魚の変態の謎を解く ベルソーブックス025


978-4-425-85241-3
著者名:乾 靖夫 著
ISBN:978-4-425-85241-3
発行年月日:2006/6/28
サイズ/頁数:四六判 158頁
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価格¥1,760円(税込)
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いもむしが蝶に、おたまじゃくしが蛙になるように、成長とともに大きく様変わりする生き物たちがいる。
なぜ姿を変えるのか?ヒラメ・ウナギ・サケなど、魚の世界における変態の謎を解明する。

【はじめに】より
 科学を志す者にとって、一生のうち幾度かは心が躍るテーマにめぐり合うものである。私にとって“ヒラメの変態とホルモンによるその調節”のテーマは紛れもなくそのひとつであった。
 さまざまな昆虫やカエルなどの両生類が変態することはよく知られているが、魚が変態することはあまり知られていない。ところが、本書で紹介するように、ヒラメやウナギをはじめさまざまな魚が幼生期には親からはとても考えられない形をしており、それが成魚型になるときに大きな形態的変化、すなわち変態をする。
 私達がヒラメの変態について研究を始めたころは、この変態はどのような機構で調節されているのか、また、変態中に体の中で何が起こっているのかについては、ほとんどわかっていなかった。いやヒラメだけではない、ウナギやアナゴ、その他の魚の変態がどのように調節されているかについてもほとんど未知であったといえる。
 オタマジャクシからカエルへの変態の研究は歴史も古く、この研究史が私達の研究にとって偉大な先達となった。それでも、私達の研究はほとんどすべて、私達が独自に工夫して進めたものである。自分たちの研究により、今までわかっていなかったことがひとつひとつ明らかになっていくことを実感できたのは、研究者名利に尽きる。この一連の研究はそれまで代謝とホルモンの研究に関与してきた私に、またひとつ、別の素晴らしいホルモンの作用を教えてくれるとともに、魚に限らず生物にとって変態とはいかなる意味があるかを考える機会を与えてくれる、楽しく、意義深い研究となった。
 科学者は通常論文を通してその成果を発表し、科学に貢献する。私達の研究成果もそのようにして専門の科学誌に発表してきた。それとともに、私はできれば私が体験した研究の面白さ、自然科学の面白さをなんらかの形で若い人たちに伝えたいものと考えていた。折しもベルソーブックスの編集委員から本シリーズへの執筆の誘いがあった。良い機会を与えてもらったことに感謝している。
 そういう意味で、この本は魚の変態とはどういうものか、魚の一生において変態とはどういう意味を持っているのか、体の中で、変態という一大イベントがどのような機構で執り行われているのか生命の不思議を伝えることを第一の目的としている。それと同時に、私達の研究の動機と推移を紹介することにより、研究の楽しさを伝えたいとの思いをこめて執筆した。
 第1章では魚の変態の総論を、第2章では私達のヒラメ研究の戦略とそれにより明らかにされたことを研究の展開とともに紹介した。幸運にもこの一連の研究のほとんどが他の研究グループとの競合もなく、私達が自由に、なんのプレッシャーもなく、ごく素直に科学的な考えに基づいて研究を進めることができた。ある意味では、この種の研究の進め方のひとつのモデルとなるものと考えている。この章を読んでいただくと、魚の変態の中核部分をわかっていただけると思うし、きっと何人かの読者には私達が体験した研究の面白さの一端を疑似体験していただけるものと期待している。その意味では魚の変態について多少とも知識のお持ちの方は第2章から読みだしていただいても良いのだが、予備知識を得てからと思う方はやはり第1章から入っていただくほうが、わかりやすいと思う。
 内容的に多少専門的なことや技術的なことについては「Study」として説明したが、面倒だと感じる方はこの部分は読み飛ばしても内容の把握には問題ない。
 本書は、科学に興味を持つ専門以外の大学生や高校生、また一般の方にもわかる内容となるよう心がけた。気軽に生命科学の一端を楽しんでいただければ幸いである。

平成18年5月
著者

【目次】
第1章 魚の変態ってなんのこと?姿を変える魚たち?
 1-1 左ヒラメに右カレイ
 1-2 細長くなるウナギやアナゴ
  コラム 鰻を好むのは日本人だけ?
 1-3 淡水から海水へ適応するサケ
 1-4 目なしからヤツメウナギへ
 1-5 姿が変わるその他の魚

第2章 ヒラメの眼が移動する訳?変態の司令塔を探る?
 2-1 縦に泳ぐヒラメの仔をつくる?甲状腺ホルモンがカギ?
 (1)甲状腺ホルモンでヒラメのミニチュアができた
 (2)縦に泳ぐジャイアント仔魚ができた
  Study1 甲状腺と甲状腺ホルモン
 2-2 甲状腺の状態を探る
 2-3 甲状腺ホルモンの変化
  Study2 ラジオイムノアッセイ(放射免疫測定)法
 2-4 甲状腺を刺激するホルモンを探る
 (1)変態のとき脳下垂体のTSH細胞はどうなるか
 (2)変体前のヒラメでTSHにより甲状腺からホルモンを放出させる
 2-5 最初のスイッチはなにか?変態情報の伝達系を調べる?
 2-6 体内で起こっている変
 (1)筋肉をつくり変えて瞬発力を増
 (2)肉食に備えて胃を強
 (3)変態中に赤血球が変わ
 2-7 甲状腺ホルモンはどのようにして目的地を見るけるの
 (1)目印は受容体
 (2)ヒラメの甲状腺ホルモン受容体遺伝子を特定す
 (3)変態中の甲状腺ホルモン受容体の動向
  Study3 PCR(複製連鎖反応)と競合PCR
  Study4 インシチュハイブリダイゼーション
 2-8 試験管内で変態実験をする?他のホルモンとの関係?
 (1)甲状腺ホルモンは試験管内で培養中の伸長鰭条を短縮した
 (2)コルチゾルは甲状腺ホルモンを助ける
 (3)性ステロイドホルモンの作用
 (4)プロラクチンの作用
 2-9 体色異常個体?白化と黒化?

第3章 木の葉のようなウナギ・アナゴの仔
 3-1 アナゴの変態ホルモン?またも甲状腺ホルモン?
 3-2 体の組織や器官の変化

第4章 銀化するサケ?塩漬けにならない変化?
 4-1 体色の変化?甲状腺ホルモンと成長ホルモン?
 4-2 成長ホルモンによる海水適応
 4-3 生殖は銀化より大切
 4-4 成長ホルモンとコルチゾルの働き

第5章 ヤツメウナギの変態?逆の働きをする甲状腺ホルモン?

第6章 なぜ変態するのか
 6-1 変態のメリットは何か
 6-2 変態は先祖から
  Study5 卵胎生
 6-3 甲状腺ホルモンの本来の役割

(水産)


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