著者名: | 奥田美都子・柴原優治 共著 |
ISBN: | 978-4-425-39511-8 |
発行年月日: | 2024/4/28 |
サイズ/頁数: | A5判 208頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,300円(税込) |
四方を海に囲まれた日本では、物流の基盤である港湾を守り支えていく若い世代の人材確保と教育が欠かせない。本書では、港湾の仕事をわかりやすくまとめ、港湾運送事業の人材育成について、能力開発施設という教育現場と港湾・物流企業の実務現場の両面から解説する。特に、港湾人材の育成機関である港湾カレッジでの取組みや、卒業生のインタビュー調査による現場の声を紹介し、港湾人材育成の指針を示す。これから社会へはばたく若者、および企業の人事・採用・研修担当者、経営者におすすめの一冊。
【はじめに】
港湾職業能力開発短期大学校横浜校(以下、港湾カレッジ)に2013年に異動してからちょうど11年目になる。前職では、今や日本の実業家として「社長の中の社長」と評価されている日本電産株式会社(現ニデック株式会社)の創業者、永守重信代表取締役会長が卒業した職業能力開発総合大学校(当時は、職業訓練大学校)で、「キャリア形成支援概論」「キャリア形成支援演習」「専門別教科教育法」「教育訓練評価」などの授業を担当していた。キャリアの授業では、永守氏の書籍やビデオを活用し、厚生労働省所管の大学校にも実業界で大活躍している卒業生がいることを伝え、自信や夢を持ってもらうことを心がけていた。当時、永守氏を知らない学生が沢山いたが、当該授業で話すことによって、彼らから大きな反響があったことを覚えている。
そのような筆者が、港湾・物流業界に就職を考えている学生たちが入校してくる港湾カレッジに異動となった。最初は、右も左もわからなかったが、もともと好奇心旺盛な筆者は、先輩教員の授業を聴講させていただき知識とスキルを吸収していくと同時に、港湾業界の現場を知るために卒業生が入社している企業を訪問し、港湾業界の現状や問題点、必要としている人材についてヒアリングを行った。さらに、座学のみならず、時には、学生たちを引率し、コンテナターミナルの現場で本船荷役の様子などを見学させた。
その間、港湾物流の現場の見学でお世話になった方が、今回共同著者としての依頼を快諾していただいた元株式会社ダイトーコーポレーション常務取締役で港湾カレッジのOBでもある柴原優治氏である。本船の荷役現場の見学は、前もって予約するのが大変である。本船の入港が天候によって予定通りいかないことが少なくないからだ。それにもかかわらず、自動車専用船の船積み見学を沿岸のみならず船内も見学させていただいた。学生たちは大喜びである。また、学生の卒業論文に必要な資料についてもご協力いただいた。この場を借りて、お礼申し上げたい。
そもそも本書を執筆するきっかけとなったのが、2021年1月下旬から2月上旬にかけて日本海事新聞に全面連載された筆者の寄稿である。内容は、筆者が当時在籍していた慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程の博士論文の一部から視点を変えて投稿したものだった。博士論文のテーマは、「若者の学校から社会への円滑な接続に向けたキャリアガイダンスのあり方」だったが、本研究をした結果、円滑に社会へ接続した若者たちのその後の社員定着の実態が気になったのである。予想以上に反響があり、当該記事を読んだ多くの企業の管理者の方々に、土曜、日曜という休みの日にもかかわらず、セミナーに参加していただいた。そのうちの一人が、「掲載記事のインタビュー調査結果の内容とそっくり同じことを自分の部下が話していて、当該記事を読んだ時びっくりしました。同じことを考えている入社2~3 年目の若者が少なくないのだと実感し、若者の離職を防ぐためにも、奥田先生のセミナーを即日申し込みました」と言っていた。
そこで、2020年12月下旬から2021年2月上旬に、港湾・物流企業19社(従業員数100人以上)の入社10年以内の社員に調査を実施した。
