日本の伝統食品として親しまれてきたかまぼこ。その歴史は古く、300年前の元禄時代には、板つきのかまぼこが料理の一品として作られていたといいます。干物や塩魚などと違って、魚を保存するためではなく,魚を美味しく食べるための手段として始まったかまぼこは、昨今では海外においてもsurimiとして愛好されており、国際的な食品にもなっています。その製造技術は一見シンプルに見えながらも、実に複雑かつ奥深いものがあります。
本書は、かまぼこ発達の流れ、種類、おもな生産地、栄養価などの基礎知識を紹介するとともに、原料魚や冷凍すり身、かまぼこの足、副原料、添加物、保存方法などについて、豊富なデータで科学的に分析・紹介しています。
また、原料魚の保管の仕方から魚の調理、採肉、らい潰、成型、加熱、冷却、包装、排水処理にいたるまで、機械の取扱いや、各作業での注意点にも触れ、かまぼこづくりの工程を、現場レベルで実務的に解説しています。さらに、魚肉ねり製品の食品衛生規格・基準・表示や、JAS法、製造物責任法(PL法)、技能検定制度、水質汚濁防止法、食品添加物、総合衛生管理、HACCPによる衛生管理、健康増進法などの法規制についても紹介しています。
著者は、魚肉たんぱく組成研究の草分け的存在。かまぼこづくりの全容を概説した本書は、かまぼこ製造に携わる技術者や業界関係者、水産食品研究者、水産・食品系の学生に必携の書です。
◆かまぼこにまつわる法律-魚肉ねり製品の食品衛生規格・基準・表示や、JAS法、製造物責任(PL)法、技能検定制度、水質汚濁防止法、食品添加物、総合衛生管理、HACCPによる衛生管理、健康増進法-などについて最新の情報を詳解!
かまぼこ、お好きですか?魚があまり得意でなくても、カニカマやちくわ、魚肉ソーセージなどは食べるという方も多いのではないでしょうか。お正月が近づくと高級品が入荷して突然値段が上がるので、スーパーの棚がお正月仕様になる前に買い込むという方もいらっしゃるでしょう。普段の食卓でも、板わさや射込みちくわなどは簡単で気の利いたおつまみになりますね。
以前かまぼこを自分で作ってみたことがあります。タラの切り身を買ってきてすり潰し、塩や卵白などを混ぜて板にのせて蒸してみたのですが、あの独特のプリッとした弾力と歯応えがうまく出せませんでした。この弾力こそが、かまぼこの大きな特徴です。食感の秘密はどこにあるのでしょう?原料、製法、添加物?
今回ご紹介する『かまぼこの科学』は、水産加工食品の専門書です。読んでみると、もちろんこの答えが書いてあります。原料や製法だけではなく、かまぼこという製品の奥深さや、伝統食品であったかまぼこの変化や海外進出していく経緯、広がる商品バリエーション、時代に合わせて変わる関係法令など、様々な知識を得ることができます。水産加工食品を専門に研究される方には、魚肉ねり製品の基本から応用までを網羅した最適な解説書ですが、食に興味のある一般の方にも読んで面白い本だと思います。
かまぼこの秘密を知ったら、かまぼこの歯応えをより新鮮に感じたり、夕食のサラダに乗っているカニカマの造形美に魅せられたりするかもしれません。知って美味しいかまぼこの世界を覗いてみませんか?
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『新訂 かまぼこの科学』はこんな方におすすめ!
- 水産加工食品について学ぶ方
- 食品製造業の方
- かまぼこが好きな方
『新訂 かまぼこの科学』から抜粋して3つご紹介
『かまぼこの科学』から幾つか抜粋してご紹介します。最初にかまぼこという製品の基本について述べ、原料魚とかまぼこの種類、製法、かまぼこの「足」、副原料や添加物、保存法について解説します。最後にかまぼこに関わる法律を紹介します。かまぼこをはじめとしたねり製品について包括的に学べる、入門者に好適なテキストです。
かまぼこ入門
かまぼこは日本の代表的な伝統水産食品で、弾力の強い特徴的な食感をもっています。魚の肉を食塩やその他の副原料と一緒にすりつぶして作ります。かまぼこは外国でも知られており、kamaboko、surimi、surimi seafood等の名前で呼ばれています。特にカニ風味かまぼこは今や国際的食品になっています。
かまぼこは魚から肉だけを取りだして加工して作るので、魚の生臭さを取り除くことができ、色や風味、形も自由に整えられます。加熱するので日持ちも良くなります。様々な理由でそのままでは食卓に上りにくい魚も、かまぼこに加工すれば美味しく食べられます。水産資源の有効利用の面から見て、かまぼこは魚を食用として活用するための非常に優れた手段なのです。
かまぼこ等のねり製品の生産量が多いのは、宮城県、新潟県、山口県、兵庫県、愛知県、東京都です。かまぼこの消費量上位は、西日本の都市がほとんどを占めています。揚げかまぼこの消費は鹿児島がトップで、四国、関西圏が続きます。ちくわは鳥取が特に多く、かまぼこは笹かまぼこで有名な仙台が1位で、富山、長崎、松江などでも多く食べられています。
《かまぼこの分類》
かまぼこは、農林水産省では「ねり製品」、厚生省では「魚肉ねり製品」と呼ばれています。農林水産省では、ねり製品を焼きちくわ、かまぼこ類、魚肉ソーセージ・ハム類に分けています。ここでは、魚肉ハム・ソーセージ以外のねり製品を広い意味でのかまぼこと呼ぶこととします。
《伝統かまぼこ》
かまぼこは全国各地で前浜の魚を利用して作られてきたので、土地ごとに特有の製品が発達しました。伝統製品は現在でも多数残っていますが、地魚の漁獲量が減ったことで、主原料がスケソウダラ冷凍すり身に変わりつつあります。
板付けかまぼこ:蒸しかまぼこ(小田原)、焼きかまぼこ(京阪神)、白焼き抜きかまぼこ(宇和島)
板のないかまぼこ:昆布巻きかまぼこ(富山)、簀巻き(中国四国)
型入れかまぼこ:南蛮焼き(紀州田辺)
ゆでかまぼこ:浮きはんぺん(東京)、黒はんぺん(静岡)
焼きちくわ:豊橋ちくわ、野焼き(出雲)、大ちくわ(長崎)、笹かまぼこ(仙台)
揚げかまぼこ:大阪の白てん(大阪)、じゃこ天(宇和島)、つけ揚げ(鹿児島)
《新顔の製品》
魚肉ハム・ソーセージは1950年代に登場し、洋風の風味と常温保存が可能な貯蔵性が評価されて生産が爆発的に伸び、今でも年間7万トンの生産があります。
カニ風味かまぼこは1975年頃から生産が伸び始め、海外にも輸出されて日本のかまぼこを国際的に普及させる原動力になりました。カニ風味かまぼこの作り方には2つの方式があります。
・大型かまぼこを繊維状に刻む(石川県:スギヨ)
・シート状のかまぼこに多数の縦線を付けて巻き込む(広島県:大崎水産)
このほか、ホタテ風味かまぼこ、エビ風味かまぼこなどがあります。
ひと口にかまぼこといっても、様々な種類がありますね。カニ風味かまぼこはアメリカでも大人気だそうです。仙台の笹かまぼこは、実は製法で分類するとちくわの仲間になります。
北陸出身の私(担当M)は、富山の巨大な鯛の形のかまぼこを覚えています。これは結婚式の伝統的な引き出物で、子どもの頃はとても楽しみにしていました。
主な原料魚
かまぼこの工業生産が始まってから100年の間に、原料魚事情は大きく変化しました。明治時代まではその土地の漁獲物を用いていましたが、大正以降底引き網漁業が発達し、黄海や東シナ海以西の底引き網漁獲物のうち、鮮魚としての価値の低いグチ類やエソなどがかまぼこ原料となり、急速にその重要性を増しました。冷凍すり身製造技術の開発により、北太平洋、ベーリング海からのスケソウダラ冷凍すり身は短期間で全国的に普及し、かまぼこ産業が大発展します。その後、南半球のホキ、ミナミダラなど新しい原料魚が開発されました。タイ、インドなどから温熱帯地方の魚の冷凍すり身の輸入が始まり、かまぼこ原料魚の多様化が進んでいます。
《タラ科の魚》
北半球の高緯度の海ではスケソウダラ、南半球のニュージーランド、アルゼンチン周辺の海ではホキやミナミダラなど、冷水性のタラ目に属する重要なかまぼこ原料魚が漁獲されます。高緯度の海の底引き網漁業では、同一種類の形のそろった魚が大量に漁獲されるため、調理機械などを導入して工船や大型陸上工場で冷凍すり身の大規模生産が行われます。
スケソウダラ:日本海、西北太平洋、ベーリング海だけに棲息します。日本だけではなく世界的に見ても、スケソウダラは冷凍すり身の原料魚として最大の資源です。底引き網のほか、刺し網や延縄でも獲られています。
旨味はありませんが肉色が非常に白く、鮮度の良い場合には足形成力が高いのですが、鮮度が低下すると不快臭を放ち、急速にかまぼこ形成力が低下します。冷凍するとタンパク質が変性し、かまほこ原料にならなくなってしまうので、スケソウダラ冷凍すり身の等級は原料魚の鮮度で決められます。
スケソウダラはきわめて坐りやすく戻りやすい魚です。スケソウダラの筋肉タンパク質は熱に対して非常に不安定なのです。冷凍すり身の製造中でも、解凍してかまぼこを作るときでも、肉温度が15℃以上に上がらないよう厳密に温度管理しなければなりません。
