著者名: | 渡邊悦生・加藤 登・大熊廣一・濱田奈保子 共著 |
ISBN: | 978-4-425-89001-9 |
発行年月日: | 2010/10/25 |
サイズ/頁数: | A5判 242頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥3,740円(税込) |
食品化学を専門とする著者が、食品工学的視点からまとめた「食品科学」。
食品化学者は食品工学的知識が乏しく、一方で工学的知識を要求される機会は少なくない。
本書は、食品化学者や化学分野などを専門とする食品従事者のため、「食品科学」のなかでも苦手意識を持たれる食品物理・食品工学分野を中心に、よりわかりやすくまとめた内容。
◆この本のレベル◆
★★★☆☆
食品工学的知識・数式が苦手な人のために、基礎的事項からわかりやすく解説。食品を化学的に取り扱う人、あるいはその指導の一助となる絶好の一冊。
【はじめに】より
人間が主食として扱えるものは生物である。糖質、タンパク質、脂質はすべて生物に由来する。それゆえ、食べ物を学問的歴史でとらえると、育種、栽培を主とした時代は、多分、生物学が主流であったであろうことは想像できる。その後、原料をよりおいしく、高度に利用するために食品化学が生まれ、さらなる貯蔵性、流通性、便利性などが要求されるようになった現在、物理的、工学的手法が必要になったと思われる。したがって、食品を学ぶには広い学問領域の知識が要求される所以である。G.Borgstrom著によるPrinciples of Food Science(The Macmilan Company, Collier-Macmilan Limited, London, 1968)を参考にして食品科学の学問マップを新たに製作してみたが、上記のことをよく表している。
ところで、著者らは、これまで主に化学的手法を用いて食品を取り扱ってきた(『水産食品デザイン学』成山堂書店(2004)、『水産物の食品としての安全性』東京水産振興会(1996))が、現在、貯蔵、高圧食品、排水処理、物流などに工学的油法の知識なしには理解できない操作が次々と出現し、それらを理解するのに非常な労力、努力を強いられている。
本書は、このような状況を踏まえ、約2年間の勉強会を通して得られた成果を、食品化学者の視点から見た食品工学としてまとめたものである。上に述べた食品科学からすれば矛盾する書名であるが、あえて食品科学としたのは、著者らのように生物学や化学を手法にして食品に携わる人達が食品工学の視点に立つことによって、少しでも本来の食品科学に近づけるのではないかと思いからである。
本書は13章から構成されている。第1章「これからの食品産業」では食料事情、食品加工技術の進展、食の安全性とリスク管理などについて総論的に述べた。第2章「食品科学に用いられる単位と次元」では数値と次元、国際単位系、組成と濃度、数値の扱い方等についての基本を述べた。第3章「食品の科学的性質」では食品の構成成分、嗜好成分について概説した。第4章「食品の物理的性質」では物性とレオロジー理論、官能検査とテクスチャー、食品コロイド、乳化理論などについて述べた。第5章「食品の劣化品と品質保持」では食品の劣化要因、品質保持および成分間反応について論じた。第6章「食品の殺菌」では微生物による食品の劣化、微生物制御の原理、HACCPに基づいたCCP殺菌等について詳述した。第7章「食品の加熱・乾燥」では加工工程における熱の移動、乾燥速度、乾燥装置について詳述した。第8章「食品の濃縮」では濃縮の例として蒸留をとりあげ詳述した。第9章「食品の分離」では分離の例として抽出、吸着、遠心分離、クロマトグラフィー、膜分離について詳述した。第10章「食品の冷却と冷凍」では冷却冷凍の理論、凍結貯蔵・凍結乾燥・凍結濃縮の原理と食品への応用、凍結装置などについて論じた。第11章「食品の高圧処理」では加圧下における化学反応と酵素反応、食品の加工・保蔵への加圧処理効果などについて概説した。第12章「食品工業におけるセンシング技術」では食品工業における計測と制御理論、各種センシングシステムについて多くの例を紹介した。第13章「新しい食品」では機能性食品、遺伝子組み換え食品とバイオテクノロジー、組み立て食品などについて概説した。
2010年10月
著者一同
【目次】
第1章 これからの食品産業
1-1 現代の食料事情
1-2 食品工業技術の動向
1-3 食の安全性
第2章 食品科学に用いられる単位と次元
2-1 単位と次元
2-1-1 単位系
2-1-1 次元
2-2 国際単位系(SI)の構成
2-2-1 力学量の単位
2-2-2 熱量の単位
2-3 組成と濃度
2-3-1 混合物の組成表示
2-3-2 溶液の濃度
2-3-3 密度と比重
2-4 数値の扱い方
2-4-1 誤差と正確さ
2-4-2 有効数字
2-4-3 平均値と標準偏差
