著者名: | 海野徹也 著 |
ISBN: | 978-4-425-85321-2 |
発行年月日: | 2010/3/20 |
サイズ/頁数: | 四六判 186頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,980円(税込) |
クロダイには色が分かるのか?
釣り糸は見えているのか?
あなたは本当にクロダイのことが分かっていますか?
クロダイを“彼女”と呼ぶほどにチヌ釣りを愛し、クロダイの研究を探し続けてきた著者が最新の研究成果と釣りの経験を融合してまとめた待望の「チヌ学」入門書です。
【はじめに】より
魚の中で有名な魚といえばマダイやマグロかもしれない。これをタイの仲間に限定するとマダイであり、次はクロダイであろう。それにクロダイは知名度が高いだけでなく、水産業においても重宝されている。日本では“捕る漁業から作り育てる漁業”を合言葉に栽培漁業が行われてきた。最近まで放流されたクロダイあヒラメやマダイに次いで多かったことは、クロダイが水産重要種として認められてきた証でもある。
しかし、もう1つのクロダイの側面は、釣りの対象魚として親しまれていることであろう。全国の熱狂的な釣り人に支持されているのがクロダイなのだ。クロダイは水産業だけでなく釣魚としても素晴らしい実績の持ち主であり、国民への貢献度からすると、最高峰の魚ではなかろうか。
さて、クロダイがこうした二面性を持つように、私も研究者であり、自他ともに認める“釣りバカ”でもある。本書のタイトルはこうしたクロダイと私の二面性にちなんだ。しかし、水産学の入門書のタイトルに“チヌ”という地方名と“釣魚学”という存在しない学問を使ったことは批判に値することかもしれない。ご容赦していただきたい。
ところで、クロダイは生まれてからオスとして成熟し、3?4年後にはメスへと性転換する。釣りの対象となるのはほどんとがメスなので、私にとってクロダイは“彼女”でもある。彼女と最初に出会ったのは今から40年も前だった。釣り竿を極限まで曲げる力強さ、いぶし銀のような魚体に魅了され、すっかり彼女のとりこになってしまった。
その後、彼女の生態を知りたいと思った私は水産分野の大学に進んだ。魚類生理学の講義が終わった後、「先生、クロダイは釣り糸がどのくらい見えるんですか?」と先生に尋ねてみた。先生は「君、それは網膜の視細胞の分解能に関することだね、すなわち最小分離閾に基づく視力とは・・・」と快く解説していただいた。劣等生である私には、その3割しか理解できなかったのを覚えている。しかし、“水産分野の大学に進学してよかった”と実感し、クロダイ研究に携わってみたいと思った。その時こそが研究者人生の始まりだったのかもしれない。だからこそ、私はクロダイ釣りが好きな中高生にクロダイ研究をしてもらいたいと願っている。いや、クロダイでなくてもいい。釣りが好きで、魚に興味があるなら、水産分野の大学に進学してほしい。そうした私の想いを届けたい。
一方、研究者である私には、釣り人の話が素直に受け入れられない時もある。“台風が来るとクロダイは内湾に避難する”という話は信じてよかろう。台風が来れば、並みの高い外湾で釣りをしている人はいない。仕方なく釣りをするのは内湾であり、そこでクロダイが釣れることも珍しくない。科学的には、内湾と外湾で、同じ時間帯に釣果を比較しないと、“台風避難説”は立証できない。
かといって、私は釣り人の話を信じないわけではない。釣り人の持っている豊富な情報は研究に大いに役立っっている。公私ともにお世話になっている釣り人に敬意をこめて、また、本当のクロダイの生き様を知ってもらうために本書を執筆しようと思う。本書の内容が釣り談義のネタとなれば私にとってこの上ない幸せでもある。
最後になるが、執筆に際して、本書を推薦してくださった(社)日本水産学会ベルソーブックス委員会前委員長である竹内俊郎先生(東京海洋大学理事・副学長)には心から感謝している。
2010年2月
著者
【目次】
第1章 クロダイの過去から未来へ
1-1 クロダイとタイムスリップ
(1)シーボルトとクロダ
(2)クロダイと考古学
(3)釣り文化は東高西低だった
(4)50センチは古代人にも魚拓もの?
1-2 63センチは16歳だった
(1)大型クロダイの年齢とは?
(2)クロダイの年齢査定に挑戦しよう
(3)“年無し”の年齢
(4)クロダイに寿命はあるのか?
