著者名: | 山城秀之 著 |
ISBN: | 978-4-425-83071-8 |
発行年月日: | 2016/9/8 |
サイズ/頁数: | A5判 180頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,420円(税込) |
サンゴの不思議な生態が今、明らかに!
サンゴの研究に40年。その成果をまとめたサンゴの本。
石垣島・宮古島で報告されている白化現象は広がっている!?
【はじめに】より
白い砂浜、淡い水色から濃い青(コバルトブルー)、緑がかった青(エメラルドグリーン)、深い場所の青みがかった黒。言葉では表現に困るほどサンゴ礁には多彩な海の色があります。何度見ても飽きることのない、誰もが惹きつけられる光景の一つかと思います。海底の白砂からの反射、プランクトン等の懸濁粒子が少なく透明度の高い水、深さの異なる複雑な地形、そして差し込む太陽の光、どれか一つが欠けてもこのような光景は成立しません。
サンゴやサンゴ礁という言葉は誰でも知っていますが、そもそもサンゴとサンゴ礁の違い、サンゴそのものがどのような生物で何を食べて、どのように子孫を残していくのか等々よく聞かれ説明に窮することもあります。そして、サンゴ礁をなぜ守らなければいけないのか、サンゴ礁から何が得られるのかなど、多少の基礎知識が必要なこともあります。
サンゴ礁が海洋に占める面積は全体のわずか0.2% に過ぎません、しかし海岸線に占める割合は約16% もあり,海洋生物の25% がサンゴ礁域に棲息し、そこから得られる水産資源に依存している人々は少なくありません。人の生活や生存を左右する存在となっている場所もあります。
サンゴが生育し、サンゴ礁が発達する暖かい海は、一方で実は生き物が住むには厳しい環境とも言えます。海の透明度が高いということは、海水中の栄養塩が少ない貧栄養の海、すなわち植物プランクトンや動物プランクトンなどが少ないことを意味します。しかし、サンゴ礁には色鮮やかな魚をはじめ多くの生き物が集っています,なぜでしょう。その理由は、サンゴの体の中に共生している褐虫藻という小さな藻とサンゴの関係がうまく成り立っているからです。褐虫藻の光合成で作り出された糖などの栄養分をサンゴは自身の成長などのエネルギー源として利用しますが、余剰分は粘液などとして周囲に放出しています。放出された物質はが、サンゴ礁の食物連鎖を支えるスタート台となり、多くの生物の糧かてとなっています。小さなサンゴの個虫(ポリプ)が石灰を沈着しながら複雑な群体を作り、それらが集まって長い歳月をかけてサンゴ礁という大きな構造物を作ります。多くの生物は、サンゴを住居としてあるいは食料のにじみ出てくる餌場として集まってきます。
貧栄養でありながら生物の生産量が大きいので「海の熱帯雨林」(陸上の熱帯雨林の土壌も貧栄養です)、あるいは生き物の少ない海域の中でサンゴ礁にたくさんの種類の生物が住んでいることから「海のオアシス」や「海のゆりかご(生まれ育つ場所)」と呼ばれるのもうなずけます。1本のサンゴの枝があれば,空間を利用する者、サンゴの粘液を食べる者、穴を空けて住処にする者、それらを捕食する者…実に多くの生物たちが養われる場所となります。
ところで,近年の外国船による違法操業や密漁がニュースになったことから、「宝石サンゴ」が脚光を浴び、表舞台に登場する機会が多くなりました。宝石サンゴは陽がほとんど届かない深い海にひっそりと棲息し神秘的ですが、その分よくわかっていないことも多々あります。しかし、浅い海の造礁サンゴも深い海の宝石サンゴも、その形態や成長、生殖、栄養など知れば知るほど意外と共通点が多い仲間であることがわかります。高価な宝石としてではなく、生き物としての視点から見ると見方も変わってくるかもしれません。
