巻末の付録における高層天気図等の掲載箇所に、必要に応じてスマートフォンなどを使用して最新の情報を得るために気象庁HPのQRコードを添付し、インターネット環境を利用した新しい学習方法を取り入れています。
本書は、四級海技士(航海)から三級海技士(航海)を目指す人たちの教材として、気象の基礎知識を平易に解説した旧書を全面改訂執筆したものであり、わかりやすい気象学の入門書としての性格を継承している。
今回の新訂版では、気象要素の解説を一章にまとめることにより、それらの関連性を理解しやすいようにするとともに、気象現象とのつながりを明確に理解できるような構成を考え記述した。また、難しい計算式などは極力排除することにより、気象学に対する抵抗感を無くしてもらうような解説を心がけた。
さらに、各章の中にさまざまな気象に関係するトピックを挿入することにより、より気象を身近に考えられるような内容とし、楽しく学べるようにした。高層天気図、FAX 図、気象衛星画像などは付録として巻末にまとめて記載することにより、内容を整理し学習しやすい構成としている。
今回の新訂版には、新しい試みとして巻末の付録における高層天気図等の掲載箇所に、必要に応じてスマートフォンなどを使用して最新の情報を得るために気象庁HPのQRコードを添付し、インターネット環境を利用した新しい学習方法を取り入れた。
本書の執筆に関しては、在職中に多くのご指導をいただいた海技大学校名誉教授福地章先生に感謝を申し上げるとともに、出版に向けてひとかたならぬお世話になった成山堂書店の皆様に、謹んで深甚の謝意を申し上げる。また参考にさせていただいた多くの書物の著者の方々及びHP からデータを利用させていただいた気象庁にも、感謝の意を表する。
乗客として船に乗ったとき、まず気になるのは波の様子です。波が高いと、これは酔いそうだな、と酔い止めを飲んだりしますが、よほど天気が荒れない限り、それ以上の心配はしないことがほとんどです。しかし乗組員の方々は海や空からもっと多くの情報を得て、運航に活かしています。波の高さや強さはもちろん、風の強さや風向、視界の様子、今後の予報等、目視や気象情報図、気象レーダーの画像等で天候・気象現象を確認しています。船舶関係者にとっては、気象情報は安全運航のために欠かせないものなのです。
また、WMOは世界中の船舶による気象観測情報提供を呼び掛けているので、登録して気象観測船となった船舶が、航行中に気象観測を行い、そのデータを提供しています。海上の気象データは、こうして日々集積され、解析されています。
新しく航海士を目指す方々も、海に出るためには気象の基礎を理解している必要があります。しかし膨大な学習科目の中、いきなり高度な専門書に挑むのは壁が高すぎるかもしれません。今回ご紹介する『基礎からわかる海洋気象』は、そんな初学者の方にぴったりな教科書です。気象の基礎の基礎から始め、海象の理解へ導きます。難しい数式はできるだけ使わず、写真や図表で直感的に理解できるように解説しています。各章の終わりには練習問題がついているので、理解がどこまで進んだか確認することもできます。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『基礎からわかる海洋気象』はこんな方におすすめ!
- 海技士を目指している方
- 海洋気象のやさしい参考書を探している方
- 学生を指導している方
『基礎からわかる海洋気象』から抜粋して3つご紹介
『基礎からわかる海洋気象』からいくつか抜粋してご紹介します。主に三級、四級海技士(航海)を目指す人向けに、海洋気象の基礎をやさしく解説します。できるだけ数式を使わず、気象の基本から始め、海象の理解を導きます。巻末には高層天気図等を記載し、気象庁HPのQRコードを添付しました。
霧とは
霧とは、空中に浮かんだ細かい水滴が視程を悪くしている状態で、水平視程が1km未満となったものをいいます。水平視程が1km以上10km未満の場合はもやと呼んで区別します。発生原因は以下のようなものです。
(1)冷却による飽和
冷却の原因としては、放射、伝導、混合がある
(2)水蒸気の補給による飽和
川・湖・海・湿った地表面、落下する雨滴からの蒸発等
(3)層雲の下方への拡散
逆転層の下に層雲が発達すると、下方へ拡散して地面に達することがある
《霧の種類》
発生原因や発生場所などにもとづいて、霧には名称がつけられています。
(1)冷却による霧
① 移流霧
暖かく湿った空気が冷たい地表面へ移動し、下層から冷却されて飽和し発生する。海上にできる霧の代表的なもの。発生条件は、風力2~3の風が暖気を寒冷な地表面(海面)へ運ぶ方向に吹き、両者の温度差が数度以上あること
② 放射霧
放射冷却により、地表面に接している大気が熱を奪われ飽和となり発生するもの。陸上で発生する典型的な霧。寒候期の内陸部に多く見られる。発生条件は、風が弱く空が晴れていて放射冷却が起こりやすく、地面が湿っていること
③ 滑昇霧
山の風上側斜面を滑昇する空気が、断熱膨張により冷却されて飽和となり発生するもの
(2)蒸発による霧
① 蒸発霧(蒸気霧)
低温な海面の上に非常に低温の空気が流れてくると、水面から盛んに蒸発が行われるが、空気の温度が非常に低いため、蒸発した水蒸気は直ちに飽和となり霧が発生する。発生条件は、海水と空気の温度差が7〜8℃以上あること
② 前線霧
温暖前線などの通過時によく見られる霧で、前線の下にある寒気中を落下する雨滴から蒸発が起こり、空気が飽和となって発生する
(3)その他の霧
① 混合霧
飽和近くなっている2つの気温の異なる空気が混合し、その中間の気温で飽和になった場合に発生するもの
② 逆転霧
逆転層の下方にある層雲が発達した場合、下方へ拡散することになり、地面に達したもの
《航海と霧》
霧は航海の安全を阻害する大きな原因のひとつですが、発生の状況が複雑なため、特定の場所での発生予測は困難です。しかし主な発生海域や発生時期に関しては、傾向を知ることができます。
(1)日本近海の霧
・3月~7月、黄海および中国沿岸、台湾海峡周辺から次第に北上する移流霧
・4月~8月(最盛期は7月)、日本海北部、ピョートル大帝湾から沿海州に発生する移流霧
・5月~9月(7月最盛期)、三陸沖親潮流域、オホーツク海に発生する移流霧、前線霧
・3月~7月、瀬戸内海に発生する移流霧、放射霧、前線霧
(2)世界の主な霧
・4月~8月、ニューファンドランド沖に発生する移流霧
・6月~10月の北米西岸、カリフォルニア沿岸では年間を通して発生する移流霧
・南米西岸で発生する移流霧
・南米東岸で年間を通して発生する移流霧
・アフリカ北西岸、アフリカ南西岸で発生する移流霧
・春から初夏、北海、バルト海で発生する移流霧
・北極海、寒帯の水面、五大湖、北海で発生する蒸発霧
視界の悪さは、船の運航に大きな悪影響を及ぼします。1955年、瀬戸内海の霧が原因で起こった連絡船「紫雲丸」の海難事故は、修学旅行の生徒など多数が犠牲になる悲惨なものでした。これをきっかけに、瀬戸大橋建設の機運が高まっていきました。
前線
《前線の発生》
前線は、性質の異なった2つの気団(空気の塊)が接してできるものです。前線を境に気温・湿度が、前線の前後では風向・風速・雲・降水・視程が大きく変化します。
寒気団と暖気団の2つが接している場合を考えてみましょう。暖気団は上に、寒気団は下に広がるため、この面は地表面に対して斜めに傾き、地表面と交わる線が地上の前線となります。
前線が発生するためには、前線面の両方の気団から空気が吹き寄せて、温度と湿度の差が顕著になる必要があります。
《前線の種類》
前線の種類には、それを構成している気団の種類によるもの(地理的分類)と、気団の運動の方向によるものが考えられます。
A:地理的分類
① 北極前線
北極気団と寒帯気団の間に形成される前線。寒気団同士のため、大きな気象現象は起こらない
② 寒帯前線
寒帯気団と熱帯気団の間にできる前線。温度の差が大きく、前線上には温帯低気圧が発生しやすい。前線の位置は季節的に大きく変化し、夏は北上し、冬は南下する
③ 赤道気団
気団によってではなく、気流の収束によってつくられる。熱帯収束帯と呼ばれる
B:気団の運動方向による分類
(1)停滞前線
ほとんど移動しないか、移動速度が低速(時速10km程度以下)の前線。北の寒気団と南の暖気団の間で、暖気の方が優勢なため寒気の上に暖気が登って発生し、東西に延びる。前線の傾斜は緩やか
① 気圧:前線を中心に南北に緩やかに気圧が上がっている
② 風向:前線にほぼ平行に、南側で西または南西、北側で東または北東の風が吹く
③ 降水:前線の北側に雨域が広がり、しとしと降る。前線の南側は天気が良い
④ 雲:巻雲→高層雲→乱層雲と続く層状の雲が前線の北側に広がる
⑤ その他:梅雨前線、秋雨前線などと呼ばれ、ぐずついた天気が続く
