著者名: | 曽根 悟 著 |
ISBN: | 978-4-425-96351-5 |
発行年月日: | 2023/7/28 |
サイズ/頁数: | A5判 184頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,420円(税込) |
『鉄道ピクトリアル』誌への連載(2021年1月号~2022年8月号)をもとに、鉄道技術とともに歩んだ著者が、日本の鉄道の再活性化とともに、民鉄の技術ノウハウを活かした世界の大都市への貢献を提言。
【まえがき】
本書は「鉄道技術との60年」と題して鉄道ピクトリアル誌に2021年1月号から2022年8月号まで20回に亘る連載を元にしてはいるが、自叙伝的な内容は大幅に圧縮し、日本の鉄道の再生を願っての提言を書き加えて世に問うものである。
1964 年に世界に先駆けて高速鉄道を誕生させた日本の鉄道は今、世界の動きから完全に遅れをとってしまった。地球環境問題やエネルギー・資源・安全の観点から多くの点で優れた特性を持っていて、持続可能な交通モードの代表として鉄道が大躍進を続けている中で、日本だけが元気がないのは大変残念なことである。
日本に輪をかけた少子高齢化が進みつつある中国は、2007年に高速鉄道保有国になって以来、高速鉄道の世界のシェアを急速に伸ばし、今では世界の高速鉄道の2/3を保有し、さらに質的にも量的にもそれを広げている。スイスは1982年以来、走行速度の高速化から所要時間の短縮に方針を転換しそれからの40年で元もと高かった鉄道のシェアを大幅に伸ばし続けている。ヨーロッパで最長の高速鉄道路線を持つに至ったスペインでは、軌間の異なる在来線との直通が広範囲に行われており、鉄道への信頼と、社会的地位を著しく向上させている。
このようなこととの対比で日本国内の鉄道の置かれている状況を見ると、大発展の機会を逃し続けていて、今や宝の持ち腐れの状況に陥っているとしか思えないのである。大都市の通勤鉄道では今でも混雑問題は解消されていないばかりか、3年続いたコロナ禍以後のサービス正常化の機会さえも活用できていない現状があり、元祖の高速鉄道ネットワークも目標の4割で建設がほぼストップしており、その影響もあって新幹線が出来ることを前提に在来鉄道の高速化が半世紀以上に亘って停止してしまっている。
日本人は鉄道が大好きである。出版物も新聞やテレビなどでも、これらに代わって登場した各種の情報媒体でも鉄道を取り上げれば話題が盛り上がる。日本の地図には必ず鉄道路線が目立つように描かれており、多くの都市や町は駅が中心になっている。これらは国際的には当然のことではない。日本の置かれている状況の下では、鉄道はまだまだ発展を続ける可能性が高いのに、自らそれを放棄しているかのように海外からは見える点が少なくない。視点を変えて海外の目で日本の鉄道を見ると、優れた点もたくさんあるのに、理不尽なこともまたたくさんあって、上手な使い方が非常にわかりにくい。例えば同じ東京の中でほんの10kmあまりの電車での移動に、利用する線を選ばないと運賃に2 倍以上の差が出ることが少なくないなど、世界の常識に反する例が珍しくないし、先進国にはあるまじき通勤通学の混雑が長年解消されないなど、利用者にも事業者にも決して望ましくない事例も多々ある。
本書では、政策の議論には深入りしない範囲で、質的にも量的にも明らかに大発展を遂げつつあるスイスの公共交通のノウハウに見習ったり、多くの駅と緩急列車の組み合わせで便利で速く目的駅に着ける大手民鉄の技術をJRにも採り入れることで、大都市交通での鉄道の立場を一層拡大して、地球環境にも安全問題にも鉄道がより一層貢献できることを目指したり、都市間交通の分野では新幹線のネットワークが大きく伸びることを前提に、在来鉄道のスピードアップがほぼ半世紀に亘ってストップしてしまった中で鉄道150 年を迎えた日本で、今後の半世紀でこれを挽回するために欠落してしまった「中速鉄道」への取り組みなどを提言している。
