著者名: | 佐藤芳彦 著 |
ISBN: | 978-4-425-96291-4 |
発行年月日: | 2019/6/28 |
サイズ/頁数: | A5判 256頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,970円(税込) |
日本の鉄道技術の輸出と海外の鉄道プロジェクトに係わるコンサル業界で、プロジェクトの基本設計や入札図書作成などに、全体を見渡して、個々のサブシステムや施設の仕様を調整するシステムインテグレーターが欠かせない。本書では、海外プロジェクトにおけるシステムインテグレータの役割と彼らが知っておくべき基本事項をまとめたもので、鉄道運行会社、商社、ゼネコン、鉄道技術者たちが、今後身に付けておくべき知識を解説している。
【はじめに】より
インフラ輸出の目玉として、日本の鉄道技術輸出をねらいとした、東南アジア、南アジアやアフリカなどで鉄道プロジェクト案件が形成され、実施段階にあるものは多い。これらのプロジェクトの実際と進め方について、拙著「海外鉄道プロジェクト」を2015年に上奏し、おかげさまで高評価を頂いている。
しかし、プロジェクトの増加に伴い、発注側、受注側ともに人手不足が深刻となり、プロジェクトの遂行そのものにも影響を及ぼしつつある。特に深刻なのはプロジェクト全般を監理するプロジェクトマネジャー、鉄道全般を見渡して設計を主導するシステムインテグレーターの不足である。最も大きな原因は、21世紀に入り、新幹線や一部の鉄道を除いて新規の鉄道建設や大規模改良の案件が少なくなり、建設工事に従事した経験者が引退し、彼等のノウハウが継承されていないことにある。また、JRをはじめ各鉄道事業者は市場規模の縮小に合わせた経営効率化、要員削減を進めているので技術者の供給源も細っている。このような状況で、海外での鉄道プロジェクトが増えても、従事できる技術者の数も質も多くは望めない。このように、プロジェクトマネジャーやシステムインテグレーターの果たす役割が大きいにもかかわらず、人材の供給が追いつかず、外国人に頼らざるを得ない場面もある。外国人技術者は、日本の技術についての知識が乏しく、受注者である日系企業とのコミュニケーションにも問題なしとはいえない。プロジェクトマネジャーについては、海外経験豊富な土木技術者から選定することができるが、鉄道システム全般を見ることのできるシステムインテグレーターを探すことはさらに難しい。このような状況から日本人システムインテグレーターを早急に養成する必要がある。そのため、「海外鉄道プロジェクト」の続編として、システムインテグレーターに的を絞った本書を執筆した。一部前書と重なる部分もあるが、本書だけでも全体像が分かるようにしたためであり、ご容赦願いたい。
システムインテグレーターとは、鉄道を構成する軌道、車両、電力供給、信号および通信などのシステム全般を見渡し、計画・設計段階でそれぞれに必要な性能および機能を割当て、システム間のインターフェース、すなわち境界条件を調整する。
国内の鉄道プロジェクトでは、JRなどの鉄道事業者あるいは鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」という)が発注する車両や工事は、施主がシステムインテグレーターの役割を果たし、システムを設計し、システムを構成する各サブシステムの仕様を決めた上で、細切れにして発注している。一方、海外プロジェクトでは、施主側に設計や施工監理能力がないことから、専門技術者集団であるコンサルを雇い、コンサルが基本設計を行い、入札仕様書を作成して、システムをいくつかの入札パッケージとして発注することが一般的である。裏を返すと、プロジェクトに資金を拠出する世界銀行や国際協力機構(JICA)が、入札仕様書の構成および内容をコントロールするため、コンサルに作成させているという見方もできる。国内、海外ともプロジェクトの基本設計や入札図書作成には、全体を見渡して、個々のサブシステムや施設の仕様を調整するシステムインテグレーターは欠かせない。国内プロジェクトのシステムインテグレーターをそのまま海外で使えるかというと問題がある。国内は長年の歴史で、個々のサブシステムや施設の仕様はほぼ固まっており、サブシステム毎に担当部門が固定し、それぞれの業務量(発注金額)のシェア、すなわちパイを分割する角度はほぼ一定となっている。新規プロジェクトでも、仕様変更に伴う微調整はあるものの、シェアを大きく変えることはない。このような背景から、縄張りを侵されるとの警戒心によって、他部門から自身の部門への意見、あるいはその逆は歓迎されず、場合によっては部門間の論争に発展することもある。自由闊達に意見を交換できなければ、鉄道システム全般を見渡せるシステムインテグレーターが育つ土壌はない。これは施主側だけではなく、請負者側も同様である。お上のいうことに異議は唱えないとの体質が染みついている請負者側はもっと深刻かもしれない。このような背景から、海外で活躍できるシステムインテグレーターを鉄道事業者にもメーカーにも見いだすことは難しい。
国内の鉄道業界にしがらみのない海外で活躍するコンサル業界に、システムインテグレーターの候補者を見いだすことはできる。しかし、プロジェクト遂行についての経験は豊富であるものの、鉄道そのものの知識は鉄道事業出身者と同等とはいえない。
人材不足に立ち至った原因は上記のような、国内の鉄道ビジネスの特殊性にもつながる。すなわち、鉄道事業者がシステムインテグレーションを含めた設計を行い、メーカーあるいは施工業者に細分化された部分のみを発注する商慣行が継続しており、インテグレーション技術は鉄道事業者あるいは鉄道・運輸機構が独占し、メーカーや施工業者は業態毎に細分化され、特定の技術に特化し、全体をまとめる技術を保有していない。したがって、日本の政府開発援助(Official Development Assistant、ODA)であって、日本企業が受注しても、システムインテグレーションでつまずくことになる。一方、少子高齢化で鉄道の国内輸送市場は縮小傾向にあり、各鉄道事業者、メーカーともこれまでの規模の技術陣を抱えることは大変難しくなっており、システムインテグレーターが育つ土壌も狭まっている。
以上に述べた課題を克服して、海外鉄道プロジェクトに係わるコンサル業界で、システムインテグレーターを如何に養成するかが緊急の課題となっている。このような現状認識から、特に要員不足が深刻なシステムインテグレーターに焦点を当て、システムインテグレーターの役割、業務遂行および養成の課題についてまとめた。
システムインテグレーターの業務について厳しいことを記したが、その反面、システムインテグレーターには鉄道を一から作り上げる醍醐味と喜びもあることを強調したい。すなわち、国内の鉄道市場は縮小傾向にあるので、新線建設や大規模改良プロジェクトは少なく、それに従事できる技術者も限られ、海外で新線建設に従事することは得がたい経験といえる。鉄道事業者やメーカーにとっても、海外プロジェクトはこれまで養成してきた貴重な技術者を活かす途であることをご理解頂きたい。
課題を明確にするため、あえて厳しい表現をした部分もあり、お気に障る方もいるだろうが、本書の目的に免じご容赦願いたい。
2019年6月
佐藤芳彦
【目次】
第1章 世界一神話の実態
1.1 都市鉄道
1.2 都市間鉄道
1.3 貨物鉄道
1.4 地方交通
1.5 浮上式鉄道
1.6 日本メーカーの実力
第2章 海外プロジェクト業務の流れ
2.1 上流(プロジェクト計画、発注、Project Owner side)の業務
2.2 中流(プロジェクト受注、施工、Tenderer/Contractor side)の業務
2.3 下流(プロジェクト運営、保守、Contractor side)の業務
第3章 海外プロジェクトの組織
3.1 海外プロジェクトの組織構成
3.2 コミュニケーション能力
3.3 人材育成
3.4 事前教育
3.5 JVの限界
第4章 概略設計と基本設計
4.1 路線計画
4.2 建築限界と車両限界
4.3 軌道中心間隔と施工基面幅
4.4 ホームの配置
4.5 進行方向
4.6 動力方式
4.7 運転システム
4.8 防災計画
4.9 テロとバンダリズム対策
4.10 投資計画
4.11 システムインテグレーターの役割
第5章 都市輸送システム
5.1 輸送力の比較
5.2 建設費の比較
5.3 保守費および運転費の比較
5.4 線形の比較
5.5 その他の比較
第6章 鉄道を構成するシステム
6.1 軌道
6.2 車両
6.3 電力供給システム
6.4 信号システム
6.5 通信システム
6.6 自動改札もしくはAFC(Automatic Fare Collection)
6.7 プラットホームスクリーンドア(PSD)
6.8 設備管制システム
6.9 車両基地
6.10 鉄道施設保守基地
6.11 システム間のインターフェース
6.12 都市交通システムの規格化
第7章 入札図書の作成
7.1 入札図書の基本
7.2 パッケージ分け
7.3 入札図書の構成と施主要求事項
7.4 文書(ドキュメント)管理
7.5 工程表作成と管理
7.6 提出要求文書
7.7 GS の構成およびチェックリスト
7.8 PS の構成およびチェックリスト
7.9 教育訓練とマニュアル作成
7.10 現地生産と技術移転
第8章 技術基準と安全認証
8.1 技術基準と規格
8.2 安全認証
8.3 鉄道のパフォーマンス評価
終章 SI やPMを目指す方に
資料1 レールと鉄車輪の歴史
資料2 鉄道へのゴムタイヤ応用
資料3 モノレール
資料4 その他の都市鉄道
資料5 輸送システム別の保存費、運転費および電力
(平成27 年度鉄道統計年報)
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