著者名: | 山縣宣彦・轟朝幸・加藤一誠 編 |
ISBN: | 978-4-425-86351-8 |
発行年月日: | 2023/8/8 |
サイズ/頁数: | A5判 328頁 |
在庫状況: | 入荷待ち |
価格 | ¥3,520円(税込) |
チャレンジ精神をもって新たな取組みを行っている空港・航空会社、建設会社、コンサルタント、学識経験者、国や地方公共団体の空港担当者が、それぞれの立場と視点から、空港や航空の現場で行っているさまざまな事例・取組みを紹介、未来の空港・航空システムの構築のための話題を提供する。
【はじめに】
ここ数年世界では、コロナ禍というパンデミック現象やロシアのウクライナ侵攻という地政学的リスクが増大しました。そして、これによって引き起こされたエネルギー危機、さらに地球温暖化という底流に流れる気候変動への危機意識も高揚し、社会的、経済的、政治的な動揺が起こっています。こうした急激な状況の変化のなか、航空輸送量の激変によって航空会社や空港会社は巨大な債務を抱え、長期的にはその返済が経営の重しになっています。そして、カーボンニュートラルへの対応のため、費用や投資を要し、極めて難しい課題に直面しています。
一方、長期的に見ると、世界的にはグローバル化という基調が維持されていますから、航空輸送も堅調に成長すると予想されます。今後は、一連の事象を踏まえ、パンデミックや国際的なリスクにも耐え、同時にカーボンニュートラルを実現できるシステムを構築することが求められています。
翻って、わが国の航空政策は21 世紀に入って規制緩和はさらに進展し、新たな時代を迎えました。昭和の時代に空港配置が概成した航空・空港システムに関しては、懸案であった首都圏空港の容量不足も羽田空港のD滑走路が完成一区切りがついたと言ってよいでしょう。しかし、世界と比較すると、わが国には本格的な国際ハブ空港がないこと、航空の基盤といえるゼネラル・アビエーションが脆弱であることといった問題があります。そして、地方の活性化に寄与すべき地方空港の活用が不十分と言わざるを得ないでしょう。加えて、パンデミック対応、カーボンニュートラル対応等について、空港・航空関係者のさらなる努力や挑戦が求められています。
こうした現状意識から、6年前の2017年に「未来の空港・航空システム」研究会を当財団内に設け、主に空港技術という視点から、自主的な調査研究活動を行ってきました。目的は、地方創生を含めた経済活性化や国土強靭化に資する空港システムおよびそれに関連する航空システムの新たな導入や既存システムの活用方策などに関し解決策を探ることにあります。メンバーには空港会社、航空会社、建設会社、コンサルタント、学識経験者、国や地方公共団体の空港担当者に入ってもらい、年4回程度、色々なテーマでワークショップを行いました。
取り上げたテーマは、空港の整備・管理運営に関すること14回、航空システムに関すること6回となり、地方空港を念頭に置きつつ、空港技術という視点から20回開催しました。昨年12月に20回目の研究会を終え、当面議論するテーマもほぼ尽きたことから、この研究会は終了することにしました。ワークショップは毎回異なるテーマとし、空港や航空の現場でチャレンジ精神をもって新たな取組みをされている個人や団体に着目し、複数の方々からテーマに関連する報告をしていただいて、メンバー間で意見交換をすることにしました。立場が異なることもあり、多面的な観点からの示唆に富む議論ができたと思います。議論の内容を踏まえ、いくつかの提言活動も行いました。こうした取組みのいくつかがさらに進展していくことや、新たな取組みの起爆剤になることを期待しています。また、この研究会には航空局の比較的若い世代の担当者にもできるだけ参加してもらいましたが、ここには今後の行政や実務の参考にしてもらいたいとの思いもありました。
本書は、これまでの議論の内容をとりまとめ、また全体構成も整えて出版に至ったものです。講演者には講演当時の報告原稿を基本に、その後の状況の変化や新しい情報を加筆していただきました。紙幅の関係で意を尽くせない方もおられるとは思いますが、ご執筆をご快諾いただきましたことを心より感謝いたします。
とりまとめにあたっては、この研究会に専門的な立場から参加していただいた、日本大学の轟朝幸教授と慶應義塾大学の加藤一誠教授から指導を受けました。また、当財団の笹川明義主任研究員および大竹秀明主任研究員が執筆者との原稿の調整などにあたりました。諸氏のご尽力に深謝申し上げます。さらに、研究会の議事録作成をお願いした九州市立大学の幕亮二特任教授にも謝辞を申し上げます。
