船舶運航上、GMDSSをはじめとする重要な役割を持つ船舶通信。その内容を、運航場面別に豊富な図・写真をを用いてやさしく解説しました。無線従事者国家試験を目指す受験生、船舶通信を学ぶ学生、船会社の初級乗組員ほか、船舶通信に携わる関係者すべての方に最適の入門概説書です。
これまで船員にとっての無線に関する知識は、通信士や経験豊富な船員から仕事をしながら聞いて得たものでした。しかし日本人船員が少なくなり、また通信士の乗船していない船がほとんどとなった今では、そうもいきません。
本書は、乗船経験のない学生や、初めて船舶の通信の仕事をすることになった初級の船舶職員が、無線通信に関して疑問に思うであろう事柄や、近年、法令化された通信装置であるGMDSS関連の通信機器やAISとSSASについて仕事別に解説したものです。
主な章には、練習問題を加えました。この練習問題は、実際に国家試験で出題された問題をモデルにしています。勉強で得た知識が正確に理解できたかどうか、確認に使ってください。
陸上に比べて進歩が遅いといわれている海上通信機器ですが、既存の船舶用の通信の参考書の解説はさらに遅れています。できるだけ本書の内容を理解してから、通信関連の解説書やパンフレットなどを読むことをお勧めします。
本書の初版は1999年2月から完全実施されたGMDSSに対応する初学者向けの入門書兼、第1級海上特殊無線技士と第3級無線通信士の無線従事者国家試験の受験のための解説書として、電波や電気・電子の数式を使ったカタイ技術解説を避け、運用方法や解説を多く記載した教科書として2008年2月に刊行されました。刊行後、AISの目的地のコード化入力、AIS-SARTの規格化、法定書類の変更、インマルサットによる定額制のインターネット接続、デジタル簡易無線などのトランシーバ型機器の登場などへの対応を適宜、改訂版、2訂版で行ってきました。
今回の3訂増補版では、類書にはない船内のネットワーク機器の成り立ちと、保守に必要な知識を付録G として取り上げました。また、これまで同様、初版からの読者にも配慮し、構成はそのままに、最新の電波関係法令を調査した上で読者の便宜のため、できるだけ条文を記載、運用にも役立つ解説文を加筆しました。
一方、船舶位置通報制度や電波伝搬、ファクシミリ放送の受信、旗といった事象には大きな変化はありません。こういったことから、初学者は、形や単なる使いかたを覚えるのではなく、使われる通信の特色とその成り立ちを理解することが求められていることがわかります。
なお、正誤情報や本書に取り込めなかった内容、新規法令への対応をweb上のサポートページで行う予定です。(『船舶通信の基礎知識サポートページ』https://www.cargo.toba-cmt.ac.jp/suzuki/GMDSS/(アドレスは変更になることがあります))読者の皆様からご意見を生かし、より良いものにしていきたいと考えています。
大分昔、旦那さんが船乗りだという女性と知り合って話をしたことがあります。旦那さんが海の上にいてなかなか連絡が取れないので心細いこともあるが、同じ社宅の家族たちとの結束が固くなったと言っていました。
もちろん、海の上にも通信手段は普及しています。モールス通信を使っていた時代ののち、1970年代後半に船舶通信は随分進化し、通信衛星を用いるようになり、電話とテレックスが使えるようになりました。速度やコスト等の制限はありますが、今ではどんな海域にいても、いつでも電話・メール・FAXやデータ通信が利用できるのです。この先、さらに新しい通信衛星による高速通信も可能になるでしょう。
船舶における通信は、かつては専門の通信士が行っていました。乗船したばかりの新人は、ノウハウを専門家の先輩から教わっていたのです。しかし今では、通信士が乗船しない船も多くなっています。独学でも学べるような初学者にわかりやすいテキストとして用意されたのが、今回ご紹介する『船舶通信の基礎知識』です。2023年発行の最新版は、従来版掲載の旗やモールス信号、無線電話といった昔ながらの通信方法、GMDSSのやさしい解説、AISや衛星通信、デジタル簡易無線機器などへの対応の他、船内ネットワークについての解説を加えました。最新の電波関係法令にも対応しています。また、船舶に義務付けられた気象観測、船での通信に不可欠な英語についても触れています。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『船舶通信の基礎知識』はこんな方におすすめ!
