著者名: | 片柳亮二 著 |
ISBN: | 978-4-425-87011-0 |
発行年月日: | 2014/6/18 |
サイズ/頁数: | A5判 224頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,080円(税込) |
航空機を安全に飛ばすため、設計するためには、空中での航空機の挙動を十分理解しておく必要があります。本書は、無人飛行機や模型飛行機、鳥の飛行についてなどを例に、航空機の飛行に係わる基本から実際の応用までを詳細に解説します。たとえば、主翼と尾翼の関係はどのように決めるのか、鳥にはない垂直尾翼はなぜ必要なのか、垂直尾翼がないと何が困るのか、など通常の航空機の設計の現場ではあまり議論されることはない「当たり前の疑問点」について詳説しています。 これらの例題は、初学者だけでなく、実際の航空機設計に携わる専門家においても貴重な解析例として使用されています。最近盛んになっている無人飛行機の開発についても、設計例題を取り上げ、無人飛行機と通常の旅客機との違いなどを詳細に説明します。航空機産業が発展するなかで、関係の技術者、初学者にとっての基本的な教科書となります。
【はじめに】より
天気のよい日に空に浮かぶ雲を見ているとすがすがしい気持ちになる。とくに、夏の力強い雲が、いろいろな形に変化していくのを見ていると時間を忘れてしまう。大空を優雅に飛んでいる鳥たちはさぞかし気持ちがよいのではないかと思う。人間が鳥のように大空に舞い上がる夢を抱いた気持ちがよくわかる。
動力飛行機が開発されてから110年ほどになるが、今の飛行機を見てみると、鳥の形とかならずしも同じでないことがわかる。人間はなぜ飛行機に垂直尾翼を付けたのであろうか。垂直尾翼があると、横風で機体があおられてしまうため、風が強い日には欠航してしまう。逆に、鳥はなぜ垂直尾翼を持っていないのであろうか。1940年代には、ノースロップ社が垂直尾翼のないフライングウイング機(全翼機といわれる主翼だけの機体)を開発した。飛行には成功したものの、結局開発は途中で中止されている。1980年代末になると、飛行機の世界にも垂直尾翼のない機体が出現した。その機体は、フライ・バイ・ワイヤといわれる飛行制御装置が開発された結果実現したものである。一方、鳥は尾羽である水平尾翼を回転させながら巧妙に垂直尾翼効果をつくり出している。その結果、鳥はあたかも体内にフライ・バイ・ワイヤと同じ制御回路があるのではないかと思えてくるほど、風の中を安定に飛ぶことができる。近年になって、人間のつくった飛行機がやっと少し鳥に近づいたといえるのではないかと思う。
筆者は、メーカーにおいて30年以上、飛行機の設計に携わった経験を持つ。飛行機の開発には10年近くかかるため、タイミングが悪いと一度も開発を経験できない技術者も多い中、筆者は幸いにも2つのプロジェクトで、飛行特性や飛行制御の担当として最初から最後の飛行試験までプロジェクトに参加させてもらった。当然ながら初飛行も2度経験している。私の担当は、いかに飛行機を安定に飛ばすかということである。当時は朝から夜遅くまで、飛行機を安定に飛ばすための飛行制御ロジックの開発に夢中で取り組んでいたが、飛行機になぜ垂直尾翼があるのか、なぜ今のような形をしているかなど、飛行機そのものについてあまり考えたことがなかった。設計の現役を退いた今、あらためて飛行機はなぜそのようになっているのか、について考えるといろいろと疑問がわいてくる。
本書は、飛行機についてこれまで当たり前に思っていた事項を、あらためてなぜそのようになっているのかをまとめたものである。本書により、飛行機のいろいろな疑問について理解を深めていただければ幸いである。
最後に、本書の発行に際し特段のご尽力をいただいた成山堂書店の小川典子社長ならびに編集グループの方々にお礼申し上げます。
2014年5月
片柳亮二
【目次】
第1章 飛行機設計の経験談
1.1 航空機メーカーに入る前
1.2 航空機メーカーでの新人時代
1.3 スピン飛行試験
1.4 T-2CCV研究機