最後に、出版にあたり編集のみならず、関連会議にもご出席のうえ様々なご助言を賜った成山堂書店編集部の板垣洋介氏に感謝する次第です。
2023年7月
編者を代表して
(一財)みなと総合研究財団 山縣宣彦
【目次】
第1部 アフターコロナの新しい空港・航空システム創りを目指して
第1章 地方空港の現状とこれからの展望1-新千歳空港の果たしてきた役割と今後の展望-
1.1 新千歳空港 整備の歴史と残された課題(竹内 帆高)
1.2 北海道の空港運営と今後の課題(田村 亨)
1.3 鉄道アクセスの機能強化(戸田 和彦)
第2章 地方空港の現状とこれからの展望2
- NHK『クローズアップ現代』「地方空港利用客獲得作戦」を題材にして-
2.1 九州佐賀国際空港(野田 信二)
2.2 大館能代空港(佐藤 恵二朗)
2.3 幻となった「びわこ空港」計画(西川 忠雄)
2.4 「地方」空港は木の葉舟か?(加藤 一誠)
2.5 地方空港の課題と期待(轟 朝幸)
第3章 地方空港活性化の切り札1
-リージョナルジェット機を使った地域航空と地方空港の活性化-
3.1 リージョナル航空と地方創生(鈴木 与平)
3.2 丘珠空港の利活用と札幌市の取組み(浅村 晋彦)
第4章 地方空港活性化の切り札2-プロップジェット機を使った地域航空の活性化-
4.1 地域航空の現状と将来の展望(植木 隆央)
4.2 地域航空会社の機材更新(中川 誠)
4.3 環境に優しいプロップジェット機の役割と可能性(齋木 育夫)
4.4 首都圏のATR・STOL 機就航空港(笹川 明義)…
第5章 地方空港活性化の切り札3-新機軸を打ち出した地方空港の戦略と実践-
5.1 みやこ下地島空港旅客ターミナル事業(伴野 賢太郎)
5.2 空港型地方創生 南紀白浜エアポートの取組み(岡田 信一郎)
第6章 空港コンセッションが変える、日本の空港
6.1 空港コンセッションと観光の役割(廻 洋子)
6.2 コンセッション(岡田 孝)
第7章 夢の空港創りを目指して-広島庭園空港都市構想と地域密着型航空会社の設立-
7.1 広島空港の歩み(内藤 孝)
7.2 航空会社を設立したい人のために(堀 高明)
第2部 次世代空港・航空システムへの挑戦
第8章 スマート・エアポート 世界の動向とわが国への導入
8.1 スマート・エアポート構想(勝谷 一則、早川 勇)
8.2 ANA グループにおける空港のイノベーション推進(山口 忠克)
第9章 航空機の運航と航空管制の将来像
9.1 航空管制の現状と将来展望(倉富 隆)
9.2 RNAV の歴史と展望(中西 善信)
第10章 空港・港湾のカーボンニュートラル
10.1 カーボンニュートラルポート(CNP)形成への取組み(西尾 保之)
10.2 ANA グループの持続可能な航空燃料(SAF)への挑戦(杉森 弘明)
10.3 海外空港の脱炭素化への取組み(笹川 明義)
第11章 空港と災害
11.1 災害時の空港の運用継続(轟 朝幸)
11.2 主要空港被災時の国際航空物流機能確保の取組み(岡田 孝)
11.3 ワーカブルな危機管理体制づくりに向けて(橘 啓介)
第3部 空港の競争力の強化を図るために
第12章 空港アクセス鉄道の充実による空港の機能向上
12.1 空港アクセス鉄道による地域経済への影響(加藤 浩徳)
12.2 阪急電鉄の関西圏での新たな挑戦(上村 正美)
第13章 大那覇空港計画と沖縄物流大改造計画
13.1 那覇空港中長期構想の補足と観光立県沖縄のポテンシャル(岡田 晃)
13.2 那覇空港拡張整備促進連盟の活動と今後の展開(福地 敦士)
13.3 グレーター那覇・人流物流大改造計画(水野 正博)
第14章 航空機整備事業の現状とこれから
14.1 航空機整備事業を巡る東南アジアの概況と日本への期待(山下 幸男)
14.2 MRO 事業への挑戦(高橋 隆司)
第15章 国内・国際航空貨物の動向
15.1 コンビネーションキャリアとして物流を守る(湯浅 大)
15.2 貨物ハブ化に向けて 空港の機能強化と運用の効率化(内田 浩幸)
第4部 航空の多様性が空港にチャンスをもたらす
第16章 ビジネスジェットで日本の空を変える
16.1 空の道の駅(岡田 圭介)
16.2 ビジネスジェットは先進国の象徴(稲岡 研士)
16.3 ホンダジェットのアジア市場への挑戦(森 肇)