鉄道技術をライフワークにしてきた筆者としては、日本の鉄道がまだまだ国内的にも国際的にも貢献できるのに、その元気を失っているのが大変残念である。少子高齢化の社会では、縮小はやむを得ない、もともと便利な自動車が人が運転する危ない『人動車』からAI を駆使した文字通りの『自動車』になればもう鉄道の出番はない、などの誤解もまだ少なくない。電気自動車が排気ガスを出さずに走っても、アスファルトの道路をゴムタイヤで走れば、鉄レール上の鉄道車両に比べてエネルギー消費率は一桁多く、自動運転で危険性が一桁減ってもまだ鉄道の安全性よりも一桁以上低いのである。大好きな鉄道がより一層発展することを願って
2023年6月 我孫子にて 筆 者
【目次】
第1章 鉄道との関わり
1 小田急電鉄・京浜急行
小田急とのつきあい
(1)NSE車と山本利三郎氏
(2)初代モニターと通勤特急の提案 安藤楢六社長
(3)2200形・2400形と通勤ダイヤ 生方良雄氏
高性能車のダイヤ上での活用策
京急との付き合い
(1)230形と500形
(2)京浜急行のダイヤの面白さ
(3)日野原保、丸山信昭、石井信邦、道平 隆氏
京急イズムとそれが京成に与えた影響
2 東大から受けた恩恵
東大鉄道研究会と人材・人脈
多くの東大での恩師達
交通システム工学(JR東海)寄附講座
定年後に工学院大学で電気鉄道講座を復活
第2章 鉄道研究者としての道
1 部外者も活躍できた時代
軽快電車の開発(1978 ~ 1980)
リニア地下鉄の開発(1976 ~ 1981 〜 1985 ~ 1987)
スーパーひかり300系の開発
2 新幹線との付き合い
卒論も学位論文も新幹線がらみ
若い院生が活躍できた、良き時代
新幹線の列車ダイヤ
分散動力車の利点が明白になった300 系新幹線を世界に
3 鉄道雑誌との付き合い
鉄道ピクトリアル誌との出会い
専門外の寄稿も
国鉄問題深刻化の時代と鉄道ジャーナル誌
JREA誌との長い関わり
第3章 鉄道技術・鉄道業界との関わり
1 国鉄系鉄道関係諸協会
国鉄系諸協会とは
鉄道電化協会での委員会活動
交流電気機関車開発余禄
(1)ED45 1とED70との関係
(2)サイリスタ機関車ED78とEF71
電気系協会誌
鉄道運転協会との関わり
2 国鉄改革模索時代の日本鉄道技術協会(JREA)での活動
国鉄末期約10年間の協会活動のJREA 誌への取りまとめ
「鉄道技術体系の総合調査委員会」を企画
JREAの運営への参画
3 工学院大学に電気鉄道講座を復活
教授としての7年間
社会人教育 鉄道講座の発足
鉄道講座の今後
第4章 国鉄改革
1 国鉄分割民営化と民鉄
分割民営化を技術・サービス面からサポート
鉄道ジャーナル誌の国鉄改革への積極的関わり
国鉄部内誌等への寄稿と国鉄幹部への直接提案
技術とサービスから見た国鉄分割民営化への楽観的な見方
民鉄になれなかったJR
改めて民鉄 対 JR
2 国鉄末期の頑張り
国鉄流界磁添加励磁制御の開発
205系と211系・213系がJR再生への国鉄の置きみやげに
JR初期の躍進にも
新幹線60.3ダイヤと100系
61.11ダイヤと東海道新幹線220km/h化
国鉄最後のダイヤ改正の性格と実績
3 8年間のJR西日本社外取締役の体験
フライデー
民鉄との協調
根が深い国鉄体質の問題
(1)線路保守のためのローカル線の昼間運休問題
(2)基本的技術伝承の欠落
JRの支社長 対 大手民鉄の社長
退任に際しての社内での講演
JR発足20周年青春18 きっぷ
第5章 海外の鉄道との関わり
1 イギリス
イギリス留学にシベリア鉄道で
夏休みを前に北米を視察
大学での滞在中には
イギリスの3種の時刻表
クック社による世界の鉄道時刻表出版
Railway Gazette誌との関わり
2 スイス
ヨーロッパの鉄道歴訪とスイスへの目覚め
交通システム工学寄附講座でのスイス人研究員の貢献
スイステレビの人気旅番組と京急との仲介
国内でのスイス鉄道紹介者 長 真弓氏と大内雅博教授
日本のIPASSとスイスのEasyR!de
スイスの鉄道車両メーカStadler社育成への協力
