空港経営と地域ー航空・空港政策のフロンティアー


978-4-425-86241-2
著者名:加藤一誠・引頭雄一・山内芳樹 編著
ISBN:978-4-425-86241-2
発行年月日:2014/8/20
サイズ/頁数:A5判 320頁
在庫状況:在庫有り
価格¥3,300円(税込)
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激動の航空・空港業界。地域における空港の役割とは? 多彩な研究者たちが、多彩な視点で現状分析と将来への指針を示す。「空港経営」の研究書。航空、空港。自治体の関係者必読の一冊!

「地域力」は航空需要の大きさを決め、空港のあり方も左右する。地域は空港をどのように位置づけ、空港は地域にどのような影響をもつのだろうか。空港政策や空港の仕事の解説をはじめ、空港と航空会社の関係、地元と路線の就航地との関係、空港アクセス、観光振興など多角的な視点から考察する。



【本書のねらい】

21世紀にはいり、航空と空港は交通のなかでも最も大きな変化を遂げた領域といってよいだろう。わが国では1986年の航空政策審議会の答申を端緒に、2000年には需給調整規則が撤廃され、運賃は事前届出制となった。その後、航空業界では時をおかずにイベントが立て続けに起こった。アメリカ同時多発テロ、インフルエンザ、SARSおよび金融危機はいずれも航空需要の減少につながり、日本航空(JAL)は経営破綻に至った。他方、2012年にはわが国においても低費用航空会社(LCC)が就航し、航空運賃はますます多様化した。21世紀前夜、誰がこのような変化を予想できたであろうか。
こうした激動に呼応するように、航空や空港に対する世間の注目度は高まっている。ビジネス誌では年に数回は特集が組まれるし、多くの関連書籍が出版されている。それゆえ、空港、とりわけターミナルビルは「ハレ」の場であり、非日常の喧噪に包まれている。当然、雑誌にとりあげられる情景は、ターミナルビルがほとんどである。
しかし、ターミナルビルは空港の一部にすぎず、ビル事業者の基本は不動産事業である。つまり、大部分の人は不動産業としての空港をみているにすぎない。むしろ、利用者は空港到着前やセキュリティゲートに並んで空港の本源的な機能に触れているのに、である。このような錯覚が生じる理由はいくるかあるだろう。まず、空港にはさまざまなプロ集団がいるにもかかわらず、利用者が全体を掌握することができないことがある。そして、空港を扱った一般向け書籍は航空をメインにし、しかもノウハウ本が多いこともここに影響を与えているだろう。
そこで、本書はこれまでとは異なる空港本として企画された。具体的には、空港と航空会社の関係、政策が空港に与える影響、空港とそれが立地する地域や路線の就航地域との関係という視点が設定されている。地域という名前を冠したのは、空港は地域抜きには語れないからである。くわえて、本書には理論・実証研究や政策分析の成果を取り込んでアカデミックな香りを残しつつ、できるだけ平易な言葉で読者に空港と航空の正しい知識を持ってもらおうという壮大な意図もある。
就職を考える大学生には航空を憧れの世界と考える人もいる。そのような学生には夢ばかりではなく、業界の現状や客観的評価を知って空の世界に飛び込んで汗を流してもらいたい。夢を壊すようで申し訳ないが、航空輸送産業は相対的に経営リスクの高い産業であることを認識してほしい。たとえば、アメリカの主要航空会社が破綻を経験していることは周知のとおりであり、社債格付けで最上位であるサウスウエスト航空ですら、投資適格ぎりぎりの水準にとどまる。そして、航空会社が空港に人を運ばなければ、ターミナルビル会社の経営は悪化する。つまり、大部分のビル会社は破綻確立の高い企業に依存する不動産業といってよい。

