七つの海を行く −大洋航海のはなし−【増補改訂版】 交通ブックス204


978-4-425-77032-8
著者名:池田宗雄
ISBN:978-4-425-77032-8
発行年月日:2003/5/8
サイズ/頁数:四六判 268頁
在庫状況:品切れ
価格¥1,980円(税込)
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港へ行けばコンテナ船や貨物船、自動車運搬船などが、貨物を積んで出入りする姿はよく見かけます。積荷の積み卸しや、そのときの船員や作業員の仕事ぶりを見ることもできます。しかし航海中の船内の仕事や船員の生活ぶりを一般の人が知る機会はといえば、ほとんどないに違いありません。たいていの人は、船というのはモノをあちらからこちらへ運ぶ仕事だから、航海中はあまりすることがないだろうと想像するかもしれませんが、この本を読むとそうではないことがよくわかります。出港時と入港時は当然ながらやることが一杯ですが、航海中もすることはたくさんあります。船の仕事は結構忙しいものです。
著者は現在大学教授ですが、元は外航船の船長です。外航コンテナ船をモデルとして、その船長時代の経験を生かして出港から行き先の港で積荷を下ろして戻ってくるまでをドキュメント風に描いたのが本書です。ときにはちょっとした勉強をまじえながらの描写はなかなかに興味深く、船の知識がなくても面白く読めます。船会社に勤めている人でも、新入社員や陸上勤務の人は船内の様子を知る機会は少ないでしょうから、そういう人の格好の勉強材料にもなってくれます。万人におすすめできる本です。
なお本書は、10年ほど前に好評を博した初版に最新のデータを盛り込んだ増補改訂版です。

【増補改訂版の発行にあたって】
 本書を上梓してから約十年が経過しました。この間に、日本籍の外航船舶および乗組員は縮減の一途をたどっております。しかし、この間にも、島国であり貿易立国を国是とするわが国に出入する貨物は増加の一途をたどり、そのほとんどが外航貨物船によって輸送されています。わあ国にとり、海運の重要性はいささかも衰えてはいません。
 本書は日本人の乗り組む船舶の航海を通して、わが国の経済活動と国民生活を支えている貨物船全般の理解を深めて頂くことを念頭に置いて執筆いたしました。この十年間で、乗組員全員が日本人という外航貨物船はほとんどなくなりましたが、乗組員の職務は世界共通のものであり、乗組員の国籍が変わったからといってそれぞれが担当している仕事の内容が変わるものではありません。
最近、混乗船での乗船勤務を終えて休暇中の教え子が研究室を訪ねてくれましたが、「船舶の運航は先生の著書七つの海を行くのとおりでした」と感想をのべてくれたことがあります。したがいまして、基本的な流れはそのままにして、この十年間で大きく変わったモールス信号による通信の廃止、環境保護のための対策、国際船舶制度などについて関連する部分に追加・修正を行いました。
 また、最近の船舶および海運に関係する事項の解説を第九章として追加いたしました。
 増補改訂版作成にあたり、多くの機関、協会、企業などにお教えおよび資料の提供を受けました。特に(社)日本船主協会および(社)日本船長協会からの出版物から多数の引用をさせていただきました。ご協力いただきました皆様に心よりお礼を申し上げます。

平成15年4月
著者識

【はじめに】より
 わが国では、国内で消費されるエネルギー源のほとんど、食料の約七割、綿花、羊毛など衣料の原材料の大部分を海外から輸入しており、これらを輸送する船舶が国民の生活の基盤を支えていますが、海運や船舶に対する関心は必ずしも高いとはいえません。この原因は、日本人は農耕民族であり海外に目を向けることが少なかったこと、江戸時代の鎖国政策で海外へ渡航することが長い間禁じられていたこと、日本の周辺の気象、海象条件が厳しく、海は危険であるとの認識が国民の間に定着していることなどのためではないでしょうか。
 筆者が、船にはある程度関心を持っている友人との雑談で、北太平洋を横断する航路の選定の難しさについて話したところ、船は定められた一定の航路上を航行するのではなく、船長が航路を選定するのかと驚かれたことがあります。海洋の自由を基本理念とし、船長の最も重要な職務であり、権限でもある航路選定権も一般の人々にはほとんど認識されていないようです。
 本書は、貨物線の航海がどのようにして行われているかを理解して頂くため、日本人が二四名乗り組み、極東?日本?北米西岸に就航するコンテナ船の航海をドキュメント風に描くのを縦糸とし、それ以外の不定期船、原油タンカー、歴史的事項などを横糸として貨物船全体の航海を一枚の布に織り上げることを試みました。乗組員二四名という数は、現在世界の海洋を航行している大型貨物船のほぼ標準的な乗組員の人数です。
 しかし、最近は社会の全ての分野で多様化、専用化が進んでおり、海運界においても例外ではなく、船舶は専用船化され、運航形態も複雑になっています。一口に貨物船といってもコンテナ船、在来定期貨物船、自動車専用船、鉄鉱石専用船、チップ専用船、原油タンカー、液化ガスタンカー、冷凍船など多くの種類があります。
 同じ船会社の運航しているコンテナ船の外観は、同一の煙突マークを付け、船体の色も同じですが、
?乗組員が全員日本人の船
?船長以下数名の日本人がキーマンとして乗船し、その他は韓国、フィリピン、ミャンマーなどの東南アジア系の人々が乗船している、いわゆる混乗船
?船長以下全ての乗組員が外国人の船
など様々な形態で運航されています。
 海運に関する統計で日本商船隊という用語が用いられますが、日本商船隊には日本の船会社が支配しているパナマ籍やリベリア籍の便宜置籍船といわれる船も含んでいます。
 海運や船舶では一般の人々に馴染みの薄い海事用語が多く用いられていることも、海運や船舶が一般の人々に理解されない一因であるのかもしれません。本書では、専門用語の使用はできるだけ少なくし、分かりにくい用語には簡単な説明を付したり、写真や図面を入れて船舶の運航を理解して頂くよう努めました。本書により、船舶についての関心を少しでも高めて頂ければ幸いです。
 最後に、執筆に当たり資料の提供や助言を頂いた多くの方々および写真を提供して下さった皆様方に厚く御礼を申し上げます。

