著者名: | 増田光一・居駒知樹・惠藤浩朗・相田康洋 共著 |
ISBN: | 978-4-425-56122-3 |
発行年月日: | 2019/10/28 |
サイズ/頁数: | B5判 160頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,850円(税込) |
海洋建築工学は、建築学の中の新しい学問領域であると同時に海洋工学の中の1つの分野です。本書では海洋建築工学における水波について、数学モデルで表し、解析することで水波という物理現象を明らかにしています。
【はじめに】より
日本大学理工学部海洋建築工学科は、建築学の海洋工学への参画を意図して1978年4月に創設された学科である。したがって、海洋建築工学は、建築学の中の新しい学問領域であると同時に海洋工学の中の1つの分野である。すなわち、建築学を基礎とした海洋工学が海洋建築工学であると考えることもできる。海洋建築工学の主たる活動の場は、海洋・沿岸域であり、海とは全く関わりのない建築関連の人々の中で、これから海洋建築工学を学ぼうとしている学生(学部高学年)および技術者を対象としている。本書の内容は、大きく2つに大別できる。前半の第1章〜第4章は、微小振幅波の特性を中心に、海洋の不規則波の取り扱いなどの水波の物理学的取り扱いの基礎について解説している。一方、後半の第5章〜第7章は、水波の理論の工学的応用の基礎について解説している。取り上げた事例は、近年注目されている津波、波浪エネルギー、固定式構造物に作用する波力の3つである。
また、本書の特徴として、前半部分では流体力学における基礎方程式の誘導から第2 章の微小振幅波で流体力学の基礎式を用いて水波という流体の物理現象を数学モデルで表し、その物理学的特性を表す式を求めている。すなわち、物理現象を数学モデルで表し、それを解析することにより物理現象を明らかにするという考え方を取り入れているため、式の展開を詳しく示している。また、沖波から設計波浪条件までエクセルと図表を使って計算できるようになっている。後半部分においては、先の震災以降話題になっている「津波と建築物」および「波浪発電システムの性能設計の基礎」について取り上げている。これらの内容には、著者らの研究成果の一部も含まれている。第7章の波力算定では、海洋構造物以外に、防波堤や護岸などの海岸構造物の波力算定についても触れている。
以上、本書では、上記の知識を学ぶための入門書として役立つように構成した。また、2006年に発刊された「海と海洋建築(前田、近藤、増田 編著)」が海洋建築の概論をまとめたものであるのに対し、本書は各論として「海と海洋建築」では触れられていない海洋建築工学における水波の取り扱いについて記述した。なお、本書は成山堂書店から発刊される海洋建築シリーズの第1 巻となる。
また、本書は、著者等の1人(増田)が1980年に海洋建築工学科に勤務して現在まで講義で使用していた水波工学ノート(講義ノート)が基になっている。
本書が水波工学を学ぼうとする学生や技術者の入門書として有用なものとなることを期待する。
2016年3月
日本大学理工学部 海洋建築工学科
教授 増田 光一
【目次】
序章
1 水波工学と海洋建築
2 海面波の基礎事項
3 海洋波と海洋建築物
第1章 完全流体の力学
1 はじめに
2 流体運動を表す量
3 流体運動の取扱い方法
3.1 ラグランジュ(Lagrange)の方法
3.2 オイラー(Euler)の方法
3.3 ラグランジュ微分(物質微分)
4 オイラーの連続方程式と運動方程式
4.1 連続の方程式
4.2 オイラーの運動方程式(運動量保存の法則)
5 渦無し運動とラプラスの方程式
5.1 渦運動と渦無し運動
5.2 速度ポテンシャルの定義とラプラスの方程式
6 一般化されたベルヌーイの定理
第2章 微小振幅波
1 基礎仮定および座標系
2 基礎方程式および境界条件
3 速度ポテンシャルの解
4 微小振幅波の諸性質(進行波)
4.1 波速、波長および波周期の関係
4.2 水粒子の運動
4.3 圧力
4.4 群速度
4.5 エネルギー
5 重複波
6 有限振幅波
6.1 ストークス波
6.2 クノイド波
6.3 ハイパボリック波
6.4 孤立波
第3章 波の変形
1 浅水変形
2 波の屈折
2.1 屈折の原理
2.2 屈折による波高変化
2.3 屈折による波の全反射
3 波の反射
4 波の回折
5 波の減衰
5.1 風による減衰
5.2 波の方向分散と速度分散
5.3 砕波によるじょう乱
5.4 底面摩擦
5.5 底層浸透に伴う粘性摩擦
6 砕 波
6.1 砕波の形式
6.2 砕波水深、砕波高および砕波限界
6.3 砕波帯内の波高
6.4 砕波高と換算沖波波高
第4章 波浪の統計的性質とスペクトル
1 波群の代表波とその定義
1.1 不規則波の周期と波高
1.2 代表波の定義
2 波高、周期の分布
2.1 波高の分布
2.2 周期の分布
2.3 1 /n 最高波の求め方
2.4 最高波の確率分布
3 スペクトルによる海洋波の表示
4 代表的な波浪スペクトル
4.1 ノイマン(Neuman)のスペクトル
4.2 ピアソン−モスコビッツ(Pierson-Moskowitz)のスペクトル
4.3 ITTC スペクトル
4.4 ISSC スペクトル
4.5 ブレッドシュナイダーのスペクトル
4.6 JONSWP 型スペクトル
5 スペクトルと代表波の関係
第5章 津波と建築物
1 津波の発生
2 津波高の定義
2.1 波高の求め方
2.2 津波の遡上高
3 津波の伝播特性
3.1 津波の周期
3.2 津波の伝播速度
3.3 津波の河川遡上
4 津波力の評価法と特性
4.1 津波波圧の時系列特性
4.2 建築物に対する設計用津波力
4.3 最大重複波圧の特性
4.4 津波力の特徴
4.5 津波の抗力の評価式
4.6 津波漂流物による衝突力
4.7 FEMA による衝突力の評価式とその適用性
5 津波力と地震力の比較
5.1 建物モデル
5.2 津波モデル
5.3 検討結果1
5.4 検討結果
第6章 波力発電システムの性能設計の基礎
1 規則波のエネルギー
2 不規則波のエネルギー
2.1 波パワーの取扱いと算定方法
2.2 日本沿岸の波パワーの特徴
3 波浪発電の原理
3.1 可動物体型
3.2 振動水柱型
3.3 越えっ波ぱ 型
4 我が国の波浪発電に関する既存の研究
4.1 固定式の振動水柱型
4.2 浮体式の振動水柱型
4.3 可動物体型
5 近年の海外波力発電装置開発のトレンド
6 海外の波力発電装置
6.1 振動水柱型(Oscillating water column: OWC)
6.2 可動物体型
第7章 固定式海洋構造物に作用する波力
1 固定式海洋構造物に作用する波力の求め方
2 モリソン式による波力と転倒モーメントの算定
3 質量係数と抗力係数
4 Diffraction Theory による直立円柱に作用する散乱波問題
5 防波堤直立部に働く波力と安定性
5.1 サンフルーの波圧公式
5.2 合田の波圧公式
5.3 防波堤直立部の安定性
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