【目次】

第1部 空港と航空界者
第1章 航空・空港政策の枠組みと変遷
 1.1 航空政策の変遷
   (1)第1期 航空輸送確立の時代(1950年〜69年)
   (2)第2期 「45/47体制」の時代(1970年〜85年)
   (3)第3期 規制緩和移行期(1986年〜99年)
   (4)第4期 規制緩和時代(2000年〜11年)
   (5)第5期 低費用航空会社(LCC)の時代(2012年〜)
 1.2 空港政策の変遷
   (1)わが国の空港整備と運営
      空港の種類
      空港別旅客数
   (2)空港整備・運営の歴史
      わが国の空港整備
      第1次空港整備五箇年計画【1967(昭和42)〜1970(昭和45)年】
      第2次空港整備五箇年計画【1971(昭和46)〜1975(昭和50)年】
      第3次空港整備五箇年計画【1976(昭和51)〜1980(昭和55)年】
      第4次空港整備五箇年計画【1981(昭和56)〜1985(昭和60)年】
      第5次空港整備五箇年計画【1986(昭和61)〜1990(平成2)年】
      第6次空港整備五箇年計画【1991(平成3)〜1995(平成7)年】
      第7次空港整備七箇年計画【1996(平成8)〜2002(平成14)年】
      社会資本整備重点計画(第1次計画)【2003(平成15)〜2007(平成19)年】
      社会資本整備重点計画(第2次計画)【2008(平成20)〜2011(平成23)年】
      社会資本整備重点計画(第3次計画)【2012(平成24)年〜】
   (3)空港整備から空港運営時代へ
      空港整備に対する認識
      空港整備法から空港法へ
      空港整備勘定
      空港整備の方向性
   (4)空港運営改革の方向性
      地方空港の運営改革
      関西空港と伊丹空港の経営統合とコンセッション
      国管理空港の経営改革

第2章 エアライン・ハブとネットワーク・ハブ  2.1 エアライン・ハブの地域経済
   (1)ハブの選択・誘致
   (2)貨物ハブ空港の現状
   (3)ハブの立地決定要因
   (4)事例:ユナイテッド航空の機体整備場の誘致
      第1段階
      第2段階
      第3段階
   (5)ハブ空港誘致競争の結末
 2.2 ネットワーク・ハブ
   (1)急成長するアジア航空市場と新空港開港
   (2)アジア地域における国際航空ネットワークとネットワーク・ハブ
   (3)アジア主要都市のハブ(拠点)性と新空港開港効果
   (4)ネットワーク・ハブに影響を与える要因
 2.3 ハブと地域

第3章 オープンスカイ協定と空港  3.1 オープンスカイ協定
   (1)オープンスカイ協定とは
   (2)航空協定とオープンスカイ政策
   (3)オープンスカイ協定の広がり
 3.2 オープンスカイ政策の経済分析
   (1)規制と自由化:経済学的分析
   (2)市場構造の影響
   (3)オープンスカイ協定の形成

第4章 LCCと空港  4.1 LCCの概要ー諸外国と日本
   (1)LCCとは
   (2)諸外国におけるLCCの現状
   (3)日本におけるLCCの現状と課題
 4.2 LCCの戦略ー運賃を中心に
   (1)LCCの基礎知識ーなぜ低運賃は可能なのか
   (2)競争と運賃
     LCCの運賃戦略
   (3)LCCのインパクト
   (4)LCCと共謀意識
 4.3 LCCと空港・地域の関係
   (1)空港経営の変化
   (2)空港経営と航空会社
   (3)地域とLCC

第2部 空港経営 第5章 空港の機能・施設  5.1 空港の機能と施設の関係
   (1)運航支援機能
      離着陸機能
      駐機機能
      航空保安機能
   (2)航空機サービス機能
      航空機整備機能
      航空機支援機能
   (3)貨物取扱サービス機能
      旅客サービス機能
      貨物サービス機能
   (4)空港管理運営機能
      空港管理機能
      航空管理機能
   (5)空港支援機能
      貨客サービス機能
      空港利便向上機能
      住民サービス機能
      地域振興機能
 5.2 空港施設の管理・運営の状況
 5.3 空港に関連する事業主体の状況
 5.4 空港計画ー整備から運営の各段階における関連事業者の状況

第6章 空港の経済的評価  6.1 空港の効率性ー経済と経営
 6.2 効率性の測定法
 6.3 効率性の計測
   (1)使用データ
   (2)DEA法による計測結果
   (3)EW-TFP法による効率性の計測結果
 6.4 空港の効率性の評価

