海藻フコイダンの科学


978-4-425-88281-6
著者名:山田信夫 著
ISBN:978-4-425-88281-6
発行年月日:2006/10/18
サイズ/頁数:A5判 192頁
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本書は、フコイダンとはどのような物質であるのか。また、どのような医薬効果があるのかを多くの図表を用いてわかりやすく解説したものです。化学構造・理化学的性状などを解説した上で、抗がん作用・血栓予防効果・血圧低下作用などの医薬効果や皮膚老化予防などの美容効果等の作用機序を解説する構成となっています。また、人間に対する効果ばかりでなく、養殖魚介類の生態防御活性の増強に関する記述も記載されています。
 これまで、フコイダンに関する様々な研究論文が発表され、またテレビなどの情報番組などでも、フコイダンに関する情報が断片的に取り上げられることもありましたが、本書のように基礎から応用までの科学的な知見を網羅した本はほとんど例がありません。フコイダンを大局的に捉え、今後の有効利用法などを考察する上で重宝する内容です。
 海藻関係者はもちろん、水産全般・医学・薬学・美容・食品開発関係者、フコイダンについての科学的な情報を求めている一般の人々にとっても興味深い一冊です。

【はしがき】より  海藻は健康のために良いことは誰でも知っており、日常の食生活の面でも広く利用されている。中でも、海藻ばかりでなく、食品全体でネバネバ成分が人間の体に良いことも知られている。海藻の中にもネバネバ成分が含まれており、特にワカメやコンブ、モズクなどの褐藻類の仲間には量的にも多く含まれている。
 最近、フコイダンという言葉を聞くことが多くなったように思う。著者は、海藻のりように関係しているからかもしれないが、テレビや書籍、健康関連の雑誌などを見るにつけて、とみに強く感ずる。このフコイダンは、コンブやモズク、ワカメなどの褐藻類に、同じネバネバ成分であるアルギン酸とともに多く含まれている。特に、アルギン酸は我々の日常生活の中で食用ばかりでなく、案外知られていない分野、たとえば、アイスクリームの製造、入れ歯を作る時の歯形をとるときなど、食用ばかりでなく医薬や工業分野などで広く利用されている。さらに、アルギン酸は、人工イクラや人工フカヒレの製造には欠かせないものとなっている。
 一方、フコイダンは、アルギン酸ほど広く利用されてはいなかったが、海藻の利用に関する研究者の間では、1960年以降、何らかの医薬効果があるのではないかと研究が着々と進められ、がん細胞を死滅させることが医学的にも立証された1996年以降から、広く「フコイダン」という言葉が知られるようになった。同時に、フコイダンががん細胞を自殺に追い込むアポトーシス(apoptosis)という言葉も広まりつつある。さらに、フコイダンは、正常な細胞には悪影響を与えないので、今までのがんの治療法である手術、抗がん剤の利用、放射線治療等に替わる代替医療にもなりうるのではないかとも考えられている。
 現在では、フコイダンは、主としてがん細胞を死滅させることに注目されているが、そのほかの医療面でも治療効果のあることが知られており、多くの研究成果が各方面の学会誌などでみることができる。
 このようなことから、海藻の有効利用の面からも、フコイダンの薬理効果を広く知ることも必要であろうと考え、それぞれの分野の権威ある学会誌などから学んでみることにした。一部のものについては、学会などでの講演要旨を引用した。
 なお、フコイダンは、海藻類の中でも褐藻類にしか含まれていないと考えられていると思うが、ウニの卵、ナマコの表面などにも存在し、汚れや細菌、ウイルスなどから守っていると考えられている。さらに、陸上動物であるカエルの卵のゼリー質にも存在することが知られている。これらのことについては、極めて限られた部分で触れておいた。
 本書の内容のほとんどは医薬的な分野であり、多くの方々のお教えをいただきながら、より平易な内容にしたいと務めたが、水産関係のごく一部しか知らない著者の力不足のために、お叱りをいただく点があるかもしれない。このような状態にもかかわらず、多くの方々からのご指導をいただくとともに、多くの方々の文献を参考にさせていただいた。ここに改めて謝意を表する。
 本書では、第1編ではフコイダンの基礎的な理化学的性状などについて述べ、第2編では、かなり広い範囲にわたっての医薬的な効果について述べた。難解な用語については、それぞれのところで解説を加えたが、それでもなじみのない言葉が多いと思う。これまた、著者の不勉強の結果であるが、重ねてお許しいただきたい。

