福島第一原発事故による海と魚の放射能汚染 水産総合研究センター叢書


978-4-425-88661-6
著者名:国立研究開発法人 水産総合研究センター 編
ISBN:978-4-425-88661-6
発行年月日:2016/4/15
サイズ/頁数:A5判 154頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,200円(税込)
数量
事故から五年、その後の変化を正しく知るために!

原発事故のニュースを「正しく」理解できる!
・誰でもわかる放射能汚染の基礎

水産総合研究センターの調査と分析結果
・放射性物質はこうして海と魚に拡がった
・放射性セシウムの汚染状況の真実
・魚は安全になったのか?正しく知るために!

【はじめに】より ■事故発生! 1000万倍の放射性セシウム濃度
 東京電力福島第一原子力発電所事故が発生して4年あまりが経過しました。この事故でチェルノブイリ原子力発電所事故の1/6に相当する放射性物質(放射性ヨウ素に換算して約900ペタベクレル;(ペタは千兆倍の単位)が大気中に放出され、セシウム137で3.5ペタベクレルと見積もられる大量の放射性物質が直接海に流入しました。ちなみに、原発事故により大量の放射性物質が直接海に流入したのは、今回が初めてです。流れ出た放射性物質によって海水中のセシウム137の濃度は事故前の実に1000万倍以上〔1リットル当たり6万ベクレル〕に達しました。

■次第に減っていく放射性セシウム
 海洋に放出された放射性セシウムの濃度は、沖合水と混ざり合って薄まったり、水中に浮遊する懸濁物質へ吸着されたり、また生物に取り込まれたりなどの様々な過程によって急激に低下し、2015年4月現在では,原発に近い沿岸域を除くとほぼ事故前の水準に戻っています。
 懸濁物質や、生物に取り込まれた放射性セシウムも排泄物や死骸としていずれ沈降し、海底に堆積します。このため、福島沿岸では海底の泥や砂の中の放射性セシウム濃度が1kg 当たり数千ベクレルに達する場所もありましたが、全体的には徐々に濃度が低下しています。
 環境中に放出された放射性物質は福島県やその周辺地域の海面や内水面の水生生物を汚染し、福島県水産試験場によると、2011年4-6月期に福島県の沿岸で採取された水産生物の57.7%以上が食品中の放射性セシウムの基準値である1kg 当たり100ベクレルを超えていました。その後、基準値を超えた検体の割合は時間とともに低下し、事故後約5年たった2015年10-12月期には0%となっています。
 福島県の沿岸漁業は2015年4月現在、自主的休漁中で、県等が行う放射性物質のモニタリング結果をもとに、放射性セシウム濃度が検出下限値以下あるいは検出されたとしても低い値を維持している種類について、海域を定めて試験操業を行っています。放射性セシウム濃度の低下に伴って徐々にその種類は増え、2016年2月末時点で、72種となりました。

■拭えない不安と懸念材料
 一方で、5年たった今も時として原発の敷地内や海への汚染水漏出の報道があり、国民に海や魚の汚染状況に不安が根強く残っています。また、濃度は低下傾向にあるとはいえ、海水に比べてはるかに高い放射性セシウム濃度を示す海底土から生物への取り込みと蓄積が未だ危惧されています。海産生物の放射性セシウム濃度が全体的には下がりつつある中で、時折、比較的高い濃度が検出される種類もあります。
 どうしてこのような値が検出されたのかが明らかにならなければ、十分低濃度であるために試験操業を行っている水産物についても不安を払拭することはできません。
 さらに内水面の水産資源ならびにその棲息環境の汚染は海洋に比べて低下速度が遅く、2016年3月1日現在、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、群馬県、千葉県のいくつかの河川や湖で採取される魚類の中に出荷規制がかかっている種類があります。
 内水面の汚染は基本的には大気中に放出された放射性セシウムが降下してきたものによります。となりあった湖や河川で、同じ魚種に含まれる放射性セシウム濃度を調べてみると、片方では濃度が検出限界以下となっているのに他方では基準値を超える値が検出され続けている場合もあります。どうしてこのような違いが生じているのか、河川を通じて流れ落ちる放射性物質が海に及ぼす影響はないのかなどを科学的に正確に明らかにしなければ、今回の事故による放射能の環境汚染問題は解決しません。

