著者名: | 小林照夫 著 |
ISBN: | 978-4-425-77111-0 |
発行年月日: | 1999/10/28 |
サイズ/頁数: | 四六判 224頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥1,650円(税込) |
港の誕生から現在迄を日本経済との関わりを中心に解説、エコポートの創造や成熟社会の下での経済機能面の強化など今後の課題にもふれる
【はじめに】より
日本は四方海に囲まれている。そのため、早くから海運が発達した。しかし、日本の港が本格的な外国貿易に携わるのは、横浜村に波止場が建設され、英・米をはじめとした欧米列強諸国との交易がはじまってからである。その意味では、わが国を代表する港、横浜といえど、ヨーロッパの港に比べると、その歴史は浅く、140年ほどに過ぎない。
開港当初、江戸時代の長い鎖国体制の下に置かれていたわれわれ日本人は、外国との交易が何であるかを十分に知る由もなかった。そのため、交易の手立てばかりでなく、築港に関わるお抱え外国人技師の横暴、そんな実情のなかで日本の海外貿易がはじまった。
欧米の列強に「追いつけ」「追い越せ」と標榜し、展開した殖産興業政策は、港湾をも抱き込んだ。そこでは港湾の営造物思想が支配し、港湾社会そのものが市民社会とは隔絶した形で存在した。そのため、築港技術と技術的側面だけを優先させた港湾機能の近代化だけが叫ばれ、港を構成する組織や人的関係はほとんど顧みられることはなかった。
戦後、民主化が叫ばれた。「財閥の解体」「農地改革」といった一連の民主化政策は、港湾社会にも及び、改革が求められた。そして、その結果、「港湾法」が制定された。当初はアメリカのポート・オーソリティの制度を模索し、港湾の民主的な管理・運営が積極的に求められたが、現実の港湾社会は思うほどの近代化や民主化を遂げるには至らなかった。
戦後の日本の港もまた政府の舵取りで港湾整備がおこなわれ、重工業から重化学工業時代へと対応した。新しい産業構造への対応に追われる港湾社会では、その内面にみる人間の問題、組織の問題にまで目が届かなかった。そのため、技術の近代化と人間・組織の近代化の間に断層が生じたので、その問題が長い間研究対象になった。日本で港を研究課題とする唯一の学会、日本港湾経済学会でも港湾社会における人間・組織の近代化問題を、共通論題として何度となく取りあげてきた。
高度経済成長から安定経済成長の時代を迎えると、両者の断層も少しずつ是正され、港湾社会の近代化がはかられた。そして、港湾管理者の市民に向けての港造りが足掛かりになり、市民の目も港に向けられた。そこには自治体と市民の結びつきをみた。
港の機能も時代とともに移り変わりをみせている。石油危機を招き、貿易摩擦が発生すると、日本の産業構造自体が転換を余儀なくされた。重厚長大型産業から軽薄短小型産業への移行は、港湾の形態と臨海部のあり方を変えた。そこに成熟した社会の港湾問題があるとすれば、今後は、そこにみる問題の解決をはかりつつ、日本の港のあるべき姿を模索しなければならない。
平成11年9月
小林照夫
【目次】
第1章 「みなと」とは何か
1 言葉にみる港
2 用途にみる港
3 「港湾法」にみる港
4 その他の分類にみる港
5 港湾の概念化をはかるための実証的研究の必要性
第2章 江戸時代の海運と湊
1 幕藩体制の形成と市場システムの確立
2 幕藩体制下の海上輸送路
3 海上輸送路の整備と港湾の改修築
第3章 開港時の横浜
1 外圧による鎖国体制の崩壊
2 ペリーの随行者がみた横浜
3 港と居留地
4 横浜の日本人町
第4章 開港から文明開花期の貿易形態と港
1 居留地貿易の展開
2 開港当初の港
3 開港当初の港
4 幕末期の貿易と国内産業
5 開港場横浜と文明開化
第5章 明治政府の港湾政策と湊
1 明治初期の港湾政策
2 黎明期の近代的港湾の築造
3 近代的な大規模港湾建設時代の到来
4 横浜にみる大規模港湾建設の背景
5 パーマーの横浜港建設計画
6 近代的港湾・横浜港の誕生
第6章 重工業時代の到来と港湾
1 日清・日露の両戦役と近代産業の確立
2 「港湾調査会」と重要港湾の選定
3 横浜港の港湾機能の拡大とウォーターフロント
4 横浜港と隣接の臨海部
第7章 関東大震災と横浜港
1 横浜の惨状
2 崩壊した横浜港の港湾機能
3 「生糸一港制」の崩壊と神戸港の台頭
第8章 戦時体制下の港湾
2 港湾機能を喪失した横浜港
3 戦時体制下の港湾機能
第9章 戦後の経済民主化と港湾
1 終戦直後の横浜港
2 「港湾法」に対する期待と現実
3 横浜・神戸の港湾施設の接収解除
第10章 戦後の経済復興と港湾
−貿易立国日本の港の現実と課題−
1 貿易立国日本の港の課題
2 社会問題に発展した「船混み問題」
3 重化学工業時代の展開と港湾
第11章 工業港の整備とその経緯
−苫小牧港にみる一つの事例−
1 苫小牧における工業港建設の意義
2 工事の遅延と市民のいらだち
3 重要港湾苫小牧と管理組合
4 港湾建設の進行と漁業問題
5 フェリーの就航と海の交通アクセス
6 重化学工業を基盤とした港湾機能
第12章 港湾機能拡充の時代
−昭和四〇年代の港湾−
1 港湾にみる昭和四〇年代
2 港湾運送の近代化と港湾
3 コンテナ船輸送の普及と港湾運送事業
4 外貿コンテナ埠頭の整備
第13章 港湾機能の拡大と臨海部
−東京湾の沿岸域を中心に−
1 埋立と漁業補償問題
2 港湾施設の拡充と漁業補償問題
3 横浜金沢地先の埋立と漁業組合の対応
4 埋立反対運動の一つの形態
第14章 都市型産業時代の港湾機能
−石油危機と産業構造の転換−
1 市域と港湾関連地域の交錯
2 新しい港湾都市機能の創造
3 「みなとみらい21」にみる新しい港湾域
4 港湾域の様相変化
第15章 わが国の主要港湾の現状
1 発展するアジアの主要港湾
2 わが国の主要港湾の現状
第16章 アジアに目を向ける日本海沿岸の港
1 新しい文化観と日本海沿岸の港
2 環日本海時代の幕開け
第17章 成熟した社会の下での港湾
−国の提言にみる港湾整備の課題−
1 外貿ターミナルの整備
2 成熟した社会の下での臨海部の活用
3 地域の生活環境の向上と地方港湾
第18章 成熟した社会の港と自治体の対応
1 外貿コンテナ埠頭の整備による港湾の活性化
2 輸入促進体制の強化と港湾整備
3 環境共存型港湾の創造
4 都市の活性化に合わせた港湾整備と港湾の生産効率の低下
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