著者名: | 内藤靖彦・佐藤克文・高橋晃周・渡辺佑基 共著 |
ISBN: | 978-4-425-57041-6 |
発行年月日: | 2012/3/28 |
サイズ/頁数: | 四六判 208頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,420円(税込) |
動物たちは水の中で何をしているのだろう?
動物たちに超小型の記録計を取り付けて、画像や動物たちの体の動きをとらえることで、動物たちの日常が見えてくる!
■これってホント?
ペンギンやアザラシも泳ぎの燃費を気にしていた!
アザラシの親は、子どもに泳ぎを教えていた!
アザラシは、息を吐いてから海に潜っていた!
ペンギンは海の中を滑空していた!
浮かぶペンギン、沈むアザラシ、では魚は?
さぁ、動物たちの背中に乗って、海の中をのぞいてみよう!
※「バイオロギング」とは、動物に計測器を装着して遠隔観測を行うことで、動物の複雑な生態を詳しく知ることにより、生態系の保護・保全を目指しています。
【はじめに】より
科学研究とツールは開発は一体である。ツールなくしては科学の進展はあり得ないし、逆に科学の進展なくしてツールの進展もない。動物科学においても同様である。しかし、動物の個体や集団を対象とした行動学や生態学においては、研究は極めて複雑な自然の仕組みの解明を目的としているため、集中的で決定的なツールの開発は困難であった。とはいうものの、海洋中の動物など見えないところにいる動物の行動などを視覚化しようとすると、ツールの開発は必須である。見えない動物の行動や生態・生理を、動物に装着したツールを頼りに研究するバイオロギング研究においては、ツールの開発が研究の成否を決定的に左右する。しかしながら、バイオロギング研究におけるツールの開発も容易ではない。ツールの開発を可能にする周辺技術が整わないと目的のツールを手にすることはできない。ツールの小型化を宿命とするバイオロギング研究は、マイクロエレクトロニクスの発展があって生まれた科学である。
時は宇宙のじだいである。人口衛星による気象観測や衛星通信が本格化した1977年9月のことである。私の研究室に新聞社から問い合わせの電話が鳴った。「ニュージーランド沖で体長十数メートルの巨大未確認動物の死体が日本の漁船によってい引き上げられた。写真を見てくれ」とのことであった。この未確認動物報道は、首長竜のような恐竜の生き残り説も出て、当時世界中のメディアで話題になった。その後、学術調査団が結成され、持ち帰られたサンプルが解析され、どうやらkの怪獣らしきものは「ウバサメの腐敗死体」らしいとの結論になった。しかし、この報道が示したことは、遥か彼方の宇宙もさることながら、「目と鼻の先の海の中も暗黒世界であった」ということである。当時は海洋も宇宙と並んで人類のフロンティアであった。
第二次大戦後の1960-1970年代は冷戦の時代の産物としてアポロ計画などの宇宙開発が生まれ、また、海洋ではシーラブ計画などが進行し、海洋開発が進んだ時代である。この開発を促進したのが同時に産まれた半導体産業であった。半導体の革新的な技術開発は、1980-1990年代に産業や科学の世界において、アナログからデジタルへの大転換をもたらし、同時に高速大容量の情報通信の幕開けの時代となった。冒頭記した1970年代後半はまさにアナログ世界からデジタル世界への転換の時代で、情報通信革命の時代であり、これを境に、冒頭のような記事がメディアでまじめに取り上げられることは少なくなった。この記事は時代の転換を示す道標といえる。科学の世界においても、天文、気象、地球科学の世界ではテレメータ、リモートセンシングが大いに活用される時代となった。
海洋研究においてもこの技術革新の恩恵を大いに受けることとなったが、海洋動物研究の世界ではこの時代の恩恵を十分受けることはなかった。なぜなら、多くの海洋動物は水中にいて、電波によるテレメータは利用できないからである。当然音波観測が大きな手段になったが、送信量の制約などから陸上の電波テレメータのようには普及していない。
