コラム

2015年12月29日  
北極読本

コラム2 セーベルナヤ・ゼムリャ諸島

コラム2 セーベルナヤ・ゼムリャ諸島
『北極読本ー歴史から自然科学、国際関係までー』までに掲載しているコラムを紹介。「コラム2 セーベルナヤ・ゼムリャ諸島」
 ロシア領セーベルナヤ・ゼムリャ諸島は、ユーラシア大陸最北端のタイミール半島チェリュスキン岬の北側に広がる諸島である。主要な島は南からボルシェビク島(1.1万km2)、十月革命島(オクチャブリスコイレボリューツィ島1.4万km2)、コムソモレツ島(0.9万km2)、の三つであり、各島とも、さしわたし100km前後の大きさである。

 この諸島は、地球上で最も最近発見された諸島であり、1913年4月にB・ヴィリキツキーによって発見された時には一つの大きな島だと考えられ、ニコライ2世島と名づけられた。その後、多くの島から成ることが明らかになり、1930年から1932年にかけてG・ウシャコフにより詳しく調査され、セーベルナヤ・ゼムリャと命名された。セーベルナヤは「北の」、ゼムリャは「土地」の意味なので、セーベルナヤ・ゼムリャは「北の土地」ということになる。

 1995年、1996年に渡辺興亜、高橋修平らは日本隊として初めてこ地域の調査を行った。その時ビク島は最高地点935mであり、北側はフィヨルドがいくつか切り込んでいる。地形は複雑であるが、稜線は皆つながって氷で覆われており、氷の末端は谷氷河となって海へ落ち込んでいる所が多い。島の北端には20戸ほどの建物群から成るプリマ基地(現在はバラノバ基地として再開)があり、人間が通年住んで基地を維持し、本格的ではないが気象観測を続けている。ここにはヘリコプターの燃料備蓄はないので、長距離飛行のためには同じ諸島内のスレドニー基地かシベリア本土のチェリュスキン岬まで燃料を取りに行く必要がある。基地の生活環境は快適であり、気象観測や海氷観測等の定常観測を行うには適当な場所である。

 中央に位置する十月革命島は中央の窪地の周囲に大小六つの氷帽をもつ複雑な形をしており、東側の氷河は直接海へ落ち込んでいる。島の西側の砂州が連なった細長い島々の一つにスレドニー基地がある。この基地は2000m以上の長い滑走路をもち、無数の燃料タンク群が並んでいて軍が管理し、北極圏の航空活動の補給基地の役目をもっている。ただ滑走路は未舗装であり、地面が凍結している冬期間(11~5月)しか飛行機の発着ができない。ヘリコプターの燃料補給は通年可能であり、AARI(ロシア北極南極研究所)所有の観測小屋も数棟ある。この島の地続きのガラミャンヌイには本格的な気象観測所があり、観測員が越冬して観測している。

 北側のコムソモレツ島は、ほぼ全域を、さしわたし70kmの円形のアカデミーナウク氷帽に覆われている(図4)。この氷帽の最高地点の標高は780mであり、岩盤は海面高度以下である。その後ロシアとドイツの共同隊が岩盤までの氷掘削に成功した。この島の最も北のアルキチェスキー岬からは、北極海徒歩横断隊がカナダを目指して出発することが多く、日本人女性もその横断に加わって成功したことがある。岬には、ヘリ燃料のデポ地があり、北極点へのヘリ飛行要請に備えている。

 コムソモレツ島とタイミール半島の間は、幅約60kmのヴィリキツキー海峡であるが、海氷で覆われて船舶の航行は一般に難しく、西はカラ海、東はラプテフ海と海が分けられている。近年の地球温暖化によりこの海峡が通航可能な時期が長くなり、北極航路の現実的な可能性が広がって、この海峡の海氷状況が注目されている。 (高橋修平)



北極読本ー歴史から自然科学、国際関係までー
本を出版したい方へ