■水産総合研究センターの取り組み
 国立研究開発法人水産総合研究センターは、1954年のビキニ・エニウェトク環礁におけるアメリカの核実験にともなうマグロ類の放射能汚染問題に取り組んで以来、一貫してわが国周辺の魚介類や漁場環境の放射能モニタリングを実施しています。今回の原発事故に当たっても、水産庁の指示の下、発生直後から東北海域をはじめとして魚介類や漁場環境の放射能モニタリングを大幅に強化してきました。
 また、次々と生じる水産物の放射能汚染に関する「なぜ?」に科学的にわかりやすく答えることで、水産物の放射能汚染に関する風評被害を払拭するため、関係県の試験研究機関や大学等と協力しながら調査研究に取り組んできました。
 本書では、こうして得られた情報をまとめて紹介いたします。そして、本書により東京電力福島第一原子力発電所事故による水産物や漁場環境の放射能汚染に関する理解を深めていただければ幸いです。

2016年3月11日
中田 薫・杉崎宏哉・森田貴己

【目次】
1 .はじめに―よみがえる! 福島の海
 事故発生!1000万倍の放射性セシウム濃度
 次第に減っていく放射性セシウム
 拭えない不安と懸念材料
 水産総合研究センターの取り組み

2 .原発事故の放射性物質を知ろう (1)ゴジラでわかる放射能,放射線物質,放射線の基礎知識
  1「放射能」は誤用されやすい
  2「放射線物質」は放射能を持っている物質
  3「放射線」は放射線物質から出る
(2)調査の対象になっている放射線物質
  1 放射性セシウム(元素記号:Cs)/セシウム134、137
  2 放射性ヨウ素(元素記号:I)/ヨウ素131
  3 放射性ストロンチウム(元素記号Sr)/ストロンチウム90
(3)ベクレルとシーベルト
  1 ベクレルは放射能の「量」の単位
  2 シーベルトは放射線の「人体に影響を及ぼす強さ」の単位
  3 線量当量率
(4)食品中の放射性物質の基準値
(5)食品はセシウムだけを調査していて大丈夫か
  1 放射性セシウム以外の測定は必要ないの?
  2 あまりに過剰な放射性ストロンチウムの基準値の仮定
   Study1 セシウムをもっと詳しく知りたい
   Study2 放射性元素の半減期
    物理学的半減期/ 生物学的半減期/ 生態学的半減期
   Study3 濃縮係数

3 .放射能汚染情報のQ&A  Q.1 正しい情報はどのメディアが良い?
  A.1-1 公的機関のWeb サイトをお奨めします
  A.1-2 研究者は一般向けの発信が苦手です
  A.1-3 情報に偏りがでやすい個人のWeb サイト
  A.1-4 テレビの情報には「番組のストーリー」がある
  A.1-5 新聞・雑誌の情報は簡略化されています
 Q.2 魚の放射性物質の検査はどのように行われているの?
  A.2-1 海産魚の検査の実態
  A.2-2 淡水(内水面)魚の検査
 Q.3 汚染した魚が流通することはないの?
  A.3-1 基準値を超えた水産物は出荷制限されます
  A.3-2 水産物は他の食品より基準値超えが少ない
 Q.4 つまり水産物は安全なのですか?
  A.4-1 食品からの被ばく量の実際
  A.4-2 インターネット時代の「予防原則」が生み出す不安
  A.4-3 風評被害を防ごう!