2-4-4 対数
第3章 食品の化学的性質
3-1 食品の構成成分
3-1-1 水分
3-1-2 炭水化物
3-1-3 タンパク質
3-1-4 脂質
3-1-5 ミネラル
3-1-6 ビタミン
3-2 食品の嗜好成分
3-2-1 味
3-2-2 におい
3-2-3 色
第4章 食品の物理的性質
4-1 物性とレオロジー
4-2 レオロジー的性質の測定法
4-3 食品コロイド
4-3-1 エマルション
4-3-2 ゲル
4-4 食品に適したテクスチャー測定法
4-5 各種食品のレオロジー
4-6 官能評価とテクスチャー
第5章 食品の劣化と品質保持
5-1 食品の劣化要因
5-1-1 温度
5-1-2 水分
5-1-3 酸素
5-1-4 水素イオン濃度(pH)
5-1-5 光
5-2 食品における成分変化と品質保持
5-2-1 脂質の変化
5-2-2 タンパク質の変化
5-2-3 糖質の変化
5-2-4 ビタミンの酸化
5-3 成分間反応
5-3-1 糖とタンパク質あるいはアミノ酸との反応
5-3-2 糖と脂質の反応
5-4 酵素反応
第6章 食品の殺菌
6-1 微生物による食品の劣化
6-1-1 腐敗微生物
6-1-2 病原微生物
6-2 食品の微生物制御の原理
6-3 熱殺菌のメカニズム
6-3-1 D値
6-3-2 Z値
6-3-3 F値
6-3-4 微生物の加熱温度と死滅時間
6-3-5 殺菌法
6-4 高圧殺菌
6-4-1 缶詰(魚肉)
6-4-2 レトルト食品
6-5 複合要因によるチルド食品の微生物制御
6-5-1 食品添加物の利用
6-5-2 ガス置換包装の併用
第7章 食品の加熱・感想
7-1 加工工程における熱移動操作
7-1-1 伝導伝熱
7-1-2 対流伝熱
7-1-3 放射伝熱
7-1-4 熱交換器
7-2 食品の乾燥
7-2-1 含水率
7-2-2 平衡含水率と自由含水率
7-2-3 乾燥速度曲線と乾燥機構
7-2-4 乾燥時間
7-3 食品の乾燥方法および装置
7-3-1 天日・自然乾燥法
7-3-2 熱・冷風乾燥法
7-3-3 噴霧乾燥法
7-3-4 流動層乾燥法
7-3-5 真空・減圧乾燥法
7-3-6 真空凍結乾燥法
7-3-7 マイクロ波(高周波)乾燥法
第8章 食品の濃縮
8-1 蒸発理論
8-1-1 コックス線図、オスマー線図
8-1-2 デューリング(Duhring)の法則
8-2 物質および熱収支
8-2-1 物質収支
8-2-2 エネルギー収支
8-3 伝熱と蒸発
8-3-1 蒸気凝縮および沸騰
8-3-2 熱缶詰
第9章 食品の分離
9-1 蒸留
9-1-1 単蒸留
9-1-2 精留塔
9-1-3 その他の蒸留
9-2 抽出
9-2-1 固−液抽出
9-2-2 液−抽出
9-2-3 超臨界流体抽出
9-3 吸着とクロマトグラフィー
9-3-1 ラングミュア(Langmuir)型吸着等温式
9-3-2 BET(Brunauer-Emmett-Teller)型吸着等温式
9-3-3 接触ろ過
9-3-4 固定層吸着
9-3-5 クロマトグラフィー
9-3-6 イオン交換
9-4 その他
9-4-1 逆浸透膜
9-4-2 電気泳動
9-4-3 遠心分離
9-4-4 包接化
第10章 食品の冷却と冷凍
10-1 冷却冷蔵
10-1-1 氷蔵法
10-1-2 冷却空気・冷却海水法
10-1-3 スーパーチリング
10-2 凍結貯蔵
10-2-1 冷凍理論
10-2-2 食品の凍結
10-3 冷凍機
10-3-1 冷凍機の原理
10-3-2 各種食品冷凍装置
10-4 冷凍技術の応用
10-4-1 食品の凍結乾燥
10-4-2 食品の凍結凝縮
第11章 食品の高圧処理
11-1 高圧下における化学反応と酵素反応
11-1-1 高圧下の水の挙動
11-1-2 反応に対する圧力効果
11-1-3 生体成分への圧力効果
11-1-4 酵素の基質特異性におよぼす圧力効果
11-2 食品分野への高圧の利用
第12章 食品工業におけるセンシング技術
12-1 これまでの計測システム
12-1-1 温度センサ
12-1-2 湿度センサ
12-1-3 食感(テクスチャー)の計測
12-1-4 空気清浄度計測器
12-1-5 水分活性測定器
12-1-6 糖度計
12-1-7 X線異物検査装置
12-2 新しい計測システム
12-2-1 形や色による識別システム
12-2-2 近赤外線を利用した非破壊測定システム
12-2-3 PCR法による遺伝学的解析システム
12-2-4 バイオセンサを利用した測定システム
12-2-5 味・においのセンシングシステム
第13章 新しい食品
13-1 機能性食品
13-2 遺伝子組み換え食品とバイオテクノロジー
13-3 今後期待される新しい食品
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