日本のコンテナ港湾政策 ー市場変化と制度改革、主体間関係ー


978-4-425-39481-4
著者名:津守貴之 著
ISBN:978-4-425-39481-4
発行年月日:2017/8/8
サイズ/頁数:A5判 288頁
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価格¥3,960円(税込)
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官民が一致協力した「港湾運営体制」とは何か。阪神淡路大震災以降、国際競争力を低下してきた日本のコンテナ港湾は、諸々の課題が山積されたままであると言わざるを得ない状況にあります。そしてその間に台頭・飛躍してきたのが中国、韓国、東南アジアの諸港であり、今や国際的な重要港湾として確固たる地位を占めています。
本書では、これまで日本の港湾政策の大きな柱であったスーパー中枢港湾プロジェクトと国際コンテナ戦略港湾政策の特徴と問題点を特に検証し、その課題を提起しています。
先に挙げた各国の港湾に対抗し得るには、インフラ整備にも関わるターミナルコストの低減、用地の使用賃料や取得費用の負担圧縮、荷役スピードの向上による停泊時間短縮で叶うコスト削減などに取り組むことが喫緊の課題としてあります。
ただし、この解決には、所管官庁部局である国土交通省港湾局や地方自治体、民間の港湾運営会社・港運事業者・船社など港湾管理者や利用者がそれぞれに独立して取り組んでいてはならないと、著者は指摘しています。
官民一体となった港湾管理体制を築けるのか。国を、業界を挙げて国家戦略としてのコンテナ港湾政策をいかに推し進められるのか、その当事者たちへ鋭く問いかけていきます。
本書は、今後のコンテナ港湾の管理・運営がいかにあるべきかを考えるうえで、貴重な示唆を与える一冊となっています。

【はしがき】より  本書は近年の2 つのコンテナ港湾政策であるスーパー中枢港湾プロジェクトと国際コンテナ戦略港湾政策を取り上げて港湾政策の形成・展開過程とその背景を整理したものである。周知のようにこれら2 つの港湾政策は民営化と国営化という一見、正反対に見える2つの政策方向を持つ。ただし本書で明らかにしているが、これら2つの港湾政策における民営化とはコンテナ・ターミナル・オペレータの自立化支援と旧埠頭公社の株式会社化という2つの方向を持つものであり、その範囲・程度・手法は異なるがどちらも国=国土交通省港湾局(以下、国交省港湾局)の港湾管理者化を意図していたことから国営化と連動していた。
 言うまでもなく日本の港湾管理・運営は第2次大戦後に制定された港湾法にもとづいて地方公共団体が港湾管理者となり、それを担うという港湾管理者制度によって特徴づけられてきた。本書で取り上げる2つの港湾政策はこれまでの港湾管理者制度を、少なくとも主要港において解体する形で進められた。これら2つの港湾政策における民営化と国営化という2つの政策方向は公設民営化の「公設」を国=国交省港湾局が担当するという形で矛盾することなく進められてきたのである。
 2つの港湾政策が持つ国営化と民営化という特徴から本書では港湾政策の形成・展開過程を分析するに際して港湾政策を直接担当する国交省港湾局と港湾管理・運営を担ってきた港湾管理者=地方公共団体および旧埠頭公社のみならず、民間事業者・団体である船社、港湾運送事業者(以下、港運事業者)・団体も対象として加えた。とりわけ本書では港運事業者・業界を港湾政策が形成・展開される際の主要主体の1つとして重要視している。それは港湾政策の目的が直接的には港湾機能の強化にあることから、港湾機能の担い手である港運事業者およびその業界団体である日本港運協会の状況と動きを分析する必要があることと、現実に以前から日本港運協会は日本の港湾政策の形成・展開に大きな影響力を持ってきたことからである。
 このように港湾政策を分析するためには港運事業者・団体の動向を見なければならないが、これまでこの点は真正面から分析されてこなかった。本書では港運事業者・団体を明示的に取り上げ分析した。これが本書が持つこれまでの類書と異なる第1の特徴である。なお船社はかつて日本のコンテナ・ターミナルの中核的な経営主体であったためこれも当然取り上げている。
その上で分析対象としての国交省港湾局、各港湾管理者・旧埠頭公社、港運事業者・日本港運協会、船社の各主体それぞれの思惑・利害や構想とその間のずれ・ぶつかり合いを検討し、それらの総体として港湾政策が形成・展開される構図を整理した。他の分析とは異なる本書の第2の特徴はこれら港湾政策の形成・展開に関わる各主体間の関係性を総合的に捉えている点である。
 しかし関係各主体の思惑・動向を分析するためにはそれに関する情報を入手しなければならない。情報入手のため本書では港運事業者・業界や船社および国交省港湾局、各港湾管理者等に対して広範囲かつ長期にわたる取材(実質的には意見交換・対話)を行った。とりわけ個別の情報源に頼るのではなく、多数の情報源を比較し、いわば歴史学で行うようなテクスト・クリティークを経た情報整理・分析を行っているところに本書の第3の特徴がある。
 日本の場合、港運事業者が全て共通の利害関係を持っているわけではない。上記の取材方法は港湾ごとは当然のこととして、同じ港湾でもターミナルごとあるいは元請・専業、さらには業種ごとに利害関係は複雑に錯綜しているため日本の港運事業者という枠組みで一くくりにできる程単純なものではないし、また全国規模の業界団体である日本港運協会が必ず港運事業者全体の利害を体現しているわけでもないという事実への対応でもある。なお本書で取り上げている2 つの港湾政策の形成・展開過程における主体間関係を分析した7章、8章において脚注に業界紙の記事を多数挙げているが、これは本書の記述の一種のエヴィデンスとして記載しているにすぎない。
 もとより日本の港湾政策の基盤となる港湾管理・運営体制を考察するためには上述の各主体および主体間関係の調査・分析をするだけでは不十分である。他の主体、たとえば財務省やそれに関わる諸制度等も調査・分析する必要がある。しかし逆に港湾物流の現場を担う港運事業者・団体、さらには港湾労働組合のあり方とそれとの港湾政策の関係を考えることなしに港湾政策の方向と内容を決めることはあってはならない。また港運事業者・団体および港湾労働組合は主体的に港湾政策の方向・内容の決定に関与していくべきであろう。本書において主体としての港運事業者・団体を取り上げているのは、この点をより明確にするためである。この点も本書の特徴の1つと言える。
 ただし、本書では分析が不十分な点が多々ある。これらについては今後の研究で少しずつ解消していきたい。本書が今後の日本の港湾政策の方向と内容を改善する上で何らかの役に立てば幸いである。

