著者名: | 岸本宗久 編著 |
ISBN: | 978-4-425-30391-5 |
発行年月日: | 2017/2/8 |
サイズ/頁数: | A5判 1450頁(本編・資料編の2分冊) |
在庫状況: | 品切れ |
価格 | ¥22,407円(税込) |
本書は、日本の海上衝突予防法(以下「予防法」)及びその母体になっている国際海上衝突予防規則の歴史についてその概略をまとめたものである。
一般に、予防法の航法は人類が水上輸送の手段として船舶を利用するようになって以来、船舶運航に携わる“船乗り” の間で慣習的に実施されてきた衝突を避ける方法が、長い年月を経て法的確信を得、成文化されたものであるといわれている。ところが、それらの慣習の内容及びその慣習がどのような過程を経て成文化されたかについて説明した解説書は極めて少ない。日本においては、現時点で、昭和2 年(1927)12月10日発行、海法会誌第12号に掲載された論文、津島憲一『海上衝突予防法』しかない。この論文は主として、リューベック国立商船学校助教授Roland Fuhrmann が1909年(明治42)に著した「Das Seestrabenrect」(「海上交通法」)に拠ったものであるが、ヨーロッパを中心とした予防法制定並びにその変遷の過程が要領よくまとめられており、日本の海法学者が予防法の歴史に言及する場合、必ず同論文から引用している。いわば、予防法の歴史に触れる場合のバイブルである。本書を記述するにあたって、私も同論文を基本書として用いた。しかしながら、同論文で対象としているのは1889年のワシントン会議規則制定に至るまでの諸事情であり、また日本の歴史については、明治開国以後明治25年法までを取り上げているのみで、それ以前については触れていない。つまり、歴史としては物足りないところがあり、資料も十分ではない。それに、論文発表後既に半世紀を過ぎており、その間に船舶の運航には多くの変化が生じている。
平成19年、現行予防法(1972COLREGS)が施行されて30 年を経過した。そして、この頃から海難審判制度の改変の動きが急となり、翌20年5月には新海難審判法(現行法)が公布された。船員の権利を保護し、海難原因の究明に努力してきたそれまでの海難審判制度は崩壊し、消滅した。新制度による海難審判は単に船員の行為についての処分の軽重を判断する行政機関になってしまい、予防法の航法適用について公開の場で議論する機会は失われた。私の仕事も実質的には終了したのである。しかし、地球上に海があり、船舶が海上を航行している限り予防法はその存在意義を失うことはない。現に船舶の衝突事故は相変わらず発生し続けている。
私はかねてより自分が長い間仕事で世話になった“海上衝突予防法” がどのように成立し、発展してきたか、つまりその歴史過程を調べてみたいと思っていた。このような時期にこそ予防法の史的変遷を見直してみるのも無駄ではあるまい。思い立ったが吉日である。早速、前示津島憲一の論文に不足するところを補充するとともに、同論文発表後半世紀以上にわたる新たな予防法関連条約並びに法律等の成立経過を調べ、併せて資料を整理し、全体をまとめてみようと考えた。だが、雑事も多くなかなか着手できずにいた。
丁度その頃、私は古稀を迎えた。やや遅きに失した感はあったが、この時期を逃したらもうチャンスはないと考え、勇(蛮勇)を奮って作業を始めた。ところが、作業は遅々として捗らなかった。それは予防法の規定が衝突発生の際の過失判断の基準であるとともに船舶運航に関わる諸技術の準則にもなっていることにある。このため予防法の歴史を調査し理解するには、単にこの法律そのものの形式的な成立・変遷過程のみではなく、航海、機関及び無線等の諸技術に加え、造船、艤装、港湾、更には船内組織並びに海運史の分野までも調査しなければならないことが分かったからである。それらを全て網羅することなど到底不可能である。作業開始後しばらくして、私は今回の試みが無謀なものであったことを痛感した。しかし、もう後には退けない。僅かずつではあったがいくつかの資料を調べていくうち、徐々にこの法律がたどってきた流れが見えてきたような気がした。作業を開始してから10年ばかりも要した結果が本書である。拙い内容ではあるが、予防法及びその関連事項の歴史的変遷が垣間見え、また、若干でも、資料整理のお役に立つことができるとすれば、筆者にとって望外の喜びである。
仕事をしながらとは言うものの、断片的な作業が多く、このため資料の収集及び検討が不十分なところや、文章に脈絡のない個所、不適切な表現、更には誤った解釈もあると思われる。本書はあくまでも私論をまとめたものであり、また試論の域を出ない。どうか忌憚のないご指摘、ご批判とともに、不明な点に付きご教示頂ければ幸甚である。それらを受け、さらなる検討を加え、完成に近づけたいと思う。今後とも変わらぬご指導、ご鞭撻を賜りたい。
本書出版に至るまでには多くの方々の温かいご支援がありました。そもそも本書は私の仕事のまとめとして個人的に書き留めた記録のようなもので、内容についてもまとまりを欠き、理解不足な点もあり、発表をためらっていたところ、日本船長協会前技術顧問池上武男船長の勧めにより同協会月報“Captain”に連載する機会を得たことは、誠に有難く、熱い友情に感謝する次第です。そして、その後4年にわたる連載中ご支援くださった同協会森本前会長、小島現会長、増田技術顧問並びにスタッフの皆様に厚く御礼申し上げます。また、適宜、ご懇切なご教示を賜りました橋本進、荒川博及び伊藤喜市の諸先輩並びに発表ごとに感想や励ましの言葉を寄せてくれた後輩の内藤牧夫機関長((株)商船三井自動車船部)に感謝の意を表します。とりわけ独立行政法人海技教育機構企画調整部長の乾真船長には原稿の整理から数度にわたるタイプアップ等まで全面的なご協力をして頂きました。乾船長のご支援なしには本書は世に出ることはなかったでしょう。ここに満腔の感謝の意を表するとともに心より御礼申し上げます。
2017年元旦
岸 本 宗 久
【目次】
序章 −はしがきを兼ねて−
?.国際的海上衝突予防規則の成立
?.”船舶の衝突” について
第1章 古代 ?海上衝突予防法の淵源
はじめに
?.シュメール法(Sumerian Law Code)―海法の萌芽
?.ハンムラビ法典(Code of Hammurabi)―世界最古の船舶衝突規定
?.ヘブライズムからヘレニズムへの移行とアジア
?.ロード海法(Lex Rhodia de iactu)―ギリシャとローマ
?.マヌ法典(Code of Manu)―インドの古代海法規定
?.大宝律令―「律逸」中の船舶衝突規定
第2章 中世 ?中世の3大海法と慣習法
はじめに
?.ロード人の海法(Lex Rhodia
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