著者名: | 船舶安全学研究会 著 |
ISBN: | 978-4-425-35255-5 |
発行年月日: | 2021/3/8 |
サイズ/頁数: | A5判 288頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,080円(税込) |
なぜ、人間はエラーをおこすのか?タイタニック号の沈没はどんな教訓を残したのか?海難にあったとき、私たちはどのように対処すればよいのか?工学・社会科学的な視点を交えながら、海上安全の基礎知識をまとめた、船舶運航を学ぶ人のためのテキストブック。
【まえがき】
今から,40年程前に,商船高専における,新教科「船舶安全学」の構想がなされている。そして,各校でこうした教科による授業や実習が行われるようになったが,ここで,航海学,舶用機関学,造船学,防災工学,人間工学等の各所に関連する「船舶安全学」の全範囲を網羅し,かつ学生の授業や自学自習に適したコンパクトな教科書が求められるようになってきた。こうした中,当時の富山商船高等専門学校の山崎祐介教授が中心となり,鳥羽,弓削,広島,大島の商船高専の教員に呼びかけ,船舶安全学研究会を設立し,「船舶安全学概論」の執筆を行い,この初版が平成10年5月に発行された。そして,平成20年6月には「船舶安全学概論(改訂増補版)」が発行されている。
本書は,この「船舶安全学概論」で定義されている船舶安全学の考え方,学ぶべきこと,展開方法等のポリシーを継続し,新改訂版の作成を行ったものである。そこで,初版本の執筆者で,既にご退官されている方のご後任には,各校の海上実務経験にたけた教員の方々への執筆をお願いさせて頂いた。そして,本書の取りまとめ役は,山崎祐介先生から,富山高等専門学校商船学科の千葉が引き継がせて頂いた。
本書の執筆者全員が,旧航海訓練所の遠洋航海を含めた乗船実習の経験者である。私は,帆船「日本丸」で,神戸~サンフランシスコ~ハワイ~東京という経路での遠洋航海を行っているが,この帆船実習による経験が,その後の人生において非常に大きな財産になっていることを感じている。例えば,私は学校卒業後に十数年の建築現場を中心とした陸上職であったが,安全学という観点から見ると,帆船実習での経験がさまざまな場面で生かされた事を実感している。「船舶安全学概論」で山崎祐介先生が書かれた「安全第一」に関する記述は,本書の1.1.2でも使わせて頂いた。私が,乗船実習の頃から建築現場勤務に至るまで,頻繁に口にしていた「安全第一」であるが,前版を読むことにより,この考え方には,人間工学や信頼性工学をベースとした理論体系があり,このための労働安全衛生関連の法整備がなされていることが理解できた。
また,私が商船学校の学生時代には,活発に海での活動を行っていたことから,学生の運用による小型舟艇の事故を何度か間近に見た経験があり,前版で詳しく知ったインシデントやヒヤリハットを多く経験している。ある事故に,自分が上級生として責任者的立場で深く関連し,その反省をきっかけとして,当時の大学の図書館で海難関連の書籍や報告書をかなり読んだ経験もある。その中に,ある学生が起こした事故についての,当時の捜索指揮担当教官の報告書があった。ここでは,事実の時系列的な記載,その時の気象海象や捜索方法に対する考察等が詳しく示されている。また,こうした事件が起こった時の,実習船や事務スタッフを含めた関係者の組織的な対応の有効性が示されている。この報告書より,事故が起こった場合にはいかに冷静かつ的確な,そして組織的な対処が重要であるか,またこの記録を残すことの重要性を痛感したものである。また,こうした書籍や報告書を読むと,非常時においては,当時者である海技者は,自分がもつ知識や技術をどう的確に活用していくことが重要であるかも感じた。「船舶安全学」は,もしもの時に,現場で迅速に活用できる知識を伝授することが大きな目的である。もちろん,本書の内容のすべてを記憶することは不可能であるが,その記述されている内容の概要をつかんでいてもらえれば,非常時に対応を検討する場合の端緒にはなると信じる。
そして,最も大事なのは,平素から事故が発生しないような,気配りや対処が行えるよう,本書で記載されている内容を良く理解して頂くことだと思う。