2006年9月
著者

【目次】
第1編 海藻フコイダンとは−特にその理化学的性状−

 第1章 古典などにみる海藻の薬理効果
  1.1.1 中国の本草書と本草綱目
  1.1.2 日本での本草書

 第2章 海藻の炭水化物と多糖類
  1.2.1 海藻の炭水化物
  1.2.2 海藻の多糖類
  1.2.3 海藻の粘質多糖類
   (1)緑藻類
   (2)褐藻類
     1 アルギン酸
     2 フコイダン
     3 サルガッサン
   (3)紅藻類
     1 寒天
     2 カラギーナン
     3 フノラン
     4 ポルフィラン
  1.2.4 褐藻類の分類

 第3章 フコイダンの理化学的性状
  1.3.1 褐藻類の化学成分
  1.3.2 フコイダンの理化学性状に関する研究の歴史的展望
       −特に化学的構造について−
   (1)1913〜1959年の研究成果
   (2)1960〜1979年の研究成果
   (3)1980〜1995年の研究成果
   (4)初めて確定された化学構造
     1 化学構造が確定されるまでの経緯
     2 研究の成果
     3 フコイダンオリゴ糖の構造
     4 フコイダン含有海藻の分類学的位置と化学構造
   (5)1996年以降の研究成果

 第4章 フコイダンに働く細菌と酵素ならびに酵素の働きを
      阻害するフコイダン
  1.4.1 フコイダンに働く細菌と酵素
   (1)海産動物の肝すい臓中の分解酵素
     1 アワビ
     2 キタムラサキウニ
     3 ホタテガイ
     4 イタヤガイ
     5 ナマコ
   (2)海水、海底の砂泥中のフコイダン分解酵素
   (3)ビブリオ菌からのフコイダン分解酵素
   (4)海産フラボバクテリアによるフコイダンの利用
   (5)化学構造決定に役立ったフコイダン分解細菌
  1.4.2 フコイダンの酵素活性阻害
   (1)フコイダンによる酸性多糖類の溶菌酵素阻害
   (2)フコイダンによる消化系プロテアーゼ阻害

第2編 フコイダンの薬理効果
 第1章 抗血液凝固作用
  2.1.1 血液の凝固抑制作用と血栓形成抑制作用
  2.1.2 海藻成分の血栓形成予防効果
  2.1.3 フコイダンの抗血液凝固作用
   (1)各種化学成分と抗血液凝固作用との関係
   (2)フコイダンの分子量と抗血液凝固作用との関係
   (3)フコイダンの化学構造と抗血液凝固作用
   (4)アミノ化フコイダンの抗血液凝固作用
  2.1.4 フコイダンの抗血液凝固作用のメカニズム

 第2章 抗がん作用
  2.2.1 海藻成分の抗腫瘍効果
   (1)海藻抽出物の抗腫瘍効果
   (2)海藻粉末の抗腫瘍効果
   (3)海藻多糖類の抗腫瘍効果
  2.2.2 フコイダンの抗腫瘍効果
  2.2.3 フコイダンの抗腫瘍効果
  2.2.4 乳がんに対するフコイダンの治療効果
   (1)乳がんに対する海藻成分の治療効果
   (2)フコイダンのヒト乳がん細胞株に対するアポトーシス誘導効果
  2.2.5 フコイダンの抗がん作用の機構
   (1)アポトーシス誘導作用
   (2)インターロイキン12(IL−12)とインターフェロンの産生誘導作用
   (3)肝細胞増殖因子(HGF)の産生誘導作用
   (4)血管新生抑制作用
   (5)免疫活性作用

