最近の目覚しい技術革新や輸送革新により船舶の種類、構造、設備などが大きく変わりました。RORO(ロロ)船、PCC(ピーシーシー)、LNG(エルエヌジー)船、LASH(ラッシュ)船などの聞きなれない種類の船が多数登場しています。SSBN(戦略ミサイル潜水艦)、DDG(ミサイル搭載巡洋艦)などは一般紙の記事にも出てくる用語となっています。
私が海運会社や海運業界団体に勤務している間に、海運会社の陸上社員、造船や港運などの関連する業界の方々から船舶について数大くの質問を受け、船舶に関係する職場に働くひとが意外に船舶についての知識が乏しいこと、および適当な参考書が少ないことを痛感しました。
このようなわけで、海運、造船、港運、貿易など船舶に関連する仕事に携わる方々および一般の造船愛好家を対象として、船舶の種類、構造、基本的な用語などについて分り易く説明することを試みました。本書では、基礎的な事項の説明のみを行っていますが、船舶は関連する多くの分野の最新技術を集大成したもので、日進月歩を遂げています。したがって、基礎的な説明から外れる事例も沢山あることを念頭に置いてお読み下さるようにお願い致します。
最後になりましたが、本書をまとめるにあたり、諸先輩の多くの著作を参考とさせて頂きました。また、関係官庁、アメリカ大使館、内外の港湾管理者、日本船主協会を始めとする諸団体、多くの海運会社、関連メーカーの皆様から沢山の資料の供与や助言を頂きました。さらに、刊行にあたり株式会社成山堂書店小川實社長以下編集部の皆様のご協力と励ましを受けました。心よりお礼を申し上げます。
今回の改訂は、2019年11月に発行した10訂版を基に新しい情報へ更新し、さらに近年益々取り組みが多様化し様々なアイデアで海運全体として取り組んでいる環境問題について、国際的な条約等の内容を第6章に追記しました。
このたび、「船舶知識のABC」の改訂に携わる機会をいただきましたことに感謝申し上げます。ぼにゃりと航海士になってみたいなぁと思い東海大学に入学した最初の授業で、本書を教科書として著者である池田宗雄先生から講義を受けました。その後の学びの土台になっただけでなく、ことあるごとに本書を引き直して辞書のような役割でいつも手の届くところに置いてありました。
改訂するにあたり改めて本書を読み直しますと、これほど広い範囲にわたる内容をわかりやすくまとめられた本であり、読めば読むほど新たな学びがあることに驚くばかりです。
最後に、改訂にあたり多くの助言をいただきました東海大学非常勤講師関根博先生、商船についての知識・資料をいただきましたENEOSオーシャン株式会社石川達郎様、旭汽船株式会社西尾岳様、株式会社成山堂書店小川典子様にお礼を申し上げます。
当社は海事出版社ですので、出す本の多くは専門書ですし、お客様の多くも海や船の仕事の専門家や、そういった仕事を目指す方々です。これを書いている私(担当M)は営業にいますが、お客様からのお問い合わせをより詳しい編集担当に繋ぐ際、専門用語がわからなかったり、船に関する基本用語を聞き間違えたりすることもありました。
幸い専門出版社ですので、そういうときに頼りになる本がたくさんあります。船や海運の本の中でも、比較的易しい入門書を読んでみると、当たり前のように使われていた用語の意味がようやく腑に落ちるようなことがありました。たとえば、船で使われる「トン」が重さの単位ではなかったことを、自社の本を読んで知るなどです(船から税金を取るときに、積まれる酒樽を叩きながらカウントしていた音からきているそうですね)。
おすすめの入門書は何冊かありますが、今回ご紹介するのは『船舶知識のABC』です。航海士を目指す方、船舶や海運を学ぶ学生、これらに関わる仕事を目指す方、就職したばかりの方へ、よいガイドになるかと思います。
船の種類、船舶に関する基本用語、船の構造、主機、補機、推進装置、艤装について、図や写真を用いてわかりやすく解説しています。船の種類について、商船と貨物船に加え、客船や漁船、軍艦まで最新情報を取り入れつつ網羅しているので、船を知るための入口としてとても役立ちました。また最近では、船舶の環境対応に関する章も充実させています。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『船舶知識のABC』はこんな方におすすめ!
