著者名: | 坂口 守彦 著 |
ISBN: | 978-4-425-85391-5 |
発行年月日: | 2012/8/20 |
サイズ/頁数: | 四六判 168頁 |
在庫状況: | 在庫僅少 |
価格 | ¥1,980円(税込) |
魚によっては旬や鮮度などによって、うまさが大きくかかわる。本書では「どの魚がうまいか」(どの種類の魚がうまいか)ではなく「どんな魚がうまいか」であることに注目して、そのうまさを解説している。また、今後、魚とうまくつきあうための「未利用資源の有効利用」についても簡単に触れている。
【はじめに】
私たちの食をつなぐ日々の料理は別として、レストランや料亭などで食べる特別な料理は日本料理であれ、中国料理、フランス料理であれ、そこにはある種の芸術性があるといわれる。人々が時々そのような料理を提供する場所に足を踏み入れるのは、ちょうど美術館やミュージックホールに訪れるのと同じである。そこでは絵画は目、音楽は耳、料理は口や鼻という感覚器官を働かすことができる。芸術の機能は「非日常性」にあるとされるから、もし特別な料理が芸術の一種に属するなら、それは日常からできるだけ離脱したものであってほしい。しかし、食べるという行為があまりにも日常的であるために、私たちはそうした「非日常性」を見いだしにくい。幸いなことに、魚介類、海藻など水産物をよく使う日本料理は、しばしば私たちの感覚器官を刺激し、実際に素晴らしい芸術作品を生み出している。
1990年代までに化学分析と官能テストを組合わせることによって、ウニ、カニ、ホタテガイをはじめとして種々の魚介類に含まれる呈味成分があきらかにされた。一方、最近ではヒトの口腔内に存在する味の受容体(レセプター)の全貌や呈味成分に対する受容のメカニズムが解明されるようになってきた。さらに味覚や嗅覚、脳におけるこうした感覚の発生などの研究領域が急激に進展しつつある。このようなわけで、従来の味やにおいの科学が退屈で泥臭いものだという感覚がうすれてきたと感じている。
食べ物は私たちの身体に栄養素を供給するが、そのほかにも「うまい」「おいしい」という感覚を与えてくれる。そのため、これまでにそうした観点から魚介類を取り上げた本は山のようにあるし、現在でもグラビア雑誌も含めれば、まるで洪水のように出版されている。これらは食べたときの感想、歴史や旅行記などと関連させたものがほとんどで、風味、色、形などに触れたものはきわめて少ない。一部ではあるが、気のきいたものは俳句や和歌が添えてある。これらの本の大部分は写真や絵とともに「魚介類を種類別」に載せる、という共通点があるようにみえる。いずれも魚介類にはうまいものが多いことを強調しようとしているが、どれもこれも同じパターンに陥ってしまっているのが残念でならない。そのようなわけで本書のタイトルは「どんな魚がうまいか」であり、第3章でいくぶん触れてはいるが、「どの種類の魚がうまいか」ではないことをご了解いただきたい。
第10章は、本書のタイトルと内容がかけはなれているように見えるが、将来はきわめて重要となってくる話題なので、ぜひ目を通していただきたい。
日本人ならずとも、魚がうまいと思う人たちは世界に多い。今では魚食が健康面ですぐれた効果を与えることもよく知られるようになり、以前よりも世界的に需要が増加しつつある。こうした事情を背景に、本書が改めて魚がいかにうまいものかを認識していただくヒントとなれば幸いである。
【目次】
第1章 「うまい」とはなにか?味やにおいを感じるメカニズム?
1-1 「うまい」と「おいしい」の違い
1-2 「うまい」の要素
1-3 「うまい」と感じる感覚の仕組み
1-4 魚介類のにおい成分
第2章 うまいと感じる味の成分?味をつくりだす要素?
2-1 エキス?味の本体
2-2 魚介類のエキス成分と呈味成分
2-3 「こく」とはなにか
第3章 どんな魚がうまいか
3-1 活け造りはうまいか
3-2 加熱した魚肉の味と歯ごたえ
3-3 「旬」の魚がうまいわけ
3-4 マグロのうまさ
3-5 どの種類の魚がうまいか
第4章 うまい、まずいは見ためが勝負
4-1 色にたいする心理
4-2 どの色のサケがお好き?
4-3 どの色のたらこがお好き?
4-4 華やいだ雰囲気をもたらすズワイガニやスモークサーモン
第5章 天然もの vs 養殖もの
5-1 旬が売りの天然もの、いつでも食べられる養殖もの
5-2 歯ごたえをくらべてみる
5-3 味と香りをくらべてみる
5-4 色をくらべてみる
第6章 ブランド魚はうまいか
6-1 ブランド魚のメリット
6-2 ブランド魚の味
6-3 一般にみとめられているブランド魚
6-4 どのブランド魚がうまいか
第7章 肉と魚、どちらがうまい?
7-1 プルタークの大好物は
7-2 肉は熟成してうまくなる
7-3 肉は部位に分けて食べる
7-4 肉料理派の言い分
7-5 おいしさの軍配はどちらにあるか
第8章 この酒にこの肴
8-1 酒と肴の相性診断
8-2 合う、合わないを決める要素
8-3 「肉料理には赤ワイン、魚料理には白ワイン」はほんとうか
第9章 魚の内臓はほんとうにまずいか
9-1 肉と内臓?くらべてみれば
9-2 内臓にはうまいのもたくさんある!
第10章 魚とうまくつきあう?未利用資源の有効利用?
10-1 出発点は「だしがら」の利用から
10-2 投棄・廃棄される水産資源
10-3 水産資源を有効に利用する
10-4 重要度はトップレベルだ
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