鉄道技術展での日瑞セミナーでのスイス側講師
3 中国との付き合い
1988年頃の中国とその後の急変
北京交通大学の客員教授に
日中高速鉄道の比較
高レベルの全国鉄道網と低レベルの都市鉄道
日本での中国鉄道時刻表の出版と中国での時刻表廃止
日本での中国高速鉄道の紹介と葛西敬之氏
4 世界と比べた日本の鉄道の“ 異常”
45年前の「なぜだろう」
現代の分野別“ 異常” の分類の試み
(1)線路と駅関係
(2)車両関係
(3)利便性とサービス関係
(4)特に訪日客への対応
経営・制度・安全分野の“ 異常” とその違い
(1)政策と路線存続の問題
(2)運賃と混雑問題
(3)安全・安定輸送実績とそれに伴う問題
第6章 日本の鉄道再生への提言
1 日本の鉄道の安全と安心
運輸省が大手民鉄に出した保安装置に関する異例の通達
安心な鉄道と輸送障害
2 鉄道150年を迎えた2022年 日本の鉄道の惨めな姿
技術をサービスに生かせていない理由 謙虚さと学び姿勢の不足
不十分だった国鉄改革と国鉄回帰現象 鉄道ジャーナル誌での後追い
サービスの基本は短い所要時間
日本の鉄道の行き詰まり
(1)発展させるべき分野
(2)残すべき分野
海外に積極的に進出すべき分野
(1)民鉄型都市鉄道
(2)安全安定輸送
(3)災害対応
3 日本の鉄道再生への分野別の提言
車両、電気、運転、信号の個別技術から統合システム技術へ
(1)車両(含 電気)のハードは共通化しつつソフトで個性化を
(2)曲線の多い高速運転向きでない線路を乗り心地良く速く走る車両
(3)運転(含 ダイヤ)の計画は「あるべきサービス」から
(4)信号保安の分野は低コスト・高機能の統合型列車制御システムへ
新しい車上論理を活用した統合型列車制御システムでの安全確保のイメージ
高密度都市圏での鉄道の立場を一層高める方策―シェアの拡大と輸送の質の改善を
存続危機のローカル鉄道をどうするか
線路側での所要時間短縮法の数々
行き詰まった新幹線計画から本格的な所要時間短縮へ
(1)在来鉄道の中速鉄道化
(2)時代遅れの整備新幹線から中速新幹線へ
この書籍の解説
2022年は鉄道開業150周年でした。様々なイベントが行われたので、楽しんでこられた方も多いかと思います。私(担当M)も博物館での記念展示や雑誌の特集号などを見て、今はもう引退してしまった好きな車両が活躍する姿に胸を熱くしたものです。
世界で初めての高速鉄道が誕生した日本は「鉄道大国」であるという意識を、鉄道ファンである私も持っていました。しかしここ数年の現実に目を移すと、毎年のように起こる災害で大きな被害を受けた路線が再建に苦労する様子、不採算路線の相次ぐ廃止、コロナ禍が一段落して元通りになってしまった都市部でのラッシュなど、「鉄道先進国」を名乗り続けるのは少し厳しいかな?と思うような状況が続いています。
職業人として業界に寄り添って歩んできた人は、このような状況をもしかしたらより歯がゆく感じられているのではないでしょうか。今回ご紹介する『鉄道技術との60年』は、電気工学の専門研究者として鉄道技術の研究をライフワークとしてきた著者が、民鉄、国鉄(のちのJR)、諸外国の鉄道と関わってきた中で得た広い経験と学識をもとに、日本の鉄道をよりよくしてゆくための提案を行った書籍です。『鉄道ピクトリアル』誌での20回の連載を下敷きとして、より日本の鉄道技術の現代史に注目するかたちに再編成しています。
新幹線が通ったら、並行在来線はただぶつ切りにして第三セクターに渡せばいいのか?そもそも、これからの新幹線は今までのような方式でよいのか?在来線にはもう速度改善の余地はないのか?日本の鉄道は海外から何を学ぶべきか?等、一読すると様々な疑問が湧いてきます。「業界」を深く知り関わり続けながら、研究者でもあり続けた著者の視点から、現状を突破するヒントが得られるかもしれません。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『鉄道技術との60年』はこんな方におすすめ!