16.4 首都圏のビジネスジェット乗入れ拡大への提言(笹川 明義)
第17章 ヘリコプターの活用による地域振興
17.1 ヘリコプターの利活用の現状と課題(平井 克弥)
17.2 ドクターヘリの現状と課題(横田 英己)
17.3 東京ヘリポートの管理運営とヘリコミューターの情勢(芳賀 竜爾)
第18章 水上飛行機の導入と地域振興への活用
18.1 水上飛行機システムの導入と地域振興への活用(轟 朝幸)
18.2 せとうちSEAPLANES の取組み(松本 武徳)
第5部 海外の空港事情
第19章 インドネシアの空港・航空事情
19.1 インドネシアの空港整備と航空輸送体系(伊佐田 剛)
19.2 インドネシアの空港管理運営と首都圏空港問題(佐藤 清二)
第20章 世界の空港づくりを考える
20.1 儲かる空港へのトリガー・フレイズ(新井 洋一)
20.2 世界の空港から解く空港づくりの方向性(傍士 清志)
この書籍の解説
空港に関する書籍の紹介を行うために自社の書籍を参照するとき、それらの多くで触れられていることがあります。「地方空港の苦境」と、それを乗り越えるための様々な創意工夫についてです。もちろん、地方の交通インフラ運営の苦しさは航空に限ったことではなく、鉄道やバスも同様です。自治体と運営会社が様々な方式で協力し合いながら、何とか収益を上げ、人々の移動の足を絶やさぬよう努力を重ねています。
私(担当M)は鉄道好きなので、旅行の際鉄道を使うことが多いですが、時々時短のために航空も利用します。書籍を紹介するようになって、空港もチェックするようになりました。その空港の強み、どこからの観光客にどのようにアピールしようとしているか、空港そのものを楽しめる場所にしようとしているか、それとも次の目的地への迅速なアクセスを前面に押し出しているか?等々、空港の規模や立地によって様々な違いがあります。
今回ご紹介する『「空のみなと」のインフラ学』も地方空港の取り組みを紹介する空港本のひとつですが、事例紹介にとどまらず、空港の機能そのものを未来に向けて改革していこうという意欲的な書籍です。空港のスマート化、貨物運送の更なる効率化、災害と空港、航空機整備の効率化等、様々な側面から空港の機能を分析し、改善へ向けた提案を行っています。
空港を存続させるだけでなく、更に魅力的に、「稼げる空港」にするにはどんな方法があるのでしょう。空港に降り立ったとき、ついでに空港内部をぶらぶら歩いてみたくなる、そんなお気に入りの空港、ありますか?
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『「空のみなと」のインフラ学』はこんな方におすすめ!
- 航空会社、空港運営会社に勤務する方
- 空港を擁する自治体の地域振興政策担当の方
- 空港好きの方
『「空のみなと」のインフラ学』から抜粋して3つご紹介
『「空のみなと」のインフラ学』からいくつか抜粋してご紹介します。規制緩和とコロナ禍を経て、さらにロシアのウクライナ侵攻や急速に進む地球温暖化と、経営に様々な影響を受け続ける航空業界。本格的な国際ハブ空港を持たず、地方空港の活性化も未だ弱い日本は、この先どのように空港行政を進めていくべきなのか?地方空港活性化、次世代空港、空港の競争力強化の側面から様々な分析を行い、未来の空港の姿を探ります。
空港型地方創生(南紀白浜エアポートの取り組み)
(1)空港型地方創生の原点
南紀白浜エアポートのコンセプトは、「空港型地方創生」です。その原点は「地域課題を解決する」というものです。空港がある白浜町は多くの観光客を迎えていますが、人口減少や平均所得の低さ、観光需要の偏りなどの課題も抱えています。
地域活性化において重要なのが、「行政による環境整備」です。県と市は、以下のような取り組みを行いました。
① IT企業、IT産業の誘致
② ホテルのリノベーション支援
③ サイクリングの推進
④ 南紀白浜エアポートの民営化
これらの施策によって、特にビジネスパーソンの交流人口が増加しています。
(2)南紀白浜空港のハンデとメリット
南紀白浜空港の一番のハンデは、滑走路の短さです。そのため大型航空機は離着陸できず、欧米やオーストラリアから直行便を出すことはできません。小規模なりのメリットは、小規模ゆえに旅行者と顔を合わせやすく、空港がコミュニティスペースとして使えること、東京から約1時間で行けることです。
(3)なぜ、経営共創基盤が白浜に注目したか?
