著者名: | 倉田 亮 著 |
ISBN: | 978-4-425-85041-9 |
発行年月日: | 2001/10/8 |
サイズ/頁数: | 四六判 204頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥1,760円(税込) |
国連職員として16年間、世界の湖を調査してきた著者が、約90個の興味深い湖を厳選し、貴重な写真と共にわかりやすく紹介する。
【はじめに】より
世界の五大陸に点在する湖沼は、その形や規模から水質、気候条件、生物相などの環境はもとより、人間との関わりまで千差万別で、きわめて多様性に富んでいる。湖の形ひとるをとっても、丸いものや三角形、四角形、細長いもの、複雑なアメーバ状をしたものまである。また、湖が形成された要因の違いや地質、流入河川の状況、気候によって、その水質は淡水湖、塩湖、酸性、アルカリ性であったり、濁っていたり、きわめて澄んでいたり、背が立つほど浅いものもあれば、驚くほど深いものもある。
また、世界の湖はその分布にもたいへんな偏りがあり、北半球に多く、南半球に少ない(それが経済の南北格差を産み出す大きな要因の一つにもなっている)。その総数についても、ダム湖などを含めると、今も正確なところはわかっていない。ただ、間違いなく言えることは、世界中の湖で人間活動の影響を受けていないものはない、ということである。自然科学的な状況と、その場所の人種や民族、風俗などの相違といった社会科学的状況との、両面の特徴や要素が複雑に関わり合い、多くの興味ある話題と問題を提供しているのである。
著者は、1983年から1994年までの間、国連環境計画(UNEP)などから依頼を受けて、世界の湖の環境を調べる貴重な経験をした。その後、UNEPの職員となってその調査の仕上げをし、そこを退官した後に国際湖沼環境委員会の職員として、世界の湖を訪ね歩いた。通算16年間、世界80か国、社会主義国を始め、全く言葉の通じない国々も多く、身の危険を覚えたことも何度かあった。その血と汗と苦労の結果、得られたデータは膨大な量にのぼる。ここでは、その中からとくに特徴的で、面白い話題となりそうな湖を選び、わかりやすく紹介した。
現在、地球上の約2/3の人々は清浄な水が利用できない状況にある。不適切な水利用のために、毎日2万5,000人が死んでいる。便利で快適な生活のためや人間活動の増大、人口増加などによる水需要は増大する一方、限りある水資源の確保はますます困難になっている。21世紀は水資源をめぐる紛争の世紀になるのではないか、と恐れられている状況なのである。
世界の湖の水環境の多様性と、抱えているさまざまな問題を、多少なりともご紹介できればと思う。なお、本書では湖の現況を実感していただくため、多くの写真を用いたが、すべて著者の撮影である。
本書の発行にあたっては、ベルソーブックス委員会の方々、とりわけ藤井委員と大和田委員にはひとかたならぬご尽力を賜った。厚く御礼申し上げる。また、(株)成山堂書店の小川實社長をはじめ、関係各位のご協力にあわせて心から御礼申し上げる。
2001年9月
倉田 亮
【目次】
第1章 アジア・オセアニア
1-1 赤潮のタネ(琵琶湖:日本)
1-2 シベリアの青い真珠(バイカル湖:ロシア)
1-3 半分になった湖(洞庭湖:中国)
1-4 見えない魚をとる(太湖:中国)
1-5 常春の悩み(?海:中国)
1-6 人民の権利が湖を縮める(テイ湖:ベトナム)
1-7 キャッサバで魚を飼う(ホアビン湖:ベトナム)
1-8 漁業は隣国人まかせ(トンレ・サップ湖:カンボジア)
1-9 漁獲量92倍(バイ湖:フィリピン)
1-10 世界最小!12ミリの脊椎動物(ブヒ湖:フィリピン)
1-11 幽霊湖(バアオ湖:フィリピン)
1-12 ミニ国家の飲み水(ベヌタン湖:ブルネイ)
1-13 湖からキノコ(ラワ・ペニング湖:インドネシア)
1-14 340の島を持つ湖(ケンニアー湖:マレーシア)
1-15 140種の水鳥を護って(ノイ湖・ルアン湖・ソンクラ湖:タイ)
1-16 ラオスの橋杭岩(ナム・ヌム湖:ラオス)
1-17 櫓(ろ)は足で漕ぐ(インレー湖:ミャンマー)
1-18 湖は竹の輸送に(カプタイ湖:バングラディシュ)
1-19 王の遺産(ヌワラウエア湖:スリランカ)
1-20 神々の峰を映す水鏡(フェバ湖:ネパール)
1-21 平原に突如出現する湖(サムバール湖:インド)
1-22 アナトリアの青い宝石(エーリディル湖:トルコ)
1-23 白い塩に湧く赤い水(トゥズ湖:トルコ)