- 鉄道会社に勤務する方
- 鉄道ファン
- 昭和~平成の日本鉄道史に興味のある方
『鉄道技術との60年』から抜粋して3つご紹介
『鉄道技術との60年』からいくつか抜粋してご紹介します。「鉄道大国」と呼ばれ、新幹線をはじめとした最新鋭のシステムを安全・定時運行させてきた日本。しかしその隆盛にも陰りが見え始めています。民鉄・国鉄・海外鉄道と関わりながら昭和~平成の時代を歩んできた著者が、歩んできた道を振り返りつつ日本の鉄道の未来へ提言を行います。
新幹線との付き合い
《新幹線の列車ダイヤ》
著者が若手研究者時代に関わった例として、新幹線の列車ダイヤがあります。著者は前々から鉄道ダイヤに深い関心を寄せており、新幹線のダイヤが行き詰っていることを見過ごせませんでした。
新幹線のダイヤは1992年の「のぞみ」登場までは1時間あたり「ひかり」「こだま」各1本の1-1 ダイヤから次第に増発していきましたが、東京駅の発着千数が5本だったので、5-5 ダイヤの5-4パターンでこれ以上の増発は難しいといわれていました。このダイヤでは、満席の「ひかり」とガラガラの「こだま」が頻発してしまいます。
著者はJREA誌における北山敏和氏(国鉄車両設計技師)の論考を参照し、ダイヤと車両の両面からの改善の可能性について、同誌上での議論を行いました。その議論が、100系の二階建て車両やダイヤのブラッシュアップ等につながったのです。
《分散動力車の利点が明白になった300系新幹線を世界に》
日本式の動力分散電車は経済性が低いというのが国際的な見方でしたが、著者は第1回世界鉄道研究会議で異議を唱えます。電力回生ブレーキを用いる動力分散式が圧倒的に有利であることを、日欧共通の指標を用いて明確に示したのです。これに反応し、中国が動力分散方式で開発を行う方向に方針転換しました。ドイツは動力集中方式に固執していましたが、その後動力分散の車両(ICE3)を開発することになりました。
初の「のぞみ」用車両である300系は早くに姿を消しましたが、その一因は10M6Tにしたことにあります。軌道破壊面で問題があったのです。これに対してJR 西日本は500系を全M編成にし、JR東日本は渦電流ディスクブレーキを使用しないことにしました。JR 東海の開発者としては、面白くなかったのかもしれません。その後のJR東海の500系に対する取り扱いは、嫌がらせのように取れるようなものがあってのではないか、と著者は皮肉っています。
JR西日本の「のぞみ」として登場した500系は、乗り心地はさておき鉄道ファンには大人気で、未だに様々なラッピングを施され「こだま」用として走っています。一方JR東海の「のぞみ」300系は、引退後リニア鉄道館に保存されていた2両のうち1両は700系の展示開始と同時にあっさり解体されてしまいました。速度を求めた「のぞみ」型車両の明暗に思いを馳せてしまいますね。
国鉄末期の頑張り
国鉄とJRに共通する問題は、縦割り組織で横の繋がりに欠けていたことです。しかし、「合理化」と「標準化」については例外でした。しかしこの二つが推し進められるうち、元々の意味とはかけ離れ、「合理化」=ただ仕事を減らすこと、「標準化」=何でも画一化することという使われ方をされるようになってしまいました。そのため民鉄とは大きな差がつくことになり、のちに是正の動きがみられるようになりました。その例として、東海道新幹線への100系導入が挙げられます。
《新幹線60.3ダイヤと100系》
1985年には、新幹線開業以来20年ぶりに新形式車である100系が誕生しました。シートピッチを広げて3列座席も回転できるようにし、2階建て車両の食堂車からは富士山も見られるというのが売りの車両です。0系よりも安く購入できたことも注目されました。
速度面でも、3時間10分から3時間08分運転になり、これまで実現できなかった6-4ダイヤが60.3(1985年3月)ダイヤで実現しました。こだまを削減する代わりに増発したひかりの一部を途中駅に停車させて利便性を確保する、いわゆる「ひだま」を設けて、ダイヤの真の意味での合理化も進みました。
