著者名: | 高田邦道 著 |
ISBN: | 978-4-425-92751-7 |
発行年月日: | 2011/3/17 |
サイズ/頁数: | A5判 242頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,190円(税込) |
著者のこれまでの交通関連の研究(おもに陸上交通)を網羅的にまとめ、わかりやすく解説する。「交通工学」の概要や理念を、さまざまな分野の事例を用いながら、興味深く論じる。項目は多岐にわたり、モータリゼーション、高速道路、流通工学、駐車場・駐車管理などの交通政策、公共交通システム、都市交通、道路の有効利用や交通事故減少政策などを扱っており、交通工学の概要をとらえるのに適した内容となっている。
【序文】より
「交通工学」の勉強あるいは研究を志す人は、就職状況や周りの大人をみてなど、志望動機にはいろいろあるが、専門を取得する意識としては、
? 交通不便地域に住んでいる
? 騒音や振動、あるいは大気汚染の問題のある地域に住んでいる
? 鉄道や、航空機、自動車など交通機関に興味をもっている
に分類できる。?の交通に興味を持つきっかけは幼児時代のおもちゃから始まり、読書や新聞、さらにテレビや旅行の見聞によるケースもある問題意識や興味を持ち学問に取り組むことが、人を一番成長させる。こうして、交通に興味が持てれば研究や仕事は楽になるが、著者が所属していた日本大学理工学部の交通工学科(現・社会交通工学科)はオンリーワンの学科であるから、第一志望者が少なく、いわゆる流れ者が多かった。終章でも述べるように交通工学は多くの他の専門分野と関係し、いろいろな専門に入り込める。ただ、ひとつ間違うと雑学になりかねない。したがって、興味の持てる部分を引き出してやることが求められる。そこで、どうやれば興味が持てるのか。それは、卒業研究が国家プロジェクトや社会貢献できる一端を担っているテーマであることが重要である。また、基礎学力がない場合も取り組めることが必要で、調査などの力仕事によって交通のメカニズムがわかってくると大化けし、研究が進むことになっていく例を多くみてきた。
著者が研究してきたこの50年間は、交通・情報インフラの技術的発展もあって日本の経済は成長し、世界の経済先進国に仲間入りした。しかし、都市も、企業も、個人も、そして行政も足元を見ずに発展への突撃をした感は免れないが、研究の材料は比較的わかりやすく、いくらでも転がっていた。お陰で、著者も学生もテーマを探し、研究するなかで、歩行者問題から新幹線・空港問題まで幅広く取り組むことができたことは幸運であった。しかし、近年、経済力が世界のトップクラスになると、国際的支援の必要性が出てきた。経済を押し上げた産業開発は公害をもたらした。さらに地球温暖化問題が勃発し、経済先進国の責任が問われることになった。国外に目を向けている間に、国内開発にも地域格差にともなう費用対効果問題など噴出してきた。具体的には、東京を事例としたマニュアル化による交通施設整備の法・制度や補助制度に加えて、地元の要求による地方都市のミニ東京化である。したがって、交通機関の整備がストロー現象を引き起こし、若者の大都市移住や観光客の日帰り・素通りによる地方の疲弊となった。企業では、環境や安全へのコスト負担があり、加えて経済ショックによる市場戦線からの撤退である。個人では、技術力や専門力の崩壊であり、したがって野望も薄れ、生活防衛のための指示待ち人間が増加した。さらに、上司としてその指示も出せない、それどころか部下の申告も受け入れられない事なかれ主義に陥っている。いわゆる贅沢病の一種かもしれないが、処方箋が難しい。貧困の時代において、権力者や金権者が社会を動かしていた改革・改善と違い、高度成長期にはそれなりの法・制度が確立してきたので、これを無視してはできない現状にある。