国はすべての空港のコンセッションを推進していく方針ですが、赤字空港のコンセッション事例トップバッターが、赤字額3億円の南紀白浜空港でした。
この項目の筆者の所属する経営共創基盤は、まず地元の観光資源を磨いて国内外から多くの旅行者を呼び込み、交流人口を増やすことを目指しました。新たな需要を創出し地域の労働生産性を上げることができれば、地域活性化のモデルとして他の都市にも応用可能です。
(4)観光資源と羽田線を最大活用した誘致戦略
旅行者誘致戦略は、既存の観光資源と羽田線を最大活用することから始めました。ビジネス需要を増やすことで、全体的な需要を増やしました。ビジネス旅客は時期を選ばず航空券の単価も高いため、路線収益安定化につながりやすいのです。
観光客誘致戦略としては首都圏、富裕層、インバウンド客をメインターゲットに据えました。
(5)空港によるワーケーションの推進
和歌山県はワーケーションを推進しています。IT 関連企業を主なターゲットに、熊野古道での精神修養プランをはじめ、合宿や研修等、目的に合わせたプログラムを企画・運営して提供しています。また、副業支援にも力を入れています。
(6)「白浜まるごと顔認証」日本三古湯でIoT 活用
IoTを活用し、顔認証で空港・ホテル・テーマパーク・飲食物販など、街全体でキャッシュレス決済を実現しています。この施策は、投資の呼び込みも目的としています。
(7)弱小空港が今や国内最先端の「IoT 先進空港」
固定的な維持管理コストと技術継承問題の解決のため、様々な技術を活用しています。日々の点検や動態分析等にスマホやドラレコ、データのクラウド保存、AI、人工衛星データ等を活用し、将来の自動化をも見据えた積極的なIT活用を行っています。
(8)地域に根差した取組み
空港格納庫でオペラコンサートを開催し地域住民を無料招待、和歌山大学と協力して人材育成を行うなど、地域を支える人々への貢献を行っています。
(9)二次交通の充実:空港を「どこでもドア」に
空港からどこへでも行ける環境を作ろうと取り組んでいます。諸企業との連携のもと、自転車、バス、鉄道やタクシー等、他の交通手段へのアクセス向上を実現しました。
(10)Key Base「関西の奥座敷から、日本の白浜、世界のKii へ」
これらの取り組みで、地域活性化の仕組みができつつあります。地元の優れた観光資源の存在を土台となり、行政の協力も得て、空港が「都市OS」的な連携のプラットフォームとなり、産学官政をつなぎ、皆が仲間として様々な展開が行われているのです。
空港と地元地域は切っても切れない関係である、ということは、空港関係の書籍を読む度に書かれています。そのためには空港運営会社だけが頑張るのではなく、地元の行政、企業、住民が一丸となって取り組まなければなりません。空港と地域の関係については、当社刊『空港経営と地域』もご参照ください。
航空会社を設立したい人のために
スターフライヤー初代代表取締役であるこの項の筆者は、新規航空会社を設立したいと考えている人に向けて、以下のようにアドバイスします。
(1)資金の確保
設立当時筆者たちには大口のスポンサーがおらず、資金面での苦労を強いられました。北九州の地元会社、市や県から出資や助成を受けて資金を増やし、銀行からの融資を受けることもできました。最終的には150億円を集めました。
航空会社は就航当時は赤字なので、銀行からは最初相手にされず、間接融資ではなく全額出資となりました。海外では富裕層からの投資が期待できますが、日本ではそれも無理です。同業のスカイマークからは、少なくとも100億円ないと会社経営は厳しくなるとのアドバイスがありました。
(2)機材稼働
航空会社を黒字にするためには、航空機1機あたりの稼働時間を3,500~4,000時間/年を目標とすべきです。機材の稼働をよくすれば、利益を上げることができます。国内線では3,500~4,000時間/年、国際線や貨物機では4,500~5,000時間/年を目指しましょう。
全国6カ所の24時間空港を活かして、機材稼働を上げることが必要です。機体が増えると稼働が難しいのですが、固定費だけが増えてしまうので、機材をどんどん使ってコストダウンしましょう。
ダイヤの改善については、通常1,000 kmの距離を飛ぶ場合、3回の離着陸(1.5 往復)を上限として乗員・乗務員のタクシー送迎やホテル宿泊を行っていますが、スターフライヤーでは4回の離着陸(2 往復)を行うことにより、ホテルやタクシー代をコストダウンしました。