こうして新幹線から国鉄再生への動きが始まりましたが、在来線を含めた国鉄初めての全社的な真のダイヤ改正というべきなのは、61.11(1986年11月)ダイヤです。
《61.11 ダイヤと東海道新幹線220km/h 化》
分割民営化を控えた国鉄が取り組んだ最大の仕事は、61.11 ダイヤ改正です。民営化しても生き残れるように、これまでの国鉄の姿勢から利用者に選択される存在に変わるとの考えのもと、全社統一的に新ダイヤに取り組んだのです。
大単位の列車を少数走らせる方式から、小単位の列車を多数走らせる方式に転換しました。このようなダイヤ改正は、スジを引いて乗務員を配置すればできるというものではありません。誤った「標準化」によって、短編成の車両が不足していましたが、かといって新車を大量に買うことはできません。短編成化すれば、運転台や車内電源、設備の移設や新設が必要です。線路も、かつて無駄だとして撤去してしまった線路の復活も行いました。要員の転換教育も必要です。
特急と地域の列車を大増発し、急行を大削減して特急と快速などに転換するという大方針でダイヤを全社的に見直すという大事業を、国鉄時代に実現しなければなりませんでした。
新幹線のスピードアップは元々あった余力の活用でしたが、国鉄としては画期的でした。元々わかっていた0系駆動システムの余力で、最高速度210km/h、基準運転曲線を描くための最高運転速度200km/h を、それぞれ225km/h、219km/hにすることで、余裕時間をほとんど変更せずに東京─新大阪間の所要時間を大幅に縮めることができたのです。
60.3ダイヤでは6-4ダイヤが東海道新幹線に採り入れられましたが、山陽区間は改善できませんでした。61.11ダイヤでは民鉄の輸送技術をヒントに、山陽区間のダイヤも改善されました。
《国鉄最後のダイヤ改正の性格と実績》
国鉄最後の61.11ダイヤ改正は、これまでの国鉄のダイヤ改正とは、まったく性質の異なるものでした。国鉄分割民営化の最大の目標は大幅値上げとスト権スト等で失われた顧客を取り戻すことと、余剰人員対策です。
国鉄はこれまでの「乗せてやる」態度を改め、民営化しても「選んでもらえる」質の高いダイヤを目指したのです。このダイヤは、分割後に会社境界をまたぐ列車をどうするかという大問題に対処するため、分割自体の議論も含めて議論されて作り上げられました。
新幹線では技術的余力を活用した質的向上が目立ちますが、在来線では民鉄型に近づけたダイヤを取り入れています。特急は大増発されていますが、実は急行からの格上げでした。併せた列車キロでは増減がありませんでしたが、車両キロは短編成化によって大幅に減りました。一方普通列車では、列車キロ、車両キロとも増えています。これは廃止した急行用車両の転用や、昼間車庫で休んでいる時間を短縮して捻出されたものです。
新幹線の話ばかりで恐縮ですが、100系新幹線の2階建て食堂車は、JR西日本の博多総合車両所で見学することができます。内部が公開されるのは基地公開日のみとなりますが、普段は基地の外側に近い部分に置かれているので、外からも見ることができました。今後近所の公園に展望台が設けられるという話もあるようなので、楽しみですね。
世界と比べた日本の鉄道の“異常”
著者はこれまで多くの国の鉄道に関わり、また乗客として利用してきました。その中で、他の国では鉄道は大発展を続けているのに、日本の鉄道だけが元気がないことに気づきます。日本の鉄道はどうすれば再生できるのでしょう?提言に繋げるため、日本の鉄道の「異常」な点を洗い出してみました。
《現代の分野別“異常”の分類の試み》
日本だけこうなっている、という例は現在でも少なくありません。良いものも悪いものも含め、鉄道常識の違いについて確認してみましょう。
(1)線路と駅関係
分岐器直線側の速度制限:在来線では120km/h程度までは速度制限をなくすことができたが、未だ問題は残っている
