クルーズポート読本 2024年版


978-4-425-39492-0
著者名:一般財団法人 みなと総合研究財団 クルーズ総合研究所 編著
ISBN:978-4-425-39492-0
発行年月日:2023/11/18
サイズ/頁数:B5判 160頁
在庫状況:在庫有り
価格¥3,080円(税込)
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クルーズ船の歴史からクルーズ船の誘致、寄港に関する業務を網羅的に掲載、クルーズ関係業務に携わる方の基礎知識の習得に役立つ内容で、クルーズ船の誘致に関わる港湾関係者はもちろん、クルーズ産業に携わる方がたのテキストに最適な一冊となっています。


【はじめに】

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、見合わせていたクルーズ船の運航は、日本籍船による国内クルーズが2020年10月、国際クルーズは2022年12月、外国籍のクルーズ船の寄港は2023 年3月に再開されました。外国籍のクルーズ船は、2023年には1,200回程度の寄港が見込まれ、ピーク時(2017年の2,018回)の6割程度ですが、中国発着の国際クルーズが本格的に再開されていない現状を考えると、堅調に推移していると思います。
政府は、2023年3月、2025年の目標として訪日クルーズ旅客数250万人、外国籍のクルーズ船の寄港回数2,000回、外国籍のクルーズ船が寄港する港の数を100港としました。こうした目標を達成するためには、これまで培った経験や外国船社へのポートセールスをさらに実効性のあるものとする取り組みが必要になります。
一般財団法人みなと総合研究財団(略称「みなと総研」)クルーズ総合研究所では、こうした取り組みを支援するための調査研究や各港湾管理者をサポートする事業を行っています。そのひとつとして、5年前に刊行した「クルーズポート読本」の内容を改訂・更新し、クルーズ関係者の皆様の一助となるように「クルーズポート読本【2024年版】」を出版することといたしました。
本書は、港湾管理者のクルーズ担当やクルーズ船誘致を行う地方公共団体の職員を主な対象として、みなと総研が毎年秋に実施している「クルーズポート・セミナー」の教本の役割と、クルーズ船に関する業務に従事される方やクルーズ船に関して興味を持たれている方などの参考としていただく書籍と位置付けています。
クルーズ船の歴史からクルーズ船の誘致、寄港に関係する業務を網羅的に掲載しており、クルーズ関係業務に携わる方の基礎知識の習得に役立てていただけるものと思います。
今後、中国発着のクルーズ船の寄港が本格化してコロナ禍前の水準に戻り、クルーズ産業のさらなる飛躍を目指していけるよう、当財団も取り組みを積極的に展開してまいります。
また、みなと総研では、『「みなと」のインフラ学』、『「空のみなと」のインフラ学』も出版しており、今回発行の「クルーズポート読本【2024 年版】」とあわせて、「みなと」の3部作としています。皆様にご活用いただければ幸甚に存じます。
最後になりますが、本書の作成にあたり、ご指導、ご協力をいただきました関係者の皆様に、感謝を申し上げますとともに、今後ますますのご活躍を祈念しております。
2023年10月
一般財団法人 みなと総合研究財団 
理事長 津田 修一

【目次】

第1章 クルーズとクルーズ船 1  クルーズの概要
 1-1 クルーズの概要
 1-2 国内クルーズと国際クルーズ
 1-3 クルーズのタイプ
2  クルーズ船の概要
 1-4 クルーズ船
 1-5 多様化するクルーズ船
 1-6 クルーズ船の分類と指標
 1-7 日本籍のクルーズ船

第2章 クルーズ産業の歩み 1  世界のクルーズの歩み
 2-1 クルーズ産業の創出
 2-2 クルーズ産業の発展
2  日本のクルーズの歩み
 2-3 日本クルーズ黎明期からバブル期へ
 2-4 クルーズ取り組みの大転換
 2-5 クルーズ500 万人時代
 2-6 コロナ禍のクルーズ停止と再開
 2-4 グローバル化を踏まえたクルーズ事業の拡大

第3章 クルーズ産業 ―構造と特徴 1  クルーズの産業構成
 3-1 クルーズ産業の構成
2  クルーズ産業の特徴
 3-2 クルーズは供給主導型産業
 3-3 クルーズはグローバル産業

第4章 クルーズの現況 1  世界のクルーズの現状と推移
 4-1 世界のクルーズ人口
 4-2 世界のクルーズグループ
 4-3 世界のクルーズエリア
 4-4 日本のクルーズ人口
2  クルーズ船の寄港と訪日クルーズ旅客
 4-5 日本港湾への寄港数
 4-6 日本のクルーズ船寄港地
 4-7 国際クルーズ拠点の形成
 4-8 訪日クルーズ旅客

