著者名: | ピーター D.ジーンズ 著/飯島幸人・丹羽隆子 共訳 |
ISBN: | 978-4-425-19111-6 |
発行年月日: | 2009/10/8 |
サイズ/頁数: | A5判・432頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥7,040円(税込) |
英語の文書を翻訳する際に困ったことはありませんか?
イギリスと日本はともに海に囲まれた島国ですが、中国の古い文献に多大な影響を受けた日本語には、海や船員の言葉を語源とする用語はほとんどありません。しかし、かつて七つの海を制覇したイギリスの用語には、船内で使われていた言葉が多く日常語として使われています。一例を挙げると“Sling your hook”(錨を吊って出港)が「こっそりと逃げ出す」となり、新聞記事では「内閣からでていくべき」という意味で使われたこともあるといいます。
多くの民族の大移動が起こり、交流が盛んに行われてきた欧州では、言語の交わりも頻繁にあったことから、母国の言語のルーツを明らかにしておくことは文化的な意味からも極めて重要なことなのでしょう。また、外来語のかなりの部分が船乗りによってもたらされであろうことは想像に難くありません。
本書は、英語の辞書に載っている、特に重要な海に由来する熟語や成語を取り上げ、語源に重点を置き、用法に至るまでを、例文を挙げるなどして分かりやすく解説している事典です。そのまま読んでも十分面白いですが、英字新聞や小説を英語の原本で読まれる方や英検の受験にも役立つと思います。
【原著者「序」より一部抜粋】
船乗り志望の人間が陸の習慣やマナーや言葉を船に持ち込んだ。ボースンはじめ船の仲間に面倒を見られて、新入りは比較的短時間に船上の生活にとけこんだ。彼らが船上での「暮らしの作法」を一つ一つ伝授し、逆に新入りは陸の言葉や習慣を彼らに教えた。船上での暮らしは生と死が直結するような緊迫感があったから、新入りは一日も早く慣れようとして、暮らしに関わるあれこれを自分がよく知る身近な物や人に結びつけて覚えた。それは、いわば希望と安全のお守りでもあった。聖書にあるように死を招くかもしれないし,しばしばそれが現実になったが、「大海を渡って商う者となった」(「詩篇」107:23)のだから。このように新入りは、以前の陸での経験に照らしながら、知っている言葉を使って、洋上での出来事を解釈し、覚え、考えた。あるいは新造語を発明しながら過去と新生活を連絡させつつ、なじんでいった。
船のさまざまな部分が「腰」、「尻」、「頬」、「目」、「肋骨」、「腹」などなど、人体の部分を表す語で呼ばれるのはそのためである。各種索具などがmanor、hearth、village、shoe、floor、hog、lizard、feather、castle、yoke、crown など農作業用の道具や家に関する名で呼ばれるのも同様である。
海事用語にはその他、たとえばstand by to wear ship!「下手回し用意!」、mains’l haul!「メンスル引け!」など彼らにしかわからない表現も当然ある。そしてそれがゆえに英語は、おそらく世界で最も表現力豊かな海事用語を有する言語となった。船乗りは陸に上がっても、潮っけのある彼らの言葉を使った。歯医者へ行けば、「右側の一番奥の歯」を“Tis the aftermost grinder aloft, on the starboard quarter” と言った。こうして船乗り用語が陸上にも広まっていった。彼らが酒場で飲むとき、あるいは仲間同士でしゃべるとき、あるいは陸者(おかもの)と話すとき、いつも彼らは自分たちの言葉を使った。だからしだいに彼ら独特の「海の言葉が」必要に応じて変化し、環境に応じながら、「陸のことば」として浸透、定着していった。
このように、船乗りが使う「海の言葉」が堅固な縦糸となり横糸となって、「陸の言葉」の織物の妙なる彩りをより豊かにニュアンスに富むものにしてきた。そこにまさに、長い歳月を経て培われてきた船乗りの驚くべき逞しさと忍耐強さを見ることができるだろう。船乗りの愛すべきヒロイズムと独特のダンディズムを知るために、本書が少しでも役に立てばこの上ない喜びである。
【目次】
はじめに
序
本文「海に由来する英語」
参考文献:引用文献/参考事典
付録1 海事用語独特の前置詞
付録2 スペルが変化したもの、および訛ったもの
付録3 人体の名称に関連する海事用語
付録4 陸から来た海事用語:生活環境からの用語/
社会環境からの用語/動物に関連する用語
索引
(海事図書)
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