1.5 QF-104無人機
1.6 XF-2の開発
第2章 旅客機の飛行
例題2.1 なぜ無着陸で地球1周を飛べるのか
(1)飛行機が飛べる距離はどのようにきまるのか
(2)ボイジャー号の航続距離
(3)地球1周号Aと通常の旅客機との航続距離比較
例題2.2 縦静安定のない飛行機は飛べないのだろうか
(1)モーメントの釣り合い
(2)全機空力中心と縦静安定
(3)縦系の運動方程式の導出
(4)通常の旅客機の縦系の運動
(5)縦静安定がない場合の飛行
(6)NSS機のすべての極が実根になる理由
例題2.3 旅客機で縦静安定を負にするメリットはあるのだろうか
(1)重心が主翼胴体空力中心よりも前にある場合
(2)重心が主翼胴体空力中心と一致した場合
(3)重心が主翼胴体空力中心の後で全機空力中心の前方にある場合
(4)重心が全機空力中心よりも後にある場合
(5)縦静安定が負の場合はメリットがあるか
例題2.4 高迎角で揚力係数が一定になるとどうなるのか
(1)通常迎角時の飛行特性
(2)揚力係数一定となる高迎角時の飛行特性
(3)揚力係数一定となる迎角で釣り合い飛行は可能だろうか
例題2.5 先尾翼機の水平尾翼容積比はなぜ小さくてよいのか
(1)通常機の力の釣り合い
(2)先尾翼機の力の釣り合い
(3)通常機と先尾翼機の比較
例題2.6 横風に強い飛行機はできないだろうか
例題2.7 飛行機に背びれを付けたら安定に飛ぶだろうか
例題2.8 斜め翼の飛行機はなぜ飛べるのか
第3章 無人飛行機(UAV)の飛行
例題3.1 UAVはほかの飛行機と何が異なるのだろうか
例題3.2 UAVの飛行特性は旅客機と何が異なるのだろうか
(1)UAVの着陸性能
(2)UAVの離陸性能
(3)UAVの航続時間
(4)UAVの航続距離
(5)UAVの性能まとめ
例題3.3 UAVの航続性能と離陸重量とはどのような関係なのか
例題3.4 航続距離500(km)のUAVを設計してみよう
例題3.5 UAVはペイロードや速度を増やすとどうなるだろうか
(1)ペイロードと離陸重要
(2)ペイロードと翼面荷重
(3)UAV設計例
例題3.6 旅客機並の翼面荷重を持つUAVは可能だろうか
第4章 模型飛行機の飛行
例題4.1 模型飛行機と旅客機との違い(1)翼面荷重
例題4.2 模型飛行機と旅客機との違い(2)縦の短周期運動
(1)旅客機の縦の運動特性
(2)模型飛行機の例(C機)
(3)縦短周期運動が実根となる条件
(4)模型飛行機(C機)の短周期モード極
(5)模型飛行機(D機)の短周期モード極
例題4.3 模型飛行機と旅客機との違い(3)縦の長周期運動
(1)旅客機の長周期運動の例
(2)模型飛行機(D機)
(3)模型飛行機(J機)
(4)模型飛行機(K機)
(5)模型飛行機D機、J機、K機の長周期運動まとめ
(6)模型飛行機の潮流機運動の翼面荷重の影響まとめ
例題4.4 模型飛行機と旅客機との違い(4)ダッチロール
例題4.5 模型飛行機と旅客機との違い(5)ラダーによる旋回
第5章 人力飛行機の飛行
例題5.1 人力飛行機と模型飛行機との違い(1)縦の短周期運動
例題5.2 人力飛行機と模型飛行機との違い(2)縦の長周期運動
(1)人力飛行機の長周期モードの機体諸元による影響
(2)人力飛行機の長周期モードの近似式
(3)人力飛行機の長周期モードの修正近似式
(4)長周期モードの無次元空力係数表示式
例題5.3 人力飛行機と模型飛行機との違い(3)ダッチロール
例題5.4 人力飛行機は縦静安定がなくても飛べるだろうか
(1)人力飛行機(E機)
(2)人力飛行機(F、G機)
例題5.5 人力飛行機は垂直尾翼がなくても飛べるだろうか
例題5.6 人力飛行機は翼を長くするのが本当によいのか
第6章 鳥の飛行
例題6.1 垂直尾翼のなり鳥はどのように方向安定を保つのか
例題6.2 鳥が長距離または長時間飛ぶための工夫とは
例題6.3 鳥はどれくらい速く水平に飛べるだろうか
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