第5章 クルーズ船誘致と関連組織 1  クルーズ船の誘致
 5-1 クルーズ船誘致の基本
 5-2 具体的な誘致活動
 5-3 クルーズ船誘致のタイムスケジュール
 5-4 クルーズの誘致組織
2  クルーズの関係機関
 5-5 クルーズ関係機関 CLIA / JOPA / JICC
 5-6 クルーズ関連の情報収集

第6章 クルーズ船の寄港受け入れ 1  クルーズ船の寄港と受け入れ
 6-1 受入体制の確立
 6-2 クルーズ船専用岸壁以外での受け入れ
 6-3 クルーズの寄港目的による受け入れの違い
2  寄港の効果と寄港地ツアー
 6-4 クルーズ船寄港がもたらす効果
 6-5 寄港地ツアー
 6-6 ニーズの変化・個人客(FIT)・オーバーツーリズムへの対応
 6-7 不寄港リスクへの対応

第7章 クルーズ船運航会社とクルーズ関連業務 1  クルーズ船運航会社
 7-1 船主(船舶所有者)と船舶管理会社と運航会社の関係
 7-2 クルーズ船運航会社の社内部署と役割
 7-3 マルシップ混乗船
 7-4 クルーズ船の運航形態(自主クルーズとチャータークルーズ)
 7-5 乗組員
2  クルーズ関連業務
 7-6 船舶代理店(船舶総代理店と現地船舶代理店)
 7-7 ランドオペレーター

第8章 船舶運航に関わる国際ルール 1  環境対応と感染症対応
 8-1 クルーズ船からの排水管理
 8-2 脱炭素への取り組み:ゼロカーボンクルーズ
 8-3 クルーズ船運航会社とクルーズ船の感染症対応
2  安全管理と便宜置籍船
 8-4 船舶安全管理
 8-5 便宜置籍船



この書籍の解説

港町の坂を上ると、その先には海があります。視線の先、道を塞ぐようにたたずむ真っ白な巨大建造物。あんなところにホテルなんてあったかな?と思って近づいてみると、それが巨大な客船であったことがわかります。港町に旅行したとき、密かに楽しみにしている光景です。豪華客船が寄港していれば、運よくそんな場面に巡り合えるかもしれません。
2019年以降、まさにその豪華客船を発端として明らかになった新型コロナウイルスの猛威によって、しばらくの間その光景は遠ざかっていました。しかし2023年に入り、外国籍の豪華客船たちが、次々と日本の港に戻ってきています。未だ完全回復とはいきませんが、2023年夏以降は豪華客船が顔を揃える華やかなニュース映像が久しぶりに流れました。
今回ご紹介する『クルーズポート読本 2024年版』は、そのような現状を踏まえ、2018年発行の既刊に新たな要素を盛り込んで改訂した最新版です。政府は、2025年の目標として、訪日クルーズ旅客数250万人、外国籍クルーズ船寄港回数2000回、寄港する港の数100港を掲げました。この目標達成のため、関連業界は努力を続けています。
本書はこうした取り組みをサポートするため、クルーズ船誘致に関わる方々への基礎知識として、様々な情報を幅広く紹介しています。クルーズ船の定義や種類、クルーズ船の歴史から始め、続いてクルーズ産業の構造や現状を解説します。後半では具体的なクルーズ船の誘致や寄港に関連する業務、国際ルールについて一通り紹介しています。
華やかな船が連れてくる人々を迎え、快適な旅の思い出を持って帰ってもらうことで地元の港も街も栄える。この本は、そうした幸福な状態を取り戻せるよう取り組む方々の助けとなるでしょう。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『クルーズポート読本 2024年版』はこんな方におすすめ!

  • クルーズ担当の港湾管理者の方
  • クルーズ船誘致を行う自治体の職員の方
  • 観光関連の仕事についている方

『クルーズポート読本 2024年版』から抜粋して3つご紹介

『クルーズポート読本 2024年版』からいくつか抜粋してご紹介します。コロナ禍から回復しつつあるクルーズ業界。その動きを含めた最新版です。クルーズ船の歴史からクルーズ船の誘致、寄港に関する業務を網羅的に掲載、クルーズ関係業務に携わる方の基礎知識の習得に役立つ内容で、クルーズ船の誘致に関わる港湾関係者はもちろん、クルーズ産業に携わる方がたのテキストに最適な一冊となっています。

