「山の天気は変わりやすい」とよく言われるほど平野部と山岳部では天気が違う。本書は、山ならではの天気の特徴や、あらかじめ知っておきたい天気予報の知識、登山者の中には重宝している人も多い「高層天気図」のみかた、さらには実際に起こった事故事例をもとに登山中の天気の急変を察知する方法などについて、登山が大好きな気象の専門家たちの意見を交えながら解説。天気だけでなく山登りに必要な情報収集や心構え、登山に最適な夏山の魅力についても紹介。
近年、登山は娯楽の一つとして、以前にも増して多くの方々から親しまれるようになりました。都会の喧騒を忘れてリフレッシュする社会人や、友人との思い出作りをする学生たち、中には、健康のために習慣にしているという年配の方まで、老若男女を問わず年間約840万人(2016年現在)もの登山者が全国の山を訪れています。「山登りをしよう」という誘 い文句も、「週末にちょっと遊びに行こう」というニュアンスで使う人が増えてきたように感じられます。
登山をする上で避けて通れないのが、やはり、天候の確認です。雨の日の登山道は滑りやすく、慣れている人にとっても危険が伴うため、体力が十分にあるからといって油断することはできません。ましてや、これから初めての登山に挑戦しようと思っている方には、雨の日は決してお勧めできないコンディションであるといえます。また、「山の天気は変わりやすい」とはよくいわれたもので、『男心と秋の空』や『女心と秋の空』ならぬ『男心と山の空』や『女心と山の空』とたとえられることもあるほど。つい先ほどまで青空が広がっていたのに、どこからともなく雲が現れ、あっという間に大雨をもたらすことも珍しくありません。事前にしっかり天気予報を確認していても決して安心できないということを常に念頭において登山に臨むことが大切です。
それでは、登山当日までに天気予報のチェックをしておくことは意味がないのでしょうか。―答えは「NO」です。やはり、事前に「降雨のなさそうな期間」を見極めて出発することは大切です。さらに、山の天気はどのように変わりやすいのか、山の天気にはどのような特徴があるのか、天気が急変する前に察知する方法はないのかなどをあらかじめ把握しておくことで、登山中の天気の急変にも対応できるようになることでしょう。
本書では、山ならではの天気の特徴や、あらかじめ知っておきたい天気予報の知識、登山者の中には重宝している人も多い「高層天気図」のみかた、さらには登山中の天気の急変を察知する方法などについて、気象の専門家たちの意見を交えながら紹介しています。この一冊が、登山前・登山中のあなたの味方となることでしょう。
2016年から、新たな祝日として8月11日が「山の日」となりました。「山の日」は「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」ことを趣旨とする16番目の国民の祝日。これまで祝日のなかった8月に誕生した、初の祝日ということでも注目を集めました。ちょうど夏休みやお盆休みの重なるこの時期は、登山をするにはもってこいの「夏山シーズン」でもあることから、さらなる登山ブームの到来が期待できそうです。
今年も山のシーズンが始まりました。梅雨が明ければ、本格的な夏山登山の季節到来です。爽やかな空気の中、鮮やかな草木や青空を眺めながら、一歩一歩足を進めていく。頂上での爽快感は、何ものにも代えがたいことでしょう。日照時間が長く雪のほとんどない夏山は、初心者にも向いています。
しかし、自然を相手にするレジャーは自然環境や天候に大きく影響されるということを忘れてはいけません。「山の天気は変わりやすい」といいますが、「このように変わりうる」ということを知っていて備えているかどうかで、酷い目に遭ってしまう確率は違ってきます。
今回ご紹介する『60歳からの夏山の天気』では、山の天気は平地の天気とどう違うのか、山に登る前に行うべき情報収集、知っておくべき天気の基本等、登山に欠かせない天気の知識をわかりやすく解説しています。実際の事故事例とそのときの天候も紹介していますので、「こんな状況ではこういう事故の可能性があるのだ」という学びも得られます。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『60歳からの夏山の天気 気象ブックス042』はこんな方におすすめ!
