著者名: | 独立行政法人 水産総合研究センター 編著 |
ISBN: | 978-4-425-88631-9 |
発行年月日: | 2014/3/17 |
サイズ/頁数: | A5判 320頁 |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥4,730円(税込) |
太平洋と大西洋のクロマグロは別の種だった!
マグロが食べられなくなるって本当か?
主要マグロ6種について、分類・生物から資源状況・管理・
資源評価・環境問題・漁業・養殖と畜養まで資源と生物全容を網羅する。
マグロの関する最新の情報を掲載
太平洋クロマグロと大西洋クロマグロの違いとは?
⇒携帯分類学と遺伝学的分類を記述
注目されるマグロ資源管理と資源評価方法
⇒種類・海域別に詳細に解説
⇒CITES・IUCN、混獲とエコラベル
外洋における行動・回遊を明らかにする
⇒アーカイバルタグ、ポップアップタグで衛星から追跡!
マグロ稚仔魚の生態に迫る!
⇒稚魚の加入量変動、移流、分布
⇒年齢と成長、食性
⇒産業的に重要なクロマグロの成熟
獲る漁業と育てる漁業の現状は?
⇒漁業史と現代の漁法
⇒蓄養の問題点と国際管理
⇒養殖と人工種苗生産技術
【序】より
マグロは寿司、刺身、ツナ缶など食材を通じて国民に広く嗜好されている魚である。また2010年にはワシントン条約の附属書掲載提案が行われ、マグロが食べられなくなるなどと、連日マスコミで大きく取り扱われ耳目を集めることとなった。しかしマグロに関する正しい知識が広く普及しているかというと疑問に思わざるを得ないところがある。専門家でさえ行政、業界団体、養殖事業者、資源研究者などの間で情報はそれぞれの分野に偏っていると言わざるを得ない。しかし、これまで世界中で利用されているマグロ資源の現状や最新の生物学的研究について概観できるものは希少であった。本書は独立行政法人水産総合研究センター(以下、水研センター)が実施している資源評価や野外調査の知見を概括して、マグロの資源や生物学に関する全容を把握できる情報の提供を目指したものである。
マグロは太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロ、ミナミマグロ、メバチ、キハだ、ビンナガの主要6種に限っても沿岸から外洋まで、また熱帯域から夏季には亜寒帯域まで広く分布し、魚体は大きく高価であるため、生物研究の対象としては非常な困難さが伴っていた。また公海に生息する回遊性資源であるため、資源評価と管理は条約に基づく国際機関に委ねられている点も、情報が得にくく理解を難しくしている。
そこで本書ではマグロの資源と生物学と称し、主にフィールドでの調査結果に基づくマグロの生物学と、マグロの国際管理機関で実施された資源評価効果に基づいたマグロの資源状態について解説した。なおクロマグロについて近年太平洋と大西洋のクロマグロが別種とされ、それぞれ標準和名が提唱されているが、まだ一般には広く認知されているとは言い難い状況であるため、本書では便宜的に太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロの呼称を使用した。
1部の第1章 分類学では最新の太平洋クロマグロと大西洋クロマグロの違いを含むマグロの形態分類学と、新たに試みられている遺伝学的な分類を記述した。第2章の生物学では、マグロ稚仔魚の生態、成熟、年齢と成長、食性、行動・回遊について取り上げた。稚仔魚の生態では、分布、稚魚の生残により引き起こされる加入量変動研究、稚魚の移流と分布の関係を論じた。特に成熟は近年隆盛となったマグロ養殖の根幹に関わる大事な分野であるが、クロマグロの成熟を例に詳しく記述した。また行動・回遊については伝統的な標識放流から、近年はアーカイバルタグ、ポップアップタグなど電子記録型標識や電子データを衛星経由で転送するものなど、機器の発展が著しい。そのため、大型で外洋に生息し研究が困難であったマグロの生態が急速に明らかにされつつある。
マグロの資源評価は漁業国のデータに基づき、マグロ漁業国際管理機関で各国の科学者に協力により実施されている。第?部第3?7章において、資源については5つの国際管理機関、IATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)、ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)、IOTC(インド洋まぐろ類委員会)、CCSBT(みなみまぐろ保存委員会)、WCPFC(北太平洋におけるまぐろ類及びまぐろ類似種に関する国際科学委員会)で実施された最近の資源評価結果に基づき記述した。ミナミマグロや大西洋クロマグロのように資源は開発当社に比べ利用の適正水準を割り込んでいるものもある。また熱帯のメバチのように利用の満限に達しているものもある。一方、キハダのように資源にはまだ余裕がある種も存在する。これらマグロ資源を横断的に概観できることは有意義である。マグロ漁業国際管理委員会についても解説を加えた。さらに主にマグロに使われる資源評価方法についても簡単に記述した。
さらにマグロ漁業を管理するうえで避けては通れない環境問題についても第8章を設けた。今日は国際的に漁業が混獲する生態系関連種に及ぼす影響を最小にすることが求められている。さらに否定はされたが、マグロそのものの絶滅が危惧され、ワシントン条約附属書の掲載提案が行われた事実もある。この章ではワシントン条約クロマグロ提案の事例を紹介し、延縄のサメ、海島、ウミガメの混獲問題、巻き網のイルカ混獲問題、エコラベルなどについて解説した。マグロに関わる行政、業界、消費者の方々にも関心が高い分野と思われる。