平成29年7月
津守 貴之

【目次】
序章
 1 本書の目的と日本の港湾政策の評価
 (1)本書の目的
 (2)日本港湾の「競争力」
 (3)港湾の役割
 (4)日本におけるコンテナ港湾政策とその制約
 2 論点
 (1)「公設民営化」の実態
 (2)国と地方の関係あるいは国策と地方自治
 (3)地方間関係および地域格差
 (4)グローバル化と港湾
 3 本書の分析の視点
 (1)市場のニーズと市場間関係
 (2)機能
 (3)制度
 (4)主体、主体間関係および秩序
 4 本書の構成

第1章 日本のコンテナ港湾の「国際競争力低下」現象 本章の目的
 1.1 日本港湾の国際的地位の「低下」
 (1)日本港湾のコンテナ貨物取扱量の伸び悩み
 (2)ハブ港機能の低下
 1.2 主要コンテナ港の「競争力低下」
 (1)主要コンテナ港の国内シェアの低下と集荷圏の縮小
 (2)5 大港の多様性
 (3)国内港湾間競争の激化−地方港の乱立
 (4)日本のコンテナ・ターミナルの稼働率の低さ
  小括

第2章 日本のコンテナ港湾問題の背景 問題の所在
 2.1 国際的な産業システムの変容と産業配置の再編成
 (1)東アジア新興諸国の経済規模の拡大
 (2)東アジア域内貿易・投資関係の緊密化と変容
 (3)企業組織・活動の細分化(フラグメンテーション)
 (4)EMS 型企業の一般化とSCM が示すもの
 (5)コンテナリゼーションのインパクト
 (6)アジア域内諸国のコンテナ貨物量の激増とアジア域内航路のシェア拡大
 2.2 日本国内の産業動向・配置の変容
 (1)工業の空間的配置の再編成
 (2)輸出鈍化のメカニズム
 (3)商業機能の空間的配置の再編成
 2.3 海運市場の構造変化
 (1)日本市場の規模の相対的な縮小
 (2)海運市場の競争条件の変化
 (3)東アジア海運市場の一体化
 (4)日本港湾への影響
  小括

第3章 日本のコンテナ港湾問題 問題の所在
 3.1 かつてのコンテナ港湾の運営体制と集荷力
 (1)主要港のコンテナ港湾の運営体制
 (2)地方港のコンテナ・ターミナル運営体制
 3.2 港湾の役割の多様化と過度な分散化を進めた港湾政策
 (1)ウォータフロント開発への対応政策
 (2)「大交流時代を支える港湾」政策
 3.3 東アジア港湾間関係の再編成と集荷力の変容
 (1)主要港の集荷力の変容
 (2)物流ルートおよびターミナル経営の担い手の変容
  小括

第4章 日本のコンテナ港湾政策の方向と内容 問題の所在
 4.1 集荷力の規定要因
 (1)集荷力を支える諸要因と諸機能1−産業集積
 (2)集荷力を支える諸要因と諸機能2−物流ネットワーク
 (3)集荷力を支える諸要因と諸機能3−結節機能
 4.2 港湾の諸類型と日本における適切な港湾類型
 (1)港湾の諸類型
 (2)日本における適切な港湾類型と3つのシナリオ
 4.3 日本におけるあるべき港湾政策の方向と内容
 (1)日本における集約政策の必要性
 (2)港湾政策の手段と主体
 (3)あるべき港湾政策の内容
 (4)産業政策と港湾政策
  小括