1-3 クロダイの未来のため
(1)形の違いはDNAが原因
(2)DNA分析によるクロダイの遺伝構造
(3)遺伝子に県境も国境もない理由
(4)クロダイの遺伝子を守ろう
第2章 クロダイの回遊にせまる
2-1 釣り人がもたらした貴重なデータ
(1)回遊の目的
(2)東京湾黒鯛研究会のパワー
(3)東京湾西岸のクロダイ回遊パターン
(4)名物船長のタグ放流
2-2 謎の河口クロダイ
(1)0.03℃の水温変化を感じる
(2)クロダイの冬ごもり術
(3)ルアーマン、そして河口クロダイとの出会
(4)常識をくつがえした河口クロダイ
2-3 2日間で83km移動したクロダイ
(1)タグ標識の欠点を補う超音波テレメトリ
(2)貴重なクロダイの超音波テレメトリ研究
(3)超小型記録装置、マイクロデータロガーの出現
(4)クロダイの回遊待ちは正解?
第3章 クロダイ釣りと視力
3-1 視野と釣りを考える
(1)視力は悩みの種
(2)広い視野の代償とは
(3)両眼視と釣り餌の関係
(4)クロダイは下目使いが得意
3-2 クロダイの視力は0.14
(1)魚眼は一眼レフカメラ
(2)クロダイは近視ではない
(3)魚眼カメラの欠点はフィルム
(4)クロダイの視力は?
3-3 釣りと視力の微妙な関係
(1)クロダイの視力検査
(2)コントロールが釣果を決める
(3)釣り糸が見える距離
第4章 クロダイの色覚にせまる
4-1 闇夜のクロダイの世界
(1)クロダイの体色は自作自演
(2)クロダイの天敵って?
(3)闇夜のクロダイは色がわからない
(4)夜釣りに光は禁物
4-2 クロダイ色盲説
(1)色の三原則
(2)学習能力を利用した色覚研究
(3)S電位とクロダイ色盲説
(4)磯魚メジナからの助言
4-3 クロダイは4色型色覚
(1)釣り好き学生とオプシン研究
(2)錐体オプシンと分子生物学
(3)クロダイのオプシン
(4)クロダイは4色型色覚
第5章 クロダイが感じる匂いと味
5-1 クロダイは匂いに敏感
(1)水中では視覚より匂い
(2)クロダイの“鼻”
(3)クロダイは嗅覚依存型
(4)アミノ酸と嗅覚スペクトル
5-2 味にもうるさいクロダイ
(1)クロダイの味覚器
(2)クロダイが好むアミノ酸
(3)スプーン1杯のアミノ酸の効果
5-3 味覚・嗅覚の釣り談義
(1)匂う餌はよく釣れる?
(2)釣り談義の真相
(3)万能餌、オキアミの秘密
(4)未来のクロダイ研究者へ
第6章 知られざるクロダイの産卵
6-1 産卵期のクロダイは釣られやすい
(1)クロダイの“のっこみ”
(2)クロダイの性と産卵
(3)1カ月間、毎日産卵するクロダイ
(4)産卵中のクロダイは釣られやすい
6-2 釣り人が産卵を見ない理由
(1)マダイの産卵は夕方
(2)クロダイの闇夜の産卵
(3)DNAが明かすクロダイの交
(4)お腹の傷は産卵の証し?
6-3 キャッチ・アンド・リリースのすすめ
(1)自然界にマクロダイはいない
(2)ノミの夫婦と謎の“生涯オス”
(3)親から子へ密かな贈り物
(4)キャッチ・アンド・リリースのススメ
第7章 クロダイからのメッセージ
7-1 クロダイの宝庫、広島湾の異変
(1)クロダイからメジナまで人工生産
(2)クロダイの宝庫、広島湾の過去
(3)増えすぎたクロダイに異変
(4)害魚扱いされるクロダイ
7-2 クロダイを釣ろう、食べよう!
(1)1尾4,000円のクロダイを釣っている
(2)口実はクロダイのDHA
(3)問題はクロダイの料理方
(5)韓国式クロダイ料理に舌鼓
7-3 クロダイは放流魚の優等生
(1)放流効果が問われる時代
(2)放流後の過酷なサバイバル
(3)釣りが役に立った研究
(4)全国クロダイの出生届で夢実現
第8章 フィールドのクロダイから学ぶ
8-1 クロダイ稚魚の生き残り戦略
(1)主役は天然クロダイ稚魚
(2)宮島に守られていたクロダイ稚魚
(3)クロダイ稚魚が干潟を独占したわけ
(4)クロダイ稚魚の日記帳を読む
8-2 クロダイの産卵場を求めて
(1)クロダイの卵同定の壁
(2)アユ釣りの師匠の恩返し
(3)クロダイの産卵場とは
(4)フィールド研究の大切さ
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