また、第?部ではマグロ漁業と漁業以外のマグロの供給源として近年増加している蓄養マグロやマグロ養殖について章を割いて解説した。地中海、メキシコ、オーストラリアなどでは数か月単位で魚を太らせる、いわゆる蓄養が多く、日本では2?3年飼育して成長させて出荷する養殖が主流である。近年、蓄養および養殖のマグロ生産量は急速に増加しており、生鮮マグロの供給源として無視できない存在となっている。これら養殖施設の規模の増加は需給関係のみならず、種苗供給のための幼魚の漁獲増など、資源乱獲の問題もはらんでいる。さらにはクロマグロ養殖技術の発展と自然資源に頼らない人工種苗の安定供給のための課題についても解説した。
最後に終章として未来のマグロ研究について論じた。マグロの資源評価には漁業から得られた資源指標が使われることが多いが、漁業に依存しない調査船や標識放流データを使った資源評価指標への転換が重要である。マグロの資源評価の問題点としては環境変化による資源の自然変動が考慮されていない問題があり、将来的に資源の自然変動を取り入れた資源評価手法の開発が急務であり、これができればより適正な資源管理が可能になるだろう。また無害とされているがマグロに含まれる有機水銀の問題もある。加えて、近年増加するマグロ養殖はその種苗を天然資源に依存しており、結果として幼魚の漁獲を増やしている。人工種苗の安定供給への技術革新がこれら難問を解決するだろう。さらには資源管理に行政、業界などの関係者のみではなくNGOや消費者も含めた包括手金資源管理戦略(MSE:Management Strategy Evalution)の創設が将来的には必要となるであろう。
水研センターは古くは昭和40年以前の水産庁南海区水産研究所の時代から遠洋水産研究所を経て現在の国際水産資源研究所と、半世紀以上の長きにわたり営々とマグロの資源研究を実施してきた。現在は資源研究を主に行っている国際水産資源研究所のみならず中央水産研究所、西海区水産研究所、日本海区水産研究所などもマグロのフィールド調査、養殖技術開発などでマグロ研究に関与している。また大学でもマグロを調査研究の対象とするところも増え、水研センターでは大学や都道府県の水産試験場とも協力してマグロの調査研究を推進しているところである。今回は水研叢書の形で主に水研センターが主体となって取り組んでいる資源評価と生物研究の情報を広く啓蒙する目的で本書を刊行した。マグロに関する知識の浸透の一助となれば幸いである。
【目次】
第1部 生物
第1章 分類学
1.1 マグロの形態的特徴と分類
はじめに
1.1.1 スズキ目サバ亜目
1.1.2 サバ亜目サバ科マグロ族
1.1.3 マグロ族マグロ属と2つの亜属
1.1.4 マグロ属の2亜属に含まれる種構成
1.1.5 今後の研究の展開
1.2 マグロ類の遺伝子分析ー類縁関係と分類
はじめにー遺伝子を調べるー
1.2.1 マグロ類の類縁関係ー核ゲノム vs ミトコンドリアゲノム
1.2.2 クロマグロのmtDNA分析
おわりに
第2章 生物学
2.1 稚仔魚の生態
はじめに
2.1.1 分布
2.1.2 加入変動研究
2.1.3 仔魚の移流と分布
2.1.4 成長と生残
2.2 成熟
はじめに
2.2.1 雌クロマグロの成熟
2.2.2 雄クロマグロの成熟
2.2.3 クロマグロの生殖
2.2.4 成熟を調整する仕組み
2.3 年齢と成長
はじめに
2.3.1 成長を推定するための方法
2.3.2 年齢査定を成長研究
2.4 食性
はじめに
2.4.1 仔魚の食性
2.4.2 稚魚の食性
2.4.3 未成魚・成魚の食性
2.4.4 食性研究の別の切り口
2.5 行動・回遊
はじめに
2.5.1 マグロ類の回遊と行動の調べ方
2.5.2 大規模な水平移動
2.5.3 小規模で詳細な水平移動
2.5.4 鉛直移動
2.5.5 摂餌
第2部 資源管理
第3章 マグロ類の国際管理委員会
はじめに
(1)全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)
(2)大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)
(3)みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)
(4)インド洋まぐろ類委員会(IOTC)
(5)中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)
第4章 クロマグロ類
4.1 太平洋クロマグロ
はじめに
4.1.1 分布と漁業
4.1.2 資源評価と統合モデル(Stock Synthesis)
4.1.3 資源状態
4.1.4 資源の将来の動向と資源管理
4.2 大西洋クロマグロ
はじめに
4.2.1 分布
4.2.2 漁業と漁獲量
4.2.3 我が国の漁業ー大西洋延縄漁業の歴史ー
4.2.4 生物学的情報と系群構造
4.2.5 資源状態
4.2.6 ICCATの管理方策
4.2.7 資源回復に向けた取り組み
4.3 ミナミマグロ
はじめに
4.3.1 生物学的特性
4.3.2 漁業の変遷
4.3.3 資源評価と資源管理
4.3.4 管理方式による管理へ
第5章 メバチ、キハダ
はじめに
5.1 漁業・資源評価・管理
5.1.1 東部太平洋
5.1.2 中西部太平洋
5.1.3 インド洋
5.1.4 大西洋
5.2 海域に共通の懸案事項
5.2.1 巻き網漁獲統計の問題
5.2.2 CPUEと豊度指数
5.2.3 FADs操業をめぐる資源管理における問題点
第6章 ビンナガ
はじめに
6.1 生態
6.2 世界のビンナガ漁獲
6.2.1 北太平洋
6.2.2 その他の海域の漁業
6.3 資源状況と管理
6.3.1 北太平洋
6.3.2 その他の海域の資源
第7章 資源評価とその方法
はじめに
7.1 漁業資源の変動とその要因
7.2 資源評価で用いるデータ
7.3 資源量指数による資源評価
7.4 資源評価おデルによる資源評価
7.5 資源診断と将来予測に基づく管理措置の勧告
7.6 資源評価の精度
7.7 オペレーティングモデルの利用と管理方式の開発
7.8 今後
第8章 環境問題
はじめに
8.1 CITES
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