第5章 スーパー中枢港湾プロジェクトの特徴と問題点 問題の所在
 5.1 スーパー中枢港湾プロジェクトの背景と「目標」「目的」
 (1)日本の港湾をめぐる「課題」とスーパー中枢港湾の「必要性」
 (2)スーパー中枢港湾のあり方
 (3)スーパー中枢港湾プロジェクトの「目標」と選定の基準
 (4)当初の全体構想
 5.2 スーパー中枢港湾プロジェクトの政策内容と特徴
 (1)スーパー中枢港湾の選定方法と選定結果
 (2)メガ・ターミナル・オペレータ育成措置
 (3)旧埠頭公社の民営化措置
 (4)遠隔地集荷措置の強化
 5.3 スーパー中枢港湾プロジェクトの「成果」と問題点
 (1)スーパー中枢港湾プロジェクトの量的「成果」
 (2)ターミナル集約化の欠如
 (3)ターミナル・オペレータ育成措置の問題点
 (4)遠隔地集荷力の再構築措置の弱さ
 (5)スーパー中枢港湾プロジェクトの政策内容の決定プロセスの問題点
  小括

第6章 スーパー中枢港湾プロジェクトの政策形成の背景 問題の所在
 6.1 ターミナルの集約化の不備について
 (1)国土交通省港湾局
 (2)港湾管理者および旧各港埠頭公社
 (3)船社
 (4)港運事業者
 6.2 メガ・ターミナル・オペレータ育成措置の不備と運営体制整備の停滞
 (1)国土交通省港湾局
 (2)5 大港管理者および旧埠頭公社
 (3)船社
 (4)港運事業者
 6.3 遠隔地集荷措置の弱さ
 (1)国土交通省港湾局
 (2)港湾管理者および旧埠頭公社
 (3)船社
 (4)港運事業者
  小括
 (1)政策推進の中心としての日本港運協会
 (2)政策主体としての国土交通省港湾局と港湾管理者
 (3)港湾管理者間格差の顕在化

第7章 国際コンテナ戦略港湾政策の特徴と課題 問題の所在
 7.1 国際コンテナ戦略港湾政策の出発点
 (1)「総括」の内容とその評価
 (2)国際コンテナ戦略港湾政策の「目的」と「目標」
 (3)国際コンテナ戦略港湾実現のための方策
 7.2 国際コンテナ戦略港湾政策の全体構想
 (1)国際コンテナ戦略港湾の選定基準と選定結果
 (2)国際コンテナ戦略港湾政策の全体構想
 7.3 国際コンテナ戦略港湾政策の内容
 (1)ターミナル競争力の強化措置
 (2)港湾運営会社制度の創設
 (3)遠隔地貨物集荷力強化措置=「集貨」措置および「創貨」措置
 7.4 国際コンテナ戦略港湾政策の課題
 (1)政策の「目標」「目的」の非現実性
 (2)選定結果の根拠と政策決定プロセスの不明瞭さ
 (3)集約政策の歪み
 (4)遠隔地集荷力強化措置拡充とその問題点
 (5)「創荷」措置の実質的な不備
 (6)港湾物流の担い手育成政策の後退
 (7)自動化実験の問題点
 (8)港湾運営会社制度の制度設計の欠陥
  小括
 (1)遠隔地集荷力強化について
 (2)民間主導から国主導へ

第8章 国際コンテナ戦略港湾政策の課題とその背景 問題の所在
 8.1 過大な目標の設定と政策決定過程の不透明化
 (1)過大な目標の設定
 (2)政策決定過程の不透明化
 8.2  ターミナル・オペレータ育成措置の後退と港湾運営会社制度の制度設計の欠陥の背景
 (1)国土交通省港湾局−国営港湾化の推進
 (2)5 大港管理者および港湾運営会社(旧埠頭公社)
 (3)船社
 (4)港運事業者
 8.3  不十分な集荷・創荷メカニズム構築措置、自動化実験とその課題の背景
 (1)国土交通省港湾局
 (2)港湾管理者および埠頭株式会社
 (3)船社
 (4)港運事業者
  小括

終章  1 日本のコンテナ港湾政策の課題と今後のあるべき方向
 (1)日本における「公設民営化」の実態
 (2)国営港湾化と港湾管理者制度
 (3)地域格差と港湾運営
 (4)グローバル化と港湾−定着型主体の重要性
 2 あるべき政策の方向
 (1)育成すべきターミナル・オペレータの類型
 (2)現場力強化の必要
 (3)日本の港運事業者・業界の現状と課題
 3 各主体の対応のあり方
 (1)日本全体の適切な港湾運営のための主体間関係の構築の必要
 (2)国土交通省港湾局
 (3)港湾管理者
 (4)港湾運営会社
 (5)船社
 (6)港運業界


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カテゴリー:海運・港湾 
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