圏の過密ダイヤを作成・運用する技術を、列車運転システムの専門家が解説します。実際のダイヤに基づいて列車を運行させる現場の人々の努力と技術にも触れ、多彩なコラムも盛り込みました。列車ダイヤについての、現時点で比類なき解説書です。

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カテゴリー:鉄道 
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