1-24 水のない湖(パルミラ湖:シリア)
1-25 カナヅチも沈まない(死海:イスラエル・ヨルダン)
1-26 1974年を忘れるな!(キプロス塩湖:キプロス)
1-27 水鉄砲を撃つ魚(アーガイル湖:オーストラリア)
1-28 出口のない湖(エアー湖:オーストラリア)
1-29 環境は創造するもの(バーリー・グリッフィン湖:オーストラリア)
1-30 リンあれど赤潮起こらず(タウポ湖:ニュージーランド)
1-31 怪獣の息づかい(ワカチプ湖:ニュージーランド)
第2章 アングロアメリカ
2-1 広大でも浅い湖(ウイニペグ湖:カナダ)
2-2 ”The Great Lakes”五大湖
(スペリオル湖・ヒューロン湖・ミシガン湖・
エリー湖・オンタリオ湖:カナダ・合衆国)
2-3 湖底には銅が数千トン(メンドータ湖:合衆国)
2-4 栄養は海へ(ワシントン湖:合衆国)
2-5 環境保全の優等生(タホ湖:合衆国)
2-6 市民に消される湖(モノ湖:合衆国)
2-7 蒸発量が降水量の2.5倍(チャパラ湖:メキシコ)
2-8 山岳地帯に眠る原始の湖(アティトラン湖:グァテマラ)
2-9 恐るべき水銀汚染(マナグア湖:ニカラグア)
第3章 ラテンアメリカ
3-1 南米最大の湖(マラカイボ湖:ベネズエラ)
3-2 湖に浮かぶ村(チチカカ湖:ペルー・ボリビア)
3-3 ブラジル最大のダム湖(ソブラディーニョ湖:ブラジル)
3-4 モザイク緑化が水質を護る(ブロア湖:ブラジル)
3-5 世界一の重力式ダム(イタイプダム湖:ブラジル・パラグァイ)
3-6 2万人が町ごと移転(サルト・グランデダム湖:アルゼンチン)
3-7 限りなく複雑な形(ナウエル・ウアッピ湖:アルゼンチン)
3-8 アンデスを越えて(トドス・ロス・サントス湖:チリ)
第4章 ヨーロッパ
4-1 氷雪の国の湖とバナナ(シングバラ湖:アイスランド)
4-2 風が吹けばウナギが増える(ネイ湖:イギリス)
4-3 ネッシーはいるか?(ネス湖:イギリス)
4-4 湖は運河のかなめ(ダーク湖・リー湖:アイルランド)
4-5 湖沼管理モデルの湖(エスロム湖:デンマーク)
4-6 雪融け水が頼り(ミョーサ湖:ノルウエー)
4-7 しゅんせつは湖を救うか(トルンメン湖:スウェーデン)
4-8 亜鉛汚染を克服(バナヤベシ湖:フィンランド)
4-9 トンネル谷の湖(ミコライキ湖・スニャルドウィー湖:ポーランド)
4-10 湖畔にうなだれる少女(ペイプス湖:エストニア・ロシア)
4-11 大波が立つ湖(ラドガ湖:ロシア)
4-12 水質汚濁のカドで紙不足(オネガ湖:ロシア)
4-13 ヨシ条例の手本(ボーデン湖:ドイツ。オーストラリア・スイス)
4-14 パイプで湖を囲む(アヌシー湖:フランス)
4-15 ドイツ版でパイプ方式(キーム湖:ドイツ)
4-16 バブル(泡)は有効(ハルウィル湖・バルデック湖:スイス)
4-17 風景にも値段がつく(ルガノ湖:スイス・イタリア)
4-18 湖賊が投げた銀のスプーン(マジョーレ湖)
4-19 空っぽの湖(オルタ湖:イタリア)
4-20 人工内湖は天念の浄化槽(バラトン湖:ハンガリー)
4-21 ビーバーは消えても毛皮店を残す(カストリア湖:ギリシャ)
4-22 地底からの湧水が支える(バニョーレス湖:スペイン)
4-23 コルクとオレンジが育つ湖(マラニャーオ湖)
第5章 アフリカ
5-1 「雨」の文字はなかった
(ナセル湖・ヌビア湖:エジプト・スーダン)
5-2 塩の芸術品(ジェリド湖:チュニジア)
5-3 やせ細る湖
(チャド湖:チャド・ニジェール・ナイジェリア・カルメーン)
5-4 外来魚によって絶滅した魚
(ビクトリア湖:ウガンダ・ケニア・タンザニア)
5-5 紙を食べるカバ(ナイバシャ湖:ケニア)
5-6 塩湖ゆえの悲劇(エルメンテイア湖:ケニア)
5-7 消えた100万羽のフラミンゴ(ナクル湖:ケニア)
5-8 サファリは国の財政をうるおす(アンボセリ湖:ケニア)
5-9 進化の舞台
(タンガニーカ湖:ブルンジ・タンザニア・ザイール・ザンビア)
5-10 澄みきった湖底は無酸素
(マラウイ湖:タンザニア・モザンピーク・マラウイ)
5-11 独立後に改名した湖(チベロ湖:ジンバブエ)
5-12 フローティング・サファリ(カリバ湖:ザンビア・ジンバブエ)
5-13 テーブルの周りの水(ケープタウン湖・ゼーコエ湖:南アフリカ)
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