(3)専門家の採用
航空会社設立にあたっては、航空局が納得するような運航、整備のプロのリーダーを確保しなくてはなりません。安全確保ができないと事業免許は取れないからです。
(4)会社の個性を持つ(差別化)
事前のアンケート調査で得た「座席が狭い」という意見を参考に、他社との差別化のため快適性を追求しました。スターフライヤーは座席間隔を広げ、大きなインパクトを与えることができました。
しかし快適性だけでは利益を上げられません。機材稼働をより一層上げ、深夜早朝便を増やしてコストを下げることを考えるべきです。早朝深夜便では、特に貨物が期待できます。
他の差別化施策としては、コーヒーにチョコレートをつけたり、座席に映像と電源サービスをつけたりするなどの施策を実施しました。
(5)利益の出る路線確保と機材選定
利益の出る路線を確保していかないと、資金が減ってしまいます。人の動きの大きい路線の企業利用客に対して株主優待券などのサービスを行ったところ、大きな効果を上げました。
保有機材は最低限10~15機を目指して、運航コストを下げることが重要です。最初の機材選定は特に大事です。操縦の容易さ、荷物の積み下ろしが楽、可変シートピッチ等、よく見極めてください。
(6)空港の重要なポイント
夜間の運航については、騒音や人員、予算の問題はありますが、極力運用時間を拡大できるよう、たくさん飛ぶことを目指すべきです。航空会社にとって、運用時間の拡大は利益の原点です。
私(担当M)は乗り鉄のためによく九州へ行きますが、スターフライヤーを選んで利用しています。航空機のペイントがかわいいこと、シートが本革でしかもピッチが広いこと、映像コンテンツが充実していること(同社の乗客への安全講習映像は毎回凝っていて楽しめます)、コーヒーにチョコレートがついてくることが気に入っています。博多便にばかり乗っていますが、たまには本拠地の北九州空港も利用したいです。
儲かる空港へのトリガー・フレイズ
(1)世界一儲かる空港を目指せ
空港収入には大きく分けて、①航空機主体の固定的な航空収入、②旅客主体の柔軟な非航空収入があります。②を増やして空港の競争力強化を図る経営戦略が、世界の空港では主流です。ターミナルでの商業、サービス、アメニティ機能の強化などで旅客満足度向上を図り、収入増加を目指す経営方針が多くの空港で実践されてきました。
現在日本には97の空港がありますが、それぞれ活性化に向け多くの挑戦が行われていまする。「儲かる空港づくり」において戦略設定目標を実現するための「トリガー・フレイズ」になると思われる事例を紹介しましょう。
(2)コペンハーゲン空港
① パッセンジャーはゲスト
コペンハーゲン空港は世界で初めて旅客(パッセンジャー)を「ゲスト」と呼び、空港の主役としました。同空港の商業担当者は、顧客の快適性を高めるための投資は健全な投資だと主張します。顧客満足度を上げ、同時に購買力を上げるというビジネスモデルがあるのです。
② ターミナル内へのモールの導入
第一ターミナルの商業空間は、コペンハーゲンの中心商業地区「ストロイエ通り」を再現しています。コペンハーゲン空港では、商業空間のモール化を目指しています。非航空系収入アップのためには、「非計画型購買品」、つまり衝動買い需要を上げるため、ソフト、ハード面で様々な環境を整えることが必要です。
(3)フランクフルト空港
① 客がすべて
フランクフルト空港は森に囲まれた狭い空間に立地していますが、国際的ハブ空港のひとつです。空港の経営理念は、「客がすべて」です。幅広い品揃えとテナントを組み合わせる「ハイミックス」、迷わず快適に移動する空間づくり「ワンルーフコンセプト」などが実践されています。
② ハイミックス
「ハイミックス」は、空港の商業やサービス機能の多様な組み合せのことです。フランクフルト空港は都市のような空港の代表格です。複合商業ビルがターミナルに隣接し、飲食・物販から金融機関、診療所、教会や映画館までが入居しています。
③ ワンルーフコンセプト
「ワンルーフコンセプト」はすべてのサービスをひとつ屋根の下で得られるようにするものです。空港内には多くの主要施設が分散していますが、スムーズな動線が確保されており、利用者は迷うことがありません。顧客は好奇心を満たしつつ、自ら迷わず目的地に到達できます。商業施設全体をこのような空間として構成することが、購買力増大につながるのです。