- 船舶通信を学ぶ学生の方
- 船舶に乗船して日の浅い乗組員の方
- 船舶通信を業務とする方
『船舶通信の基礎知識』から抜粋して3つご紹介
『船舶通信の基礎知識』から抜粋していくつかご紹介します。船舶運航上重要な役割を持つ船舶通信について、運航場面別に豊富な図・写真を用いてやさしく解説しました。航海と通信の基礎、通信機器の扱い方とその仕組み等を、種類別に解説します。関連書類や条約、気象観測の仕方や英会話についてもまとめています。
船舶用無線通信機器
船舶用の無線装置は、多くの場合船橋周辺で利用できるように設置されています。無線通信装置を利用するには、無線従事者と無線局の免許が必要です。国際航海をする船舶では、STCW条約で決められた通信士の免許を持つ人が操作しなければなりません。
《VHF無線電話装置》
近距離での無線通信に用いられている通信装置です。世界中で利用でき、「国際VHF」といわれています。船同士が接触を避けるための意志疎通や、陸上の代理店との通信、パイロットステーションとの通信に利用されています。
無線電話のほか、遭難時に周囲の船にメッセージを伝えたり、相手を自動的に呼び出したりする機能(DSCl)を組み込んだ通信機が多く利用されています。
《MF/HF 無線通信装置》
VHF無線電話装置では通信できない、離れた海域を航行するときに用いられる通信装置です。この通信装置は、無線電話とアルファベットによる文字通信が可能です。使用する周波数、出力、時間によって通信できる距離が変化しますので、通信できる周波数を選ぶ必要があります。使用する電波の波長に応じた長いアンテナが必要です。
《インマルサット衛星通信装置》
船舶衛星通信用として、太平洋、インド洋、東大西洋、西大西洋の赤道上空36,000km にインマルサット衛星が打ち上げられています。南・北緯70度以下の海域で利用でき、サービスの種類によって端末やアンテナが異なります。
テレックス通信・文字通信用のインマルサットC、インターネット通信用のインマルサットFB、より高速で広域をカバーするインマルサットFX等があります。
《衛星船舶電話》
日本国内向けの通信衛星N-STARを使った、船舶等の移動体向け通信サービスです。専用端末では、電話、データ通信が行えます。
《携帯電話》
海上での携帯電話は沿岸に基地局があって、基地局を見通せる範囲内の船外であれば、ほぼ陸上と同様に利用することができます。多数の基地局からの電波が伝わるような場所だと、基地局の切替えが適切に行われず電波が強くても通信できない場合があります。
《船上通信設備》
船上通信設備は、現場では「トランシーバ」、「船上通信装置」等と呼ばれ、接岸や係留時の船上での通信に用いられます。持ち運び可能な「トランシーバ」形状が主流です。可燃性ガスのある箇所でも安全に利用できる防爆型のものもあります。
《船舶自動識別装置》
船舶自動識別装置(UAISまたはAIS)は、船舶の航行状態を定期的に送信しています。他の船舶で受信し解読することで、船がどの方向へ移動しているのかをわかるようにしています。衝突防止、狭水道での航行管制(VTS)、船の位置通報や、捜索救助に利用します。
AISを装備した船舶は、識別信号(船名)、位置、針路、船速などの情報をVHF帯の電波を使って自動的に送信しています。他船の位置はディスプレイや電子海図表示装置、レーダー上に表示して利用します。装置間で文字情報を伝えたり、通信したりすることもできます。AIS の情報は、頻繁に変わるもの(動的情報)とそうでないもの(静的情報)に区別され、情報の種類と船の動きに応じて送信間隔が違います。
国際航海を行う場合は、すべての旅客船と総トン数300トン以上の船舶、国内航海の場合は、500トン以上の船舶(漁船を除く)に設置されています。
《船舶長距離識別追跡装置》
船舶長距離識別追跡装置(LRIT)は国際航海に従事する旅客船および総トン数300トン以上の船舶に搭載される通信装置とその機能です。船がどこを走っているかをAISや運航する船舶の会社、船舶が登録されている国が確認できます。