このため,本書は商船学校の学生の講義用に,船舶安全学に必要と思われる内容を,コンパクトにまとめたものである。各章の内容について,学生の卒業研究等で実際の事例やより詳細な理論体系を調べるのも非常に興味深い事であり,これは将来の職務においても役立つものになることは間違いないと思える。
最後に本書を作成するに当たり,富山商船高等専門学校名誉教授の山崎祐介先生からは多くの貴重なご意見を頂きました。そして,山崎祐介先生を中心に初版本のご作成を頂きました皆様に,ここに敬意と謝意を示させて頂きます。また,運輸安全委員会の業務については,同委員会委員の庄司邦昭先生より多くのご教授を頂きました。そして,株式会社成山堂書店の小川典子社長,編集グループの皆様には大変にお世話になりました。ここに厚く御礼申し上げます。
平成30年2月
富山高等専門学校教授千葉元
【目次】
第1章総論
1.1 安全とは
1.1.1 安全の語源,安全の意味
1.1.2 安全第一
1.1.3 災害と事故
1.2 安全工学の概念
1.2.1 安全工学の定義
1.2.2 安全工学の対象
1.2.3 船舶安全学と安全工学の関連
1.2.4 ダメージ・コントロール(ダメコン)
1.3 運動形態の機械・人間系における安全
1.3.1 形態
1.3.2 運動形態の機械・人間系の災害ポテンシャル
1.4 災害防止の原則
1.5 災害生成の過程
1.6 災害の構造
1.7 事故原因究明・事故対策手法
1.7.1 NTSB による調査
1.7.2 m―SHEL モデル
1.7.3 スイスチーズ・モデル
1.8 人間の特性によるヒューマンエラー
1.8.1 ヒューマンエラーの起源
1.8.2 ヒューマンエラーの分析と事故防止対策
1.9 安全と人間工学
1.9.1 人間の外的情報伝達のしくみ
1.9.2 人間の内的情報伝達のしくみ
1.9.3 心身機能とヒューマンエラー
1.9.4 人間工学的観点でのヒューマンエラーの防止
1.10 信頼性工学的アプローチ
1.10.1 概説
1.10.2 信頼性の定義と尺度
1.10.3 信頼性設計方式
1.10.4 信頼性工学的アプローチの実際と応用
第2章海難と海難審判及び原因究明の制度
2.1 環境保全の幕開けとなったエクソン・ヴァルディズ号原油流出事故
2.1.1 事故当時の船橋当直の概況
2.1.2 NTSB の報告書
2.2 海難のとらえ方
2.3 統計からみた海難の実態
2.3.1 海難件数は横ばい状態,三大海難の変化
2.3.2 船種と海難種類
2.3.3 海難を起こした船種と総トン数
2.3.4 プレジャーボートの海難推移
2.3.5 死亡・行方不明者数の推移
2.3.6 海難の主原因
2.3.7 海難審判の裁決結果における海難要因の分析
2.4 海難審判及び原因究明調査の制度
2.4.1 海難審判制度の歴史と変遷
2.4.2 海難の調査と審判(海難審判所の業務)
2.4.3 現行海難審判システムのあらまし
2.4.4 海難の原因究明(運輸安全委員会の業務)
2.5 海難の統計データの分析について
2.6 海上安全に関わる主な国際条約
2.6.1 海上における人命の安全のための国際条約
2.6.2 船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約
2.6.3 船舶による汚染の防止のための国際条約
2.7 インシデント
2.7.1 インシデント調査の有用性
2.7.2 インシデント調査票の方式
2.7.3 日本の海運界で現実に行われているインシデント調査
2.7.4 外国における船舶用インシデント調査
2.7.5 インシデント調査で基本的に調べるべき事項
2.7.6 今後のインシデント調査の将来
2.8 人的要因による海難実態
2.8.1 「見張り不十分」による衝突海難とその間接原因
2.8.2 居眠り海難の実態とその間接原因
2.8.3 船員の疲労に関するガイドライン
2.9 新しい海難の原因究明と事故防止・安全管理
2.9.1 NTSBのMの応用
2.9.2 ヒューマンファクターに焦点をあてたm-SHEL モデルの応用