(4)ミュンヘン空港
① 空港コミュニティをつくろう―地域との協調
ミュンヘン空港は比較的新しいですが、旅客数もドイツ第2位(2018年)の国際的な評価も高い空港です。ミュンヘン空港開港の基本理念は、「空港コミュニティをつくる、地域との協調を図る」です。その理念のもと空港規模や施設設計、景観などが決定されました。
② ミュンヘンエアポートセンター
ミュンヘン空港には、市の中心部と空港を45分で結ぶ連携鉄道の駅があります。空港駅はターミナル前面の地下にあり、駅ビルにあたる「ミュンヘンエアポートセンター」は空港の旅客ターミナルと直接連結し、空港地域全体のコミュニティセンターの機能を持っています。ミュンヘンエアポートセンターは、市街地と空港の連携機能共存共栄を目指しています。地元市民にも開放され、空港内と地域間双方のコミュニティ強化の働きをしているのです。
③ ミュンヘン・エコランドスケープ
空港は内陸にあるので、特に環境面において様々な対応が必要でした。地元住民の要望により、空港デザインには地元地域固有の景観を取り入れ、景観に溶け込む低構造や、自然に近い植栽計画が採用されています。
(5)感動を与える空港づくり
① 関西国際空港 ―レンゾ・ピアノの感動空間
関西国際空港の第1ターミナルは、建築家レンゾ・ピアノによるデザインです。施工には大変な苦労が伴いましたが、建築家のコンセプトを活かした現代アート的な空間は、旅客に旅の感動を与えるものとなりました。
② アーティスティック・エンジニアのすすめ
これから空港づくりに挑戦する技術者には、次の2つの資質が求められます。従来の科学技術の制度をより高める「合理性」「論理性」「厳密性」と、変革へ挑戦するため「道理性」「人間性」「曖昧性」を再認識することです。この2つの資質を合わせもった技術者を、筆者はアーティスティック・エンジニアと呼んでいます。
空港のもつ課題は千差万別で、解決へのカギは空港自体にあります。自分の関わる空港のことをしっかり見つめることで、日本の空港の発展に寄与することができるでしょう。
羽田空港が飛行機に乗らなくても楽しめる空港に生まれ変わってしばらく経ちます。海外の空港の中にも、景観、買い物、コミュニティスペース等で旅行客や地元住民をもてなしてくれる空港がいくつもあります。私(担当M)は北海道に行く度に「今回は絶対に新千歳空港で映画を観て温泉に入る」と誓うのですが、未だ果たせずにいます。
『「空のみなと」のインフラ学』内容紹介まとめ
チャレンジ精神をもって新たな取組みを行っている空港・航空会社、建設会社、コンサルタント、学識経験者、国や地方公共団体の空港担当者が、それぞれの立場と視点から、空港や航空の現場で行っているさまざまな事例・取組みを紹介しました。激動の現代を見捨て、未来の空港・航空システムの構築のための提案を行います。
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空港活用、どうあるべきか? おすすめ3選
・
『航空機と空港の役割』
ライト兄弟の初飛行から百数十年、空港は飛行機の性能の進化に合わせて発展してきました。今や航空機・航空輸送と空港はお互いに切り離すことのできない関係にあり、空港の様々な施設は、航空機の運航や安全対策に必要な機能・形状・規模・強度などを持つように作られています。現在では巨大な都市機能さえ備えた空港について、成り立ちから現在まで、それぞれの機能の解説とともに振り返ります。
・
『空港経営と地域』
「地域力」は航空需要の大きさを決め、空港のあり方も左右します。地域は空港をどのように位置づけ、空港は地域にどのような影響をもつのでしょうか。空港政策や空港の仕事の解説をはじめ、空港と航空会社の関係、地元と路線の就航地との関係、空港アクセス、観光振興など多角的な視点から考察します。
・
『災害と空港』
空港は広い敷地をもち、物資の輸送にも適しています。こうした空港の特性は、災害時にどのように活用できるでしょうか?東日本大震災を例に地震災害における空港の活用例を参照し、これからの災害時における、災害救援基地、物資輸送基地等の活動のための空港活用の可能性を探ります。
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