第7章 空港経営の財務構造と資金調達  7.1 航空系収入
   (1)空港整備とその制度
   (2)空港の種別
   (3)空港運営を担う主体
   (4)空港整備の特別会計
   (5)収支の開示と空港運営の効率化
   (6)空港の収入と費用
   (7)財源確保の考え方
 7.2 非航空系収入
   (1)非航空系収入への関心の高まりの背景
   (2)非航空系収入とは
   (3)非航空系収入の経済学的把握
   (4)わが国の私鉄型鉄道ビジネスにみる内部化の効率性
   (5)空港における非航空系収入への示唆
 7.3 資金調達
   (1)空港施設整備・運営における財源の種類と内容
      会社管理空港
      国管理空港
      特定地方管理空港・地方管理空港
      自衛隊共用空港
   (2)空港整備勘定の役割と経過
      空港整備勘定の財源と歳入の概要
   (3)空港整備勘定の問題点
   (4)わが国における空港の財源調達に関する今後の課題

第8章 新たな空港運営のあり方  8.1 空港経営改革の潮流
   (1)背景
   (2)空港運営のあり方の見直しー空港運営のあり方に関する検討会
   (3)空港経営改革の方向性
   (4)PPP/PFIの水深と空港経営改革
   (5)個別空港の動向
   (6)地方管理空港における空港運営
 8.2 新たな空港運営の可能性
   (1)空港運営の特徴
   (2)空港経営に携わる民間プレーヤーの類型
   (3)空港運営とファイナンス
 8.3 諸外国の事例からみた官民連携のあり方
 8.4 新たな空港運営に向けて

第3部 空港と地域 第9章 空港が地域に及ぼす影響
 9.1 空港の存在による経済効果ー存廃調査の事例より
   (1)存廃調査とは
   (2)大阪空港の存廃による国内航空需要への影響
   (3)大阪空港廃止による跡地利用の実現性と課題
   (4)大阪空港存続の決定と大都市圏の空港システム
 9.2 LCCの国際線進出の地域への効果
   (1)航空需要に対する影響
   (2)地域に対する経済効果
   (3)経済効果の持つ意味

第10章 地域と航空需要  10.1 航空機に乗る理由
 10.2 交通需要をどうとらえるかー派生的需要としての特性
   (1)本源的需要と派生的需要
   (2)派生的需要の特性
   (3)交通需要の上限制約
 10.3 航空需要の「キーポイント」
   (1)航空需要と本源的需要の結びつき
   (2)航空と他交通機関との競合
      利用者の認知
      交通サービス水準(所要時間、運賃、頻度、快適性)
      初項サービスのパッケージ化
   (3)日変動・季節変動と価格による需要コントロール
   (4)航空会社の経営戦略
   (5)空港の発着枠制約
   (6)総合的に考える必要性
 10.4 航空需要をどう予測するか
   (1)国土交通省の航空需要予測モデル
   (2)6つの「キーポイント」との対応関係
   (3)航空需要予測モデルの利用方法
 10.5 空港経営とは航空需要の追求である

第11章 航空・空港と観光  11.1 航空と観光
   (1)航空・空港と観光のかかわり
      観光の移動手段としての航空
      観光拠点としての空港
      観光施設としての空港
   (2)航空の発達と観光振興
   (3)航空と観光のこれから
      LCCと観光需要
      国際チャーター便による観光需要の創出
      東京オリンピックへ向けた首都圏空港
 11.2 空港の魅力と観光
   (1)なぜ、人は移動するのか
   (2)空港の魅力
      本源的魅力:路線や便数の多さ
      旅行者の選択肢を増やす魅力:プッシュ効果
      目的地の吸収力を高める魅力:プル効果
   (3)観光における社会経済環境の変化と空港
   (4)外生的変化と空港の魅力ー旭山動物園を例に
   (5)空港の魅力と地理的特性ー松山空港と高松空港を例に
   (6)空港の魅力と観光地の魅力ー道後温泉を例に
   (7)今後の空港の魅力と観光

第12章 空港アクセス  12.1 わが国における空港アクセスの概要
 12.2 アクセス手段選択の要因
   (1)交通行動分析の目的
   (2)交通手段選択行動モデル
   (3)アクセス手段選択いおけるスケジュールの利便性について
 12.3 地方都市から国際ハブ空港へのアクセス手段のケース
   (1)アクセス手段選択におけるスケジュール調整コストについて
   (2)香川・徳島ー関空便のケース
 12.4 空港アクセスの今後の課題