多様化するクルーズ船

現在世界中で450隻以上のクルーズ船が就航していますが、新造船の就航が相次いでいます。大型化の一方、小型化・ラグジュアリー化・特殊化も進んでいます。今後この傾向はさらに顕著になり、「大型化」と「小型化・ラグジュアリー化・特殊化」に二極化するといわれています。

(1)クルーズ船の大型化と大衆化 海外旅行はジャンボジェット機の登場によって一気に大衆化されました。それと同じように、クルーズの世界も船の大型化によって大衆化が進んでいます。
①世界最大のクルーズ船
2023年10月現在、世界最大のクルーズ船は「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」です。ロイヤル・カリビアン・インターナショナル運航の、オアシス・クラスでは史上最大のクルーズ船です。乗客乗員合わせて8,000人以上が乗船します。「動く都市」「洋上の都市」といわれ、様々なエンターテインメント施設、3つの巨大劇場と40 以上のショップ、遊園地や公園なども備えた規格外の超巨大船です。
ロイヤル・カリビアン・インターナショナルは、2024年1月に、さらに大型の25万総トン級の「アイコン・オブ・ザ・シーズ」を就航させる予定です。

② クルーズ船の大型化に伴う通航問題
1)マスト高と橋の桁下
クルーズ船の大型化に伴い、入港・着岸できる港湾も限られてきます。入港・着岸が可能かどうかは、岸壁の長さ・水深・航路幅・回頭域・岸壁強度などの要素によりますが、岸壁の手前に橋があれば、橋をくぐれるかどうかも重要になります。
橋をくぐれるかどうかは、船のマスト高と桁下クリアランスを勘案する必要があります。桁下クリアランスがギリギリの場合には、干潮のときに通過するなど、潮位も勘案します。
2)パナマ運河とクルーズ船
世界三大運河のうち、パナマ運河とキール運河は、水位の異なる河川や運河、水路の間で船を上下させて通航させる「ロック式」(閘門式)運河のため、通航できる船型が限られます。パナマ運河を通航できる最大の船型をパナマックス(全長366m / 全幅49m / 喫水15.2m / 全高57.91m)といい、これ以上の大型船はパナマ運河を通航することができません。

(2)クルーズ船の小型化・ラグジュアリー化・特殊化(特別化) クルーズ船の大型化・大衆化の一方、小型化・ラグジュアリー化・特殊化(特別化)も進んでいます。
①小型化・ラグジュアリー化
船型をあえて大型化せず、小型船として乗船客数を抑え、最上級のサービスを目指すクルーズ船も増えてきています。代表的な船を紹介します。
1)セブンシーズ・エクスプローラー
「セブンシーズ・エクスプローラー」は、373室ある客室のすべてがスイートルームになっており、世界最高級といわれるクルーズ船です。
2)シルバー・ミューズ
メインダイニングはあえて設置しておらず、8つの特色あるレストランで乗客は自由に食事ができます。298室の客室はすべてバルコニー付きスイートルームで全室海側です。

②特殊化(特別化)
クルーズ船の「特殊化(特別化)」の代表的な例を紹介します。
1)エクスペディション船
「エクスプローラー船」「アドベンチャー船」とも呼ばれ、極地ツアーをはじめとして世界中で使用されています。主な特徴は、①船型が小さく、乗客定員が少ない、②氷海を航行できる耐氷能力や砕氷能力を有している船が多い、③港湾施設のない場所にも対応でき、沖合での錨泊(沖泊)が多い、④ゾディアックボート(エンジン付きゴムボート)を備えており、砂地や岩場などにも上陸可能、などがあげられます。
2)レジデンス型クルーズ船
レジデンス型クルーズ船は、分譲マンションのクルーズ船版で、クルーズ船の「キャビン」(客室)を買い取る形になっています。購入条件は極めて厳しく、行先もオーナーによる「自治会」で決定します。2023年10月現在、世界にあるレジデンス型クルーズ船は「ザ・ワールド」1 船です。
3)リバークルーズ船
大河をゆったりとクルーズするのが「リバークルーズ船」です。大河沿いには数多くの都市や世界遺産もあります。川沿いの都市に寄港して文化や歴史、自然や景観を楽しめるリバークルーズ船の人気は高まっています。

私(担当M)は「クルーズ」と聞いただけでうっとりしてしまう庶民ですが、クルーズ船は様々な映画の舞台にもなっているので、映画を観ればその世界の一端に触れることができます。最近だとクリスティの『ナイルに死す』が新たに映画化されていますね。舞台となったのはナイル川のリバークルーズ船だったので、船は海の豪華客船に比べればまだ規模の小さいものでした。最大級の豪華客船では、乗客乗員合わせて数千人が乗船することができます。こんな中で事件が起こったら、閉鎖空間とはいえ犯人探しも大変なのではないでしょうか。