- 夏山に登ってみようと思う初心者の方
- 初心者と一緒に登山をする予定のベテランの方
- 山の天気の特徴を知りたい方
『60歳からの夏山の天気 気象ブックス042』から抜粋して5つご紹介
『60歳からの夏山の天気』から抜粋していくつかご紹介します。最初に夏山登山の魅力を説明し。次に山の天気の特徴、登山前の情報収集、登山で知っておくべき天気の知識についてお話します。最後にこれまでの事故事例から、生死を分けた状況について学びます。
平野部と山岳部の天気の違い
山頂付近の気温は、平野部の冬並みの寒さになる可能性があります。山岳部の主な特徴は、以下の3点です。
1.登れば登るほど気温が下がる
平野部では地面→地面に接する空気→さらに上の空気の順で気温が上昇します。標高の高い山では、空気の断熱変化の影響で気温が上昇しにくくなります。空気は上昇すると周囲の圧力が下がるので膨張し、エネルギー(熱)が奪われて温度が下がります。この現象を断熱冷却といいます。
2.登れば登るほど風が強くなる
地表付近では地面との摩擦のため風が弱くなりやすいのですが、上空に行けば行くほど地表との摩擦力が小さくなるので、山岳部では風が強くなります。
3.登れば登るほど天気が安定しなくなる
山の空気は安定せず、変わりやすくなっています。これは、山の地形と空気中に含まれる水蒸気の影響によるものです。
山の斜面に沿って水蒸気を含んだ空気が上昇すると、上空に雲ができ、雨を降らせます。逆に斜面に沿って空気が下降すれば、青空が広がります。山が連なっていれば空気は上昇下降を繰り返し、上空の風向きの影響も受けて天気は変わりやすくなります。
また、午後になると気温が上がって空気が上昇しやすくなり、雲ができやすくなります。午後の方が天気の急変の確率が上がるため、山行は午前中に行う方がよいでしょう。
学生時代の夏休み、友人たちと山の露天風呂に行ったのですが、麓は晴れていたのに山のお風呂では低温と強風にあって風邪を引きました。車で登れるような場所でも、山岳地帯と平地の環境の違いは明確ですね。低温と天気の急変への備えを忘れず出かけましょう。
夏山登山における危険な気象現象
山岳では、地上では見られない山岳特有の危険な気象現象が発生します。思わぬ怪我や遭難事故に遭遇することもあるので、注意が必要です。
1.雷 (熱雷、界雷)
山岳では雷雲との距離が近く、稜線上では遮るものがないために雷が直撃しやすくなります。また山岳自体が雷雲の中に入ってしまうことも多く、登山者は上だけではなく横からも落雷を受ける危険があります。雷は大きく2種類に分類できます。
(1)熱雷
主に夏の午後、地上が日射により暖められて上昇気流が発生することによって起こる。加えて上空に寒気が流入してくると積乱雲が更に発達し、熱雷はより激しく、長時間続く。
(2)界雷
寒冷前線の通過に伴い、前線上の積乱雲によってもたらされる。初夏や晩夏、前線が通過する際に激しい暴風雨と共に鳴り響く雷。
熱雷と界雷が一緒になった「熱界雷」 という雷もあります。寒冷前線の縁で熱雷と界雷が合体したものです。
雷に遭遇した場合、逃げ場のない場所では窪地などで姿勢を低くして、雷が通り過ぎるのを待つのがよいでしょう。多人数の場合は分散しての避難が必要です。
2.暴風雨
山岳では強い風が吹き、強風とともに雨が登山者に叩き付けられます。また、山岳は地上よりも早くかつ大きく、天候悪化の影響を受けます。最近は局地的豪雨の発生も増えていますので、十分な注意が必要です。どんな天候のときも必ずレインウェアを常備しておきましょう。
3.鉄砲水
登山中に大雨に遭遇した際には、鉄砲水にも注意が必要です。高山では岩が露出しているような場所が多く、このような場所に豪雨が降ると、雨水はそのまま地表面を流れ、爆発的な勢いで岩や木を巻き込みながら下ってきます。