第13章 地域振興と空港経営  13.1 地域と空港
   (1)地域と交通
   (2)地域における空港の役割
   (3)空港の効果
   (4)航空・空港の利用促進
   (5)地域と空港、地域間の連携
 13.2 空港と地域整備
   (1)空港立地にともなう地域整備の意義
   (2)空港立地による関連地域整備の事例
      成田空港における空港関連地域整備の事例
      関西国際空港における空港関連地域整備の事例
   (3)空港立地による周辺地域への経済効果の事例
      関西空港および関連施設の建設投資による経済効果
      関西空港の供用による経済効果
      関西空港の供用による雇用効果
      関西空港の供用による空港周辺地域の経済効果
      関西空港の供用による関西圏の経済効果
   (4)地域振興の臨空産業
   (5)今後の空港活用による地域振興戦略について
 13.3 航空貨物と地域経済
   (1)航空貨物の特性
   (2)成田空港への集中とその課題
   (3)地域と空港の結びつきー国際航空貨物動態調査から
   (4)航空貨物と地方空港振興

第14章 結びにかえてーグローバル時代の航空・空港政策  14.1 わが国の航空政策と関西
 14.2 首都圏の空港政策と地方路線
 14.3 空港経営と地域



この書籍の解説

皆さんが身近に思う空港はありますか?その空港はどんな空港でしょう。大きくてターミナルビルも充実している、訪れるだけで楽しい空港?それとも地元密着型の、ロビーの片隅に地元農産物の直売所があるような場所でしょうか。または、急な出張でも新幹線感覚で飛行機にぱっと飛び乗れるような、アクセスのいい空港?
こうした空港の個性を決めているのは、利用者の性質です。世界中から観光客を集める空港は自国・地元のPRや観光客へのサービスに力を入れますし、ビジネス客がほとんどなら、まずは移動の利便性です。離島の小さな空港は、都市部へつながる路線を途絶えさせるわけにはいきません。
こうした利用者の性質を決めるのは、空港のある都市と、その主な目的地それぞれの性質です。観光地には観光客が、大都市には観光・ビジネス目的の人々が、離島には地元に関係する人々と観光客がやってきます。
空港の収入は、航空会社から得るものと、ターミナルビルのテナント等から得るものに大別できます。その両方が、空港を使う人々と空港のある地域(と目的地)に影響されているのです。
今回ご紹介する『空港経営と地域』は、こうした空港と地域の関係を様々な観点から解明する書籍です。空港経営において地域はどのような役割を果たしているのかを、空港政策の歴史、空港の役割と仕事、航空会社と空港、空港と地域との関係などを考察しつつ解説していきます。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『空港経営と地域ー航空・空港政策のフロンティアー』はこんな方におすすめ!

  • 航空会社に勤務する方、航空業界を目指す学生
  • 空港のある自治体で地域振興に関わっている方
  • 交通経済学を研究する学生

『空港経営と地域ー航空・空港政策のフロンティアー』から抜粋して3つご紹介

『空港経営と地域』からいくつか抜粋してご紹介します。空港は単独で存在するわけではなく、その空港の存在する地域と分けて考えることはできません。地域が空港をどのように位置づけ、空港は地域にどのような影響を与えるのか。多角的な視点から考察します。

LCC と空港地域の関係

航空産業の競争激化や航空会社の経営の悪化により、地方路線からの撤退が増えています。その結果、利用者が減って厳しい局面にある地方空港も少なくありません。こうした中で、LCC の登場が空港活性化と地方活性化のきっかけになる可能性が指摘されています。

