海事・交通・水産・気象図書出版の成山堂書店

毎年のように黄砂が頻発し話題となっています。これは中国内陸部のタクラマカン砂漠や黄土高原などから舞い上がった砂ぼこりが、上空の風に乗って日本に飛来するものです。黄砂の移動の様子は、衛星写真などからも把握され、関心を呼んでいます。
　日本では車や洗濯物が汚れる程度の被害ですが、発生源に近い中国や韓国では雪のように降り積もり、交通、農業、健康などへの被害が甚大で、黄砂は気象災害としてとらえられているといいます。
　黄砂の発生には中国内陸部の砂漠化が深く関わっているとのことです。また，本書によると，近年の黄砂被害の大規模化は過放牧，過耕作，森林伐採などの人為的側面もあるといいます。
　著者は名古屋大学教授で、長年黄砂の研究に携わり、中国などで現地調査を重ねてきました。黄砂の発生現場から日本への移動経路、黄砂発生の背景にある大陸内陸部の環境変化まで、ひとつひとつ具体例を取り上げ、丁寧に案内してくれます。現地観測の際のエピソードも楽しく、研究現場の雰囲気を感じることができます。
　また、日本に飛来する黄砂は、酸性雨の原因となる大気汚染物質を吸着することが確かめられているそうです。本書は、このように人間活動に深く関わる現象、黄砂の全体像を理解するために最適な一冊です。

【はじめに】より
　本書は黄砂の入門書として執筆した。第1章では2000年4月の事例を取り上げ、黄砂の概略とその影響を説明する。第2章では黄砂に関する基礎知識を整理する。第3章以降は具体的な事例を取り上げながら、黄砂の4W1H、すなわちどのような現象で（what）、いつ（when）、どこで（where）、なぜ（why）、どのように（how）発生するかを具体的に説明する。第3章から第10章で取り上げた事例は各章ごとに独立しているので、どこから読まれてもかまわない。第11章では各国で実施され始めた黄砂予報や観測プロジェクトを紹介し、黄砂研究を展望する。
　本書は、黄砂の入門書であると同時に、黄砂のナラティブ（narrative、探検記）でもある。著者がいままで関わってきた中国のゴビ砂漠、河西回廊、タクラマカン砂漠の研究プロジェクトの成果や経験をもとに、黄砂を解き明かそうと試みた。黄砂を理解するには、観測事実や現地での体験が重要であると考えた。まず、具体的な事例を示し、そのメカニズムや原因を説明するスタイルをとった。専門的な部分は読み飛ばされてもよい。科学的記述のほか、ナラティブとして、研究や現地観測を実施する際の人間的側面にもふれた。個人名が頻繁に出てくるのは、このような事情による。本書を読まれた方々が黄砂の全体像を描かれたとしたら、望外の喜びである。

甲斐憲次

【目次】
第1章　大規模な黄砂現象?2000年4月

第2章　黄砂とは何か
　2.1　黄砂現象の定義
　2.2　最近の発生傾向
　2.3　砂漠化と地球環境の視点

第3章　黄砂の源を訪ねて
　3.1　韓国訪問
　3.2　中国の河西回廊
　3.3　タクラマカン砂漠

第4章　最大級の砂塵嵐・黒風
　4.1　河西回廊で遭遇した砂塵嵐
　4.2　黒風・最大級の砂塵嵐
　4.3　黒風のメカニズム
　4.4　黒風と黄砂の発生メカニズム

第5章　黄砂はどのように移動してくるのか
　5.1　1986年の黄砂
　5.2　移流拡散モデルとチェルノブイリ原子力発電所の事故
　5.3　黄砂のシンポジウム
　　　　?偏西風地帯での大陸・海洋間の物質移動?
　　　　トピックス3　黄砂、ウンカと放射性物質

第6章　黄砂の色、大きさ、数密度、pH
　6.1　黄砂の大きさと数密度?2000年4月の黄砂
　6.2　黄砂の色、重量、pH?2002年4月の黄砂
第7章　海塩と結合した黄砂粒子
　7.1　ミクロなアプローチ
　7.2　海塩と結合した黄砂粒子の発見

第8章　黄砂はどこで発生するか
　8.1　世界における砂塵嵐の分布と季節変化
　8.2　砂塵嵐の発生分布と気候図
　8.3　東アジアにおける砂塵嵐の分布と季節変化

第9章　タクラマカン砂漠の黄砂
　9.1　タリム盆地の大気循環系
　9.2　タクラマカン砂漠のライダーシステム
　9.3　東風による砂塵嵐の発生?2002年4月
　9.4　パミール越えの気流による砂塵嵐

第10章　黄砂と大陸内陸の環境変化
　10.1　灌漑による塩類集積
　10.2　内モンゴル・中国東北部の砂漠化と札幌の黄砂
　10.3　自然的要因
　10.4　乾燥地域の環境変動?人類誕生から現代まで?
　　　　　トピックス4　ゴビ砂漠に迷う！

第11章　黄砂の予報と観測
　11.1　東アジアの黄砂予報
　11.2　衛星による黄砂観測
　11.3　地上観測
　11.4　黄砂研究の展望

（気象図書）