- 航海士を目指す方
- 船舶工学を学び始める学生
- 船舶・海運・造船等の船舶に関わる仕事に就いた方
『船舶知識のABC』から抜粋して3つご紹介
『船舶知識のABC』からいくつか抜粋してご紹介します。本書は船舶の仕事を目指す若い方、船舶に関する仕事に就いたばかりの方向けに、船舶の種類や構造、基本用語についてわかりやすく解説する入門書です。
コンテナ船
コンテナを専用に積載する船をコンテナ船といいます。定期航路に就航する一般貨物船を専用船化したものです。
コンテナ船は1956年に米国のシーランド社が、中古タンカーをコンテナ積載可能に改造して米国沿岸輸送を行ったのが始まりです。日本では1968年9月、859個積(TEU)のコンテナ船箱根丸がカリフォルニア航路に初めて就航しました。
コンテナ輸送により、定期船の分野においても大量輸送・専用輸送が可能となりました。ユニット化による省力化と輸送コストの大幅な削減により、世界の主要な定期航路は急速にコンテナ化されていきます。
競争の激化により大型化・高速化が進み、1972年シーランド社は1968個積み、12万馬力、33ノットの超高速コンテナ船(SL-7)を建造しました。第1次オイルショックでSL-7は出番を失いますが、その後軍用船となり軍需品輸送で活躍しました。
世界景気が回復すると共にコンテナ輸送も増加し、船型は更に大型化していきます。これまではパナマ運河を通過できるパナマックス型(32.2m)が最大でしたが、ルートの多様化や国際複合輸送の一般化により、幅を32.2m以上としたオーバーパナマックス(ポストパナマックス)と呼ばれる超大型の船舶が登場しました。ちょうど通過できる運河や海峡を名称に使うことが多く、パナマックス、ネオパナマックスの他スエズ・マックスやマラッカ・マックス等があります。このような大型コンテナ船は、ハブ港と呼ばれる限定した主要港を結ぶ基幹航路に就航します。
コンテナ船の大きさを数値で表す場合、トン数ではなくTEUを使用します。これは20フィートコンテナをいくつ積載できるかという単位です。現在は20,000TEUのコンテナ船も就航しています。
超大型コンテナ船を受け入れるには十分な深さの岸壁と大きなコンテナクレーンが必要になります。基幹航路以外の港(フィーダー港)へ行くコンテナは、ハブ港で小型のコンテナ船に積み替えて輸送します。
コンテナのみを積載する船をフルコンテナ船、一般貨物とコンテナの両方を積載する船をセミコンテナ船といいます。クレーンによりコンテナを揚積するコンテナ船をLOLO(Lift on Lift off)方式のコンテナ船といい、トレーラーやフォークリフトで荷役するコンテナ船を RORO(Roll on Roll off)船といいます。
先進諸国ではコンテナ船専用埠頭が整備されているので、先進諸国間を航行するコンテナ船はクレーンを設置しないのが普通です。しかしコンテナ埠頭の整備が進んでいない国へ就航するコンテナ船はクレーンを備えるか、RORO方式が採用されています。
コンテナ船には中甲板がなく、枠(セル・ガイド)がハッチの上部から船底まで垂直に設置されており、この枠に沿ってコンテナを積みます。これをセル構造といい、セル構造を持つ船舶をセルラー・ ホールドといいます。
コンテナ船の水線下は流線型なので、直方体であるコンテナを積載するとスペースのロスが大きくなります。在来定期船に比較すると艙内に積み込める貨物の量は少ないため、甲板上にもコンテナを積むのが一般的です。
甲板上ではポジショニング・コーンと呼ばれる突起物にコンテナをはめ込みます。2段目は1段目のコンテナの四隅にバーティカル・スタッカーと呼ばれる金具を置き、この金具にコンテナをはめ込みます。最高5段ぐらいまで積めますが、現在では甲板上にもセル・ガイドを設置したコンテナ船も登場しており、こちらは10段程度積み上げられます。
積み上げたコンテナの強度は、コーナーポストという4本の柱で保たれています。コーナーポストの上下端に金具が付いており、3つの穴があります。上下の穴がバーティカル・スタッカーの入る穴で、陸上輸送時もこの穴で固定します。
コンテナ船の側面の空積は、縦通隔壁で仕切られ、燃料タンクやバラストタンクに利用されています。コンテナは垂直にしか積み込めないので、艙口は広く取る必要があります。強度の確保と荷役の効率性両立のため、1つの船舶につき艙口は左右2~3列、前後に2列に分割して4~6個設けています。
日本の船会社の使用するコンテナの大きさは、ISOの規格に従った幅 8フィート、高さは8.5フィートまたは9.5フィート、長さ20または40フィートです。20 フィートのコンテナを20フーター、40 フィートのコンテナを40フーターといいます。前述のTEUという単位は、この20フーターをいくつ詰めるかという意味です。
コンテナ船は、コンテナを積載するための設備以外に特別なものは何も付いていません。このような船で各種の貨物を輸送するために、貨物の種類に対応した多くの種類のコンテナが用いられています。
コンテナ船でコンテナに入らない貨物を運ぶときはどうすると思いますか?大型機械や鋼材等を運ぶためのフラットラックコンテナを横に数本並べ、その上に大型貨物を積むのです。本書にもその例が掲載されていますが、何を運んでいるでしょう?