 第3章 コレステロールならびに血圧低下作用
  2.3.1 海藻類のコレステロール低下作用
  2.3.2 フコイダンによるコレステロール低下作用
  2.3.3 フコイダンによる血清脂質改善作用
  2.3.4 血圧低下作用
   (1)海藻粉末による血圧低下作用
   (2)海藻多糖類による血圧低下作用
   (3)粗フコイダンによる血圧低下作用
   (4)フコイダンによる血圧低下作用

 第4章 抗ウイルス作用
  2.4.1 海藻多糖類の抗ウイルス作用
   (1)フコイダンを含む多糖類の抗ウイルス作用
  2.4.2 フコイダンの抗HIV作用
   (1)海藻抽出物の抗HIV作用
   (2)フコイダンを含む海藻多糖類の抗HIV作用
  2.4.3 フコイダンによる養殖魚介類の生体防御活性の増強
   (1)ウイルスによる養殖魚介類の疾病
   (2)クルマエビのウイルス症に対するフコイダンの予防効果
   (3)フコイダン投与による魚類生体防御活性の増強

 第5章 抗アレルギー作用
  2.5.1 アレルギーとは
  2.5.2 フコイダンによる抗アレルギー作用
   (1)フコイダンのマウスとラットのアレルギーに対する抑制作用
     1 インターロイキン4(IL−4)などに及ぼすフコイダンの効果
     2 フコイダンによるヒスタミン抑制効果
  2.5.3 フコイダンの花粉症によるアレルギー抑制作用
  2.5.4 フコイダンのアトピー性皮膚炎に対する効果
   (1)マウス抗原反復刺激アトピー性皮膚炎に対する効果
  2.5.5 I型アレルギー対応食品の開発とその作用機序

 第6章 不定愁訴治療効果
  2.6.1 フコイダン添加茶による不定愁訴改善効果
   (1)濃度の異なるフコイダンを添加した茶による改善効果
   (2)フコイダン含有茶による胃の症状改善効果
   (3)麦茶にフコイダンを含有させたときの改善効果
   (4)フコイダンのFD症例における胃排出機能改善効果

 第7章 ピロリ菌定着阻害作用
  2.7.1 フコイダンによるピロリ菌の生育阻害作用
   (1)起源の異なるフコイダンによるピロリ菌付着阻害作用の違い
   (2)オキナワモズク由来フコイダンによるピロリ菌の付着阻害

 第8章 フコイダンと化粧品
  2.8.1 フコイダンによる皮膚老化予防効果
   (1)高分子量のフコイダンによる皮膚老化に対する効果
   (2)フコイダンの分子量と皮膚老化防止効果
     1 皮膚老化予防と改善効果
     2 皮膚老化のメカニズムとその防止対策
  2.8.2 フコイダンの抗炎症作用
   (1)紫外線による皮膚の炎症作用
     1 紫外線による炎症作用の低減作用
     2 ラジカル捕捉作用
     3 紫外線照射したヒトケラチノサイトのTNF−α産生抑制効果
     4 皮膚由来線維芽細胞の増殖促進効果と
       コラーゲン産生促進効果

 第9章 フコイダンの安全性
  2.9.1 単回および1ヶ月間反復経口投与試験
   (1)単回投与毒性試験
   (2)反復投与毒性試験
  2.9.2 26週間反復経口投与毒性試験および4週間回復試験
  2.9.3 細菌を用いた復帰突然変異試験およびマウス末梢血を
       用いた小核試験
   (1)細菌を用いた復帰突然変異試験
   (2)マウス末梢血を用いた小核試験



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