豪雨が別の場所で降った場合も、鉄砲水が接近する少し前には必ず前兆現象があります。沢の水が止まった、水が急に湧いてきた、地鳴りのような音がする等の異変を感じたら、一刻も早く沢から離れてください。
4.霧・もや
霧ともやの違いは、水平視程が1キロメートル以上かそれ未満かの違いです。雲と霧・もやの違いは空中に浮かんでいるか、地上に接しているかの違いです。登山者はこれらを総称して、ガスということの方が多いようです。
初夏や晩夏には、ガスに遭遇することが多くなります。ガスは道に迷う原因となります。ガスで道を見失ったときには、むやみに動き回らずにその場にとどまり、ガスが晴れるのを待つことも重要です。
これらの危険な気象現象を回避するためには、体調や天気が悪いときは登山を中止する等の「勇気ある撤退」も必要です。また、条件が整っているときでも、午後は天気の急変が多いので、できるだけ朝の早い時間に到着し、登山を始めるようにしましょう。
リーダーとメンバーの心構え
キャプテンのリーダーシップは状況を大きく左右しますが、チームメンバーが別々の意思で動いてしまってはよい結果には結びつきません。登山においても、皆が安全に楽しく登山するために、リーダーとメンバーそれぞれに心構えが必要です。計画を立てる段階から気をつけておくことをまとめました。
1.登りたい山とメンバーの力量・編成
参加を希望するメンバーの経験・技術・年齢と体力を見極め、メンバーの中に目標とする山に登る力が足りない人がいる場合は、より簡単な山にするか、その人には今回外れてもらうかを決定する必要があります。
2.メンバー全体で計画を立てること
リーダーに任せきりにせず、皆で計画を立てながら目標を共有することが大切です。今ではネットで簡単に情報収集・共有ができます。装備や歩く時間、携行品の確認、天気の見通し、悪天時の迂回ルート、避難小屋の確認なども忘れずに計画を立てましょう。計画書ができたら、メンバーと家族でだけでなく、登山届BOXや、インターネットで外部とも共有しておきましょう。万一のときに役立ちます。
3.山岳保険
メンバーの山岳保険加入の有無を確認しましょう。どれだけ周到な準備をしても、自然が猛威をふるうこともあれば、自分たちの油断で事故を起こすこともあります。状況によってはためらわず救助要請をする必要があります。救助要請の判断を遅らせないためにも、山岳保険加入は当然の準備の一つとして考えておいてください。
チームで登山をするときは、準備段階からチームワークを高めておく必要があります。レベルを見極めてふさわしい山やコースを選び、計画を共有し、いざというときに備えるということは、予想外のことも起こる自然に挑むにあたっての「自己責任」といえるでしょう。
高層天気図を読み解く
大気の状態を詳しく見るには高層天気図が欠かせません。高層天気図は気象庁のホームページで見ることができます。
高層天気図は、大気を上空で輪切りにしたような天気図です。ある気圧での高さが等しい等高度線で描かれます。標高が高くなるほど空気が薄く、気圧が低くなります。等高度線が周りより高いということは、同じ高さでは周りより気圧が高いことになります。このため、高層天気図も一般の天気図と同じように値の大きい所は気圧が高いことになります。
季節や日によっても気圧の高さは異なりますが、気圧と高さの関係は、300ヘクトパスカルが約9000メートル、500ヘクトパスカルが約5500メートル、700ヘクトパスカルが約3000メートル、850ヘクトパスカルが約1500メートルになります。
1.500ヘクトパスカルの高層天気図(気圧の谷・尾根と気温を見る)
高層天気図で基本となるのが、500ヘクトパスカル(上空約5500メートル)の天気図です。
この高さでまず見るのが、気圧の谷と気圧の尾根がどこにあるかです。等高度線は、基本的に北が低く、南が高くなっています。南にへこんでいるような場所は、周りより気圧が低いことを表し、気圧の谷になります。一方、等高度線が北に膨らんでいるような場所は、周りより気圧が高く、気圧の尾根になります。気圧の谷が近づくと天気が下り坂で雨が降りやすくなり、気圧の尾根が近づくと天気が回復し晴れやすくなります。