停滞前線が何らかの力を受けて波動を起こすと、前線が屈曲した場所に温帯低気圧が発生します。その場合、停滞前線の東側が温暖前線、西側が寒冷前線となります。
(2)温暖前線
温帯低気圧の中心から南東側に延び、暖気が寒気の上にのし上がって進む前線。前線面の傾斜が停滞前線より緩やかなため暖気の上昇も緩く、層雲状の雲が発生する
① 気圧:前線が近づくにつれ徐々に低下し、 前線が通過するとほぼ一定になる
② 風向:前線が通過するまでは南東(北半球の場合)であるが、前線が通過すると南西に変わる
③ 気温:前線が通過すると上昇する
④ 雲:巻層雲→高層雲→乱層雲と続く層状の雲が、前線接近とともに厚さを増す
⑤ 降水:前線の前方300~500km付近からしとしと雨が降り降り始める
(3)寒冷前線
温帯低気圧の中心から南西側に延び、寒気が暖気の下にもぐり込みながら進む前線。前線面の傾斜は急で、寒気が暖気をすくい上げるため上昇気流が発生し積雲状の雲が発生する
① 気圧:前線が通過するまではほぼ一定。通過する直前に下降、通過後急上昇する
② 風向:前線が通過するまでは南西(北半球)、通過とともに北西に急変
③ 気温:前線の通過とともに急速に低下
④ 雲:前線の前方300kmあたりで高積雲や層積雲が現れ、50km前方で積雲と積乱雲が押し寄せる
⑤ 降水:ザーと降る雨で、降水域は前線の前後50km程度の範囲
(4)閉塞前線
寒冷前線が温暖前線に追いついて形成される前線。暖気の押し上げが顕著になり、風雨が激しくなる。閉塞の仕方により、温暖型と寒冷型の2種類がある
① 寒冷型閉塞前線
温暖前線の前方にあった寒気の温度より、寒冷前線の後方から追いついた寒気の温度の方が低い場合、寒冷前線が温暖前線の下に潜り込む形でできる。温暖前線が上空にすくい上げられ上空の前線となり、地上には寒冷前線が残る
② 温暖型閉塞前線
温暖前線の前方にあった寒気の温度よりも、寒冷前線の後方から追いついた寒気の温度の方が高い場合、寒冷前線が温暖前線の上にのし上がってできる。寒冷前線が温暖前線を這い上がって上空の前線となり、 地上には温暖前線が残る
C:その他の前線
前線に類似なものあるいは二次的に生じたもので、疑似前線とも呼ばれる
① 不安定線またはスコールライン
寒冷前線の前方の暖気内に現れ、悪天候を伴った強い収束線。帯状に積乱雲が並び、雷雨や突風が発生する。上空の寒気が寒冷前線の前方に吹きおり、温暖多湿な地表面の空気との間に強い収束をつくるために生じる。半日ないし1日で消滅するため、予測が難しい
② 二次前線
寒冷前線の後方の寒気団内に生ずる二次的な前線で、二次寒冷前線とも呼ばれる。 寒冷前線の後面の寒気が暖められたところに後方から新たに寒気が侵入し、寒気同士の温度差が顕著になると、 二次寒冷前線ができる
スコールラインの項目で、「積乱雲が帯状に並ぶ」という表記を見て、おや、と思いました。これは線状降水帯ではないでしょうか?しかし、スコールラインでは激しい雨が長く続くことはありません。広義の線状降水帯とみることはできますが、下層の風と中層の風向きが逆になっていて、雲の帯は風に押されてずれていくためです。詳しくは当社刊『線状降水帯』をご参照ください。
波浪
(1)波の基本的性質
海面の波はさまざまな大きさと形で現れます。波の観測や表現には次の要素が用いられます。
① 波長(L)
波の山から山または谷から谷までの水平距離
② 波高(H)
波の山から谷までの鉛直距離
③ 波の周期(T)
ある点を波の山(または谷)が通過してから次の山(または谷)が通過するまでの時間
④ 波速(C)
波の山または谷が進む速さ。C=L/T
⑤ 波の向き
波の進んでくる方向
⑥ 波のけわしさ(δ)
波長(L)と波高(H)の比。δ=H/L
海面の波は、海水の運動が次々と伝わっていくもので、海水が動いているのではなく水の粒子がその場で回転しているものと考えられます。その回転は深い海で円運動、浅い海で楕円運動を描いています。
(2)重力波
波にはさまざまな大きさがあり、小さいものでは表面張力波(さざ波)から、大きなものでは月や太陽の引力で起こる潮汐波、地震による津波等があります。表面張力波より大きく重力を復元力とする波を重力波といい、風浪、うねり、船の起こす波がこれにあたります。波の進行速度は、水深(h)によって影響を受け、その波長との関係から深海波と浅海波に分けることができます。
① 深海波
