著者名: | 本田啓之輔 著 |
ISBN: | 978-4-425-47087-7 |
発行年月日: | 2008/6/28 |
サイズ/頁数: | A5判 312頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥4,840円(税込) |
安全運航に関わる操船性能の基本的知識、錯泊の安全確保、大型船のタグ支援操船を詳細に説明。船長、航海士、水先人、学生必携の書。
【はじめに】より
操船者は船の操縦性能を超えて操縦することはできないし、船の動きの予測を誤ると、ときには大きな海難事故を起こす。このため船の操縦には技量の巧拙が問われるわけで、多くの専門的基礎知識とそれをうまく活用する豊富な海上経験がなければ、判断に的確さを欠き、安全第一の中にも操船の妙味を発揮することはできない。
本書は、操船を操船情報の収集ー思考ー判断ー指示の課程をふむ総合した意思決定の作業と考え、操船者に操船のマニュアル的情報を与えるという観点に立って、大型船の船長への指針として、これから船長への途を志ざす人の参考書として、また操船を理解しようと関心ある方々にも役立つアドバイザーとして、操船全般を幅広く分かりやすくまとめたつもりである。
ただ記述には、著者が商船大学で長年、操船運用額を講義してきたノートをもとにしたため、海技国家試験用というよりもテキストの体裁をとった。とくに、船長を目ざす学生諸君には理解を早めるため所どころに例題を織り込み、各章末には関係する演習問題をあげており、内容をさらに詳しく知りたい方には参考文献が役立つものと思う。実務者の方々にはいささか数式は苦手と思われるかも知れないが、省略して読んでいただいても差し支えないように配慮してある。また本書は海事専門書であるから、海事用語の中には当用漢字にない錨(いかり、びょう)、舵(かじ、だ)、舷(舷)、曳(えい)の文字を便宜上使用している。
いうまでもなく操船全般の知識を著者1人では到底記述できるものでない。著述にあたり操船運用に関する内外の名著を幾冊か参考にさせていただいたし、本書の参考文献に掲載していない研究論文、研究報告、技術情報も多く参照させていただいた。これらの著者の方々、および執筆中に御教示を賜った方々に対し厚くお礼申しあげます。また出版の機会と温かいご支援をくださった株式会社成山堂書店小川實社長に謝意を表します。
1986年4月
著者
【第八改訂版発行に際して思うこと】より
欧州航路の1万トン級旅客船を大型船と称したひと昔前では、「操船」はベテラン船長の独壇場であった。だが、国際物流の飛躍的な増大で船型が長さ300m以上に巨大化してきた今日、VLCC、7,000個積みコンテナ船、4,000〜5,000個積みPCC船の満載喫水が14〜15mと深く、喫水は浅いが、エアードラフトの大きい客船は、風圧影響をうける上部構造をもつ15万トンの豪華客船が就航している現状(2007年)である。
それだけに船の巨大化は、操船者にとって、港湾水路の航行には浅水影響、側壁影響、風圧影響に細心の注意を払わねばならず、とくに暖慢な操縦性能については勘だけでなく、机上で操船の安全性を模索、検討するケースも出てきた。運航中はヒヤリハットする事態になることもあり、一瞬ためらうと海難事故に繋がる。平素から適確な操船情報を学びとる姿勢を常にもたなくてはならない。
しかし経験豊かなキャプテンの視点からみると、操船しやすい船(造船工学)、通航しやすい航路港湾(港湾工学)に関しては、いろいろ注文をつけたい意見もあろうかと想われる。航路環境の設計者へ意欲的な意見を提言することは、職場環境の改善にもつながるはずである。これからのシーマンシップは、単に海技の自己練磨にとどまらず、時代に呼応して科学する心の進展は、新しい時代にふさわしいシーマンシップの広い姿を写し出すことだろう。
一歩先を見通して探求する意欲は、操船の醍醐味をいっそう味わい深いものとし、操船に心のゆとりをもつことは、海難防止にも役立つものと確信している。
本書が海上交通の安全運航に少しでも役立つことを願うものである。
2008年5月
著者
【目次】
第1章 操船と操縦性能
1.1 操船の概念
1.1.1 操船技術