水中にいる動物から、動物の自然の行動を阻害することなく、いかに精度の高い情報を効率的に得るかが大きな課題であった。特に小型化センサーの多様化が課題であった。半導体によるマイクロプロセッサ―がこの時期にぴったりと合致した。この超小型電子記録計すなわちデータロガーの登場である。これを装着した「海洋動物による自らの記録」がバイオロギングの始まりである。デジタル革命の恩恵を受けてバイオロギング研究は発展したといえる。
バイオロギングという新しい研究は、急速に進展している。対象は水生動物にとどまらず、飛翔する鳥、陸上で行動するあらゆる動物が対象となっている。研究領域も生理学から、行動学、生態学など多くの分野に貢献している。研究者の数も世界中で急速に増えている。
本書では、バイオロギング研究の全容を紹介することは不可能であるため、国立極地研究所が貢献した部分を中心に、発展の経過と成果の一部を紹介する。研究の発展の本質的な部分では南極や北極以外の成果も含まれる。バイオロギングの発展に著者以外にも多数の研究者が貢献しているが、紙面の制約から草創期の研究に参加した研究者を代表して本書の著者らが執筆した。
2012年2月
著者を代表して 内藤靖彦
【目次】
第1章 バイオロギングの始まりと発展
1−1 はじめに
1−2 バイオロギングのそもそもの始まり
1−1 海に水中望遠鏡を/潜水動物の生理・生態の謎、「なぜ潜る?」、「なぜ潜れる?」
1−1 国立極地研究所の取り組み
1−1 装着方法の進歩
1−1 デジタル化によるブレークスルーと今後の発展
第2章 潜水行動
2−1 はじめに
2−1 潜水行動に関する疑問
2−1 どうやって調べるか
2−1 アザラシを対象とした潜水生理研究
2−1 世界を驚かせた長期間潜水行動記録
2−1 ペンギンを対象とした潜水生理研究
2−1 加速度記録計
2−1 エンペラーペンギン調査
2−1 酸素貯蔵場所
2−1 水中3次元軌跡
2−1 研究の今後
第3章 遊泳行動のダイナミクス
3−1 はじめに
3−2 浮力に応じた遊泳行動のダイナミクス
3−3 体のサイズに応じた水かき頻度のダイナミクス
3−4 体のサイズに応じた遊泳速度のダイナミクス
3−5 おわりに
第4章 飛翔行動
4−2 はじめに
4−3 飛翔行動に関する疑問
4−4 どうやって調べるか
4−5 加速度記録計による羽ばたき周波数記録
4−6 樹に登らなくても飛べる“オオミズナギドリ”
4−7 飛翔行動のスケーリング
4−8 羽ばたき周波数から推定する体重変化
4−9 GPS記録計による対地速度記録
4−10 プロペラ記録計による対気速度記録
4−11 研究の今後
第5章 採餌行動計測
5−1はじめに
5−2採餌行動の計測法
5−3胃内温度差法
5−4マグネット法
5−5加速度記録計による行動の計測
5−6採餌に伴う体の動き
5−7餌タイプと加速度波形
5−8行動計測から生態計測へ
第6章 南極の環境変化とペンギンの動態
6−1 はじめに
6−1 南極の環境変化
6−1 南極に生息するペンギンの個体数変化
6−1 環境変化とアデリーペンギンの採餌・繁殖行動との関係
6−1 環境変化とヒゲ、ジェンツー、エンペラーペンギンの採餌・繁殖行動との関係
6−1 おわり
第7章 画像による環境・行動の解析
7−1 はじめに
7−2 画像記録計の開発
7−3 画像による環境解析
7−4 画像でとらえられた社会行動
7−5 画像記録計による研究の今後
【極地研ライブラリーについて】
「極地研」は、「国立極地研究所」の略称で、極地に関する科学の総合研究と極地観測の推進を目的に1973年に設置されて以来、大学共同利用機関として、また南極観測事業の中核的実施機関としての役割を担ってきました。
「極地研ライブラリー」は、理解が進んだ極地の自然について、その観測や研究の成果を、第一線の研究者が科学的に分かりやすく解説するとともに、極地での調査や活動、さらにはその歴史を紹介するシリーズです。
書籍「バイオロギング−「ペンギン目線」の動物行動学− 極地研ライブラリー」を購入する
カテゴリー: