著者名: | 佐藤芳彦 著 |
ISBN: | 978-4-425-76251-4 |
発行年月日: | 2015/10/19 |
サイズ/頁数: | 四六判 286頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,980円(税込) |
台湾新幹線をはじめとして、現在、日本企業の海外鉄道プロジェクトへの参加が加速しています。とくにアジア圏では、都市交通整備の柱として鉄道需要が高まっており、地下鉄や高速鉄道の建設が数多く計画されています。
一方、日本企業がこれら計画に携わるためには、日本国内とは大きく異なるプロジェクトの実行体制や商慣行、また技術上の課題を乗り越えなければなりません。
本書では、海外における鉄道計画プロジェクトの特徴とその一連の流れについて順を追って解説しています。
【はじめに】より
経済成長のため、閉塞状況にある国内から海外に鉄道を輸出しようとの動きが活発である。政府機関、民間企業あげて取り組んでいる。
その背景としては二つある。一つは、国内鉄道市場は小子高齢化で輸送量が減少傾向にあり、新幹線や大都市圏鉄道といえども先の見通しは明るくない。そのため、各鉄道事業者も経営合理化でスリム化を図っている。しかし、その一方、鉄道事業は就職先として魅力があったので、高学歴の専門家を含む多くの社員を抱えている。
スリム化の過程でこれら専門家の処遇が問題となってきた。右肩上がりで輸送量も増加し、それぞれの分野の仕事も増加している時期に採用した社員を、輸送量の減少とそれに伴う業務量減を理由として、簡単に離職させることはできない。駅ナカビジネスなどの分野に振り向ける員数合わせは可能であろうが、専門家として蓄積してきた技術を活かすことはできなくなり、モティベーションの維持も難しくなる。もちろん、新たな職場で意欲を持って新境地を開拓できる人もいることは否定しない。しかし、高等教育機関を含めた社会的資産の有効活用の観点から見れば、マイナスであり、鉄道事業のパイを増やすために海外に進出することは意義がある。特に建設部門は、国内での新線建設の機会が少なくなり、海外の鉄道建設プロジェクトに活躍の場を見出すのは自然な成り行きであろう。もう一つの観点は、海外鉄道プロジェクトを専門技術の教育の場として活用することである。すなわち、日本国内では、新線建設のようなプロジェクトは限られており、設計や建設工事の実務を経験することができないので、専門技術を磨くこともままならなくなっている。そのため、海外で新線建設などのプロジェクトを経験させることによって得た知識および経験を日本国内で活かすことである。
二つ目は、産業規模の問題である。鉄道を支える産業としては、建設、電力、信号、通信、車両等の分野があり、それらはさらに細分化され、多くの企業が存在している。企業の存立を支えるには、それなりの市場規模が必要である。建設、電力や通信部門は鉄道以外の分野も含めた市場で競争できるが、車両は鉄道に特化した部分が多く、他の分野への進出は難しいと言える。例えば、国内に鉄道車両メーカーは、川崎重工業、日本車輌、近畿車輛、日立製作所、日本車輌製作所、総合車両製作所、新潟トランシスおよびアルナ車両の8 社あるが、全体の売上高は3,000億円に満たない。この他に、鉄道車両用機器や部品を供給するメーカーがある。これらのなかで鉄道専業といえるのは近畿車輛と総合製作所のみであり、新潟トランシスおよびアルナ車両は小規模の企業である。他は大きな企業の事業部門となっており、それぞれの企業の売上の数%以下であり、鉄道を看板としつつも主力商品とは言えない。かかる状況では、国内鉄道事業の縮小は企業売り上げの縮小につながり、企業存続のためには海外への売込が必須となっている。
以上の背景と合わせ、日本のODA 案件のうち鉄道の割合が高まっていることもあって、日本企業の海外鉄道プロジェクトへの参加が加速されている。しかしながら、十分な準備をしないで参加したことによる弊害も目立っている。特に大きいのは商慣行の違いである。日本国内では発注者である鉄道事業者あるいは鉄道建設運輸整備支援機構がシステム設計を行い、サブシステムあるいは機器を発注し、施工監理は発注者が行う形態となっている。一方、海外鉄道プロジェクトでは、システムまるごとを発注し、主契約者がシステム設計および施工監理を行う。詳しくは後述するが、日本国内では受け身の立場であった契約者は、海外プロジェクトでは主たる役割を果たすことが求められる。このように期待される役割が大きく異なる。また、数千ページに渡る契約書を交わし、何事も契約書に基づいた文書によるコミュニケーションとなるのも日本国内とは大きく異なる。こられにより海外プロジェクトにおいて発注者との意思疎通に問題を生じることとなる。