クルーズ船誘致の基本

《クルーズ船誘致の基本》 (1)自港のことを知る
国内外のクルーズ船の誘致活動をしている港湾および観光関係者は、21世紀に入って年々増加しています。自港に誘致する目的としては、港周辺の賑わい創出、経済効果、既存の港湾施設の利活用促進などが考えられます。基本的な事項を整理してから、誘致活動を始めましょう。留意したいポイントをまとめます。
① 自港の地理的な位置を把握する
② クルーズ船が接岸可能な岸壁の「基本スペック」を確認する
③ 接岸するまでの航路などの現況を把握する
④ 背後地の主な観光資源を整理する
⑤ 乗客や乗組員の消費を誘発する施設を確認する
①~⑤を整理すると、クルーズ船が自港に寄港した場合のメリット、デメリットを客観的に把握することができます。これにより、「どのようなニーズを持つ乗客、クルーズ船を誘致するか」が決まります。

(2)誘致ターゲット(クルーズ船社)を知る
自港の地理的な位置づけや基本的な港湾スペック、寄港地観光に盛り込むことができる施設などが把握できると、国内外のクルーズ船運航会社(船社)にアピールすべき「セールスポイント」の内容が決まります。次に、自港のセールスポイントと船社のニーズが合致するかを精査します。
クルーズ船社の社内組織についても、ある程度把握しておく必要があります。キーパーソンや担当部署に的確にアプローチしなければなりません。クルーズルート(配船先やクルーズスケジュール)を選定するセクションはどこなのか、寄港地観光の企画造成に中心的役割を果たしているセクションはどの部署かなど、誘致活動の前に船社組織について下調べしておくことが重要です。
自港の現実的な条件と、船社の運航船と乗客の嗜好を把握し、効率的な誘致活動を進めましょう。

《具体的な誘致活動》 (1)日常的な取り組み
地道な日々の活動の積み重ねが、結果的に船社とのネットワーク構築につながります。定期的に接触を重ねて徐々に信頼関係を築くことで、寄港獲得が近づくのです。定期的な船社訪問や地元情報の継続的かつ定期的な提供など、地道な取り組みを続けましょう。
(2)各種招聘事業
コロナ禍以前は、日本の港湾や観光関係者が船社のキーパーソンやランドオペレーターの幹部らを複数名地元に招いて視察してもらう「ファムツアー」が盛んに行われていました。数年に一度程度、こうした活動を数日から1週間ほど繰り返すことで、寄港地としての自港をアピールするのです。
(3)クルーズセミナー、商談会
招聘事業と併催する形で実施することが多い具体的な誘致活動に、「クルーズセミナー」と「商談会」があります。商談会は関係者が対面で意見交換する直接的なセールスの場です。最新情報やトピックスなどを直接対面で伝えることができる場の提供は、寄港獲得に向けた即効性が期待できるだけでなく、ネットワーク構築にも貢献します。
(4)国際クルーズコンベンション
欧米の大手クルーズ船社の社長や会長といった幹部クラスが参加し、その年のマーケット展望を語り合い、今後のクルーズ戦略についてディスカッションする国際会議が「クルーズコンベンション」です。「トレードショー(見本市)」を併設し、世界各国の港や観光関係機関、企業などが「ブース」を出展します。コストもかさみ、結果がすぐに表れるとは限りませんが、欧米大手クルーズ船社などに対する積極的なアピールの場として有用です。

自港のスペックを正しく把握することが、第一に重要です。設備の貧弱な港が大型船を迎えることはできませんし、船が港に入れたとしても、地元の観光資源や観光施設に対して多すぎる観光客が訪れてしまっては(オーバーツーリズムといいます)、地元の資源が疲弊してしまいます。地元の「売り」と「限界」を整理し、ぴったりの規模とニーズを持つクルーズ船を迎えたとき、地元にはお金が、観光客にはいい思い出が残るのです。

