著者名: | 竹野弘之 著 |
ISBN: | 978-4-425-77161-5 |
発行年月日: | 2008/12/8 |
サイズ/頁数: | 四六判 290頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥1,980円(税込) |
歴史への招待状
クルーズ客船史、豪華300頁の旅!
・約150枚におよぶ豊富な船の写真と、客船史研究の第一人者による明解な解説!
・戦争や海難事故、船会社の熾烈な争いなど、客船史にまつわるドラマティックな出来事も多数収録。
・船に関する緻密なデータ(トン数、造船所、船会社の変遷など)を満載!
・資料的価値が高く、客船史の初学者や船会社の社員教育にも最適な一冊。
19世紀、欧米では大西洋航路を最速で横断した船に贈られる「ブルー・リボン」獲得のため、有力船主による壮烈なスピード競争が繰り広げられていました。航海速力を重視する客船は、高価な重油燃料を無制限に焚くため、実に不経済でした。
このような時代に、豪華な内装や客室を兼ね備え、食事やサービスなどを最大限に高め、世界最高級の豪華客船として誕生した「タイタニック」。処女航海で氷山に衝突し、1500人以上の犠牲者を出す大惨事を起こしたことで有名ですが、客船史上、「タイタニック」は沈没しなくても、歴史に残る船でした。
「タイタニック」の真の歴史的意義とは、不経済な速力競争をするブルー・リボン争奪戦に参入するためではなく、ゆったりと快適な船の旅に重点を置き、「クルーズ船」の原点ともいえる船として登場したことです。
沈没後、安全基準が抜本的に見直され、SOLAS(国際海上人命安全条約)が制定される契機にもなりました。欧米の客船史に新たな1ページを開いた船だったのです。 本書は、「タイタニック」とほぼ同サイズかつ同速力であり、日本が世界に誇る豪華クルーズ船「飛鳥?」に至るまでの客船・クルーズ船の歴史的変遷を、約150枚の豊富な船の写真とともに解説したものです。歴史を動かした人物や、戦争、事件、海難事故など、ドラマティックな出来事の写真も多数収録。船に関する緻密なデータも満載です。
客船史研究の第一人者である日本郵船歴史博物館顧問・竹野弘之氏による、明解な解説と緻密な分析は、客船ファンを魅了するだけでなく、研究者をも唸らせる“濃い”内容がつまっています。
欧米のクルーズ船の歴史に的を絞って書くという、日本で初めての試みである本書は、一般的な「客船史」とは一線を画すものです。万人に一読をお薦めしたい一冊です。
【はじめに】より
19世紀末、アメリカ最大の財閥となったJ・P・モルガンが、1902年に英米の有力船主8社を買収して結成した巨大客船会社のIMM(インタナショナル・マーカンタイル・マリン社)は、第一次世界大戦前の1912年に世界最大の画期的な豪華客船を建造し、子会社の英ホワイト・スター・ラインに運航させることにした。これが処女航海で氷山に衝突して沈没した「タイタニック」(英国籍、4万6329総トン、最高速力22ノット、旅客定員2602名)であった。同船は、1500人以上の犠牲者を出す大惨事を起こしたことで有名になったが、同船の本当の歴史的意義は、実は不経済な速力競争を断念して、飛躍的に改良した内装や客室設備に加え、食事などのサービスも格段に改善した世界最高級の豪華客船であった点に求められる。しかも、その大事故が結果的に客船の安全基準の抜本的見直しを促し、SOLAS(国際海上人命安全条約、1929年成立)制定の契機となり、欧米の客船の歴史に新しい一頁を開いたのである。
その後、北大西洋客船のドル箱であった北米への移民(3等客船)が、第一次世界大戦後実施されたアメリカの厳しい移民制限により激減した上、1929年の大恐慌に始まる世界的不況が長期化したため、北大西洋航路を営む英キュナード、仏CGT、イタリア・ライン、北独ロイド、ハパグなどの欧州主要船主が軒並み経営不振に落ちいった。そして、それらの船主が次々に国有化された1930年代に、客船史上最大のサイズと最高級の豪華性を兼備した「ノルマンディー」(8万3423総トン、フランスが国家予算で建造、CGT保有)や「クィーン・メァリー」(8万1235総トン、キュナードとホワイト・スターの合併を条件とする英政府の財政融資で建造)などが誕生した。
