水族館をつくる−うおのぞきから環境展示へ− ベルソーブックス039


978-4-425-85381-6
著者名:アクアマリンふくしま館長 安部 義孝 著
ISBN:978-4-425-85381-6
発行年月日:2011/3/24
サイズ/頁数:四六判 212頁
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価格¥1,980円(税込)
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マグロの回遊水槽の実現や、世界初のバショウカジキの飼育など
味のある水族館を手掛けてきた館長が、
その貴重な経験と知識を織り交ぜながら水族館を語る。

【プロローグ】より
 地球の表面の70%を占める海洋と、湖沼河川の水辺の自然をテーマにして、楽しみながら学ぶことのできる水族館がいま注目されています。水環境の保全は、世界の人口増加や地球温暖化などの地球規模の環境問題のなかで重要な位置を占めています。また、タンパク源を確保するために水域の持続可能な利用、漁業のありかたについての議論も盛んになってきました。これらの問題をテーマにして、水族館がその教育的機能をいかに発揮すべきかが問われています。
 わが国には日本動物園水族館協会加盟の水族館が67館あり(2010年現在)、世界の総数約400館の16%ほどにあたります。その内訳は公営水族館50%、民営42%、その他学校法人など8%です。日本人の水族館好きは、四方を海洋に囲まれ、長い海岸線を持ち、鯨さえも余すところなく利用する魚の食文化があることと無関係ではありません。水族館の数の面でも、世界の水族館をリードする資格は十分です。
 日本の水族館は、欧米と比較して民営水族館の比率が高いことは、水族館の経営がビジネスとしても成り立つことを示しています。民営水族館ではほとんどが、また公営水族館でも多くが、イルカや海獣類のパフォーマンス施設を併設していることが特色と言え、こうした娯楽性の高い水族館には大規模水族館も多く、都市郊外や観光地に立地します。そして、民営水族館を中心にイルカを含む海獣類の飼育やトレーニングでは、特筆すべき技術の蓄積があります。
 世界の水族館は「メナジェリーの時代(見世物小屋)」、「生きた博物館の時代」、「生態水族館の時代」の3時代を歩んできました。そして次世代は「環境水族館の時代」となることでしょう。
 筆者は1964年から今日まで、3つの水族館の開館と運営を経験しましたが、一つ目は1964年、東京上野動物園の不忍池畔に開館した「生きた博物館」上の動物水族館でした。未完成で開館したこの水族館では19年間飼育係員として過ごしました。二つ目は、東京江戸川区の東京湾臨海部に1989年に開館した「生態水族館」東京都葛西臨海水族園でした。構想・計画段階から携わり、建設、開館、そして運営を経験しました。三つ目は2000年、福島県いわき市小名浜港第二埠頭に開館したふくしま海洋科学館・アクアマリンふくしまです。やはり計画段階から携わり、開館、運営に参加し今日に至っており、この水族館は次世代水族館を標榜して「環境水族館」の看板を掲げています。
 わが国の水族館は、欧米とは技術的にも没交渉でやってきた歴史が長く、生きた水族館としての長い経験のある欧米の水族館の水準とはかなりの隔たりがありました。特に水槽内に生息環境を再現する展示の面ではおおいに劣っていました。展示に巨費を投じた東京都葛西臨海水族園(1989)の開園でやっと欧米並みの水準になったという感慨がありました。その後大阪、名古屋、沖縄など、多くの大型水族館が現れ、展示水準は目覚しい向上をとげました。
 今日、動物園・水族館の世界でもグローバリゼーション対応は急務であり、国際的な協調なしには施設の運営もままならない現実があります。水族館間の技術的な国際交流は、フランスのモナコ海洋博物館が1960年、1988年と過去2回主催した「国際水族館学会議」が始まりとなりました。第3回は「世界水族館会議」と名称を変えて、米国のボストン、ニューイングランド水族館が主催しました。
 それに引き続いて1996年、筆者の所属した東京都葛西臨海水族園が第4回世界水族館会議を主催しました。テーマは「共生・水の惑星」でした。東京会議以降、4年に一回の開催が決議され、オリンピックイヤーに各大陸もちまわりで開催されることになりました。2000年には伝統のモナコ海洋博物館に戻り、2004年には米国カルフォルニア州のモントレー湾水族館が主催しました。ウェブサイトIAF国際水族館フォーラムも立ち上げられました。2008年、北京オリンピックの年には上海海洋水族館が開催し、2012年は南アフリカのケープタウンのツーオーシャン水族館がホストとなる予定です。
 水族館に関心をお持ちの皆様のために、時代とともに変化する水族館の技術と展示、教育普及活動を振り返りながら、水族館の楽しみ方、利用の仕方についての情報を提供することが本書の目的です。海洋科学、環境科学、水産学、さらに環境芸術のジャンルにまたがる優れた社会資本として、水族館学の確立と定着を図ることも本書のめざすところです。