平成5年10月
著者識

【目次】
第一章 北太平洋への船出
 世界最大級のコンテナターミナル
 あわただしい船内
 出港書類受領
 吃水読取りは航海士の基本
 トライエンジン開始
 舟尾舟首(ともおもて)スタンバイ
 最後のラインを放つ
 タグボートの援助を受けて
 海上交通センターと連絡
 船舶の世界一過密な海域「浦賀水道」
 東京湾でLPGタンカー炎上
 浦賀水道航路通過
 ベイパイロット下船
 自動操舵に切替え

第二章 船のプロモーションと履歴書
 黒潮に乗って
 甲板長の朝
 船のプロポーション
 総トン数は船の容積
 排水トン数は船の重量
 大型船の幅を決めるパナマ運河
 コンテナ船のスピードはよん40km以上
 船速を二倍にするには八倍のエンジンが必要
 TEUコンテナ船の積載能力を示す
 乗用車の積載台数で表す自動車専用船
 タンクの容量で表すLNGタンカー
 船の戸籍
 日本商船隊を構成するリベリアやパナマ籍の船舶
 快速帆船クリッパーの乗組員
 千石船の乗組員
 炎熱地獄の石炭焚き船
 店員合理化の始まり
 M0船の誕生
 M0運転は周囲の状況を考慮して

第三章 定期船と不定期船の航海
 スケジュール維持とスピードで競う定期船
 運賃で競う不定期船
 港湾荷役は労働集約産業
 トラック業者の開発したコンテナ船
 コンテナ革命の始まり
 コンテナ船の国際航海の始まり
 甲板上にも多くのコンテナを積むコンテナ船
 貨物に応じた多くの種類のコンテナ
 冷凍コンテナにより広がる生鮮食料の輸入
 ビールの原料モルトはバルクコンテナで。
 コンテナに入らない大型貨物もコンテナで
 わが国でもコンテナ船就航
 コンテナ船の特長
 在来船とコンテナ船のスケジュール比較
 膨大な資金を必要とするコンテナターミナル
 在来定期船
 当直中立ったままでのデスクワーク
 米国での臨検に備えて
 安全設備検査の厳しいオーストラリア
 危険物収納コンテナのチェック
 受け身の仕事の多いコンテナ船
 一等航海士を中心に動く在来定期船
 幅広い貨物知識を求められる一等航海士
 航海中の積荷管理も大切な仕事
 外国用船に乗り組み監督するスーパーバイザー
 在来定期船による南米航路
 アマゾン川遡航
 地球を一回り半して日本へ
 原材料輸送の不定期線
 不定期船の航海
 定期用船者が変わる
 航海中は船艙内掃除
 早出料と滞船料
 連雲港での積荷完了
 スエズ運河通過
 ジブラルタル海峡を抜けて
 フィヨルドの奥から大西洋へ
 波高十五メートルの荒天航海
 家族との連絡は手紙が一番
 余韻の残る電報

第四章 いろいろな船
 和室で寄せ鍋を囲んで
 日本帰港のたびに乗組員が交替
 船会社にもデパートと専門店がある
 甲板部の仕事は船種により大きく変わる
 移動しやすい鋼材
 危険の多い冬季の木材輸送
 VLCCでの体験
 大型船の受け入れに適した日本の地形
 特殊技能が要求されるタンカーマン
 積荷前のタンク検査
 万一の事故に備え曳出し用ワイヤー準備
 緊張の続く積切り作業
 息を殺して積荷終了を待つ非直者
 静電気への配慮
 ケープタウン沖で手紙を受領
 洋上で六万重量トンタンカーと接舷
 海運と漁業が理解し合っている欧州海域
 メインポンプはプールの水を一分で空に
 タンカーマンは勉強家
 故障の修理は乗組員の手で
 空船航海はバラストを積んで
 パナマックスの撒積船は三万トンのバラスト張水
 油による環境破壊の防止対策
 ロードオントップ方式の採用
 専用バラストタンク設置の義務付け
 原因不明のタンカー爆発事故続発
 安全に大きく寄与するイナートガスシステム
 原油洗浄採用
 二重船体(船殻)構造の採用
 タンクもぐりはサウナ風呂以上の減量効果
 片手は船のために
 片手は自分のために
 風船主が水に浮いているようなPCC
 振動の激しいPCC
 都市ガスを輸送するLNGタンカー
 超低温のLNG
 その他の液化ガスタンカー

