著者名: | 柴田正貴・寺田文典 編著 |
ISBN: | 978-4-425-55291-7 |
発行年月日: | 2010/4/16 |
サイズ/頁数: | 四六判 198頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,980円(税込) |
日本人は、平均すると1人あたり卵を年間330個消費しています。この数はアメリカ人やフランス人より50個以上多く、日本は世界でも有数の卵消費大国であるといいます。ウシ、ブタ、ニワトリといった肉類の消費も増加傾向にあり、今や私たちの食卓に欠かせないものとなっています。
しかし、家畜の多くは、比較的冷涼で乾燥した西洋の風土ではぐくまれたもので、高温多湿な日本で飼育するためには、気象条件の面で、さまざまな問題がありました。
この本は、多くの気象要素のなかでも最も基本的な感覚である暑さ寒さに、家畜がどう対応し、行動しているのかをまとめたものです。私たちヒトと類似する点があり、また異なっている点もあり、たいへん興味深い内容です。
近年話題になっている家畜と地球温暖化との関係についても触れられています。一般にはあまりよく知られていない、暑さ寒さに対する家畜の本音を知ることができる一冊です。
【まえがき】より
畜産は、牧草、野草、農業副産物などによって家畜を飼養
して、乳、肉、卵、毛皮、養蜂などの生産物を利用し、また役畜として畜力を、排せつ物を肥料として利用するものである。家畜の飼料となる牧草の品種や栽培法は風土を無視しては成り立たない。家畜もまた風土の産物であり、世界の各地域で、その自然環境に適応した身近な野生動物を人間の社会生活に適合させ、さらに風土に合う形で、より利用しやすいように改良したものである。乳牛でみれば、肥沃な土地で栄養豊かな飼料をたっぷり摂取し、高い泌乳能力を発揮する品種、山岳地帯で飼育され強健な足腰を持って乳生産にも肉生産にも適する品種、痩せた土地でもわずかな牧草を丹念に摂取して歩く「原野の牛」と称される品種など、その土地の風土に合った形でさまざまな品種があり、風土が農業の形態やそこに住まう人々の食を規定している。
和辻哲郎博士は、著書「風土」(1969年第35刷)の中で、気候、気象、地質、地味、地形、景観などを総称して「風土」と定義し、モンスーン、砂漠、牧場の3つの風土に分類している。西欧の属する木上の風土の特質は、夏の乾燥と冬の湿潤であり、日本の属するモンスーンの風土は、暑熱と湿気の結合を特性とし、「梅雨の台風とを特徴とするわれわれの国土は、古代の祖先が直感的に『豊葦原の瑞穂の国』と呼んだように、特に湿潤の国土である。」と規定している。したがって、日本では農法として温暖多雨の条件を生かした水田稲作が渡来し定着したため古来より畜産の必要性は乏しく、日本固有の風土ではぐくまれた家畜は役畜としての和牛のみといってもよいであろう。家畜のことを英語でlivestockというが、西欧人にとってまさしく家畜は、live(生きている)stock(備蓄)である。しかし、日本の場合は水田という仕掛けを作ればイネを何年でも連作することができ、食糧の備蓄としての家畜はからな図示も必要不可欠なものではなかった。また、四囲を海に囲まれ、動物性タンパク質を魚に求めることができたことも要因の一つであろう。
奈良時代以降、江戸時代まで続く殺生禁断により、近代的畜産が始まったのは、明治以降のことである。インドと思われる地で、少女が鳥を買ってもらい、幸運を願って空へ放すテレビコマーシャルを見た方も多いと思われるが、日本でも殺生禁じ生き物を放生する勅旨が次々と出された。水間博士は、1869年(明治2年)においても八丈島でウシを1頭殺して食べたという科で、10人が島流しに、10人が科料に、3人が叱責に処せられたという事件を紹介し、「今からはとうてい信じられない話である」と感想を述べている。まったく同感である。
明治維新以降、西洋農法が導入され、初めて産業としての畜産が芽生えてきたが、畜産が本格的に展開されるのは、1960年頃からの高度経済成長期以降である。エネルギー換算での食品別の供給量を見ると、1960年では米48%に対して畜産物はわずかに4%に過ぎなかった。しかし、2006年では、米23%に対して畜産物は15%となっており、日本人にとって乳・肉・卵のない生活など考えられない状況となっている。しかし、多くの家畜は比較的冷涼で乾燥した西洋の風土の産物であるから、日本のような湿度が高く蒸し暑い気候で飼育するには、気象要素とその家畜への影響を解析し、それらが家畜の生産に支障をきたさないよう家畜管理技術として組み立てる工夫が必要であった。そのため、家畜に及ぼす気象要素の影響に関してこれまで多くの研究が行われてきた。本書では、それら研究の過程で解明された、家畜が暑熱や寒冷、日射や風などの気象要素の変化に対して体内でどのような整理反応を起こしているか、あるいはどのように行動して対応しているかなどを紹介したい。家畜もヒトと同じく哺乳類の動物であり、類似する点もあり、また異なっている点もある。そのような比較の観点からも興味を持って読んでいただければ幸いである。
2010年1月
柴田正貴
【目次】
第1章 日本の気候と家畜
1.1 日本の気候の特色
1.2 家畜の適温域と生産への影響
第2章 日本で飼われている家畜
2.1 家畜化の始まり
2.2 日本の家畜
2.2.1 ウシなどの反すう家畜
2.2.2 ブタ
2.2.3 ニワトリ
2.2.4 ミツバチ
2.3 日本における家畜の飼料と畜産物
第3章 家畜の消化機能
3.1 家畜の消化管とその機能
3.1.1 反すう家畜
3.1.2 野生の反すう動物(エゾシカ)
3.1.3 ウマ
3.1.4 ウサギ
3.1.5 ブタ
3.1.6 ニワトリ
3.2 反すう家畜のルーメン
第4章 気象環境と家畜の反応
4.1 体温調節
4.1.1 体内での熱のバランスと体温調節
4.1.2 熱の生産
4.1.3 熱の放散
4.2 家畜の気候に対する適応的形態変化
4.3 寒さに対する生体反応
4.3.1 寒さと体温維持
4.3.2 寒さと体温調節のメカニズム
4.3.3 寒さへの適応
4.4 暑さに対する生体反応
4.5 その他の環境条件に対する生体反応
4.6 気象環境と家畜の行動
4.6.1 気象環境と移動
4.6.2 気象環境と護身行動
第5章 暑熱と家畜の生産
5.1 ウシ
5.1.1 乳量と乳質
5.1.2 発育
5.1.3 暑さ対策
5.2 ブタ
5.2.1 暑さとブタの成長スピード
5.2.2 暑さと体温調節
5.2.3 暑さと消化吸収
5.3 ニワトリ
5.3.1 暑さと鶏肉・鶏卵生産
5.3.2 湿度への反応
5.3.3 暑さへの慣れ
5.3.4 酸化ストレス
第6章 家畜と地球温暖化
6.1 畜産から発生する温室効果ガス
6.2 発生のメカニズム
6.2.1 反すう家畜
6.2.2 草地
6.2.3 家畜排せつ物
6.3 温室効果ガス発生の変動要因
6.3.1 反すう家畜
6.3.2 草地
6.3.3 家畜排せつ物
6.4 発生の抑制方法
6.4.1 反すう家畜
6.4.2 草地
6.4.3 家畜排せつ物
6.5 温暖化に対する適応策
6.6 まとめ
(気象図書)
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