平成23年2月
アクアマリンふくしま 館長
安部義孝

【目次】
第1章 水族館へようこそ
 1-1 生きた博物館
 1-2 動物園、水族館へのあゆみ
 1-3 水族館の新しい役割
 1-4 水族館と水産業

第2章 世界の水族館、日本の水族館
 2-1 世界の水族館
  (1)黎明期の水族館
  (2)生きた博物館としての水族館
  (3)パフォーマンス水族館
  (4)ウォーターフロント再開発型水族館
  (5)ヨーロッパの水族館建設ブーム
  (6)トンネル水族館と中国水族館の隆盛
  (7)地域の生態系展示・モントレー湾水族館
  (8)老舗博物館型水族館のリニューアル
  (9)超巨大水族館時代と超小型水族館時代の到来か
 2-2 日本の水族館
  (1)黎明期の水族館
  (2)戦後の水族館
 2-3 日本の水族館の特徴
 2-4 日本の水族館のあゆみ

第3章 水族館で働く人たち
 3-1 水族館で働く
  (1)飼育職員はどれくらいいるか
  (2)水族館飼育係員の適性
 3-2 水族館を支える仕事
  (1)水族館飼育係員の一日は生物の観察から始まる
  (2)水環境をチェックする
  (3)調理する、給餌する、水槽を管理する
  (4)分類と査定
 3-3 水族館で働きたい人へ?現状と展望?

第4章 水族館をつくる
 4-1 水質環境をつくる
  (1)調和水槽
  (2)閉鎖循環とは
  (3)水温管理
  (4)循環方式
  (5)飼育密度
 4-2 環境展示をつくる
  (1)水槽のいろいろ
  (2)水槽の舞台装置・アクアスケーピング
  (3)能舞台・もう一つの舞台装置
  (4)日本庭園の技法の水槽デザインへの応用
  (5)水槽展示への応用
 4-3 環境展示の実践
  (1)上野動物園水族館での試み
  (2)葛西臨海水族園での実践
  (3)環境エンリッチメントの視点

第5章 水族館をつくる
 5-1 生きた博物館、上野動物園水族館
  (1)人食いザメを飼う
  (2)ミズクラゲの世代交番展示
  (3)タッチプールをつくる
  (4)生きた博物館「どうぶつの木」
  (5)生きた博物館の時代が終わる?
 5-2 生体水族館、葛西臨海水族園
  (1)水族館から水族園へ
  (2)「三種の神器」の放棄
  (3)9つの展示テーマと課題
 5-3 環境水族館、アクアマリンふくしま
  (1)施設のポリシーの確立:AMFとMSN
  (2)アクアマリンふくしまの特性要因
  (3)環境水族館を支える水槽の楽屋裏

第6章 チャレンジ
 6-1 大洋の航海者マグロを飼う
  (1)マグロ飼育の背景
  (2)マグロ類稚魚の採集と現地蓄養・輸送
  (3)マグロの死亡原因
  (4)マグロの水槽環境の管理
  (5)マグロ飼育展示の展望
  (6)カジキ類飼育へのチャレンジ
 6-2 七つの海の採集行
  (1)アラビア湾、シンドバッドの海
  (2)オーストラリア南岸、エスペランスの海
  (3)ナポリの海
  (4)高層ビルで「山立て」、マンハッタンの海
  (5)バンクーバー、フィヨルドの海
  (6)熱帯オーストラリア、マングローブの海
  (7)南極圏、キングジョージ島の海
 6-3 シーラカンスの謎に迫る
  (1)「もっとも偉大なる魚物語」の序章
  (2)コモロ諸島探訪
  (3)アクアマリンふくしまの「グリーンアイ」プロジェクト
  (4)稚魚の発見と今後の取り組み

第7章 これからの水族館
 7-1 地域の生態系展示へ
 7-2 異ジャンル交流の場へ
 7-3 進展時開発が決め手
 7-4 環境芸術路線は集客を拡大する
 7-5 動物園と水族館の垣根を低くする

【読者からの声】
●H様 61歳
「水族館という施設がどのように運営されているかとても興味深く書かれていました」


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