6時間ごとに船籍国に設置されたデータセンタ宛にLRIT情報(船舶のID、位置、測位時刻)が送信されます。多くの船舶ではインマルサットCにLRITの機能を組み込んでいます。
《船舶保安警報装置》
船がテロリストに襲われたときに、識別信号、日時、位置などの情報を犯人に知られることなく知らせる装置を、船舶保安警報装置(SSAS)といいます。2004年7月、国際航海に従事する船舶への搭載が義務づけられました。
船舶保安警報は、事前に登録しておいた相手(会社、警察、海上保安機関等)へメッセージを送信します。送信時には専用ボタンを使い、送信されたことをランプなどで知らせることがないため、犯人に知られることなく船の危機を知らせることができます。
現在の船舶ではインマルサットによる衛星通信も行えるので、通信方法によってはそれほど不便に感じないように思えます。しかしまだ通信速度等には不便なところがあるようですね。また、船舶は「海の上の密室」であることから、遭難や海上犯罪対策用の緊急通信はしっかりと備えられています。
海の遭難救助システム
船が洋上で火災にあったり、沈没したりしたときに利用する救命胴衣や救命艇、救命いかだ、無線機の数、利用方法は国際的に決められています。国際的なルールで定められた船舶が遭難したときの通信機器GMDSSと、制度の仕組みを中心に説明します。
《GMDSSとは》
GMDSSはGlobal Maritime Distress and Safety System の略で、日本ではGMDSSまたは全世界的な海上遭難安全(通信)システムと呼ばれています。デジタル通信技術を応用した船舶用の遭難通信システムです。特徴は以下のとおりです。
① 24時間、どんな海域でも遭難警報の発射に対応
② 自動化した位置を含む遭難の状況の発信手続
③ 陸上の救助機関が救助手段等の調整を行う
④ モールス通信が不要
GMDSSの基本的な考え方は、どんな船にも陸上の救助機関と直接通信ができる通信設備を搭載させることで、陸上で遭難船の状況を直接把握し、救助指示を出せるようにするというものです。この体制は陸上の警察、消防、救急の仕組みと同じスタイルです。
GMDSSは、国際航海を行う旅客船および総トン数300トン以上の貨物船を対象としています。これ以外の小型の船舶や漁船も、各国でGMDSSに該当するような法律や規則が定められています。船舶の航行する海域に応じて、搭載すべき無線設備が定められています。それとは別に船舶安全法では、A1~A4の4種類に区分された航行海域に応じて船体構造や救命設備のための規則を定めており、それぞれの設備に応じた海域しか航行できません。
《船の種類と規則》
船の種類によって、搭載しなければならない無線機器の数や、通信士の人数や資格が決められています。一番基準が厳しいのは、国際航海に従事する客船です。国際航海の有無、旅客船、漁船、旅客船でも漁船でもない船に種別されます。
《GMDSS 上の通信の資格の取扱い》
無線の国際条約では、GMDSSの実施のために通信士の証明(書)として、第1級無線電子証明書、第2級無線電子証明書、一般無線通信士証明書および制限無線通信士証明書の4種類があります。国際航海に従事する船舶では、航海士らはこれに相当する資格を取得する必要があります。
海での遭難と救助を定めたSOLAS条約は、タイタニック号の事件をきっかけに制定されました。救命ボートの数や救命胴衣の素材等の規格を定めた国際条約です。その後1985年、SAR条約が制定されました。遭難者の速やかで効率的な救助のため、世界各国が分担して探索や救難活動を行うことを定めたものです。
VHF無線電話装置による通信
VHF無線電話装置は、一番利用される無線通信装置です。船橋に設置されていて、船の動きを知らせたり気象情報を受信したり、さまざまな場面で利用されています。一つのチャンネルで送信と受信を交互に切り替える通信方式なので、「どうぞ」「了解」といった無線用語を使って通信を行います。
《チャンネルと用途》
使用の目的は以下のものに限定されており、それ以外には使用できません。
① 海上(沿岸・港湾付近)の船舶の安全のための通信
② 港湾付近の業務通信(港務通信)
・港湾管理に関する通信
・タグボート・パイロットなど、操船援助業務のための通信
