著者名: | 佐藤達朗・雨宮正啓 共著 |
ISBN: | 978-4-425-31331-0 |
発行年月日: | 2017/11/8 |
サイズ/頁数: | A5判 296頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥4,180円(税込) |
船会社の経営破綻に対する備えや対応としては、基本的な部分(品物が届かない事態そのもの)は災害や事故の対応と似通う部分もありますが、事前対応としてどのような船会社が危ないのかを判断する知識や情報収集力が必要とされ、経営破たん発生後には差押えや債権の保全などの対応力が必要とされるなど、特有の対応が必要とされます。
本書では、倒産の基礎知識(種類、関係法令など)、危ない会社の見分け方、経営破綻によってどのような影響を受けるのかなど基本的なことから、具体的な対応策まで解説しています。
【はじめに】より
2016年8月31日,韓進海運は午前8時(現地時間)に取締役会を開き,法定管理を申請することを決議,同日午後ソウル中央地裁破産6部に回生手続きの開始申請書を提出した。
この報道が世界を駆け巡り,同年9月2日現在当該船会社の運航するコンテナ船97隻の船隊(バルク船44隻などを含め船隊合計隻数は144隻)のうち41隻が入港拒否や荷役拒否で中国,米国,カナダ,シンガポール,豪州,独,日本などで足止め,エジプトではスエズ運河の通航料を支払わないという理由で通航を拒否される等によりその後長期に渡り世界の物流が混乱したことは,特に,物流関連事業に従事している人々の記憶に新しいのではないかと思われる。
私自身は,大学卒業後損害保険会社で一貫して海上保険畑を歩み,主として海上保険のクレーム処理部門に従事してきた。その後,縁あって物流業界に転身する機会を得,損害保険会社でのクレーム実務経験を踏まえ,物流業者としてのクレーム処理の実務も担当してきたが,現時点で既に実務から退いている。このようにクレーム対応部門に携わる期間が長かったということもあって,韓国の船会社の経営破綻(倒産)とその影響について興味・関心を持ち,注視してきた。
わが国では,1975年に小山海運の経営破綻により運航船舶が途中港で運航を打ち切ったことにより,商社等を中心に多くの荷主のコンテナ貨物が途中港で荷揚げされ,混乱に陥ったことがあるが,その後船会社の経営破綻に関連した当事者間の実務対応をテーマにした実務書は出版されていないと考えられる。
本書執筆の動機については,下記の3点をあげることができる。
1.この船会社の経営破綻の影響を被った関連当事者は多岐にわたる。関連当事者として,荷主,共同運航関係にある運送人としての船会社,貨物利用運送業者,船主,コンテナリース業者,燃料油等需品供給業者,港湾当局,運河当局等々の事業者が列挙される。こうした関連当事者にとり,利用価値の高い実務書を出版することを通じて,間接的にその関連業界も含めて物流業界に貢献すること。
2.上記1.を踏まえ,2009年に「国際物流のクレーム実務」を出版した際にお世話になった成山堂書店に出版に関するアイデアを提案したところ,出版社としても取り上げる価値があるとの感触を得たこと。
3.同様に,上記1.を踏まえ,「国際物流のクレーム実務」の出版に際してお世話になり監修指導をしていただいた海事関係を専門とする雨宮正啓弁護士が,共同執筆について,快くお引き受けいただくことができたこと。
雨宮正啓弁護士については,損害保険会社時代,物流業界への転身後を通じて,海上保険及び物流クレームに関連する仕事を通じて20年を超える付き合いとなっているとはいうものの,第1章の「倒産制度の概説」,第3章第7節の「船会社の経営破綻における定期傭船契約」,ティーブレイク(Vol.7)及び(Vol.9)の執筆をご担当いただき,その他の法的問題についてご指導いただいた点に深謝しなければならない。
最後に,株式会社成山堂書店の代表取締役社長 小川典子氏及び編集グループ 小野哲史氏はじめ印刷・出版にご尽力をいただいた方々に,この場を借りてお礼を申し上げたい。
2017年10月
著者代表 佐藤 達朗
【目次】
第1章 倒産制度概説
第1節 わが国における倒産関連法一般
第2節 別除権としての船舶先取特権及び船舶抵当権
2-1 別除権
2-2 船舶を対象とする担保物権
2-3 船舶抵当権
(1)船舶抵当権の意義
(2)船舶抵当権の目的
(3)船舶抵当権の順位
2-4 船舶先取特権
(1)船舶先取特権の意義
(2)船舶先取特権を生ずる債権
ティーブレイク(Vol.1)商法(運送・海商関係)改正と船舶先取特権に関する条項の整備に関する方向付け
(3)船舶先取特権の目的物
(4)船舶先取特権の順位
(5)船舶先取特権の効力及びその消滅
(6)船舶先取特権の制限と統一条約
ティーブレイク(Vol.2)事例:バンカー供給業者による船舶差押えリスク
第3節 船舶に対する差押え及び仮差押え
3-1 船舶に対する差押え
3-2 船舶抵当権及び船舶先取特権の準拠法
(1)船舶抵当権
(2)船舶先取特権
3-3 船舶に対する仮差押え
3-4 船舶の差押え及び仮差押えの禁止
第4節 国際倒産
4-1 国際裁判管轄・準拠法
4-2 わが国の倒産手続の対外的効力
4-3 外国の倒産手続の対内的効力
4-4 内国倒産処理手続と外国倒産処理手続との競合
4-5 内国倒産処理手続と外国倒産処理手続との協力関係
4-6 配当の調整
第2章 船会社の経営破綻
第1 節 船会社の経営破綻の背景
ティーブレイク(Vol.3)韓国の船会社の法的管理申請に関する報道記事
1-1 独占禁止法の適用除外の縮小や廃止
1-2 経済情勢
1-3 海運業界の現状
ティーブレイク(Vol.4)わが国を代表する大手船会社のトップインタビュー記事
第2節 船会社の経営破綻とあるべき荷主の視点
2-1 荷主が船会社を選択する基準
2-2 財務諸表からの企業の経営数値の読取り方
第3章 船会社の経営破綻と関連当事者間の法的問題
第1節 船会社の経営破綻と関連当事者及びその直面するリスク
1-1 荷主(荷送人/荷受人)のリスク
1-2 経営破綻した船会社と共同運航を実施している船会社のリスク
ティーブレイク(Vol.5)2017 年4 月以降/新たなコンソーシアム・グルーピングに関する予測
1-3 貨物運送の受委託契約関係にある貨物利用運送業者のリスク
1-4 船主のリスク
1-5 コンテナ及びコンテナ取扱いに使用する器材類のリース業者のリスク
1-6 経営破綻した船会社の寄港予定港並びにターミナルの抱えるリスク
第2節 経営破綻した船会社の関連当事者である荷主と運送人(船会社・貨物利用運送業者)
2-1 船主経営破綻の設例
(1)本船差押えによる影響
(2)A 社の運送人に対する請求及び荷主に対する運送責任
2-2 傭船者経営破綻の設例
(1)A 社の船主に対する請求
(2)A 社の傭船者に対する請求
(3)A 社の荷主に対する責任
ティーブレイク(Vol.6)事例:荷主経営破綻の場合
ティーブレイク(Vol.7)事例:新造船発注者である船会社と造船所の経営破綻との関係
第3節 運送関係を規律する契約・条約・法
3-1 運送書類
(1)船荷証券(Bill of Lading/B/L)
(2)海上運送状(Sea Waybill)
ティーブレイク(Vol.8)サレンダードB/L(Surrendered B/L)(元地回収船荷証券)とは?
(3)CMI 統一規則と海上運送状の関係
3-2 コンテナによる国際海上運送を規律する条約・法
第4節 遅延に起因する損失
4-1 運送人の遅延責任と国際海上物品運送法
ティーブレイク(Vol.9)国際海上物品運送法13 条1 項
4-2 英国海上保険法及び海上保険と遅延損害
(1)英国海上保険法と遅延損害
(2)協会貨物約款(Institute Cargo Clauses/ICC)と遅延損害
第5節 航海の打切り(フラストレーション)
5-1 日本の船会社及び貨物利用運送業者の船荷証券約款
(1)日本郵船の場合
(2)商船三井の場合
(3)貨物利用運送業者の場合
5-2 船会社の経営破綻の影響を受ける船会社・貨物利用運送業者の航海中止に関する考え方
(1) 船会社の経営破綻の影響を受ける船会社・貨物利用運送業者の法律上の責任は?