クルーズ船の運航形態

クルーズ船の運航形態は、「船社による自主クルーズ」と「旅行会社などの傭船者によるチャータークルーズ」に大別されます。運航形態により業務上の責任や権限を有する者が変わるので、港湾サイドでは寄港時におけるクルーズ船の運航形態を把握する必要があります。
(1)自主クルーズ
自主クルーズは、クルーズ船の運航会社(船社)がクルーズ船のスケジュール・寄港地を決め、自社で企画した寄港地でのオプショナルツアーを含めたクルーズ商品を販売する形態です。船社がすべての決定権を有しています。
日本では、自主クルーズの大部分は船社が提携する旅行会社が自社の旅行商品として販売しています。パンフレット本体は船社が作成しているので、どの旅行会社でクルーズを申し込んでもクルーズの中身と代金は同じです。
提携する旅行会社自らがホールセラー(卸売り会社)となり、他の旅行会社にクルーズ商品を委託販売させることもあります。この販売形態は「リテール販売」と言われています。
(2)チャータークルーズ
チャータークルーズは、傭船者(用船者=クルーズ船をチャーターする会社)がクルーズ船のスケジュール・寄港地を船社に要請して船社の決定を促し、クルーズ商品を販売する形態です。傭船者が寄港地選定の発言権を持ち、寄港地オプショナルツアーの企画・実施の決定権を有しています。傭船者のことを「チャータラー」ともいいます。
チャータラーは船社と傭船契約(用船契約)を結び、船社と協議しながらクルーズスケジュールなどを決めます。クルーズ代金はチャータラーが決定します。
日本では旅行業法の規定により、一般消費者にクルーズを販売できるのは登録を受けた旅行業者(登録旅行業者)に限られます。このため、チャータラーは登録旅行業者になるのが一般的です。
① オーガナイザー
社員旅行や報奨旅行などを実施する企業・団体をオーガナイザーといいます。この場合でも、実際にはオーガナイザーが自らチャータラーになるのではなく、オーガナイザーが指名した旅行会社がチャータラーになる場合が多いようです。
② ブロックチャーター
クルーズ船の傭船は、全船傭船(フルチャーター)が原則ですが、船の一部客室を傭船する場合もあり、これを「ブロックチャーター」といいます。複数の旅行会社が協働してチャーターする場合は「コンソリチャーター」と呼ばれています。
ブロックチャーターの場合の権限についてはケースバイケースとなるため、船舶代理店経由で船社に確認する必要があります。特に寄港地でのオプショナルツアーはブロックチャーターをする傭船者の権限で企画・実施されるケースが多いため、ツアーの催行状態を把握するにはその権限の所在を確認しておく必要があります。

クルーズ業界で「船社」といったとき、「クルーズ船の所有者」「クルーズ船を運航する運航会社」の二つの意味がありますが、クルーズ業界では主に後者を指します。船舶所有者は運航会社と船舶傭船契約を結び、クルーズ船の運航管理や販売などの責任や権限をクルーズ船社に移管します。しかし、クルーズ船運航に伴う事故が発生した場合の責任は船舶所有者や船舶管理会社にあります。所有者が運航会社を兼ねることもあります。こうした責任の所在をしっかり確認しておく必要があります。

『クルーズポート読本 2024年版』内容紹介まとめ

新型コロナウイルス禍によって大打撃を受けたクルーズ業界。2023年以降、外国籍クルーズ船の寄港は勢いを取り戻しつつありますが、2018年に比べるとまだ6割程度です。そんな中、政府は2025年の目標寄港回数を2000回に設定しました。目標達成に向けた取り組みを含めた最新版です。クルーズ船の歴史やクルーズ船の誘致・気候に関係する業務を網羅的に掲載し、関連業務に携わる方向けに基礎知識を解説します。

「みなと」と観光船を知る おすすめ3選

『「みなと」のインフラ学』
我が国経済・社会の発展及び国民生活の質の向上のために港湾が果たすべき役割や、今後特に推進すべき港湾製作の方向性をとりまとめた港湾の中長期政策「PORT2030」。その具現化にあたり、必要と思われるさまざまな提言を一冊にまとめました。

『「空のみなと」のインフラ学』
地方空港が苦境にあるといわれていますが、様々な新しい取り組みを行っている意欲的な空港が存在します。これらの空港や航空会社、建設会社、コンサルタント、学識経験者、国や地方公共団体の空港担当者が、それぞれの立場と視点から、現場で行っているさまざまな事例・取組みを紹介しました。未来の空港・航空システムの姿が見えてくるでしょう。

『客船の時代を拓いた男たち』
クルーズ船の時代に繋がる、大客船時代に活躍した人々の物語です。19世紀から20世紀初頭、欧州各国では大西洋航路定期船を造ることにしのぎを削っていました。アメリカは世界一の船造りに情熱を燃やし、日本では、新しい海運会社が航路を開設し、美しい客船が造られていきます。様々な苦難を乗り越え、大客船時代を築いた人々の伝記をまとめました。


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カテゴリー:海運・港湾 
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