著者名: | 鈴木和夫 著・逢沢瑠菜 協力 |
ISBN: | 978-4-425-71421-6 |
発行年月日: | 2011/4/11 |
サイズ/頁数: | A5判 160頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,640円(税込) |
航空宇宙工学やロボット工学関係者は、SF作品やアニメ、コミックに影響を受けてその専門の道に進んだ人が多い。本書は、そのような人材を船舶海洋工学の分野でも増やしたいという著者の願いを実現したものです。船や海に関するSF作品やアニメを取り上げて、実際の物理学的な現象と対比しながら船舶海洋工学(流体力学)の話を進めています。あくまで工学的な内容を中心としていて、SF作品は導入として用いているだけで、科学的な検証をしているものではありません。
【はしがき】より
本書では、主に船や海が登場するSF作品(コミック、アニメ、小説、映画)あるいは関連する啓蒙書をとおして、船や海のはなしを大まじめに、ただし肩のこらないようにはなしをさせていただき、空間として深海から宇宙まで、船として深海探査船から宇宙船までを紹介します。SF作品の中でもコミックやアニメ作品については、今でも荒唐無稽あるいは教育への弊害、と単純な評価をする向きがあるように感じます。コミック論やアニメ論をぶつつもりは毛頭ありませんが、ロボットアニメを見て育った技術者により日本はロボット大国になり、ロボット産業のトップランナーとして認められているという事実がありますし、コミックやアニメは日本が誇るコンテンツ産業として発展し、質的にも高い評価を受けているという事実もあります。コミックやアニメ、特にSF分野の作品については、もっと評価されてもよいのではないかと思います。
筆者は大学で、海洋から宇宙までの広い範囲の工学を扱っている教育プログラム(教育コース)の教員をしています。世界的に見てもあまり例のない教育プログラムだと思いますが、その中の主に船舶海洋工学関係、特に流体力学分野の教育研究に携わっています。従って、船や海に関係するSF作品が、未来的な船の実現性や海の持つ不思議さに興味を持つきっかけになってほしいと思っています。一方、夢だけ追って実際の現象や技術について全く知らないというのも困ります。夢に実現のためには、夢と実際のギャップを理解する、あるいは可能であればその差を埋める知識をもつ、ということが必要になります。そのための情報を提供し夢や技術の可能性について読者自ら考えていただく、ただし肩のこらない程度に、ちょっと大上段に構えすぎかもしれませんが、本書をそんな本にしたいと考えています。
本書の後半では、海が関わる飛ぶ船のはなしをしてみたいと思います。飛ぶ船というと奇異に聞こえるかもしれませんが、乗り物・輸送システムとして、水中翼船、ホバークラフト、海面効果翼機、水上飛行機、飛行艇、飛行船、宇宙船まではなしを膨らませます。テレビで気象予報を見ていますと、海と大気は相互に影響を及ぼしあっているということがよくわかりますし、ロケットの打ち上げに関するニュースを見ているときには、大気圏と宇宙空間は繋がっているというのを実感するのではないでしょうか。ということで最後にはなしを地球圏まで膨らませ、地球圏の一因である月の重要性についても簡単に紹介したいと思います。実は、月は地球の自然環境、特に海洋環境に大きな影響を及ぼしています。もし月がなければ安定した環境の地球はあり得ませんし、私たち自身も存在しないということになるらしいのです。
本文の執筆方針として、SF作品の中で描かれていることと、今知られていること、わかっていること、あるいは実際に可能なことをざっくばらんに比べてみます。上で述べた、夢と実際のギャップを理解する、あるいは可能であればその差を埋める知識をもつ、という目的ですが、どうぞ気楽に読んでください。
本書では、随所にSF作品や関係する啓蒙書について「作品紹介」コーナーを設けて、マイナーな作品や古い作品も含めて紹介しています。その中には船と名のつく飛行船や宇宙船という飛ぶ船が登場する作品も登場します。ただし、SF的要素の少ない戦記ものやヒーローものは除きました。なお、アニメにはテレビ作品、劇場版作品、ビデオ・DVD作品と数々ありますので、多くの漏れがあるかもしれません。作品の内容については、記憶に基づいて紹介した部分もありますが、できる限り正確を期したつもりです。若い方々にとっては聞いたこともないという数々の作品があると思いますが、詳しく知りたい方は、DVDなどを借りてきて実際にご視聴いただくのがよいと思います。既に絶版となった書籍やコミックの場合には図書館で借りてきて読んでみてください。また、コンピュータおよびネットワークの世の中になって、多くの書籍、コミック等が電子化され様々なサイトに蓄積されていますし、簡単な検索で多くの情報が得られるようになっていますので、本書で紹介した作品が将来あらためて日の目を見る機会があるかもしれません。
