酸性雨から越境大気汚染へ 気象ブックス036


978-4-425-55351-8
著者名:藤田慎一 著
ISBN:978-4-425-55351-8
発行年月日:2012/3/26
サイズ/頁数:四六判 170頁
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 酸性雨は古くて新しい環境問題。100年以上前にヨーロッパの工業都市で見つかったこの問題は、やがて国内にとどまらず、欧米では国境を越えた環境問題として認識されるようになりました。
 日本の酸性雨も例外ではありません。世界の関心は現在、生産活動の進展が著しい東アジアの越境大気汚染に集まっています。本書では、酸性雨100年の歴史を振り返り、日本と東アジアの現況を分析するとともに、将来のあり方について述べています。

【はじめに】  1970年代から1990年代にかけて、「酸性雨」という用語が日本のマスメディアを賑わした。
 レモンのように酸っぱい雨が降ると、眼がチカチカする。ナイロンストッキングに穴があく。アサガオが脱色する。スギが枯れる。コンクリートが危ない。頭髪は? このような日常生活に密着した説明が頻繁に聞かれた。中国では空中塊とよばれることも伝えられた。だが2000年代になると、酸性雨がマスメディアに登場する機会はなぜか減ってきた。
 では、酸性雨の問題が解決したから聞かれなくなったのか。そうではあるまい。研究がある程度まで成熟して、国境を越えた環境問題という認識が定着し、地域社会がこの問題に対して冷静になった。2001年1月には、環境省の尽力により「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」が本格的な稼働を開始する。広域モニタリングのスタートは、こうした意味で問題の終点ではなく、息の長い地道な取組みの始点だった。そしてオゾン、エアロゾル、黄砂、農薬、重金属、水銀、火山ガス、火災煙、微生物、放射性物質・・・と、およそアジアに排出源をもつあらゆる物質が、広域的な輸送現象として複雑に関係していることも明らかになってきた。
 詳細は本文で述べるが、酸性雨は二酸化硫黄と窒素酸化物の二つの物質がおもに関係した環境問題である。実は塩化水素が関係した酸性雨がその前にあった。塩化水素、二酸化硫黄、窒素酸化物の三つに続くガスは二酸化炭素である。前世紀のおわりに国際的な関心を集めるようになった、地球温暖化の原因物質の一つである。そして二酸化炭素もまた、海洋の酸性化に関係する物資るとして科学的な関心を集めているのである。
 酸性化の問題を明らかにするためには、フィールド観測の展開と輸送モデルの開発とが研究の両輪である。脱塩、脱硫、、脱炭といった技術開発が連綿と進められてきたこと。これに法的規制や削減協約が交互すること。物質の種類や現象の規模が異なるとはいえ、今と昔の取組みの構図にそう大きな違いがあったわけではない。
 日本では時代の要請により、農芸化学、気象学、公衆衛生学、地球科学、環境科学といったさまざまな分野で、明治時代から降水のモニタリングが行われてきた。だがおよそ三世代にわたる調査と研究の物語があったことは、あまり知られていなかった。酸性雨から越境大気汚染に視野が広がった現在、原点に立ち返って、いま一度その系譜をたどってみるよい機会ではなかろうか。このように考えて本書の筆をとった。
 まず100年以上前に、酸性雨の被害を垣間見た日本人がいたことから話を始めたい。ときは明治維新の直後。ところはイギリスのリバプールの近郊である。

【目次】
第1章 アルカリ産業の勃興

 ・岩倉具視遣米欧使節団がイギリスでみたもの
 ・ルブラン法によるソーダ灰の製造
 ・塩化水素による環境汚染
 ・アルカリ法の制定
 ・ロバート・アンガス・スミス

第2章 降水化学のあけぼの
 ・リービッヒの学説
 ・化学気候学のはじまり
 ・科学技術の揺籃期の日本への影響
 ・農事試験場の調査
 ・ロザムステッドにおけるその後の進展

第3章 深刻化する大気汚染
 ・ロンドンスモッグ
 ・日本の大気汚染
 ・中央気象台の調査
 ・新しい化学気候学のはじまり

第4章 酸性雨問題のはじまり
 ・ヨーロッパの国際論争
 ・アメリカとカナダの対立
 ・関東地方の湿性大気汚染
 ・環境庁と自治体の調査
 ・中国、韓国、台湾、東南アジアの調査

第5章 東アジアの酸性雨
 ・電力中央研究所の調査
 ・モニタリングネットワークの設計
 ・湿性沈着量の評価
 ・乾性沈着量の評価
 ・原因物質の排出源と排出量
 ・排出量と沈着量の関係

第6章 環境問題の質的な変化
 ・東アジア酸性雨モニタリングネットワークの設立
 ・環境問題を取り巻く情勢の変化
 ・対流圏下層における濃度分布 
 ・日本列島における降水組成の経年変化
 ・東京における降水組成の経年変化

第7章 越境大気汚染の解明に向けて
 ・長距離輸送モデルの整合性
 ・東アジアの将来予測
 ・広域大気汚染の環境影響
 ・アジアの広域大気汚染の解明に向けて

(気象図書)



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