ところで、太平洋戦争勃発直前の1941年秋に、最後の対米平和交渉のため、東京からワシントンに赴いた来栖三郎特命遣米大使は、アメリカの対日禁輸と在米資産凍結の結果、「浅間丸」、「エムプレス・オブ・ジャパン」など。北太平洋航路の客船がすべて休航となっていたため、結局左記のルートで渡米したことが知られている。
横須賀/台湾(海軍渡洋爆撃機)、台湾/マカオ(同水上機)、マカオ/香港(夜行旅客船)、香港/マニラ(米小型民間機)、マニラ/グアム/ウエーキ・ミッドウェー/ホノルル(パン・アメリカン航空定期便・ボーイングB314飛行艇「チャイナ・クリッパー」)、ホノルル/サンフランシスコ(同「カルフォルニア・クリッパー」)、サンフランシスコ/シカゴ/ニューヨーク(国内線/ボーイングB307「ストラト・ライナー」)、ニューヨーク/ワシントン(シャトル小型民間機)。
すなわち、アメリカで開発された航続距離の長い新鋭飛行艇を使用して、1935年に米領フィリピンへの航空路を創設したパンナムの定期便が、来栖大使にとり唯一の渡航手段であったが、有視界飛行、給油および機体整備のため、途中で何度も何度も着氷したので、ワシントンにつくまでにまる10日の日時を要した。しかし、これが戦後大きく発展する航空路の羽田/サンフランシスコ線の先駆けであった。
大西洋の横断渡航に、ニューファンドランド/アイルランド間の1900浬を無着陸で飛べるダグラスDC4などの新鋭旅客機が登場したのは、第二次大戦直後の1945年であったが、ダグラスDC7C「セブンシーズ」、ロッキードL1649「スターライナー」など4000浬以上の航続距離をもつ大型プロペラ機が、欧米間の航空路で本格的に活躍を始めたのは、1956年以降のことであった。一方、北大西洋の定期航路では、1952年に不滅のブルーリボン最速記録を樹立して、最後の米豪華客船となった「ユナイテッド・ステーツ」(5万3329総トン、速力35ノット)が生まれた。
しかし、長距離爆撃機のB47「ストラトジェット」を旅客機に改造したボーイングB707やダグラスDC8などの大型ジェット機が就航を始めた1958年に、北大西洋の往復渡航客数で、航空客が史上初めて客船を上回って以来、客船の乗客は逓減の一途をたどり、欧米間の渡航客の9割以上が空に移った1967年には「クィーン・メァリー」も引退を余儀なくされた。
最後の「オーシャン・ライナー」(遠洋定期航路の大型客船)となった「ロッテルダム」(3万8645総トン、1959年竣工)、「フランス」(6万6348総トン、1961年竣工)、「クィーン・エリザベス2」(6万5863総トン、1966年竣工)などの有名客船も、北大西洋定期航路から一斉に撤退した。そして、欧米間の渡航客の97%が、ボーイングB747「ジャンボ」などの大型ジェット機に移った1970年は、キュナードが1840年に史上初めて汽船による大西洋横断定期航路を創設してから、ちょうど130年後であった。
一方、その1970年前後から、クルーズ船に変身した前記3隻の客船とは別に、北欧船主などが北米市場を対象として、クルーズ専用の新造船を投入し始めた。そして約20年を経て、7万トン級、標準旅客定員2000人の大型クルーズ船が続々誕生し始めた1990年に、日本郵船の発注で三菱重工が建造した「クリスタル・ハーモニー」(バハマ籍、4万9400総トン、最高速力22ノット、旅客定員1等級960名)が誕生したのであった。
同船は、大衆市場を対象とする大型クルーズ船と根本的に異なり、北米の有閑・富裕層に的を絞った豪華客船で、客船1人当たりのスペースが世界最大の贅沢さと、乗組員1人当たりの船客数が2人以下の行き届いたサービスが売り物で、1995年にアメリカの高級旅行雑誌で、「世界最高級のクルーズ船」と各づけされた。