第五章 船内での生活
 深夜の航海当直
 当直交替十五分前
 船長の夜間命令簿
 当直引き継ぎ
 殿様とワッチと泥棒ワッチ
 通信士の当直
 船乗りは眠るのも仕事
 衛星通信の発達とモールス無線通信の廃止
 体長維持の難しい東航船
 日付変更線通過で同じ日付が二日
 当直中の談話は前を向いて
 薄明時のスターサイト
 職人気質を満足させる天測
 早朝の船橋清掃
 事務部の仕事開始は六時
 ある日のメニュー
 船長は船橋に上るにも気を遣う
 ビル時計測は安全の基本
 事務長のの仕事もする通信長
 航海中の楽しみは食事
 混乗船では食事に苦労
 M0当番の仕事
 船内時間は太陽の南中が正午
 航海、機関の計算は正午が基準
 騒音の大きな機関室の作業は事前打ち合わせが大切
 コンテナ船の発電機は千八百戸の電力をまかなえる
 船の推進効率はスリップで判断
 船はいつでも全力疾走
 荒天ではプロペラが空転
 機関室は高温と騒音の劣悪な作業環境
 夜間無人運転のための作業が続く
 警報装置の聞こえる範囲にとどまる当番機関士
 海水風呂は昔の話
 便所の排水も清水
 風呂は蒸気を吹き込んで沸かす
 操舵装置は油圧で動く

第六章 船と気象は深い仲
 船は海上の気象観測所
 観測結果は世界中に配信される
 気象予報に欠かせない船舶による気象観測
 気象学の発展には多くの船乗りが貢献
 近代気象学の下地を作ったダンピア
 風力階級表を作成したビューフォート
 天気図の始まり
 わが国最初の暴風警報と天気予報
 中央気象台初台長は元「順動」艦長
 居住区の冷暖房設備で自然との触れ合いが減少
 波浪の衝撃が感じられないVLCC
 写真のモチーフになる働く姿
 南船船長の願い
 停泊中の方が恐ろしい台風
 木下船長の手記

第七章 コロンビア川遡航
 荒天中は寝台で読書
 いたるところ動揺に対する配慮
 荒天下の作業
 シップチャンドラー
 シアトル入港
 シアトル出港バンクーバへ
 再びフラッタリー岬通過、ポーランドへ向かう
 コロンビア河口ブイはオットセイの休憩所
 VLCCは目的地の十五キロ前から速力を落す
 バーパイロット乗船、コロンビア川へ
 貨物の積載量は水深に合わせて
 白頭鷲に見とれる
 船首に巨大な原子力発電所
 復航の航路選定
 サンフランシスコから横浜に向かう航路
 台風に勝るとも劣らない北太平洋の低気圧
 低気圧遭遇の記録
 夏期は霧の季節
 四?五月のニューファウンドランド沖は氷山の最盛期
 寒候期は船長の力量により運航効率が大きく変わる
 一瞬のうちに転覆の危険のある船体着氷
 復航の腹案を固める
 玩具のようなタグボートに迎えられてポートランド入港

第八章 ベーリング海を抜けて
 コロンビア川から太平洋へ
 波は有義波高で表示
 一千波に一波は二倍の波高
 周期が合うと毎航海時化続き
 ウニマック水道通過
 交替予定受信
 スケジュールが変わると面会の家族も大あわて
 気圧が低くても波の小さいベーリング海
 高緯度ではオーロラが楽しみ
 洋上生活の楽しめる低緯度の航海
 常夏の熱帯でも季節のわかる星座
 プレセペ星団に感動する春
 夏の圧巻は銀河
 ギリシャ神話に想いをはせる秋
 北極星の高さで緯度を知る
 日本?西豪州は恵まれた航路
 洗剤の空容器と自転車のチューブで大物釣り
 西風を避けて千島列島に接航
 春先の千島列島付近は流氷の危険
 船舶電話の通話圏に入り全員が家族に電話
 金華山沖で流し時間調整
 再び大井コンテナ埠頭へ
 極東の多忙な航海の始まり

第九章 近年の海運界及び船舶を取り巻く環境
 便宜置籍船の台頭と問題点
 船舶に対する管轄権
 船舶の安全航行および汚染防止のための国際管理コード
 環境対策


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