注目したのは、港湾カレッジ卒業生は、4年制大学卒業生に比べて離職率がきわめて低かったことである。インタビュー調査の結果、リアリティショックが少ないことが一因であることがわかった。港湾カレッジの学生のほとんどは、港湾・物流企業に就職したくて入校する。授業カリキュラムも入社後に即戦力として働くことができる内容となっている。港湾・物流業界は、一般的に「きつい、きたない、危険」の「3K」と言われている業界である。このことを学生時代に授業である程度理解した上で就職するため、「こんなはずではなかった」というリアリティショックが少いと思われる。
これは、港湾カレッジのみならず、職業教育、すなわち、職業能力開発をしている施設では共通している。
さらに、港湾カレッジは1972年の開校以来、就職率100%を達成してきた。しかも、卒業生たちは、現在も横浜港を中心に港湾・物流業界で活躍しており、その結果、各港湾・物流企業から即戦力としての求人を多数いただいている(2022年度 修了生の有効求人倍率13.1倍)。この理由のひとつとして、カリキュラムに、日本版デュアルシステム訓練を採用しているコースのあることが挙げられる。ニート・フリーター対策として18年前に開講されたコースである。学校での座学(Off-JT)と企業での実習(OJT)の両方(デュアル)を学ぶことによって、港湾カレッジでの正社員としての就職率100%を実現していると考える。
また、筆者が担当している「キャリア形成概論」の授業では、以下のキャリアコンサルティングの6つのステップ(厚生労働省)に沿って授業を展開している。すなわち、
第1 ステップ:自己理解
第2 ステップ:仕事理解
第3 ステップ:啓発的経験
第4 ステップ:意思決定
第5 ステップ:方策の実行
第6 ステップ:適応
である。
「キャリア形成概論」の授業が学校全体のカリキュラムと連動して相互に効果的に組み合わさっている。
若者の学校から社会への円滑な接続が叫ばれるなかでの港湾カレッジの成功は、前述した実践的な職業教育と、それによる入社後のリアリティショックの少なさだと筆者は考える。四方を海に囲まれた日本では、物流の基盤である港湾を守り支えていく若者の人材確保と教育が不可欠である。
本書では、港湾の仕事をわかりやすくまとめ、港湾で活躍できる人材の育成について、能力開発施設という教育現場と港湾・物流企業の実務現場の両面から解説する。本書が、これから社会へはばたく若者、進路選択途上にいる若者、および企業の経営者、人事・採用・研修担当の方々のお役に立てれば、筆者としてこれ以上の喜びはない。
2024年3月
奥田 美都子
【目次】
第1章 国民生活に不可欠な港湾の仕事
1.1 貿易を支える港湾運送事業
1.2 港湾労働法の適用を受ける港湾労働者
1.3 港湾の現場を担う荷役作業者
1.4 港湾荷役作業者に必要なスキル
1.5 港湾荷役作業に必要な資格
1.6 さまざまな港湾の仕事
第2章 港の仕事とその歴史
2.1 港湾の伝承と継承
2.2 ミナトの仕事と雇用形態の移り変わり
2.3 ミナトから港へ 港の変遷
コラム 「ミナト」「港」「港湾」「みなと」
第3章 港湾・物流企業で働く若手社員の現状
3.1 質問紙(アンケート)による調査の概要
3.2 インタビュー調査の概要
3.3 インタビュー結果と社員定着のためのヒント
3.4 社員の定着のために
第4章 活躍する港湾人材
4.1 港湾人材へヒアリング
4.2 ヒアリング結果からみる人材育成の現状
第5章 人材育成の概要
5.1 人材育成の羅針
5.2 人を育てる上司の助言(上司としていかに部下を育てるか)
第6章 港湾における人材育成の取組み(企業編)
6.1 社員教育・社内教育
6.2 人材育成の実践
第7章 港湾人材育成の取組み(教育編)
7.1 港湾人材育成機関の取組み
7.2 日本版デュアルシステム訓練
7.3 「キャリア形成概論」の概要と意義
7.4 「キャリア形成概論」の授業内容と指導法
7.5 学生のタイプ別キャリアガイダンスの実施
7.6 職業実務実習とインターンシップ
第8章 港湾・港運業者に必要な知識・資格
8.1 港湾人に必要な知識・資格など
8.2 港湾運送事業法の知識
8.3 作業料金の種類
8.4 問題の本質を探る手法
8.5 報・連・相の正しい知識
第9章 港湾の安全
9.1 労働安全衛生法の成立
9.2 港湾における安全の考え方
9.3 港湾における事故防止への取組み
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