(1)空港経営の変化
これまで空港は、航空機の運用から得られる航空系収入を得ることを第一とし運営を行ってきました。そのため空港は航空会社との関係を重視し、航空会社の利用者との関係を強く意識してきませんでした。しかし規制緩和によって、航空会社は経営の合理化を迫られるようになります。その結果、多くの空港が航空系収入の減少に直面することになりました。
空港に関する規制改革も進められ、空港経営に民間企業が参入するようになります。民間企業が経営主体となった空港は、これまでの航空系収入に加え、非航空系収入の獲得に力を入れるようになります。空港が旅客、テナント、航空機に乗らない空港訪問客を重視し始めたのです。こうして航空サービスの利用者を増やすことができれば、航空会社も路線開設もしくはサービスを強化する可能性があります。
一方、空港と航空会社間の関係についても変化が生じています。特に大きな変化は、LCCの登場です。LCCと空港の関係は、これまでの航空会社との関係よりも厳しいものになっていると考えられます。

(2)空港経営と航空会社
これまでの空港と航空会社の関係は、航空会社が空港に施設利用料などを支払い、空港がそれをもとに運営を行うというものです。この場合、航空会社は有利な立場で交渉ができます。特にLCCは低費用実現のため、空港施設の使用料を必要最小限にしようとするので、LCCの運航は航空系収入に対しては大きなプラスになりません。
空港は多くの場合、航空系収入の減少を受け入れざるを得ません。特にLCCの誘致を計画している空港については、非常に厳しい交渉になります。これからの空港は、航空系収入の減少を埋め合わせるために、非航空系収入の獲得に力を入れる必要があります。

(3)地域と LCC
交渉が成立してLCCが運航を開始した場合も、いくつか注意すべき点があります。

①LCCは必ず最安運賃を設定するとは限らない
②競争環境の変化による運賃戦略の変更
③低運賃によって空港利用者が増えない場合もある

LCCを誘致する路線にFSCが以前から運航している場合には、以下の可能性が生じます。FSCが撤退すればLCCが独占を形成します。その場合LCCは、運賃を下げないかもしれません。またLCCがFSCと共謀し、共存できる程度までしか運賃を下げない可能性もあります。
LCCは、採算が合わなければその路線から撤退します。その路線にFSCが運航していれば、FSCは運賃をLCC参入以前以上に引き上げる可能性があります。FSCが退出した後LCCが退出すれば、路線が消滅してしまいます。

LCCの誘致はこうした危険性がありますが、誘致の効果を最大限に得るためにまず必要なことは、その地域を魅力的にすることです。交通サービスは、その地域に目的があって初めて消費されるサービスです。その地域を訪れる目的を生みだせれば交通サービスは消費されるようになり、交通費の面においてLCCは他の交通機関に対し大きな優位性を有することになるのです。採算を見込める利用者数に達すれば退出の可能性は減少しますし、他のFSCやLCCの参入が発生すれば、健全な競争が行われて低運賃の維持も可能になると思われます。

その地域に何らかの魅力(目的)があるから人は訪れ、多くの人は価格と快適さを天秤にかけて最適な交通機関を選びます。そこで「早く着いて、比較的安い」というLCCの長所が魅力として捉えられれば旅客はLCCを選び、利用者の増えたLCCも空港も、旅客を受け入れた地域も得をするというわけです。

非航空系収入

(1)非航空系収入への関心の高まりの背景
空港運営事業体が、単なる空港インフラの管理者から独立採算制約を課せられた運営体や民間企業に転換する中で、空港内の商業施設などから得る非航空系収入への関心が高まっています。この分野の研究は、日本においては鉄道分野で進んでいます。古くは私鉄の兼業や経営多角化、近年のテーマではJRグループのビジネスモデル、特にエキナカの研究が参考になるでしょう。

(2)非航空系収入とは
非航空系収入とは、航空系事業以外から得られる収入全般を意味しています。一般的には空港内の商業施設での物品販売収入や飲食収入、テナント料などが想定されますが、鉄道事業や空港周辺部の不動産開発事業、海外他空港のコンサルティング事業などから収入を得ている空港もあります。
空港運営事業には施設保守業だけではなく、情報処理業や給油・給油施設管理業も含みますが、空港の連結収益を参照すると、一部の大空港では空港運営事業からの収益が約6割、非航空系収入は3~4割でした。また非航空系収入は、営業利益率の高さでも重要です。
LCCの積極誘致の結果、旅客1人あたりの収入は航空系だけでなく非航空系でも減少しています。一方で総収入そのものは航空系、非航空系ともに増加していることから、LCC 就航の拡大にともなって、広く浅く稼ぐビジネスモデルへの転換が図られたと考えられます。