ティーブレイク(Vol.10)契約の変更と「事情変更の法理」
(2)費用の帰趨/遅延損害金の賠償責任の如何
5-3 アバンダン(運送の打切り)の合理性につき争われた事例
第6節 船会社の経営破綻と荷主間の問題
6-1 インコタームズ(INCOTERMS)制定の背景
6-2 貿易取引とインコタームズ(INCOTERMS)における荷主間のリスク(危険負担)の移転の時期
ティーブレイク(Vol.11)貿易取引に関わる13 種類の貿易条件とその意義
6-3 貿易条件と海上保険の付保義務並びに危険負担義務
6-4 船会社の経営破綻に伴う荷送人/荷受人の争いに関する事例の検討
(1)事案の概要
(2)事案にどのように対応できるか
第7節 船会社の経営破綻における定期傭船契約
7-1 定期傭船契約における船主の経営破綻
(1)定期傭船契約の解除・維持
(2)Quiet Enjoyment Letter
7-2 定期傭船契約における定期傭船者の経営破綻
ティーブレイク(Vol.12)仲裁合意と倒産手続の関係
7-3 定期傭船者の倒産による定期傭船料不払いと船主のリーエン(Lien)
7-4 経営破綻した定期傭船者の運送責任と船主との関係
第8節 船会社の経営破綻とコンテナリース業者
8-1 船会社の支払不能に関する1982 年協会貨物約款と2009 年協会貨物約款の相違
8-2 Integrated Container Service Inc. (ICS) V. British Traders Insurance Co. Ltd. (BTI)(英国の判例)
第9節 船会社の経営破綻とリスクヘッジ手段としての海上保険
9-1 1982 年協会貨物約款と2009 年協会貨物約款の主要な相違点
9-2 売主(輸出者)/買主(輸入者)としての貨物海上保険の留意事項
9-3 買主(輸入者)としての貨物海上保険の留意事項
9-4 輸出入を双方向で行う場合の貨物海上保険等
第4章 情報の収集と開示
第1節 船 荷証券及び海上運送状等に明記される荷送人/荷受人
1-1 経営破綻した船会社が荷送人(売主)から運送を直接受託している貨物
1-2 経営破綻した船会社が貨物利用運送業者から運送を受託しているコンテナ貨物
1-3 経営破綻した船会社が同一コンソーシアムメンバーを含む共同運航を実施している船会社から受託している
コンテナ貨物
1-4 その他の運送形態
第2節 荷主と情報の関係
2-1 荷主にとっての関心事
2-2 情報の流れ
2-3 海上運送人の情報開示のあり方
2-4 荷主の情報収集源
ティーブレイク(Vol.13)船会社の貨物のトラッキングの仕組み
2-5 情報開示の対象
第3節 情報開示の事例
ティーブレイク(Vol.14)情報開示例?
3-1 情報開示事例の概要に関する解説
ティーブレイク(Vol.15)情報開示例?
3-2 荷主向け情報開示例の第一報
ティーブレイク(Vol.16)情報開示例?
3-3 海外代理店及び受荷主(買主)向け情報開示例の第十報
ティーブレイク(Vol.17)情報開示例?
第4節 情報開示のあるべき姿
4-1 情報開示とクレーム対応との関係
4-2 食品加工販売メーカーのクレーム対応事例
ティーブレイク(Vol.18)顧客に愛される,カルビーのクレーム対応
資料
1.UNCITRAL Model Law on Cross-Border Insolvency
2.外国倒産処理手続の承認援助に関する法律
3. 破産法(抄)/民事再生法(抄)/会社更生法(抄)/家事事件手続法
改正法案第79 条の2/民事訴訟法第188 条/仲裁法第13 条
4. 現行商法(債権者)及び同左改正商法(船舶先取特権及び抵当権)(案)
5.海商に係る新設法に関する商法改正(法案)
6.本書で取り上げられている商法・民法等の条文
■ 著者略歴 ■
佐藤 達朗(さとう たつろう)
1974年 京都大学経済学部卒業,日本火災海上保険株式会社(現損保ジャパン日本興亜)入社
2001年 同社退社,内外トランスライン株式会社入社
2002年 同社カスタマーサービス部長兼任クレーム対応チームリーダー
2006年 同社システム部長兼任クレーム対応チームリーダー
2007年 同社執行役員システム部長
2008年 同社執行役員営業開発部担当
2011年 同社監査役就任
2016年3月 同社監査役退任
著作関係:
『国際物流のクレーム実務』(2009 年・成山堂書店)
雨宮 正啓(あめみや まさひろ)
1986年 早稲田大学法学部卒業
1989年 株式会社日通総合研究所入社
1991年 早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了(法学修士)
1999年 弁護士登録
2011年 大連海事大学法学院客座教授
2014年 早稲田大学客員教授,海法研究所〔早稲田大学総合研究機構〕客員上級
研究員,法務省法制審議会幹事(商法部会)(2016 年2 月まで),日本
海運集会所海事仲裁委員会仲裁人・書式制定委員会委員
主要著作:
『国際物流のクレーム実務』(監修,2009 年・成山堂書店)
『船舶衝突法』(共著,2012 年・成文堂)
「中国における船舶優先権」箱井崇史= 木原知己= 雨宮正啓= 吉田麗子編『船舶
金融法の諸相』(共同執筆,2014 年・成文堂)
書籍「船会社の経営破綻と実務対応ー荷主・海上運送人はいかに対処するかー」を購入する
カテゴリー: