著者名: | 松田浩一 著 |
ISBN: | 978-4-425-85341-0 |
発行年月日: | 2010/3/28 |
サイズ/頁数: | 四六判 192頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,980円(税込) |
生まれた時のクモのような姿からガラス細工のように繊細な稚エビとなり、最後は威風堂々とした姿に成長するイセエビ。初めて幼生の人工飼育に成功した著者がその不思議な生物を、最新の研究成果とともに紹介する。
【はじめに】より
イセエビ は磯の王者である。長年イセエビのことを研究し、思い入れが強い筆者であるのでかなり贔屓目に見ている感はいなめないが、確かにそう思う。磯に棲む生物としては魚類を除いて最大のものであり、体長35cm、重さ2kg以上にも成長する。このような大きさのイセエビは、もはや片手では持てずに、両手でしっかりとつかんでもやっとである。
外見もまるで龍のように威厳を備え、王者の風格たっぷりだ。味もまた絶品で、お刺身や焼きエビなど何をしても美味しい。中でも、イセエビ全体をぶつ切りにして作った味噌汁は最高で、イセエビのうま味がしみ出していて、それを食する時は日本人として生まれた幸せを感じる。イセエビは多くの人の憧れの食材であり、特別の日の膳には欠かせない。
日本でイセエビは毎年1,500トン程度が漁獲されている。1尾が250gとすると、毎年600万尾(1日あたりに換算すると約1万6千尾)が日本のどこかで食されていることになる。いくら人気の食材といっても高価なエビであり、こんなに多くのイセエビがどこで食べられているのだろうか。そんなことを思っているのは甲斐性がない私だけかもしれないが、この他にもイセエビに関する疑問は多い。イセエビがどこで、どのような生活をし、どのように漁獲されているのかについて、一般にはあまり知られていないように思う。そればかりか、イセエビは水産生物を研究している研究者にもわかっていない多くの謎を持っており、不思議に包まれている。
魚貝類の生態や漁獲について研究している研究者がよく言うように、私も少年時代からの釣り好き、魚好きが高じて水産学の世界に入った。大学では魚類の分類学をかじったものの卒業して現在の職場(三重県水産研究所)で働くようになり、学生の時とは全く異なった研究をいくつか受け持つことになった。そのうちの1つがイセエビの研究だった。
それまではイセエビなんて数回しか食べたことがなく、しかも子供の頃によく釣りをしたアメリカザリガニとは比べようもない高嶺の華のイセエビは、全く縁遠い生き物であった。それが、就職してイセエビと日常から接し、イセエビに関する著書や論文を読むうちに、なんとも不思議な生き物であることが少しずつわかってきた。そしてすぐにイセエビの魅力に引き込まれてしまった。
その当時、職場では卵から生まれてきたイセエビの赤ちゃん(幼生と呼ぶ)の飼育研究に、研究室が一丸となって取り組んでいた。私もその中の1人となり、週末や正月も返上して幼生の飼育作業に追われる日々を送った。それでもさほど苦にならずに過ごし、約20年が経過した。今でもイセエビのことでわからないことは多いが、毎年のように新しい発見があり、わくわくさせてくれる。
本書では、イセエビはどのような生き物なのかをこれまでの研究生活の中から得た新しい知見を含めて述べてみたい。また、私の職場で行っている幼生の飼育研究を中心に、イセエビを将来にわたって安定して漁獲し続けるために行われている研究についても紹介しようと思う。イセエビの研究の最前線を垣間見ていただくことで、読者の皆様にはイセエビの不思議な生態を知っていただき、大きな海の中で繰り広げられるイセエビの生活を思い起こしていただければ幸いです。
【目次】
第1章 これが磯の王者、イセエビだ
1-1 イセエビという生物
Study1 生物を分類する方法
コラム1 なぜ、イセエビと呼ばれるようになったのか?
コラム2 イセエビは鳴くか?
1-2 王者 イセエビへの道
1-3 イセエビを獲る
Study2 漁業権について
1-4 イセエビを増やす
コラム3 イセエビのフィロソーマ飼育研究の歴史
第2章 イセエビの産卵を操る
2-1 自然の海での産卵
コラム4 イセエビの雄と雌の外見の違い
2-2 産卵を操る
2-3 多産のイセエビ
2-4 王者 vs 王者ーイセエビのけんかー
第3章 イセエビを育てる
3-1 困難なフィロソーマの飼育
3-2 ウチワエビに学ぶフィロソーマ飼育
3-3 イセエビ、奇跡の瞬間
3-4 研究の再始動
3-5 フィロソーマを知る
コラム5 イセエビの呼吸
3-6 飼育規模の拡大へ
第4章 イセエビの脱皮を調べる
4-1 脱皮して大きくなる
4-2 いつ脱皮、変態するのか
4-3 脱皮時刻を制御する
4-4 脱皮時刻を決める生物時計
4-5 脱皮時刻に及ぼす水温変化の影響
第5章 イセエビの将来
5-1 海の環境変化によるイセエビへの影響
5-2 イセエビ類の受給動向
5-3 イセエビの増殖に向けて
■著者プロフィール
1963年 大阪府松原生まれ
1986年 京都大学農学部水産学科卒業
三重県水産技術センター研究員
1992年 三重県農林水産部漁政課(県庁内)技師
1995年 三重県水産技術センター研究員
2000年 三重県科学技術研究センター水産研究部主任研究員
2008年 三重県水産研究所主幹研究員
2009年 同研究所主幹
現在に至る
2005年 京都大学博士(農学)取得
2006年 日本水産学会賞技術賞受賞
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