本書には「作品紹介」のコーナーの他に2つのコーナーを設けました。1つは日常経験に基づく「エピソード」のコーナーで、本文の補足となるようなわかりやすいエピソードを紹介するように心がけたつもりです。さらにもう少し詳しく知りたいという方のためには「ワンポイント」のコーナーを設けて、関連する数式の紹介をしています。高等学校レベルの数学の知識で十分わかっていただけると思いますので、興味のある方はぜひ覗いてみてください。数式まで見たくないなぁという方は、省いていただいてもさしつかえありません。
本書でおはなしする範囲と内容について概要図を作成してみました。四角形で表示した項目が人工のもの、角が丸い四角形で表示した項目が自然現象に関するものです。カバーする範囲がとてつもなく広く宇宙(そら)にまで広がっていますが、今ではしばしば送られてくる宇宙からの映像で十分実感できますように、日本は四方を海に囲まれている、ということをぜひ認識していただきたいと思います。地球表面の実に71%は海洋に覆われていますので、旅客輸送は航空機が主役ですが、食糧を含む物資の日本への輸出入の99%以上、すなわちほぼ100%を船舶輸送に頼っています。また、日本の排他的経済水域EEZ(Exclusive Economic Zone)を含む管轄海域の面積は世界第6位になりますので、ぜひ船と海の役割にも関心を持っていただきたいと思います。本書が読者の方々、特に若い方々が船や海についてもっと多くの関心を持つきっかけになることを願っていますし、船や海を描くことの多いSFコミックやアニメの作り手の方々にとって何がしかの参考にでもなればとも考えています。
本書執筆にあたり、横浜国立大学台が金工学研究院海洋空間のシステムデザイン教室、岡田功技術専門員、竹下理恵図書室職員には、資料準備や収集等でお世話になりました。また、大学外の多くの方々、特にユニバーサル造船(株)の山田久行氏および増田聖始氏、(独)海上技術安全研究所の佐々木紀幸氏、(独)水産総合研究センター水産工学研究所の川島俊彦氏、(株)西日本流体技研の橋詰泰久氏、(株)ボルボックス、(独)海洋研究開発機構(JAMSTEC)、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)、には写真の提供等で多くの便宜を図っていただきました。これらの方々および法人にあらためて感謝申し上げます。さらに本書刊行をご快諾いただき、いろいろアドバイスをいただきました(株)成山堂書店の方々に感謝申し上げます。
最後に、本書のイラスト作成に協力かつ本書の中のいくつかのエピソードに登場してくれました逢沢瑠菜に感謝します。Great thanks to mya Wasabi.
平成23年3月
鈴木和夫
【目次】
1.海の中の世界
1.1 海は暗黒空間
1.2 深海探査船
1.3 潜水艦
1.4 海底基地・海中都市
1.5 海中ロボット
1.6 水中の音速
1.7 空洞現象
1.8 海洋大循環
1.9 水棲動物のふしぎ
1.10 弾性皮膜
1.11 リブレット
1.12 ヒレ推進
1.13 羽ばたき推進
1.14 ウォータジェット推進
2.海面へ浮上
2.1 陸海空の乗り物
2.2 巨大な船
2.3 船首バルブ
2.4 海洋波
2.5 海難事故
2.6 津波
2.7 船の造る波紋
2.8 船の航跡
2.9 海上都市
3.未来の船
3.1 垂直な船
3.2 潜水商船
3.3 原子力商船
3.4 省エネルギー帆船
3.5 電気推進船
3.6 多胴船
3.7 新形式バルブの船
3.8 ハイブリッド型高速船
4.船飛べ!
4.1 飛ぶ船とは?
4.2 水と空気の密度
4.3 水圧と気圧
4.4 水中と空中の浮力
4.5 乗り物に働く流体抵抗
4.6 水中翼船
4.7 ホバークラフト
4.8 海面効果翼機
4.9 水上飛行機・飛行艇
4.10 飛行船
5.宇宙(そら)へ
5.1 宇宙船
5.2 マスドライバー
5.3 軌道エレベータ
5.4 宇宙帆船
5.5 ラグランジュポイント
5.6 もしも月がなかったら
5.7 宇宙コロニーの中の海
■著者紹介
著者:鈴木 和夫(すずき かずお)
1977年 横浜国立大学大学院工学研究科造船工学専攻修了
横浜国立大学工学部助手、助教授、教授を経て
現 在 横浜国立大学大学院工学研究院教授、工学博士(大阪大学)
協力者:逢沢 瑠菜(あいざわ るな)
(本名:鈴木 明美(すずき あけみ)
1985年3月 相模女子大学短期大学部国文科卒業
1985年4月?1989年3月 横浜国立大学工学部文部事務官
(海事図書)
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