水深(h)が波長(L)の1/2より大きい場合、水粒子はほぼ円軌道を描く。このような波を深海波または表面波という。外洋の波は大体深海波になる。この波は波長の平方根または波の周期に比例した速度で進み、波長が長い(大きな)波は速く、波長が短い波は遅い
② 浅海波
水深(h)が波長(L)の1/25より小さい場合、水粒子は海底の影響を強く受け扁平な楕円軌道を描く。このような波を浅海波と呼ぶ。この波は水深のみに影響され、水深が浅くなるほど波の速度は遅くなる。水深が次第に浅くなる場合、前方の波は水深が浅いので遅く、後方から打ち寄せる波は速いことから、波形がくずれ砕け波となる
(3)風浪
海上で風によって直接起こされて波を風浪といい、発生域から離れて規則的な波となったうねりと区別されています。 風浪は、波高・波長・波の周期・波の向き等の異なったさまざまな波で構成され、複雑で不規則です。
風浪の特性を表すためにさまざまな表現法が用いられますが、最もよく用いられているのが、有義波という概念です。有義波とは、観測された波のうち波高の高い方から全体の1/3までを取り出し、波高と周期を平均したものです。このほか、全部の波高を平均した平均波高、最も頻繁に現れる波高といったものも用いられます。
風浪が発達する場合、風速、吹走距離(一定の風が吹き続ける海面の風上側の距離)、吹続時間(一定の風速の風が吹き続ける時間)の3つの要素が関係しています。この中のどれが欠けても波は十分に発達しません。
(4)うねり
風浪が発生域を離れて伝わってきたものや、風が急におさまった後に残っている波をうねりといいます。規則的でなめらかな形状が特徴です。水深の浅い海岸付近では海底の影響を受けて波が高くなりやすいという性質を持っている(浅水変形)ため、防波堤付近を航行する船舶は特に注意が必要です。
(5)風浪とうねりの観測
海上で気象観測をするとき、風浪とうねりは区別して観測します。目視観測する場合には次のような注意が必要です。
① 波の向き
風浪の場合、波の向きは風向とほとんど一致している。船から離れた場所の波頂線に直角な方向を、コンパスを用いて読み取る
②波の周期
船から離れたところの水面の泡や浮遊物を利用し、波の山が通過して次の波の山がくるまでの時間を、ストップウォッチで測る
③ 波高
波が小さい場合にはできるだけ低い位置で、波がくる側の舷で、波の谷と山の距離を舷窓などの大きさを参考にして測る。波が大きい場合は、船が波の谷で垂直になっている時に、波の山を水平に見渡す場所を探せば、その場所の水面上の高さが波高と等しい
④ 波浪図
気象庁から放送される波浪図には、外洋波浪図と沿岸波浪図がある。どちらも風浪とうねりの波高は有義波高で表される
波が発生した場所から遠くへ伝わると、うねりと呼ばれます。代表的なものに「土用波」があります。夏の土用の時期に数千km南方の台風周辺で発生した波が、日本沿岸まで伝わってきたものです。非常に速いため、原因となった台風より早く沿岸に到達することがあるので、台風接近を知ることができます。
『基礎からわかる海洋気象』内容紹介まとめ
海技士になるなら、必ず理解しておかなければならない海洋気象。しかし、海の現象だけでなく、気象全体の理解がなければ、現場で活かせる根本的な知識にはなりません。気象の基礎から始め、気象の要素、気団と前線、低気圧と高気圧等の基礎を固めてから、波、潮汐、海流といった海象の理解を導きます。
『基礎からわかる海洋気象』を購入する
公式ECサイトで購入する
Amazonで購入する
海の気象、空の気象 おすすめ3選
・
『海洋気象講座』
現役パイロットが、航空気象を解説します。航空機を操縦する、空港で発着陸を行う場面で出会う様々な気象現象に対処する力を、気象の基礎から身につけます。気象学に加えて飛行の現場で使うMETARやTAFまで、効率よく学べます。
・
『図解 パイロットに必要な航空気象』
現役パイロットが、航空気象を解説します。航空機を操縦する、空港で発着陸を行う場面で出会う様々な気象現象に対処する力を、気象の基礎から身につけます。気象学に加えて飛行の現場で使うMETARやTAFまで、効率よく学べます。
・
『よくわかる高層気象の知識』
気象現象を理解するには、大気の動きを立体的にとらえる必要があります。地上の気象現象を知るにも、高層気象が重要なのです。近年、高層の観測が進んだこともあり、天気予報の精度が格段と高まりました。高層気象について、効率よく学べる一冊です。後半ではJMH図について、様々な気象図を使って解説します。