アメリカの鉄道史−SLがつくった国−


978-4-425-96131-3
著者名:近藤喜代太郎 著
ISBN:978-4-425-96131-3
発行年月日:2007/10/8
サイズ/頁数:A5判 264頁
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鉄道会社の隆成や各路線の延伸,SLの車両技術の進歩などを踏まえて,鉄道がアメリカの発展に果たした役割を解説する。

【序】より
本書は蒸気機関車に特別の配慮をした、アメリカ合衆国の鉄道史である。しかし。鉄道という窓から覗いたアメリカ史にしたいと努めた。もちろん、アメリカの通史ではないので、重要な史実でも鉄道に関わりがなければ割愛し、また微細な史実でも鉄道史の立場から大きく扱った部分がある。そして、本書を著す上で大切と考えたのは、鉄道だけを追うのではなく、社会の中で鉄道がどう存在し、社会をどう変え、ひいてはアメリカが今日の姿となったかを描くことである。
もちろん、それは容易ではないが、まず公益性を重んじる日本とも欧州とも異なり、企業の自由を重んじるアメリカの鉄道は、日欧とはかなり異なった道を歩んで興隆し、そして没落した。それにはアメリカの国情と、アメリカ人の特性が大きく反映しており、その点を描くのも本書の課題とした。本書は1830年の鉄道創業の少し前から始まり、およそ1990年代初頭に再編が終えるまでを追い、アメリカが超大国となるのに、鉄道がどのように貢献したかを描いてみた。
著者はアメリカ史実でも交通学者でもなく、鉄道を愛好する医学者である。留学以来、医学会などでの30回ほどの渡米の折、極力、鉄道に乗り、多くの鉄道シーンに臨み、各地の鉄道博物館を訪れるなど、アメリカの鉄道には日本の鉄道に次いで親しんできた。しかし、あくまで趣味の域を出ない。
外国の鉄道史を書こうとしてはたと困るのは、多くの読者になじみのない人名、地名をどう取り扱うかである。そこで本書では具体例として代表的な事案を中心とし、それ以外の細かいことは年表に譲って、本文はなるべく読み易くした。本書は事典ではなく、通読を期待する読み物である。そのための苦心を重ね、それぞれの時代、地域を代表する事案を中心としたのである。
アメリカの鉄道は日本のそれに深い影響を与えた。それは、鉄道車両の輸入、自動連結器など、技術の導入、北海道の幌内鉄道の建設、アメリカに留学した木下淑夫を介した旅客・貨物サービスの改善など、多岐に渡っている。そして、最近はワシントンーボストン間の「北東回廊鉄道」に国鉄が技術援助するなど、アメリカに対する日本の影響もある。本来、鉄道の日米交渉はアメリカ鉄道史には属さないが、日本人が書いた本書の特徴として、項目を起こさず、随所で記述した。
インターネットは執筆の大きな助けとなった。多くの項目でウィキペディア辞書が参考になった。また、例えば「アメリカ大陸横断鉄道」の根拠となった、リンカーンが署名した「太平洋鉄道法」の原文が見たければ、アメリカ国立公文書館のホームページに入って、ダウンロードすればよい。
用語は原則としてその時代の慣行に従った。アメリカ・インディアン、黒人などは、現在のアメリカでは差別語とされ、アメリカ先住民、アフリカ系アメリカ人というべきである、とされるが本書では時代の慣行に従って、あえて元のままとした。原綴は述語や固有名詞など、自明でないものだけ日本語に続けてアルファベットで示した。「アメリカ」は「アメリカ合衆国」の意味で使用した。同国の人々は自国を「合衆国」(United States)と呼び、アメリカとはほとんど言わないが、この点は日本での慣行に従った。地理上の言葉として用いるときは、「北アメリカ大陸」などとし、誤解を避けた。
1〜10章を鉄道通史としたが、通史では車両の詳細を省くため、11〜16章を車両史とした。そのため、本書は縦糸と横糸を織ったようになったが、歴史的意義の特に大きな車両の記述は?〜?章でも必要に応じて、簡単に行ったので、若干の重複を生じた。
小文字の部分は説明的、派生的、補足的で関連したエピソード、日本との関係などである。そして、その部分は読まなくても前後の意味がほぼつながるように工夫した。略号は多くの章で使用するものは、目次の最後のviii頁に掲げたほか、使用する章で改めて説明した。文献は参考文献と引用文献を区別せずに、第1著者のabc・・・順、続いてアイウエオ順に掲げ、本文への引用は著者(年)で行った。図表の引用は、他書からは許可を得た上で、図表ごとに発表者名を、インターネットからはアドレスをクレジットとした。古い写真など、権利者が不明な場合、直接に引用した文献の著者(年)を掲げた。
年表は本文を重点化したため、なるべく網羅的とした。しかし説明の便宜上、バルチモア・アンド・オハイオ鉄道とアメリカ大陸横断鉄道関係の部分を分けて、内容も詳しくして、本文の当該部分に移し、巻末の年表には重要な点のみを再掲した。
本書の執筆には多くの団体、故人の支援を受けた。バルチモア・アンド・オハイオ鉄道博物館のジョン・マラント学芸員、ユニオン・パシフィック鉄道博物館のジョン・ブロムリー博士には諸々の教示を受けた。
杉田洋子さんには原稿整理で助けて戴いた。