ミナミダラ:南半球で唯一のタラ科の魚です。パタゴニア海、南米の南部や、ニュージーランド南部の大陸棚等に棲息し、底引き網で漁獲されます。スケソウダラほど肉色は白くないものの、旨味があります。かまぼこ形成力はきわめて高く、坐りをとらないで直接加熱しても弾力性の高いかまぼこができます。
ブルーホワイティング:ノルウェーからアイルランド沖の大西洋に分布する小型のタラ科の魚で、底引き網で漁獲されます。肉色が白く優れたかまぼこ形成力をもち、足の強いしなやかなかまぼこが作れます。フランスのカニ風味かまぼこの重要な原料となっています。
かまぼこの原料といったらスケソウダラかサメかと思いきや、実際には様々な魚が使われています。マグロやハモ、タチウオといった高級魚もかまぼこの原料となっています。この項で出てくる「坐り」「戻り」という言葉は、「足」の項に詳しい解説があります。加熱の温度帯によって、すり身の弾力が増したり逆にぼろぼろになったりと、状態が変化するのです。かまぼこの加熱の過程にも、食感の秘密が隠れています。
加熱方法
成形の終わった塩ずり身は、製品の種類によってそれぞれの方法で加熱されます。最初の方法はあぶり焼きでしたが、時代が下がるにつれて、蒸し、湯煮、油揚げの方法が加わりました。さらに焼き板かまぼこのように、違った加熱方法を組み合わせることも多くなりました。伝統的な加熱法に加えて、ジュール熱加熱、マイクロ波加熱法やレトルトを使った高温短時間加熱法が新しく利用されています。
《あぶり焼き》
あぶり焼きすると、かまぼこに焼き色がつき、焼いた香気で独特の色調風味のある製品になります。加熱中にかなりの水分が飛ぶので、味も濃くなります。
熱源は炭火、電熱、ガス加熱に続き、赤外線ランプや遠赤外線を放射するセラミックヒーターなどを使った新しいあぶり焼き加熱装置が開発されました。
《蒸し加熱》
蒸し加熱は板付けかまぼこによく使われます。蒸し加熱では製品が焦げる心配がなく、あぶり焼きより加熱管理が容易です。
無でん粉かまぼこは気泡ができやすいので90℃以下で加熱します。
《揚げ加熱》
揚げかまぼこは160〜200℃の高温の油の中で加熱します。揚げ油としては、大豆白しめ油、菜種油をよく使います。揚げ色と独特の香り、風味が付き、かなりの水分が蒸発するので旨味成分が濃縮されます。
揚げ色でかまぼこの肉色も隠せる上、急速加熱できるので、足形成力が弱く色の白くない原料魚を利用するのに向いています。
《湯煮加熱》
浮きはんぺんやつみれなどは、熱湯中に漬けて加熱します。湯煮加熱は、身が柔らかくて変形しやすい製品を加熱するのに向いています。
加熱不足や旨み成分の流出が起こらないよう、製品の浸漬状態や加熱時間に注意が必要です。
《レトルト加熱》
魚肉ソーセージの加熱はレトルト加熱で行われています。普通のレトルト(高圧釜)では加熱時間がかかり品質が損なわれてしまうため、HTST(高温短時間)加熱し、加圧しながら急速冷却する方法が使われます。
通常のかまぼこにはレトルト加熱は利用しにくいのですが、中心温度を100℃以下に抑えて短時間加熱すれば、品質低下を抑えて足の強いかまぼこが作れます。
《ジュール熱加熱》
成形した塩ずり肉の両端に電極を当てて交流電流を流すと、電気抵抗熱が発生して加熱されます。このジュール熱加熱は熱効率が良く、塩ずり身の内部に電流が流れるので、かまぼこの大きさに関係なく表面も内部も均一に加熱できます。戻り温度帯を短時間で通過できるので、イワシなど弱足魚からも足の強いかまぼこが作れます。
かまぼこ板は電気を通さないので、ジュール加熱した板付けかまぼこは、さらに蒸気加熱して板を加熱殺菌しなければなりません。
《マイクロ波加熱》
マイクロ波を使う誘電加熱法も、食品を内部から急速加熱できます。マイクロ波加熱はかまぼこの足を強くしますが、一方で加熱条件の設定が難しく加熱むらも大きいため、主に坐り促進などの予備加熱に使われています。
「感電」して作られるかまぼこがあるとは知りませんでした。様々な製造法があり、それぞれ一長一短がありますが、原料魚の個性に合わせた加熱方法が選ばれています。カニカマは、電極の上に濡らした布ベルトを被せ、その上にすり身を薄い帯状に押し出して加熱するそうです。
『新訂 かまぼこの科学』内容紹介まとめ
かまぼこのルーツや発達史、種類や生産地といった基礎知識を紹介し、実践編として原材料やすり身、製法とかまぼこの「足」、副原料、添加物、保存法について解説します。かまぼこに関わる法律も詳細解説しました。かまぼこについて包括的に学べるテキストです。
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