この高さでは、気温の状況を見るのも大切です。地面付近とこの高さの気温差が40℃以上になる時は、大気の状態が非常に不安定となり、雷雲が発達しやすくなります。
2.850ヘクトパスカルの高層天気図(前線と暖湿気流を見る)
850ヘクトパスカルは高層天気図の中で最も低い高さの天気図です。この高さになると地面と空気の摩擦が小さくなり、違う空気の境目が分かりやすくなります。この高さでは、気温や相当温位が混んでいる場所から前線の場所を見るようにします。
相当温位は気温と湿度が高くなるほど高くなります。単位は絶対温度のK(ケルビン)です。相当温位が高いほど暖かく湿った空気になり、低いほど冷たく乾燥した空気になります。相当温位が高い空気は雨粒の元となる水蒸気をたくさん含んでいて、雨の量が多くなりやすいのです。
相当温位の高い空気が流れ込む時は、山では特に風上側の斜面で大雨になりやすいので、山が開けている方角と風向きとの関係が大切になります。
大気をある高さで輪切りにする?なかなかイメージがしづらいかもしれませんが、本書中には視覚的にイメージしやすいように図が添えられています。実際の高層天気図の上に気圧の谷と尾根を示しているので、より理解しやすいと思います。
夏の低体温症:トムラウシ山遭難事故
2009年7月16日、北海道トムラウシ山で9名の遭難死亡事故が発生しました。
遭難の気象要因は、強風、低温、雨でした。遭難発生時は、低気圧が北海道付近を通過し寒気が流れ込んだため、山では荒れた天気になり、気温が低くなったのです。天気図を見ると、前日から当日の午前中にかけて寒気が流れ込み、山では寒く荒れた天気が続くことが推測されます。高層天気図からは、強風が長く続くことも分かります。
この多数の遭難死亡事故は、強風、低温、雨による低体温症により発生しました。夏山でも低体温症は起こり、死に至ることもあるのです。低体温症とは、深部体温が35℃以下に下がった状態をいいます。低体温症が進行すると、体全体の温度が低下し、脳、心臓、筋肉などの機能障害が起こります。要因はいろいろありますが、気象的には冷気、風、雨などによる濡れの3つです。
この遭難事故の要因の一つに、ガイド、ツアー客に低体温症の知識がなかったことが挙げられています。事故調査特別委員会の発表した報告書は、低体温症の特徴とともに、この事故における気象に関する問題点として以下6点を挙げています。
1.事前の天気判断の誤り
2.当日朝の天気判断の誤り
3.行動時の天気判断の誤りに加え、臨機応変な危機回避行動を行わなかったこと
4.強風に対する認識不足
5.濡れに対する認識不足
6.北海道の高山に対する認識不足
事故の原因については様々な指摘がなされていますが、この悲惨な事故の記憶を薄れさせることなく、登山をする際にはあらためて確認し、二度と同じような事故が起こらないようにしなければなりません。
夏山でも、気温が0℃を下回ることがあります。そのような場所で身体が濡れた状態で強風に晒されてしまうと、低体温症を発症してしまいます。場合によっては発症から2時間で死に至ることもあるそうです。上記の報告書では、夏山で強風雨に遭遇した場合、登山中止かビバークが最適であると勧告されています。
『60歳からの夏山の天気 気象ブックス042』内容紹介まとめ
初心者向けといわれる夏山。これから登山を始めようとする初心者向けに、山で知っておくべき天気の基本をまとめました。山の天気の特徴、事前の情報収集、知っておくべき知識をやさしく解説しています。過去の事故事例を参照し、「山ではこんなことが起こりうる」という教訓も得られます。
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