低レベルの分岐器:分岐器の速度制限のために停車列車の所要時間が延び、通過列車の頻度にも悪影響がある。諸外国では停車・出発する列車の加減速特性に合わせた速度で通過できる分岐器を使っているので、悪影響が出ない
ブレーキ距離:600mという制約は撤廃されているが、実質的には改善されていない例がほとんど
レール継ぎ目:諸外国では、レールの継ぎ目が原因の音はほとんどない
踏切が多い:鉄道先進国では踏切廃止等による在来線のレベルアップを積極的に進めてきたが、日本ではこの動きはみられない
左側通行:諸外国では、必要な場合は左右どちらでも同等に走れるようになっている。日本の左側しか走れない信号システムは例外的
駅構内配線:大きな駅構内の配線も日本は例外的。日本では多くの線を渡る場合には何度も曲がる必要があるが、諸外国では何本もの線を一気に渡る
高速鉄道の信号と配線:他国の高速鉄道は右側も左側も同等に走れるようになっており、国によっては故障等でも安全に留置して乗客を代替輸送手段に案内できる
有人駅には改札が前提:最近は無人駅が増えているが、案内不足で困る訪日客も多い
(2)車両関係
連節車のダブルデッカー:プラットホームの低い国、高い国を問わず、それぞれの状況に合わせた2階建て車両が近郊電車の標準として用いられている
地下鉄のクロスシート:外国ではより多い着席サービスのため、地下鉄にもクロスシートを用いるところが多い
新幹線の先頭形状:海外の高速鉄道は、新幹線のように先頭部分の長い車両はない
フラット車輪による走行騒音:日本では、変形してしまった車輪(フラット車輪)による騒音が多い
(3)利便性とサービス関係
車内アナウンス:日本では車内アナウンスが多いが、鉄道先進国では十分な案内を行っているため、余計なアナウンスを行う必要がない
利便性とダイヤ・接続:車の頻度が少ないため、時間的にも空間的にも不便な例が多い
都市鉄道の運賃:違う会社の鉄道を乗り継いで移動する場合、諸外国では発着地点が同じならルートに関係なく同一運賃で、支払いも一回のみ
便利なパス類:日本のバスは種別や料金、乗降システムが不便でわかりづらいが、諸外国では観光客でも理解しやすいシステムがある
乗越しと精算:乗越し精算のシステムがあるのは日本だけだが、便利な点もある
(4)訪日客への対応
訪日客への対応:日本の公共交通の使いにくさ、案内の不親切さは随一
駅のわかりやすさ:駅自体がわかりにくい
予約:外国から日本に訪れる場合、出発前に旅行ルートを予約するのが難しい
便利なパスと意地悪なパス:Japan Rail Passは訪日外国客に対して非常に使いづらい
鉄道ではなくバスの話になりますが、私(担当M)は県をひとつ跨いだだけでバスを利用することを躊躇してしまいます。前方後方どちらから乗るのか、整理券は取るのか、このICカードは使えるのか、いつから値段が上がるのか等、心配事があまりにも多いからです。しかも間違いが発覚するのは、降りる場面になってからです。外国からの訪問客なら、こんな不便な乗り物に乗らなければならないなんて!と嘆く人もいるでしょう。日本の公共交通機関が真に「ユーザーフレンドリー」になれば利用者も増え、運営会社も業界も元気を取り戻してくれるかもしれません。
『鉄道技術との60年』内容紹介まとめ
鉄道技術と職業人生をともにしてきた著者が、『鉄道ピクトリアル』誌での連載をまとめました。民鉄と国鉄、そして諸外国鉄道と関わってきた広い経験と学識をもとに、国鉄民営化等の大転換を含む日本の鉄道技術の現代史を解説します。勢いを失いつつある日本の鉄道に対し、生き残りへの提言を行いました。
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『電気機関車とディーゼル機関車』
日本の陸上輸送に大きな役割を果たしてきた機関車。そのうちディーゼル機関車と電気機関車に焦点を絞り、それぞれの発展史、代表的な機種、構造、特に動力と台車の仕組み、諸外国の状況、メーカーの変遷等を解説しました。
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