平成19年8月
近藤 喜代太郎

【目次】
1章 鉄道以前のアメリカ
 1.独立前のアメリカ
 2.アメリカ合衆国の成立
 3.アメリカの人と社会
 4.独立前後の交通事情
 5.西部と「明白な運命」

2章 鉄道の誕生、特にバルチモア・アンド・オハイオ鉄道
 1.アメリカの鉄道の曙
 2.バルチモア・アンド・オハイオ鉄道の誕生
 3.その他の鉄道の誕生
 4.鉄道の利用
 5.鉄道に関する慣行、規則、規格の確立
 6.鉄道で変わり始めたアメリカ社会
 7.鉄道への反対

3章 熱狂期;ミシシッピ川までの鉄道の完成
 1.鉄道熱
 2.鉄道財政と土地供与法
 3.ゲージ
 4.鉄道時刻
 5.コンソリデーション−小鉄道の併合
 6.鉄道のインパクトとシカゴの興隆

4章 南北戦争と鉄道
 1.国家分裂の危機とリンカーン
 2.南北戦争の勃発
 3.南北戦争と鉄道
 4.リンカーン暗殺に斃れる

5章 アメリカ大陸横断鉄道
 1.セントラル・パシフィック鉄道
 2.ユニオン・パシフィック鉄道
 3.両鉄道の会合
 4.その他の大陸横断鉄道
 5.大陸横断の鉄道旅行

6章 国土建設期;相次ぐ鉄道の発展
 1.自動連結器と空気ブレーキ
 2.機関車の改良
 3.客車の改良
 4.鋼鉄の利用と折れない軌条
 5.その他の施設の改良
 6.鉄道旅行の快適性
 7.バルチモア・アンド・オハイオ鉄道と鉄道集約化

7章 国土建設期;鉄道の子 アメリカの社会
 1.生活の変革
 2.移民の輸送
 3.人種差別と鉄道
 4.農民相互扶助運動と鉄道
 5.頻発する鉄道スト
 6.資本悪と独占
 7.インディアン対策

8章 黄金期;規制、恐慌、世界大戦
 1.州際通商法と州際通商委員会
 2.シャーマン反トラスト法
 3.第1次世界大戦と鉄道の国家管理
 4.1929年の大恐慌から第2次世界大戦まで
 5.第2次世界大戦
 6.凋落へ続く道

9章 黄金期;良き追憶の時代
 1.絶頂に達した鉄道
 2.鉄道の競争者の出現
 3.鉄道の凋落の始まり

10章 再編期;鉄道の再生に向けて
 1.再編前の鉄道の到達した姿
 2.主な鉄道会社と特急サービス
 3.貨物運輸の合理化
 4.鉄道再編の大波
 5.アムトラック
 6.コンレール
 7.スタガー鉄道法と規制緩和

11章 アメリカの蒸気機関車展望
 1.軸配置
 2.テンダー
 3.蒸気
 4.関節式の台枠と複式シリンダー
 5.特殊な蒸気機関車

12章 鉄道創業期〜熱狂期の蒸気機関車
 1.最初に人を乗せて、アメリカを走った蒸気機関車
 2.創業期〜熱狂期の蒸気機関車
 3.蒸気機関車製造業の成立
 4.アメリカ型の完成

13章 アメリカ型の蒸気機関車とその仲間たち
 1.「アメリカ型」の成り立ちと特徴
 2.軸配置の異なる同系の蒸気機関車
 3.歴史に名をとどめた「アメリカ型」機関車
 4.最終モデルと推測すべき「アメリカ型」機関車
 5.フォーニー式蒸気機関車など

14章 近代的な蒸気機関車
 1.軸数の増加
 2.巨大な非関節式蒸気機関車
 3.マレー関節式の利用による蒸気機関車の大型化
 4.流線化
 5.蒸気機関車の終焉と保存

15章 その他の動力車
 1.都市域及び近隣都市間の電化
 2.電気機関車
 3.ディーゼル動車
 4.ディーゼル機関車、特にディーゼル電車機関車
 5.アメリカの「鉄道無煙化」

16章 客車と貨車
 1.バルチモア・アンド・オハイオ鉄道の最初の客車
 2.ワイナンの8輪客車
 3.その後の発展
 4.貨車


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カテゴリー:鉄道 タグ:歴史 鉄道 
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