サンゴは長い間、研究者だけが関心を持ってきた研究対象でしたが、今やダイバーやアクアリストの関心も高くなり、浅場のサンゴ礁を作るサンゴから深場の宝石サンゴまで認知度が高くなってきました。どこにどのようなサンゴがいるのか、白化現象やオニヒトデの捕食はどれ位拡がっているのか等々、研究者だけでは全体を把握できません。また、閉鎖された水槽内でサンゴを長期飼育するのは、これまでかなり困難なことだとされてきました。アクアリストの積み上げてきた知識と技術はサンゴの研究に多いに役立ちます。
このように関心が高まってきたことに相反し、サンゴおよびサンゴ礁は危機的な状況になりつつあります。時代を遡ると、1970 年代のオニヒトデの大発生で多くのサンゴが食べられ消えていったのが始まりです,その後オニヒトデの大発生は場所を変えて度々起きています。1998 年の夏には海水温度が2℃上昇し、造礁サンゴのパートナーの褐虫藻が抜け出してサンゴが餓死する大規模白化現象が起きました。ほんの数ヶ月で国内の造礁サンゴの8割が失われました。私が春先に調査のためにマークしていたサンゴも全て白化し、そして全てが死亡し消え去りました。化石燃料を燃やして排出される二酸化炭素の引き起こす温暖化の影響を目の当たりにした年でした。その後もサンゴの白化は度々起きています。他方、産業革命以降に排出された二酸化炭素を吸収し続けた海は、次第に酸性側に傾いており(海洋酸性化)、サンゴに限らず石灰を作る生物への影響が懸念されています。
更に、サンゴの病気の問題も起きています。大規模白化現象のあった1998年、たまたま見つけたサンゴの成長異常(骨格の過成長)を調べ始めたのですが、数年後には致死性の病気が沖縄のサンゴ礁に現れました。1990 年代以降、サンゴの感染症が世界中のサンゴ礁で台頭し脅威の一つに挙げられています。ここでは、サンゴの病気についての説明も加えました。世界中で細菌を主とするサンゴの感染症が増加した理由として、水温上昇に伴ったサンゴの体力低下および高温を好む細菌の活性化、また陸地からの様々な物質(懸濁物や栄養塩など)が流入していることが挙げられます。
海水温度が次第に上昇していることに適応すべく、サンゴは次第に北上していますが、捕食者のオニヒトデも白化現象も病気も北上しているのが現実です。北半球を北上するにつれ海の面積は小さくなり、また海洋酸性化の進行は北側で大きいとの報告もあるため逃げ場はないのかもしれません。
気候変動の影響を受けて消滅がささやかれるシンボルの一つのサンゴ礁、目の届かない深い海の底で刈り取られる深海の宝石サンゴ。生物多様性が高いと称されるサンゴ礁に限らず、熱帯雨林、砂漠、干潟等々あらゆる場所に生物は棲息し、それらにとって最適の環境に適応して生き抜いています。様々な生態系において繰り広げられる生殖、競争、捕食、防御、共生や寄生など多様な・不思議な生き様を見ること知ることはとても楽しいものです。造礁サンゴは、目玉がなく、動き回らず、茶系の地味な色合いが多いこともあり、残念ながら魚やウミウシやクラゲほど人気はありませんが、知れば知るほど奥の深い生物です。
サンゴは柔らかい小さなサンゴ虫が硬い骨格を積み上げ、複雑かつ巨大な構造物を創出する稀な生き物です。一口にサンゴと言っても、人によっておそらく関心のある点は異なり、動物としての挙動、サンゴに集う生物とのやりとりやせめぎ合い、蛍光や宝石サンゴの光り物、サンゴ礁の保全など、引き出しは数限りなくあります。本書を通して、サンゴの世界を覗き見、そこから生き物の持つ能力などへの驚きや発見があり、関心を持っていただける一助になれば幸いです。
平成28年7月
琉球大学熱帯生物圏研究センター教授
山城秀之
【目次】
第1部 サンゴの基礎知識
§1 サンゴの疑問Q&A
Q. 1 サンゴって何?
Q. 2 サンゴとサンゴ礁は違うの?
Q. 3 種類はどれくらいあるの?
Q. 4 どこに住んでいるの?
Q. 5 何を食べて生きているの?
Q. 6 サンゴは食べられるの?
Q. 7 サンゴに寿命はあるの?
Q. 8 サンゴが減っているってホント?
Q. 9 サンゴと魚はどんな関係なの?
Q.10 サンゴは自宅で飼えるの?