4 .放射能調査に取り組む水産総合研究センター (1)原水爆実験と放射能調査
  1 ゴジラと海洋放射能調査は水爆実験で誕生した
  2 死の灰と闘った最初の調査船「俊鶻丸」
 (コラム)俊鶻丸と第五福竜丸はどこに
  3 放射能調査を担ってきた官庁
(2)海に「核のゴミ」を捨てる原子力発電
  1 核実験に代わって増える原子力発電所
  2 「核のゴミ」の海洋投棄計画を海洋調査が防いだ!
  3 旧ソ連・ロシアは放射性物質を海に捨てていた
  4 ロシアの調査船「オケアン号」
(3)水産総合研究センターが関わった放射性物質漏洩事故
  1 原子力潜水艦からの放射性物質漏洩を監視
   −米国原潜「ソードフィッシュ号」の事故-
  2 チェルノブイリ原子力発電所事故
  3 東海村JCO臨界事故
  4 東京電力福島第一原子力発電所事故
    原発で放射能漏れが発生!/ 緊急モニタリング調査
  (コラム)包丁さばきは玄人はだしの研究者
    正しい放射能測定のための講習会/ 調査にかかる予算措置

5 .陸から海へ、沖へ、海底へ移動する放射性物質 5−1 陸から海へ拡がった放射性物質
(1)どれだけの放射性物質が海へ放出されたのか
(2)放射性セシウムは水に溶けて運ばれる
(3)日本近海の汚染はどうなったのか
  1 東北地方太平洋沖のセシウム濃度
  2 影響がなかった日本海、瀬戸内海、オホーツク海、ベーリング海
(4)北太平洋へ拡がる放射性セシウム
  1 表層(海面〜水深100m 程度)での拡がり方
  2 中・深層での拡がり方
5−2 海底にたまる放射性物質
(1)なかなか下がらない海底土の放射性セシウム濃度
(2)原発の北側と南側で違う海底土表層の濃度分布
(3)海底土深層( 2cm 以深)の濃度分布
(4)放射性セシウム濃度の意外な現象
   Study4  モード水

6 .プ ランクトンから魚へ―食物連鎖と放射能汚染 6−1動物プランクトンと放射性セシウム
(1)魚に食べられる動物プランクトン
(2)仙台湾と福島県沖で調査
(3)見かけの濃縮係数
(4)放射性セシウム濃度の今後の見通し
6−2 ベントス(小型のエビ・カニ、ゴカイ等)の放射性セシウム
(1)放射性セシウム濃度は順調に低下
(2)食性によって異なるベントスの放射性セシウム濃度
(3)ベントスは放射性セシウムを貯め込まない
6−3 底魚類の放射性セシウム
(1)原発事故前との比較
(2)仙台湾の底魚類の食性と放射性セシウム濃度
  1 食物連鎖の中の底魚類の位置
  2 餌の違いと放射性セシウム濃度
  3 仙台湾と福島県沿岸の比較
  4 現状の評価と今後の見通し
6−4 ヒラメの放射性セシウム汚染履歴
(1)仙台湾〜常磐海域のヒラメの生態
(2)千葉県〜岩手県で行ったモニタリング結果
(3)ヒラメの年齢別の放射性セシウム濃度
(4)今後の見通しとまとめ
6−5 マダラの生態と放射性セシウムの関係
(1)大型のマダラの濃度だけがなぜ高い?
(2)生まれた年と放射性セシウム濃度の関係
(3)マダラの分布域の季節変化
(4)マダラの餌と放射性セシウム濃度
(5)今後の見通し
6−6 マイワシとカタクチイワシ
(1)分布
  1 マイワシの分布
  2 カタクチイワシの分布
(2)高濃度汚染水にさらされたシラス
(3)成魚の放射性セシウム濃度変化
(4)フォールアウトによる海洋汚染の影響
6−7 タコ類(マダコ、ミズダコ、ヤナギダコ)
(1)日本人が主に食べているタコ
(2)タコ類の放射性セシウム濃度変化
6−8 食物連鎖の上位マグロ類
(1)主なマグロ類4種の分布
(2)回遊魚のマグロは放射性物質の運び屋
   Study5 プランクトン
   Study6 安定同位体比

7 .淡水魚の汚染状況 (1)淡水魚類への放射性物質の移行
(2)基準値を超えた中禅寺湖のサケ類
  1 ヒメマス、ブラウントラウトから放射性セシウム検出!
  2 中禅寺湖水域の食物連鎖を調べる
  3 網生け簀実験で放射性セシウムの推移を調べる
(3)川の魚 アユ


書籍「福島第一原発事故による海と魚の放射能汚染 水産総合研究センター叢書」を購入する

カテゴリー:水産 
本を出版したい方へ