③ 船舶と船舶との通信(船舶相互間通信)
④ 国際公衆通信(陸上の加入電話と接続)
チャンネル(ch)は01〜88まで設定されています。通常は16chで相手を呼び出し、その後指定されたチャンネルへ移動します。各チャンネルはそれぞれの用途が決められています。使用するチャンネルは、双方が船舶局(船同士)の場合は呼び出した側が決め、海岸局が含まれる場合は海岸局が決めます。
《混雑を避ける呼出し方法》
船対船の動静確認にVHF無線電話装置が多く使われるようになっており、特に16chと06chは混雑しがちです。混雑や混信を回避するような通信を心がけましょう。
① 呼び出す前に通信波を聞いて、他局が利用していないことを確認
② 船舶間での08ch、10chなど、06ch以外の利用
③ 船舶間での13chの利用
④ 16ch以外での海岸局の呼出
⑤ 1Wでの送信(極近距離の場合)
《16ch 使用の条件》
16chが使えるのは重要通信と呼出し及び応答だけで、通話には利用できません。また下記のような制限があります。
・16chが使える船は、航行中常時聴守しなければならない
・16chの通信に妨害を与えるおそれがある場合は、電波を発射してはならない
・16chの電波の発射は1分を越えてはいけない
・呼出しは2分間の間隔をおいて2回反復できる。応答がないときは少なくとも3分間の間隔をおかなければ呼出しを再開してはならない
《一般通信方法》
船舶での通信には独特の話し方や用語があります。通信方法は法律で手順が決められているので、適切に行う必要があります。
① 呼出
無線電話を使った船舶からの呼出の方法は以下のとおりです。
「相手局の呼出名称」(3回以下)
「こちらは」(1回)
「自局の呼出名称」(3回以下)
海岸局は相手局の呼出名称のほか、船名を使うことができます。船名が不明なときはその船の進行方向、速力、付近の灯台との位置関係等で呼出しができます。
② 応答
「相手局の呼出名称」(3回以下)
「こちらは」(1回)
「自局の呼出名称」(3回以下)
「どうぞ」(1回)
③ 通信の流れ
(海岸局を呼び出す場合:16chが使われていないことを確認、船舶局を呼び出す場合:16chと06chが利用されていないことを確認)
呼出→応答→チャンネル変更指示→「了解」チャンネル移動→用件「了解」→用件終了「了解」
自局「さようなら」
呼出局「さようなら」
《デジタル選択呼出》
遭難警報の発信に使われるDSCは、ボタン一つで相手の呼出や、チャンネル変更などの情報送信が行えます。DSCはVHFのほか、MFあるいはHF帯の無線機にも搭載されています。
DSCの信号を受信した船では信号を解読し、自船が呼ばれた場合はアラームを鳴らし、受信情報の表示、印字、チャンネルの変更を自動的に行うことができます。
利用する場合は下記のルールを守らなければなりません。
・DSCを搭載した無線設備は、毎日1回以上動作確認を行い、正常に動作することを確認する
・DSCによる呼出は5分以上の間隔をおいて2回送信でき、応答がない場合は15分後に再呼出が可能
・MF/HFのDSCの周波数は一般呼出には使用できない
《DSC を使った呼出例》
① 通話に使えそうなチャンネルを探す
② 相手のMMSI(海上移動業務識別)を調べる
③ 個別呼出機能でMMSIや 通話チャンネルを設定、送信
④ DSCによる呼出、通話チャンネルの変更
海上での事故を避けるため、追い越しなどが発生しそうな場合の船同士の通信はとても重要です。本文中には通信文例が載っていますが、位置関係や目的地、現在減速しているかどうかなどを伝え合いながら、どちら側から追い越すかなどを決めます。外国船が相手だとこれが英語になるわけですが、本書にはその文例も載っています。
『船舶通信の基礎知識』内容紹介まとめ
これまでは「先輩から現場で教わるもの」だった船舶通信。初心者が実際の現場で疑問に思うだろう基礎知識をわかりやすくまとめ、近年法令化されたGMDSS関連の通信機器やAISとSSASについても解説しました。
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