§2 サンゴの生物学
2-1 どんな生物なのか―サンゴのイロハ
(1)生物の分類・サンゴという動物
コラム スナギンチャクの猛毒「パリトキシン」
(2)サンゴの仲間
(3)サンゴの大きさの限界
2-2 サンゴの本体“ サンゴ虫”
(1)ポリプの構造
コラム 海藻のようなクラゲの仲間「イラモ」
(2)刺 胞
(3)ポリプを覆う粘液は万能コスメ
(4)サンゴはメタボ
(5)褐虫藻は造礁サンゴのエネルギー源
コラム サンゴとソテツの共通点
2-3 サンゴの外観と骨格
(1)サンゴの外観
(2)骨格の成分と炭酸カルシウムの結晶
(3)サンゴの硬度と色
(4)骨格のつくり
§3 サンゴの生活
3-1 サンゴの寿命
(1)サンゴの成長速度と年齢
(2)サンゴの自殺? アポトーシス
3-2 サンゴの殖え方
(1)有性生殖
(2)サンゴは性転換する
(3)生活苦で早熟、豊かになると直接子どもを産む
(4)無性生殖
3-3 サンゴ同士の仁義なき戦い
(1)ポリプで直接バトル
(2)相手を日陰者に
(3)合体と不可侵条約
コラム 光に向かって歩くサンゴ
第2部 サンゴの種類
§4 代表的なサンゴ
4-1 造礁サンゴ(ハードコーラル)
(1)六放サンゴ類
コラム 褐虫藻をもたないアウトロー「イボヤギ」
(2)八放サンゴ類
(3)ヒドロサンゴ類
4-2 サンゴ礁を作らないサンゴ
(1)軟らかい・脆いサンゴ(ソフトコーラル)
(2)非造礁性の有藻サンゴ
(3)深場に住むサンゴ
4-3 宝石サンゴ
(1)宝石サンゴの種類
(2)増え方
(3)骨格と色
(4)宝石サンゴの問題
(5)価格とサンゴ漁
(6)「宝石」になるまでの加工
コラム 童謡・歌とサンゴ
第3部 サンゴと多彩な生き物たち
§5 サンゴと共に生きる
(1)サンゴに集う者たち
(2)サンゴを狩場にする
(3)サンゴは小さな魚の隠れ家
(4)賄い付マイホーム
(5)サンゴの表面にへばり付く
(6)サンゴに孔をあけて住む
§6 サンゴを殺す生き物
6-1 サンゴを食う動物
(1)骨ごとかじる魚たち
(2)オニヒトデはベジタリアンだった?
(3)サンゴ食の巻貝レイシガイダマシ
(4)吸血貝? タチムラサキサンゴヤドリ
(5)新種発見か! ミノウミムシ
6-2 サンゴを駆逐する海藻とシアノバクテリア
(1)温暖化でサンゴは海藻に換わる
(2)海藻との生存競争
(3)単細胞植物ケイ藻との競争
(4)シアノバクテリア・テッポウエビ連合
コラム サンゴ礁の音色 波と天ぷら
(5)サンゴを覆い尽くすカイメン テルピオス
6-3 サンゴの病気
(1)拡大する病気
(2)病気の原因と対応
(3)病気の種類
第4部 サンゴ礁と地球環境
§7 サンゴ礁のでき方
7-1 サンゴ礁のベースになるもの
(1)サンゴ礁の型
(2)サンゴ礁の様々な地形
(3)サンゴ礁は変化していく
7-2 サンゴ礁を作る生き物
(1)サンゴ礁のスクラップ&ビルド
(2)石灰岩を作る藻
(3)サンゴ礁のビーチの砂になる有孔虫
§8 人とサンゴと地球環境
8-1 サンゴ礁と人との関わり
8-2 ゆでガエル現象にだまされるな!
§9 サンゴが死滅していく
9-1 悪夢の白化現象発生
(1)今も拡大しているサンゴの白化
(2)白化とは何か
(3)白化は餓死へのカウントダウン
(4)白化しやすいサンゴ
(5)冬場の白化現象
コラム 常識はずれの記録保持者キクメイシモドキ
9-2 グローバルな人間活動による海洋環境の劣化
(1)海洋の温暖化とサンゴの北上
(2)気候変動
(3)海洋酸性化
9-3 ローカルな人間活動によるサンゴ礁への影響
(1)崩れつつある人とサンゴ礁の共生
(2)淡水流入
(3)開発による赤土流出
(4)海の富栄養化
(5)化学物質の影響
§10 サンゴとサンゴ礁を守る
10-1 なぜサンゴ礁を守らなければならないのか
(1)危険な場所だったサンゴ礁
(2)サンゴ礁の魅力と経済効果
10-2 サンゴ礁の保全
(1)活発化してきた保全活動
(2)サンゴの採集を規制する
(3)オニヒトデの駆除
(4)期待されるサンゴの移植・再生
§11 サンゴを飼育する
(1)サンゴは夜開く―動物プランクトンが餌の決め手
(2)ダイバーやアクアリストから学ぶ
コラム 緑色に光る蛍光サンゴ
【著者紹介】
山城秀之(やましろ ひでゆき)
履歴・学位
1980 琉球大学理学部生物学科 卒
1983 琉球大学大学院理学研究科 修了
1983 – 2000 琉球大学放射性同位元素等取扱施設 技術職員
2000 – 2006 名桜大学国際学部観光産業学科 講師,助教授,教授
2006 – 2013 沖縄工業高等専門学校生物資源工学科 教授
2013 – 現在 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 教授博士(学術)
・所属学会
日本サンゴ礁学会,国際サンゴ礁学会,沖縄生物学会,他
日本動物学会,日本水産学会
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