1.1.2 各航行環境下における操船上の問題点
1.1.3 操船に必要な運動性能
1.2 操舵と操舵号令
1.2.1 IMOの操舵号令
1.2.2 従来の操舵号令
1.3 舵の性能
1.3.1 舵力
1.3.2 舵力に及ぼす舵形状の影響
1.3.3 船尾舵の舵力
1.4 操舵による船の応答運動
1.4.1 回頭現象にみられる舵きき
1.4.2 操舵性を示す3要素
1.4.3 保針性
1.5 旋回運動
1.5.1 旋回の運動過程
1.5.2 旋回圏の大きさと用語
1.5.3 偏角と旋回性
1.5.4 転心とその位置
1.5.5 船尾キック
1.5.6 旋回中の速力低下
1.5.7 旋回中の横傾斜
1.5.8 旋回圏の大きさに及ぼす影響要素
1.5.9 旋回圏の大きさからみた操縦性能の評価
1.6 操縦性指数 T,K
1.6.1 応答モデルの操縦運動方程式のT,K
1.6.2 回頭の軌跡におけるT,Kの役割
1.6.3 実船の操縦性指数
1.6.4 実船の操縦性試験
演習問題1
参考文献2
第2章 プロペラの作用と停船性能
2.1 船速と主機出力
2.1.1 スクリュープロペラに発生する推力
2.1.2 主機出力の名称と相互比率
2.1.3 エンジンテレグラフの発令と船速
2.1.4 推進にかかわる馬力の名称
2.1.5 速力試験
2.2 操船に及ぼすスクリュープロペラの作用
2.2.1 操船に及ぼすプロペラの作用による回頭要因
2.2.2 プロペラの作用による回頭現象の一般的傾向
2.2.3 後進時の回頭特性を利用した操船法
2.2.4 2軸船のその場回頭にみられるプロペラの作用
2.3 惰力操船と停船性能
2.3.1 停止惰力の進出距離
2.3.2 主機逆転による停止距離
2.3.3 急速停止距離に及ぼす影響
2.3.4 急速停止中の回頭現象
2.3.5 緊急の避航操船
2.3.6 各種の前進制動法の利用
2.3.7 急速停止距離の測定法
演習問題2
参考文献2
第3章 操船に及ぼす外力の影響
3.1 風の影響
3.1.1 船に働く風圧力と風圧モーメント
3.1.2 風による横流れ
3.1.3 風による回頭作用
3.2 潮流の影響
3.2.1 流圧力と流圧モーメント
3.2.2 強い潮流帯を横切る船の動き
3.3 制限水域の影響
3.3.1 制限水路影響が生ずる水深と水路幅
3.3.2 浅水影響の概要
3.3.3 浅水における船速の低下
3.3.4 航走中の船体沈下とトリム変化
3.3.5 浅水における操縦性
3.3.6 狭水路における保針
3.4 2船間に生ずる相互作用
3.4.1 相互作用の概要
3.4.2 2船間のシーソーイング現象
3.4.3 通航船が接岸係留船に及ぼす影響
演習問題3
参考文献3
第4章 入港操船と錨泊法
4.1 泊地へのアプローチ操船と港湾航路
4.1.1 入港時の速力逓減
4.1.2 港湾航路の幅員と保針
4.1.3 余裕水深
4.2 錨地と錨泊法の選定
4.2.1 錨地選定上の一般的要件
4.2.2 錨泊法の選択
4.3 アンカーによる係駐力
4.3.1 アンカーの把駐性能
4.3.2 アンカーの把駐力と底質
4.3.3 アンカーによる船の係駐限界の計算
4.4 単錨泊と投錨操船
4.4.1 単錨泊の投錨操船
4.4.2 普通投錨法と錨鎖伸出量
4.4.3 深海投錨法
4.4.4 単錨泊の振れ回り運動
4.4.5 揚錨(抜錨)作業
4.5 双錨泊と投錨操船
4.5.1 双錨泊の投錨操船
4.5.2 双錨泊時の係駐力
4.5.3 双錨泊の振れ回り運動と錨鎖張力
4.5.4 双錨泊の振れ回り範囲と絡み錨鎖
4.5.5 守錨法
4.5.6 荒天錨泊法
4.5.7 各種船型別の限界係駐力と限界風速の試算
演習問題4
参考文献4
第5章 港内操船と施設係留
5.1 係留施設等
5.1.1 バース
5.1.2 シーバース
5.1.3 在来型の係船ブイの構成
5.1.4 ターニング・ベースン(船まわし場)
5.2 着離岸操船と係留法
5.2.1 自力着岸操船法
5.2.2 接岸係留法
5.2.3 自力離岸操船法
5.3 ブイ係留操船と係留法
5.3.1 1点ブイ係留の操船と作業
5.3.2 多点ブイの係留操船法
5.3.3 ブイ係留の荒天避泊
5.4 タグの支援操船
5.4.1 操船用タグの性能
5.4.2 タグの用法
5.4.3 タグ使用による本船の運動
5.4.4 タグ支援の操船例
演習問題5
参考文献5
第6章 洋上操船
6.1 波浪中の船の運動
6.1.1 海洋波の概説
6.1.2 波浪中の横揺れの考え方
6.1.3 大角度横揺れと操船上の防止
6.1.4 激しい縦揺れと減速
6.1.5 波浪中に船首揺れを起す原因
6.1.6 追い波で航走中、保針操船上注意すべき運動現象
6.2 洋上における操船
6.2.1 台風避航法
6.2.2 荒天中を続航するための操船上の注意
6.2.3 荒天中に続航が困難なときの操船上の措置
6.3 軽喫水航海
6.3.1 空船航海の操船上の問題点
6.3.2 空船航海に必要な最少船脚の標準
6.3.3 バラストの積載
6.3.4 浅喫水PCCの操船上の問題点
6.4 船速、燃料消費量、航走距離の相互関係
6.4.1 主機馬力と排水量、船速との関係
6.4.2 燃料消費量と航走距離の関係
6.4.3 経済速力
演習問題6
参考文献6
第7章 特殊水域における操船
7.1 狭水道航行時の操船
7.1.1 狭水道航行時の一般的注意
7.1.2 河川航行における操船上の注意
7.2 多礁海域航行時の操船
7.2.1 多礁海域航行時の一般的注意
7.2.2 礁間航行における見張りの心得
7.2.3 多礁海の操船
7.3 氷海航行時の操船
7.3.1 氷山と海氷
7.3.2 氷山、浮氷の予知
7.3.3 氷海域航行時の注意
7.3.4 氷海上の停泊
演習問題7
参考文献7
第8章 海難時の操船処置
8.1 海難とその統計
8.1.1 海難の概説
8.1.2 船舶の衝突、乗り揚げ事故の実態
8.1.3 IMOの海上捜索救助マニュアル
8.2 衝突、浸水に対する応急処置
8.2.1 衝突直後における操船上の処置
8.2.2 切迫した危険な状態でない場合の処置
8.2.3 沈没のおそれがある場合の処置
8.3 乗り揚げ時の応急措置
8.3.1 乗り揚げ時の処置
8.3.2 ビーチング(任意乗り揚げ)
8.3.3 船固め法
8.3.4 離州法
8.4 火災発生時の処置
8.4.1 火災に適した消火剤
8.4.2 洋上航行中、船倉に火災が発生したときの処置
8.4.3 船舶火災が消化困難といわれる理由
8.4.4 油タンカーの火災
8.4.5 航行不能になったVLCCの漂流と対策
8.5 人命救助の操船
8.5.1 船外転落者救助の操船
8.5.2 洋上遭難船からの人命救助
8.6 MERSARマニュアルの捜索救助操船
8.6.1 船上における捜索救助活動の準備
8.6.2 ヘリコプターによる救助活動を支援する船上の措置
8.6.3 捜索の計画
8.6.4 捜索パターンとその実施
8.6.5 捜索の終了時の措置
8.7 洋上曳航
8.7.1 曳航計画
8.7.2 曳航上の諸作業
8.7.3 曳航中の操船
8.7.4 応急舵
演習問題8
参考文献8
付 録
A1 船の操縦運動方程式からみた操縦特性
A2 急速停止距離と停止時間の近似解
A3 カテナリー曲線の関係式
A4 SMB法による波の予測
A5 有効波上の無抵抗横揺れの特性
A6 要素操船による操船設計
A7 Blind zoneと船の避航領域
A8 上屋による風圧低減率
A9 GMDSS(海上における遭難及び安全の世界的制度)とJASREP(日本の船位通報制度)
A10 全没翼型水中翼船の操縦性能と一般船を避航する操船要領
A11 波浪中の横揺れによる船底サイドの沈下量略算
A12 ACー14型アンカーの把駐係数
A13 荷役可能な船体動揺の許容限界と港内避泊の限界外力
A14 省エネルギーのための最適トリム
A15 接岸操船のタグ支援力算定の設定要素
A16 追波及び斜め追波を航走中の危険現象と回避操船(IMO操船ガイダンスより)
A17 「エラーチェーン」を防止する船橋当直のBRM/BTM
A18 国際単位系(SI)の力と重量
A19 地震津波に対する船舶避難のあり方
(海事図書)
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