トン数
酒樽(Tun)がいくつ積めるかで船の大きさを表現したことから、船の重量や容積を表わす単位としてtonが用いられるようになったといわれています。15世紀頃には、酒樽は容積40立方フィート、重さ2,240 ポンド(1,016kg)に定まっていました。
そのため貨物の容積40立方フィートを1トン(容積トン)といい、重量2,240ポンドを1ロング・トンというようになりました。ロング・トンは海運界では広く使われており、世界の船舶の要目を記載したロイズ船名録でもロング・トンを使用しています。1ロング・トンは1,016キロトンです。
定期船で貨物を輸送する場合、貨物を容積トンと重量トンで表わし、どちらか大きな方で運賃を支払います。 運賃の基準となるトン数をレベニュー・トンといいます。なお、40立方フィートは1.133 立方メートルなので、最近では1立方メートルを1トンとするのが一般的です。
今日の船舶では、総トン数、純トン数、排水トン数、重量トン数を用いていますが、パナマ運河やスエズ運河では通航料の基準となるトン数をそれぞれ独自の方法で定めており、パナマ・トン、スエズ・トンと呼ばれています。
《総トン数》
総トン数は、課税、水先料金、船舶検査料などの基準として使われています。各種統計も総トン数に基づいて行われています。
しかし計測の仕方が各国まちまちであったため、国連の専門機関であるIMCO(政府間海事協議機関、現在のIMO)の条約(1982年7月発効)によって初めて世界的に統一されることになりました。日本では1980年4月に船舶のトン数の測度に関する法律が成立し、国際条約の発効とともに施行されました。
従来は、同じ船でも国によってトン数が異なるといった不都合が生じていました。これに対し、新しい総トン数は外板の内側から外板の内側までの全ての容積(型容積)が算定されます。その上で従来のトン数と大きく変わることのないよう計測容積に係数を掛けてトン数を算出します。容積の大きさに応じた係数を掛けて出てくる数字にトンという符号をつけて表わすことになったのです。
一層甲板の内航船は、条約による総トン数と従来の総トン数との間に大きな差が出ます。そのため、4,000トン未満の船舶は条約による総トン数に一定の係数を掛けて、国内で使用するその国独自の総トン数を算出します。日本ではこれを「総トン数」と呼び、条約の規定に従い国際航海に従事する船舶について計算したトン数を「国際総トン数」と呼びますが、これは国内だけの呼び方で、条約では単に「総トン数」と記されます。
《純トン数》
純トン数は、旅客または貨物の運送の用に供する場所の大きさを表わし、主に税金徴収のために用いられます。純トン数も、総トン数と同じく国際条約および国内法で純トン数の算出方法が定められていて、商用に供する容積に係数を掛けて純トン数を算出します。ただし、旅客定員や国際総トン数に対する純トン数の割合等により算出方法が異なるため、実際に算出するときはトン数法施行規則を確認すると良いでしょう。
《載貨重量トン数》
船舶が満載喫水線まで貨物、燃料、清水などを積載したときの重量と軽貨状態の重量との差を載貨重量トンといい、貨物船では最も一般的に使用されるトン数です。日本では 1,000kgを1トンとするキロトン(KT)が使用されますが、イギリス、アメリカなどでは2,240 ポンドを1トンとするロングトン(LT)で表示することが少なくありません。
載貨重量トン数は、燃料、清水、潤滑油などの重量を含んでいるので、載貨重量トン分の貨物が積載できるということではありません。しかし、載貨重量トン数はタンカーや鉄鉱石船等で使用され、船の大きさの目安となります。
《満載排水トン数、満載排水量》
船が水に浮かんでいるときは、水線下の体積と等しい水を排除し、排除された水の重量と船の重量が同じになります。この排除された水の量を排水量といい、重量で表わしたのが排水トン数です。船の喫水により排水量(重量)は異なるので、満載喫水線まで沈んだときの重量を満載排水トン数といいます。
排水量は主として軍艦の大きさを表したり、運動性能の計算を行ったりするのに用いられます。軍艦では、艦の状態により満載排水量、基準排水量、常備排水量が使われます。
基準排水量は軍艦の排水量の算定方式を統一するために定められたもので、乗員が乗組み、兵装、弾薬類、消耗品などを定額搭載し、燃料と余備のボイラー水は搭載していない状態の排水量です。
アメリカやイギリスの小説などを読んでいてヤード・ポンド法に悩まされた経験をお持ちの方も多いと思いますが、船の世界でも健在なのですね。現在は係数で処理してかつての規格との差異を少なくしているとのことですが、こうした基準が全世界で統一される日はくるのでしょうか?