2.9.3 海難とインシデント調査に対する国際海事機関(IMO)の動向
第3章非常・応急措置
3.1 海難全般に関する一般的注意
3.1.1 法律上の処置
3.1.2 遭難信号
3.2 衝突
3.2.1 一般的処置
3.2.2 衝突直後の操船処置
3.2.3 衝突後確認すべき事項
3.3 浸水
3.3.1 浸水の原因
3.3.2 防水設備
3.3.3 防水措置
3.4 乗り揚げ
3.4.1 乗り揚げ時の処置
3.4.2 任意乗り揚げ
3.4.3 引きおろし
3.5 舵故障
3.5.1 舵故障時の応急処置
3.5.2 仮舵(応急舵)による航走
3.6 バラスト水と油汚染
3.6.1 油汚染
3.6.2 排出基準
3.6.3 通報
3.6.4 防除措置
3.6.5 バラスト水
第4章火災と消火
4.1 燃焼の理論
4.1.1 燃焼の定義
4.1.2 燃焼の3要素
4.1.3 燃焼(爆発)範囲と引火点
4.1.4 爆発
4.1.5 発火点と自然発火
4.1.6 燃焼の難易
4.1.7 燃焼の形式
4.1.8 燃焼生成物
4.2 消火の理論
4.2.1 消火の原理
4.2.2 消火の方法
4.3 消火剤と消火器
4.3.1 消火剤と消火器
4.3.2 液体消火器
4.3.3 泡消火器
4.3.4 炭酸ガス消火器
4.3.5 粉末消火器(ドライケミカル)
4.3.6 持ち運び式泡放射器
4.3.7 予備の消火剤
4.4 固定消火装置
4.4.1 水消火装置
4.4.2 固定式炭酸ガス消火装置
4.4.3 スプリンクラー消火装置
4.4.4 固定式泡消火装置
4.5 火災探知装置
4.6 消防員装具
4.6.1 呼吸用保護具(マスク)
4.6.2 その他の消防員装具
4.7 検知器具
4.7.1 検知器具の必要性
4.7.2 可燃性ガスの測定
4.7.3 酸素濃度の測定
4.7.4 ガス測定上の注意事項
4.8 消火作業
4.8.1 消火体制
4.8.2 非常配置計画
4.8.3 訓練と操練
4.8.4 消火作業の原則
4.8.5 火災の種類と消火方法
4.9 応急手当
4.9.1 救助作業
4.9.2 救命・救急処置
第5章洋上生存
5.1 タイタニック号の遭難とSOLAS 条約
5.1.1 海上における船舶遭難時の人命の安全に関する歴史の概要
5.1.2 タイタニック号の遭難とその教訓
5.1.3 SOLAS 条約
5.2 海難における人命喪失傾向
5.2.1 要救助海難船舶と死亡・行方不明者の推移
5.2.2 人命に関わる海難の概要
5.2.3 種類別死亡・行方不明者の傾向
5.3 生存維持作業の流れ
5.3.1 生存維持作業
5.3.2 海難の種類と救出の関係
5.3.3 生存維持作業における救命器具の使用効果
5.3.4 操練の重要性
5.4 生存技術の原則
5.4.1 生き抜くための生存技術
5.4.2 指揮者の選出とその職務
5.4.3 漂流中の生存維持作業
5.5 生存維持作業における救命器具・救命設備規定の概要
5.5.1 救命作業からみた救命施設,設備の機能
5.5.2 救命器具と進水装置
5.5.3 信号および通信装置
5.6 効果的な船舶放棄作業
5.6.1 退船時機の決定
5.6.2 総員退船部署発令から本船放棄までの間になすべきこと
5.7 捜索および救出作業
5.7.1 捜索の実施基準
5.7.2 捜索救難活動
5.7.3 救出活動
5.8 SAR条約・船位通報制度
5.8.1 SAR条約
5.8.2 船位通報制度
5.9 GMDSS
5.9.1 GMDSSの概要
5.9.2 GMDSSの構成
5.9.3 遭難した場合のGMDSSの運用
第6章船内労働災害
6.1 船員労働安全衛生規則
6.1.1 概説
6.1.2 船内の安全・衛生管理
6.1.3 安全基準
6.1.4 衛生基準
6.1.5 検知器具および保護具
6.2 船員災害
6.2.1 船員災害の定義等
6.2.2 船員災害の特徴
6.2.3 船員災害の原因
6.2.4 船舶医療制度
6.2.5 船員の災害補償制度
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