著者名: | 澤 喜司郎 著 |
ISBN: | 978-4-425-92771-5 |
発行年月日: | 2011/12/15 |
サイズ/頁数: | A5判 282頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥3,080円(税込) |
各交通機関のビジネスモデルと戦略にスポットを当てた書!
陸海空さまざまな交通のビジネスモデルと経営戦略について分析し、平易に解説したもの。都市・地方ともに旅客輸送にはピーク・オフピークがあり、交通企業におけるビジネスの難しさ、経営の難しさの要因となっている。各企業の交通サービスには、置かれた環境下のもと、固有の経営哲学や経営理念、企業文化が反映されており、本書は、その形態から浮かび上がるビジネスモデルと戦略に焦点をあて紹介・解説。
【まえがき】より
経済学では、資本、労働、土地を「生産の三要素」といい、交通経済学では動力、運搬具、通路を「交通の三要素」あるいは「交通の生産的三要素」と言います。動力とは運搬具を動かすための力をいい、動力はかつての人力や牛馬など動物の力から、蒸気機関、内燃機関、電気機関へと発達し、現在ではリニアモーターも実用化されています。運搬具とは人や貨物を運ぶための用具で、ブルートレインや貨物列車では動力車としての電気機関車やディーゼル機関車が客車や貨車を牽引していますが、現在では自動車や航空機、船舶など大半の交通機関では動力と運搬具が一体化されています。通路とは、動力あるいは動力車に牽引された運搬具や、動力と一体化した運搬具が通行する路をいい、それは陸上交通では道路や軌道、水上交通では航路、空中交通では空路と呼ばれ、広義には鉄道の駅や空港、港湾なども通路に含まれます。
動力、運搬具、通路によって実現される交通は、人を輸送対象とした旅客輸送と貨物を輸送対象とした貨物輸送に分けられ、旅客と貨物という輸送対象の質的な違いによって生産手段としての輸送施設や設備が異なることから一般的には旅客輸送と貨物輸送が同一の事業者によって行われることはありませんが、自動車航送船や航空機のように同じ生産手段をもちいて旅客輸送と貨物輸送が同時並行的に行われることもあります。
旅客や貨物の輸送は、交通サービス(あるいは輸送サービス)の生産と消費を意味し、その結果として旅客や貨物の空間的あるいは地理的な移動が実現されます。この交通サービスは、生産と同時に消費されるという「即時財」であることから、生産された交通サービスが消費されなかったからといって在庫しておくということができません。また、一般的に運行時刻表が公示され、定期運行が行われているため、乗客がいない場合や貨物がない場合でも定刻通りに運行しなければなりません。さらに、人の日常的な移動は朝や夕方など通勤通学時間帯に集中し、旅行やレジャーなどでの移動はゴールデンウィークや夏休み、お盆や年末年始に集中するというピーク・オフピークという現象がみられます。競合する交通機関が数多く存在し、地方では人口の減少と流出による絶対的な旅客の減少が続いている状況の下で、交通サービスが「即時財」であること、交通サービスの消費にはピーク・オフピークがあり、定期運行という形態での交通サービスの生産は、ビジネスとしての交通サービスの生産の難しさ、つまり交通企業における経営の難しさの要因となっています。
そのため、地方では廃止された鉄道路線やバス路線もありますが、多くの交通企業は行政の支援を受けながら経営改善と経営努力によって交通サービスの生産を維持しています。一方、「衰退する地方」に対して「成長する都市」では新交通システムや都市モノレールなど新しい交通サービスが生産され提供されていますが、都市であればどのような交通ビジネスも成功するというものではありません。そこには、各交通企業がその目標を達成するための資源展開のあり方を、企業を取り巻く環境とのかかわりの中で方向づけた経営戦略があり、その経営戦略の内容は都市と地方など企業が置かれている環境によって異なりますが、経営戦略には企業に固有の経営哲学や経営理念、企業文化が反映されています。
本書は、いろいろな旅客輸送部門における交通ビジネスのモデルと戦略について分析し平易に解説したものです。交通論の専門書としてではなく交通論の入門書としての本書では、私たちの最も身近な経済的現象であり事象である交通に対して多くの方々に興味と関心を持っていただけるように多くの写真を掲載するなど、「交通論おもしろゼミナール」シリーズの編集方針が踏襲されています。
平成23年12月
澤 喜司郎
【目次】
序 章 交通とビジネスと公共性
1 交通の三要素と通路の費用負担
2 交通の物理的三要素と通路距離短縮のリスク
3 交通の経営的三要素と経費の削減
第1章 新幹線のビジネスモデルと企業文化
1-1 新幹線の高速化と新幹線輸出のリスク
1-2 JR各社の新幹線経営戦略と企業文化
1-3 ミニ新幹線とリニア中央新幹線の課題
第2章 航空輸送のビジネスモデルと戦略
2-1 航空機と航空ビジネスの戦略
2-2 格安航空会社とビジネスモデル
2-3 航空市場構造と航空ビジネス
第3章 乗合バスと貸切バスのビジネスモデル
3-1 乗合バスの規制緩和と生活交通路線の廃止
3-2 乗合バスの経営と新しいビジネスモデル
3-3? 貸切バスの過当競争とビジネスモデル
第4章 海上輸送のビジネスモデルと戦略
4-1 離島航路の公共性と運航補助金
4-2 フェリーの経営危機と高速旅客船の経営戦略
4-3 遊覧船の経営とビジネスモデル
第5章 道路と道路利用のビジネスモデル
5-1 高速道路と高速「道ナカ」の経営戦略
5-2 一般道路と道の駅の経営戦略
5-3 道路イン/サイドビジネスと駐車場の経営モデル
第6章 空港と鉄道駅のビジネスモデル
6-1? 空港経営と商業施設のビジネスモデル
6-2 鉄道駅経営と駅ナカの経営戦略
6-3 バス停と広告の新しいビジネスモデル
第7章 都市の鉄道と経営戦略
7-1 都市構造とJRの路線経営戦略
7-2 大手民鉄の経営戦略と競争モデル
7-3 都市間鉄道の地域的な戦略モデル
第8章 地方の鉄道と経営危機
8-1 地方のJR線と赤字経営
8-2 第三セクター鉄道の存続危機
8-3 地方中小民営鉄道の経営危機
第9章 都市型交通システムのビジネスモデル
9-1 地下鉄の経営とビジネスモデル
9-2 都市モノレールの経営と上下分離型ビジネスモデル
9-3 新交通システムの全自動無人運転型ビジネスモデル
第10章 路面電車のビジネスモデル
10-1 路面電車のビジネスモデル
10-2 低床式路面電車のビジネスモデル
10-3 路面電車の高速化とビジネスモデル
第11章 観光鉄道と観光列車の経営基盤と戦略
11-1 観光鉄道の経営基盤と戦略
11-2 観光列車の経営基盤と戦略
11-3 鋼索鉄道と索道の経営基盤と戦略
第12章 車内販売とサイドビジネスの戦略
12-1 車内販売と機内販売のモデルと戦略
12-2 記念品とオリジナルグッズの開発モデル
12-3 イベントとキャンペーンの経営戦略
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