また、ODA 案件の取り組みに際して留意しなければならないのは、借款の原資は日本国民の税金であり、借り入れる国にとってもいずれは返さなければならない借金であることである。したがって、コストが適正であること、コスト内訳の説明責任が要求される。ODA 案件に従事するコンサルタントあるいは契約者はそれを常に念頭に置いて、仕事を進めなければならない。第三者による評価あるいは相手国の会計検査院のような機関による監査があり、場合によっては、刑事上の責任を問われることにもなる。
以上述べたように、国内と海外とでビジネス環境が大きく異なっていることである。要求されるスキルも異なる。また、日本企業同士の競争ではなく、海外企業との競争であるので、様々な事態に対応する必要もある。これらの課題を認識しないで、海外に飛び出すとやけどを負うことになり、相手国からの信用も損なうことになる。
本書では、海外案件における具体的な課題と対策について述べ、日本の企業の海外進出の参考に供したい。
佐藤芳彦
【目次】
第1章 鉄道整備のファイナンス
1.1 鉄道案件の特徴
1.2 資金調達
1.3 OECD の役割
1.4 開発援助国に対する資金の流れ
1.5 政府開発援助
1.6 ODA の案件形成から実施まで
1.7 本邦技術活用(STEP)案件
第2章 海外案件とコンサルタント
2.1 コンサルタントの役割
2.2 コンサルタントに要求される能力
第3章 海外案件の流れ(事前調査から実施契約まで)
3.1 フィージビリティ調査
3.2 入札準備
3.3 入札公示から入札まで
3.4 入札書の評価
3.5 契約交渉
3.6 海外案件の発注形態
3.7 海外案件と日本国内案件の発注図書の違い
第4章 海外案件の流れ(発注から完成まで)
4.1 プロジェクトの実行体制
4.2 発注者、代理人および請負者の関係
4.3 発注から完成までの業務
4.4 一般文書
4.5 初期設計書(Inception Design)
4.6 詳細設計書(Technical Design)
4.7 施工設計(Construction/Installation Design)
4.8 竣工図書(As-Built Documents)
4.9 検査および試験(Testing and Commissioning)
4.10 安全認証
4.11 教育訓練
4.12 試行(Trial Runs)
第5章 技術基準
5.1 軌間と通行方向
5.2 車両限界と建築限界
5.3 軌道中心間隔と施工基面幅
5.4 勾配と曲線
5.5 軸重
5.6 電気方式
第6章 日本の鉄道技術と国際規格
6.1 なぜ国際規格か
6.2 規格と技術規制
6.3 ヨーロッパ規格とJIS
6.4 JIS の課題
6.5 ODA の現場で
第7章 輸送計画
7.1 既存の地下鉄の事例
7.2 需要想定と輸送計画
7.3 列車編成と性能
7.4 設備故障時の対応
7.5 電車の留置スペース
7.6 有人運転と無人運転
第8章 技術上の課題
8.1 軌道
8.2 車両
8.3 き電方式
8.4 信号および列車運行管理
8.5 通信
8.6 自動出改札
8.7 その他設備
第9章 車両保守と車両基地
9.1 車両検査計画
9.2 日本の車両保守システム
9.3 車両保守に係わる新技術
9.4 車両基地
9.5 予備車および予備品
9.6 車両保守管理システム
9.7 日本の鉄道車両保守技術の展開
第10章 鉄道施設保守と保守用設備
10.1 鉄道施設の保守体系
10.2 軌道保守
10.3 電力設備および配電線保守
10.4 電車線保守
10.5 信号設備保守
10.6 通信設備保守
10.7 その他設備保守
10.8 保守基地
第11章 安全認証
参考資料1 鉄道市場拡大の背景
参考資料2-1 鉄道関連 IEC 規格一覧表
参考資料2-2 鉄道関連 ISO 規格一覧表
書籍「海外鉄道プロジェクトー技術輸出の現状と課題ー 交通ブックス126」を購入する
カテゴリー: