著者名: | 高津俊司 著 |
ISBN: | 978-4-425-96241-9 |
発行年月日: | 2015/10/22 |
サイズ/頁数: | A5判 204頁 |
在庫状況: | 在庫僅少 |
価格 | ¥2,640円(税込) |
国鉄分割民営化から四半世紀。
当時を知る人びと、鉄道史の研究者、国鉄ファンにとって興味の尽きない記録である。
日本の高度経済成長を支えた国鉄の建設技術集団。
世界初の鉄道用海底ずい道である「関門トンネル」建設にはじまる下関工事事務所の歴史をとおして、国鉄改革の足跡をたどる。
九州の鉄道インフラを担ってきた技術者たちの、改革の痛み、また九州新幹線の灯を消さないための努力。著者の経験と史資料から後世に伝えるべくまとめた一冊。
民営化四半世紀を過ぎた時点での貴重な回想の記録である。
【はじめに】
わが国の最初の鉄道は、1872(明治5)年に海外の鉄道技術者たちの指導を受けて新橋・横浜間に開業した。鉄道発展期において、鉄道技術は多岐にわたり、当時の近代科学技術の最先端に位置していたが、急速に外国人専門家からその技術を吸収し、わが国で自立発展することができた。その後、国内の鉄道網は全国に伸び、国の経済発展、国民生活を支えてきた。日本列島の四つの主な島はトンネルや橋りょうにより、鉄路ではじめてひとつに結ばれた。
日本の新幹線は、斜陽といわれた鉄道の世界的な高速化時代のさきがけとなり、全国にそのネットワークを拡大しつつある。都市鉄道についても、地下鉄や民営鉄道による鉄道網が整備され、世界的にも安全で便利な公共交通システムを確立した。新幹線をはじめとする日本の鉄道技術は、海外においてもその安全性、信頼性などが高く評価されている。
明治の鉄道創業以来、今日の全国の鉄道網を築いてきた礎として多くの組織、そして人びとが存在した。先人たちは、多くの困難を克服して、国民経済の発展と国民生活の向上のために必要な社会基盤を作り、維持してきた。
わが国の歴史の中で1987(昭和62)年4月1日に日本国有鉄道(以下:国鉄)が分割民営化され、約四半世紀が経過した。今日ではJR各社でも国鉄改革後に採用された職員が過半数以上を占め、多くの痛みを伴った国鉄改革の経験や記憶も薄れつつある。
私は1973(昭和48)年に国鉄に入社以来、主に建設部門で働き、国鉄最後の改革時には建設部門の地方機関である下関工事事務所に勤務していた。改革時の国鉄建設部門の課題としては、長期債務の返済、要員対策、整備新幹線などの民間会社のJRでは実施困難な国家的な大規模プロジェクトの取り扱い、鉄道技術の承継などがあった。なかでも家族を含めた生活に直結する建設関係職員の雇用対策、九州新幹線計画の承継が最大の課題であった。私はその大きな改革の流れのなかで、地方機関の最前線で日々課題に直面し、対処すべき立場であった。
本書はかつてのわが国の高度経済成長を陰で支えた国鉄の建設技術集団について、下関工事事務所を事例としてその足跡をたどり、特に四半世紀を過ぎた中で、国鉄改革時の現場の末端がどのような状況であったのか、九州新幹線の灯を消さないために、どのような努力を続けたのか、後世に少しでも知っていただきたいと思い、当時の資料などを整理して書き進めた。
今後とも、鉄道が多くの国民に愛され、国民生活の向上と福祉に寄与できることを心から願っている。
高津俊司
【目次】
序章 構想・計画から約40年を経て開業した九州新幹線鹿児島ルート
1.九州の鉄道のあゆみ
2.九州の新時代を拓く九州新幹線の開業
第一部 日本の鉄道の成り立ちから国鉄分割民営化まで―建設部門を中心として
第2章 鉄道ステムの構築と建設部門のあゆみ―明治維新から国鉄まで
1.蒸気機関の発明と鉄道システムの構成
2.日本の鉄道草創当時の鉄道建設と組織
3.鉄道寮の設置
4.鉄道局への移行
5.私設鉄道による幹線建設
6.鉄道敷設法の制定
7.鉄道国有化法
8.鉄道院から鉄道省の発足
9.建設事務所の組織
10.改良事務所の組織
11.戦時体制下の工事々務所一本化
12.大戦中の地方施設部
13.終戦後の地方建設部
14.国鉄への移行と行政整理
第3章 日本国有鉄道における鉄道建設部門の組織
1.国鉄における鉄道建設の業務分野とプロセス
2.国鉄における建設部門の概要
第4章 国鉄における設備投資のあゆみ
1.戦後の復旧期
2.第1次5か年計画および第2次5か年計画
3.日本鉄道建設公団の設立
4.第3次長期計画(昭和40年から昭和43年)
5.東海道新幹線の建設と全国新幹線鉄道整備
6.山陽新幹線の建設
7.東北、上越新幹線の建設
第5章 財政再建計画から国鉄改革
1.国鉄改革の概要
2.国鉄財政再建計画(1969〜1972)
3.新財政再建計画(1973〜1975)
4.経営改善計画(1976〜1977)
5.新経営改善計画(1980〜1985)
6.臨調答申
7.国鉄再建監理委員会の設置
8.国鉄再建監理委員会の「国鉄改革に関する意見」
9.国鉄改革関連8法の成立と国鉄改革の実施
第二部 下関工事事務所の歴史・業績から国鉄分割民営化まで
第6章 下関工事事務所の組織と変遷
1.半世紀続いた伝統ある国鉄下関工事事務所
2.下関工事事務所の変遷と概要
3.組織の変遷
4.歴代局所長
5.要員の変遷
6.工事費の推移
7.ほう賞実績
8.大瀬戸会
第7章 世界初の海底トンネルである関門トンネルの建設
1.世界初の海底トンネル(在来線関門鉄道トンネル)の構想から建設まで
2.関門トンネル着工の背景
3.下関工事事務所の開設
4.釘宮磐初代所長
5.試掘坑道
6.下り線トンネル(第1期工事)
7.上り線トンネル(第2期工事)
8.関連する陸上施設の改良と戦後のトンネル水没事故
9.殉職者
10.建設工事誌の編纂
11.関門トンネルの鉄道技術史的意義
第8章 中国、九州地区の鉄道網の整備―戦後から国鉄改革まで
1.戦後の復旧期
2.第1次5か年計画および第2次5か年計画
3.第3次長期計画(昭和40年から昭和43年)
4.山陽新幹線の建設
5.山陽新幹線開業後から国鉄改革まで
6.九州新幹線の調査
第9章 下関工事事務所と国鉄分割民営―国鉄改革の現場
1.国鉄改革における要員問題
2.国鉄改革と下関工事事務所の課題
3.下関工事事務所からの承継法人
4.雇用の確保
5.公的部門と民間産業への転出
6.新組合の結成
7.九州地区への集中投資とJR設立準備への寄与
8.用地区分と大規模用地の利用計画の策定
9.九州新幹線調査業務
10.職員の振分と新組織への移行
11.それぞれの組織への移行準備
12.九州新幹線の承継
13.鉄道建設技術の承継
終章 国鉄改革後の新幹線の建設
1.国鉄改革後の推移
2.国鉄改革に伴う整備新幹線の取り扱い
3.上下分離方式による新幹線整備
4.九州新幹線業務の鉄道公団への承継
5.国鉄改革後の九州新幹線の着工までのあゆみ
6.九州新幹線の建設と開業
7.九州新幹線の推進要因
8.新幹線の建設などの設備投資が国鉄経営に与えた影響
9.国鉄改革で鉄道建設部門の果たした主な役割と評価
鉄道関連年表
さくいん
おわりに
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