舵
舵は船の針路を保持したり変更したりするためのものです。航走中の抵抗とならず、保針性、旋回性の良いことが要求され、多くの種類があります。舵が船を旋回させる力は、舵の周囲の流圧力により発生します。舵の右側には正、左側には負の圧力が加わります。操舵によって船が回頭するのは、横方向の力が船尾を左に移動させるためです。
1枚の板でできているものを単板舵といい、2枚の板を合わせて流線形にしたものを複合舵といいます。単板舵は複合舵に比べ舵効きが悪いため、今日では小型船にしか用いられていません。
また舵は、舵を回転させる軸の位置により釣合舵、釣合舵、非釣合舵に分類されます。釣合舵は、舵を回転させる軸の位置が、舵に作用する水圧の中心(舵圧の中心という)とほぼ同じ位置にあるので、非釣合舵に比べて舵を動かす力が少なくてすみます。
また、舵を支持する方法として舵を上部のみで支える吊舵(ハンギング・ラダー)と舵の上下で支えるオーディナリー・ラダーがあります。ハンギング・ラダーは上部だけで支えるため、堅固な構造と大きな操舵機が必要です。オーディナリー・ラダーの下部はキールから延びたシューピースに支えられていますが、船尾構造が特殊な船ではキールからシューピースを出すことができないためハンギング・ラダーを用います。ハンギング・ラダーは軍艦、コンテナ船、漁船、フェリーなどでよく用いられています。
出入港頻度の高い内航船では操船性を重視し、舵板の後端にフラップを取り付けたフラップ付き複合舵、通常の舵の2倍の舵角をとることのできるジョイスティックコントロールシステム舵など特殊な舵を備えた船が多くなっています。これらの特殊な舵とサイドスラスターなどを組み合わせ、操縦桿(ジョイスティック)を任意の方向に倒すことにより、360度どの方向へでもスラストを出すことができる操縦システムが開発され、内航船で用いられています。
シリングラダーと呼ばれる魚の形に似た断面形状をした乾板の上下に整流板を取り付けた舵もあります。 整流板によりプロペラ排出流のほとんどが板に当り、排出流が舵効として有効に利用できます。舵角70度では前進力は全くなくなり、船尾は横移動します。バウスラスターと併用すれば船体を真横に移動することも、船体の中心を軸としてその場で回頭することもでき、自動車よりも自由な動きができます。
左右に105度まで動かせ2枚のシリングラダーを1本のジョイスティックで操作するベックツイン・システムでは、ジョイスティックを動かした方向に、指示通りのスラストが発生するようそれぞれの舵が動かされます。ジョイスティックを船尾方向に倒すとプロペラは前進方向へ回転したままで船体を後進させることができます。
この他、港内で低速時の操船のため、コンテナ船、RORO船、PCC、フェリー、客船、内航船などにサイドスラスターと呼ばれる装置が設置されることが多くなりました。サイドスラスターが船首部に設けられたものをバウスラスターといい、船首水線下に横向きにプロペラを取り付け横方向に水流を出し、その推力により船首を回転させます。
船は急に方向転換したり真横に移動したりはできないものだというイメージがありましたが、自動車並みかそれ以上の小回りが可能な舵もあるのですね。今ではジョイスティックで操舵を行えるようになっているそうです。
『船舶知識のABC』内容紹介まとめ
船舶・海運に関わる仕事を目指す人や船舶工学を学び始める人に向けて、船舶の基礎知識や用語をやさしく解説しました。船舶の種類や基礎用語から始め、後半は船の仕組みについて解説します。
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最近外国人船員が増えており、コミュニケーションの重要度が増しています。船員にとって必須の英会話を実務に沿って学べるよう、「甲板部」と「機関部」の2部構成で、シチュエーション別の想定会話を掲載しました。これからの船員必読の一冊です。