(3)非航空系収入の経済学的把握
非航空系収入を経済学的に把握すると、航空輸送サービスおよび空港インフラの利用にともなって発生する外部便益が金銭的に顕在化したものといえます。航空輸送サービスを本源需要とすれば、空港インフラやそこでの消費は派生需要です。また周辺の不動産価格の上昇や産業集積などの便益は空港インフラの外部便益であり、航空輸送および空港の利用にともなう派生需要の結果として発生しています。空港運営事業体が非航空系事業で収益や利益をあげることは、このような外部便益の内部化としてとらえることができるでしょう。しかし、空港会社は基本的に内部化可能な外部便益の大きさを直接コントロールすることはできません。
外部経済が発生した場合、個々の経済主体が個別に最適化行動をとると、社会的に望ましい産出量より少ない産出量しか生産されません。このため政府は、介入によって外部便益を内部化させ、社会的に望ましい産出量を実現させようとします。
空港運営に関しては、地域経済の発展のために地方自治体が空港を設置、運営したり、航空会社や空港周辺に権益を持つ地元企業が空港本体またはターミナルビルに出資したりする事例は歴史的にも地域的にも一般的です。
そのような背景で公的関与の強かった空港が、1980年代以降諸外国で民営化されてきたのは、公的主体が運営することが必ずしも良い解決策とはなってこなかったという可能性を示唆しています。

(4)私鉄型鉄道ビジネスにみる内部化の効率性
JR東日本は傘下に駅構内での商業施設の運営や商品・飲食物販売を行う部門を擁していますが、収益面でも利益面でも非運輸業が運輸業の約半分を占め、運輸業と同レベルの営業利益率を出しています。
また、私鉄系の鉄道事業者は経営多角化の一環として沿線での流通業や不動産業に力点を置いており、鉄道ダイヤとの連携を図っています。自社が運営する沿線施設の収益増加のためにダイヤ改善を行うと、沿線施設の利用客増加が鉄道利用者の増加を促し、それがまたダイヤ改善につながるという相互作用が起こります。
私鉄型鉄道ビジネスには本業、兼業双方に発生する外部経済を内部化するメカニズムが盛り込まれているために、本業である運輸業にも兼業である非運輸業にもプラスの効果をもたらすのです。
ほかにも、目的地での行動や居住という本源需要に対し派生需要となる鉄道輸送を創設するために、沿線不動産の開発を通じて土地という本源需要の管理を行っています。つまり、鉄道会社は派生需要だけではなく本源需要も合わせて管理していることが特徴といえるでしょう。

(5)空港における非航空系収入への示唆
空港会社は航空会社にとっての利便性を上げることでしか、航空機発着回数や利用客数に影響を与えられません。空港のサービスの質を改善し利便性を向上させるためには、空港会社の経営の自由度を増し、空港周辺部での兼業を積極的に進められる体制を認めることが必要です。兼業の収益悪化が本業運営に支障をもたらすリスクもあるため、兼業の地理的、業務的範囲は外部便益の内部化が認められる範囲に限定されるべきでしょう。
空港使用料に関しては、空港会社の収入全体に制約をかける single tillを採用すべきか、 日本の鉄道のように本業のみに制約をかけるdual till を採用すべきかについては、大きく議論が分かれるところです。

空港運営における外部便益の内部化、本源需要と派生需要という観点を認識し、これらの要素が空港運営体の経営インセンティブに与える影響、効果を検証したうえで、空港運営体の規制に関する制度設計を行うことが求められます。

JR東日本の「エキナカ」経営については、当社発行『進化する東京駅』に計画当時からの模様が詳しく書かれています。鉄道会社は古くから多角的な経営を進め、商業施設や不動産経営、都市開発までを行い、沿線地域に強固な地盤を築いた会社も少なくありません。