このような社会現象のなか、地球環境問題や高齢化問題に、地球上のありとあらゆるところから集まる食品流通や世界的な交流による安全・安心の問題が加わり、その制約条件下で経済や社会の課題を解いていかなければならなくなった。無のなかに新しいものを構築してきたこれまでの行政判断には多くの人が納得してきたが、いまは違う。この現象を10年あるいは20年の政治空白とし、その解消を従来の方法論とは逆の政策に踏み出して解決を求めているが、なにも解くことができない。成長期の政策の何が残されるべきか、何を改めるべきかの判断には、国民・市民的コンセンサスが問われるしかしながら、わが国には、国民・市民が判断するルールがない。たとえば、その判断ができる対象の住民の定義は、お膳立てができる専門家の育成は、などなど住民判断の仕組みは、欧米の諸国・諸都市に比べて見劣りすることは否めない。
交通分野ではとくにこの考え方が必要である。たとえば、財政の仕組みは大きく変えても、交通政策を大きく変えるのは難しい。それは、交通インフラには相当の蓄積ができているためで、これを有効に使わない手はない。また、使わないと新たに莫大なコストがかかるわけである。そのためには、従来の技術をどう活用し、新しい社会システムのなかで新しい交通システムをどう構築できるか。本書では、著者がこれまで考えてきた、あるいは実践してきた一端も加えて記録的に記述した。そして、今後どう対処すればよいかまで踏み込んでみた。
すなわち、豊かになった社会でのつぎなる展開において、疲労した法・制度を変えることができるのは、市民あるいは国民の判断である。目的や効果が明確ではないが、取り組まなければならない交通安全などの交通政策、従来の規則を変更することで無駄なコストを節約し、新たな財源を生み出すなどの計画手法の実現は、住民判断を得てはじめて実施されることになる。その場合、できるだけ専門的知識を学習したうえでの議論あるいは理解が望ましく、本書がそのための書になり得れば、とも考えている。
以上のような背景から、本書は交通工学を志す学生の入門書としてはもちろん、一般社会の人々にも交通を少しでも知ってもらいたい、さらに行政など法律や経済を勉強した人が交通政策に取り組む際に活用していただきたいと考えている。本書執筆のきっかけは、高度経済成長を目指し、それを支え、課題を発見し、是正を提案し続けた学徒の思いは、つぎなる「交通を勉強する」学徒のために記録しておくべきであろうという大学時代の友人木戸伴雄氏の言葉に後押しされたことによる。一方で、個人的な理由として、オンリーワンの学科で学び、そのなかで研究・教育に携わった歴史は、これから専門の勉強をする交通分野のみならず他分野の学生にも少なからず役立つのではと考えた。さらにもうひとつ、交通研究の出発点で、師である谷藤正三教授の『交通工学総論』の素原稿の整理を手伝った著者が、その後交通の研究・教育、あるいはプロジェクト等を通じて「交通をどう学び、どう捉え、どう研究してきたか」についてまとめることが役立つのではないかと考えたからである。このことは技術的課題の整理法と新たな技術の創出を産み出す方法が提案できるプロセスを知ることになる。したがって、師と同名の著作として著者の研究足跡を残させていただくとともに次世代の交通工学を学ぶ者への引き継ぎとして『交通工学総論』をまとめた。
なお、本書をまとめることができたのは、著者の研究室で研究をした歴代の助手、大学院生、卒業研究生、および研修生約700名の協力に支えられ、著者独特の研究ができることによる。ここの謝意を表する次第である。また、最近一緒にプロジェクトを進めている對木場(ついき企画代表取締役社長)氏に7.6節、南部繁樹(トラフィックプラス代表取締役社長)氏には13.5節を校閲していただいた。さらに、データ集めや原稿整理を研修生の横濱寿聡、大学院生の呉 希宣、鎌田洋輔、外山大地、宮本強平の諸氏によった。この場を借りて御礼申し上げる次第である。