その「クリスタル・ハーモニー」が2006年3月に日本に移籍され、大浴場(男女別グランド・スパ)などを増設する改造工事を施し、船名を改称したのが「飛鳥?」で、日本最大かつ最高級のクルーズ船として現在なお稼働中である。
本書は、ほぼ同サイズかつ同速力で、それぞれ異なった革新的意義を持つ豪華客船の「タイタニック」から「飛鳥?」に至る、「オーシャン・ライナー」から「クルーズ船」への歴史的変遷の過程を、包括的かつ実証的に論述することを主眼とした。ただ、一般の「客船史」とは異なり、「オーシャン・ライナー」の栄枯盛衰に関する叙述は、これを最小限度に留め、19世紀に始まる「クルーズ船」の歴史を、体系的かつ詳細に分析することに重点を置いた。
これは、日本で初めての試みでもあり、クルーズ業界や造船業界で活躍中の方々をはじめ、客船愛好家の皆様の忌憚なき御批判を仰ぎたい。
2008年11月
竹野弘之
【目次】
序章
1 「客船」と「クルーズ船」の違い
2 「氷川丸」から「飛鳥2」へ
第1章 遠洋定期航路の客船
1 遠洋定期航路の発展
2 北大西洋航路のスピード競争
第2章 欧州でのクルーズの始まり
1 P&Oによるクルーズの創始
2 ノルウェーのフィヨルド・クルーズ
3 その他の欧州船主のクルーズ
第3章 戦前の世界一周クルーズ
1 史上初の世界一周ツアー
2 世界周遊クルーズの先駆け
3 真の世界一周航海
4 その後の世界一周クルーズ
5 特殊な世界一周航海
6 最初の世界一周定期航路
7 日本郵船の世界一周乗車券
第4章 戦前の各種クルーズ
1 欧州主要船主のクルーズ
2 日本郵船の欧州クルーズ
3 米主要船主のクルーズ
4 「モロ・カッスル」の火災事件
5 ナチス・ドイツのクルーズ
第5章 戦前の有名客船の運命
1 戦争中に失われた客船の事例
2 生き残った客船の事例
3 「イル・ド・フランス」の挿話(密航者の出産)
第6章 遠洋定期航路の有名客船の最期
1 欧州/北米東岸(北大西洋航路)
2 地中海/北米東岸
3 「アンドレア・ドリア」の沈没
4 欧州/豪州
5 欧州/南ア
6 欧州/南米東岸
7 欧州/南米西岸
8 欧州/極東(欧州航路)
9 極東/北米西岸(北太平洋航路)
第7章 クルーズ船となった中古客船の余生
1 伝統的船主が欧州市場で運航
2 欧州船主が北米市場で運航
3 「QE2」の挿話
4 「アキレ・ラウロ」のハイジャック事件
5 米カーニバルの改装クルーズ船
6 「インデペンデンス」と「コンスティテューション」
第8章 北米クルーズ市場の成長と新造クルーズ船
1 北米市場の成長
2 伝統的定期船主の新造クルーズ船
3 ノルウェー船主の新造クルーズ
4 米船主の新造クルーズ船
第9章 北米市場の分化と船主の集約合併
1 北米市場の4分化
2 プリンセス、シトマールを吸収合併
3 キュナード、NACとシー・ゴッデスを買収
4 クロスター、RVLとRCLを合併
5 ホランド、アメリカ・ラインの経営規模拡大
6 RCCL、プリッカーの資本参加とアドミラルとの合併
第10章 日本郵船の北米進出と豪華船市場
1 日本郵船の北米市場への参入
2 ラグジャリー市場における船主交代
第11章 有力船主の大型合併
1 カーニバル、HALおよびコスタを買収
2 RCCL、セレブリティーを合併
3 スター・クルージス、NCLを合併
4 カーニバルとP&Oプリンセスの合併
第12章 欧米クルーズ船の大型化
1 北米増す・マーケットの大型船
2 北米プレミアム・マーケットの大型船
3 北米ラグジャリー・マーケットの大型船
4 欧州マーケットの大型船
第13章 有力船主のマーケット・シェア
1 北米市場
2 欧州市場
第14章 欧米クルーズ船の近況
1 世界のクルーズ人口の推移
2 欧米クルーズ船の近況
第15章 むずび
主要参考文献
索引
書籍「タイタニックから飛鳥2へ−客船からクルーズ船への歴史− 交通ブックス217」を購入する
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