空港の効果と利用促進

《空港の効果》
交通結節点としての空港の受益者は、航空会社や航空機の利用者です。しかし最近日本の地方空港では、空港とその周辺地域住民との交流を促進する取組みが各地で進められています。イベント等を行い、航空機を利用しなくても地域の交流の場として空港を活用することを目指すものです。
空港が地域にもたらす効果は、空港を利用する航空機が輸送する旅客、貨物の効果ということになります。空港の収支を調査すると単体では赤字の空港が多いものの、空港整備は空港単体での収益性だけではなく、利用者効果を中心に事業が評価されていることと、交流人口の拡大による地域の活性化などの地域企業・住民効果も忘れてはなりません。

空港は航空輸送の結節点として、移動所要時間の短縮効果などの便益、着陸料などの収入以外にも、多くの社会的経済的効果を地域にもたらしています。日本では将来的に人口の減少が見込まれるなか、成長しているアジアの活力を取り込むことが全国的な課題になっています。台湾をはじめとした近隣アジア諸国から地方空港への定期航空路線の開設も相次いでおり、空港が立地する地方自治体では、より多くの交流人口の増加を図るため、航空路の開設や増便など航空サービスの拡充を目指し、空港の利用促進を図っています。

《航空・空港の利用促進》
航空や空港が地域にもたらす効果を最大化するため、各地域で利用促進に向けた各種取組みが実施されています。空港に愛称をつけるのも、この動きの一環です。これらの利用促進に関する取組みの実施主体は、空港が立地する自治体です。空港によっては地域の市町村、企業で構成する協議会を設立し、各者が連携しながら実施しています。

このような航空・空港の利用促進が本格化したのは、航空自由化後のことです。改正航空法の施行によって、航空路線の路線設定、増減便、運賃の設定が、原則航空会社の経営判断に委ねられるようになりました。このため、空港を抱える自治体や経済界は、航空サービスの維持・向上や利用者利便の向上を目指し、様々な活動を行ってきました。

航空の自由化にともない、新たな航空会社が次々に設立されました。近隣国においても新たな航空会社が設立されており、これにともない地方空港への航空会社の誘致に向けた取組みが活発化し、地域間・空港間競争が起こっています。

特に2000年以降に開港した空港は、自空港を拠点とする航空会社の設立支援や航空路線の維持・誘致を含め、地域をあげて利用促進に取り組んでいます。

空港の愛称で印象的なのは、「高知龍馬空港」です。アメリカにはジョン・F・ケネディ空港があるのに、そういえば日本には人名の空港がなかった!と初めて気づきました。空港のキャラクターにも、関西エアポートグループの「そらやん」など、なかなかかわいいものがありますね。
地域の魅力を高めて旅客を呼ぶことに加え、空港そのものの利便性や魅力を高めて旅客以外の利用者を増やすこと、2つの柱で空港の収益を高め、地域への効果も大きくすることができるのではないでしょうか。

『空港経営と地域ー航空・空港政策のフロンティアー』内容紹介まとめ

空港の「実力」を決めるのは何か?民間業者である航空会社、ターミナルビル運営に関わる企業、それだけで決まるのではありません。空港の需要を作るのは、「目的地」である地元の力でもあるのです。空港政策や空港の仕事、空港と航空会社、地元と路線の就航地、空港アクセスと観光振興など、様々な観点から空港経営を考察します。

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『航空機と空港の役割 -航空機の発展とともに進歩する空港-』
空港は、航空機の発展とともに進化してきました。空港の様々な施設は、航空機の運航や安全対策に必要な機能・形状・規模・強度をその都度備えるようにして、現在の姿になったのです。今やひとつの都市とも表現できる空港について、成り立ちから現在までを解説します。

『災害と空港ー救援救助活動を支える空港運用』
大規模災害時、空港にはなにができるのか?一部の災害を除き、空港は広く空間が確保できて救援部隊の基地にもなります。東日本大震災時の空港利用事例を参考にしつつ、今後予測される様々な災害における空港の利用法、運用方法、自治体や病院などとの連携について考察します。

『進化する羽田空港 交通ブックス313』
世界的にも屈指の大空港、羽田空港。空港運営に長年携わった著者が、豊富な知識をもとに解説します。羽田空港の歴史と管理・運営、施設や設備、働く人々の様子まで、今まで一般にはあまり知られていなかった情報を含めて紹介します。日本の航空ネットワークにおける羽田空港の役割を、最新の情報とともに浮き彫りにします。


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カテゴリー:航空 
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