最後に、出版までこぎ着けられたのは、著者が主催した『自転車フォーラム』に勉強にきていただいたのを機に出版の相談にのっていただいた株式会社成山堂書店の編集者の後押しによる。ここに記して謝意を表す次第である。
2011年2月22日
千葉ニュータウン小室の自宅書斎にて
高田邦道
【目次】
第1章 序章
1.1 距離の概念
1.2 交通量とトリップ
1.3 交通需要の性質
1.4 時間・距離線図
1.5 交通機関に求められる機能的要素
第2章 国土計画と交通
2.1 総合交通体系論
2.2 鉄道
2.3 航空と空港
2.4 海運と港湾
2.5 これからの交通
第3章 モータリゼーション
3.1 衣食住+交
3.2 モータリゼーションの足取り
3.3 二輪車との関係
3.4 自転車との関係
3.5 これからのモータリゼーション
第4章 高速道路
4.1 高速道路建設を阻む建設費用
4.2 高速道路の効用
4.3 高速道路の位置づけ
4.4 インターチェンジ周辺の土地利用
4.5 わが国の高速道路のあるべき姿
第5章 流通工学
5.1 なぜ流通工学か
5.2 流通の諸機能と交通
5.3 流通合理化とTDM
5.4 ソーシャル・ロジスティクス
第6章 CO2と交通
6.1 地球環境問題としてのCO2
6.2 環境庁(現・環境省)のプログラムとその議論
6.3 運輸・交通部門のCO2政策
6.4 わが国のCO2削減策
6.5 Co2削減策の運輸・交通部門での展開
第7章 都市交通施策にかかわる駐車管理
7.1 駐車の定義と駐車管理
7.2 わが国における駐車政策の変遷
7.3 駐車管理での地区交通関連施策
7.4 駐車管理での貨物車関連施策
7.5 路上駐車取り締まりの意味
7.6 附置義務駐車スペースの減免
第8章 公共交通システムと自家用車
8.1 都市構造の再構築
8.2 自動車への負荷と公共交通サービスの向上
8.3 公共交通システム充実の可能性
8.4 閑居課題を考慮した欧米の公共交通政策
8.5 自家用車と公共交通機関の共生システム
第9章 都市交通管理計画
9.1 都市レベルでの交通の捉え方−都市計画と交通−
9.2 都市交通管理計画の概要
9.3 ロンドンの都市交通管理計画
9.4 わが国の都市交通管理計画とその課題
9.5 東京の都市交通管理計画私論
第10章 地区交通計画
10.1 生活権としての交通
10.2 幹線交通と地区交通
10.3 地区内の駐車
10.4 地区交通管理計画
10.5 防犯計画としての都市照明
第11章 道路の有効活用
11.1 道路の空間機能
11.2 トラポリス
11.3 立体道路制度
11.4 最外側車線
11.5 道路の沿道空間
11.6 パリの道路空間利用の展開プロセス
第12章 交通事故半減プロジェクト
12.1 交通戦争終戦のために
12.2 交通事故半減プロジェクトの概念
12.3 自治体レベルの交通事故対策
12.4 市民参加型交通安全支援策システム
12.5 鎌ヶ谷モデル
12.6 鎌ヶ谷モデルの展開
第13章 シニア社会の交通システム
13.1 シニア社会での交通政策課題
13.2 交通バリアフリー法
13.3 シニア社会での道路・交通管理
13.4 過疎地域でのシニア交通政策
13.5 シニア社会で運輸・交通政策
第14章 お茶の間交通工学
14.1 交通施策への市民の関わりの必要性
14.2 ゾーン30と市民の関わり方
14.3 地区交通管理プロジェクトと市民の関わり方
14.4 交通事故半減プロジェクトを市民の関わり方
14.5 お茶の間交通工学の展開
第15章 終章−交通工学とは
15.1 交通工学の定義
15.2 各門体系の進展とプロセスと交通工学の今後
15.3 交通の評価と計画
15.4 これかからの交通工学
カテゴリー: