著者名: | 中澤哲夫 著 |
ISBN: | 978-4-425-55441-6 |
発行年月日: | 2019/10/28 |
サイズ/頁数: | A5判 204頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,200円(税込) |
日本に気象災害をもたらす「台風」が発生する仕組みと、それを観測、予測する技術を網羅。台風とは、熱帯低気圧が風速17メートル毎秒以上に発達したもので、全世界で年間80個、北太平洋で26個が発生。日本にはそのうち平均11個が接近、3個が上陸しています。本書では、台風観測と予測技術の最新情報、温暖化と台風、国際協力体制、台風防災の心構えなど、目先の予報だけではなく、将来的な台風研究の見通しまで述べています。
【はじめに】より
地球上にはさまざまな大気現象があります。そのうちわたしたちの生活、生命に大きな影響を及ぼすものの一つに台風があります。台風は毎年のように夏から秋にかけて日本に接近、上陸する、熱帯生まれの低気圧です。台風は、恵みの雨をもたらしてくれる大事な水がめである反面、豪雨による洪水や土石流、高潮による浸水、強風による建造物の倒壊など、物的人的被害をもたらす厄介ものでもあります。
最近では、静止気象衛星や地球観測衛星により、台風の姿をより正確に把握できるようになってきました。地上観測や高層観測のデータに加えて、それらの膨大な衛星データも使って天気予報ができるようになったので、世界各国の気象機関による台風の予報精度も格段とよくなってきています。インターネットの普及とともに、世界中の台風の画像や、いろいろな予報センターが発表する豊富な台風情報も自由に閲覧できる時代になってきました。
それでは、台風とは何ですか、と聞かれたら、皆さんは、どのように答えますか? たとえば、「熱帯の海洋上で発生する」「発生・発達には水蒸気が関係している」「中緯度に進むにつれて衰弱ないしは温帯低気圧に変わる」「発達すると眼を持つものがある」「(北半球では)反時計回りの渦巻き構造をしている」「世界中でいろいろな呼び名があるが共通の特徴を持っている」などなど。たぶんこの程度は答えられる人が多いのではないでしょうか? これらの答えは、その多くが、台風が持つ性質や特徴についてのものであって、台風がなぜ存在するのかを述べているわけではありません。また、この台風の存在理由を理解していれば、最近の地球温暖化問題で、地球が暖かくなる21世紀末に台風がどのようになるのか、という問いにも、比較的すんなりと答えることができるのではないかと思います。台風に関する本はこれまでにもたくさん書かれています。それなのになぜまた台風の本をだすのでしょうか?それは、これまでの台風の本は主として台風の専門家が読むか、あるいは台風について総花的な本だったり、必ずしも台風の本質が何かをはっきりとわたしたちに教えてくれるものではなかったからです。そこで、台風はなぜ存在しているのか、なぜ発生するのか、という一番おおもとの疑問に光を当ててお話ししたいと考えて、この本を書きました。そもそも台風とは何か、そして、台風をどうやってとらえるのか、予報の現状はどうなのか、温暖化で台風はどうなるのか、などについてもできるだけ数式は使わずに、気軽に読んでいただけることを心がけて書きました。少し数式が出る部分もありますが、そのような場合にはできるだけコラムに載せるようにしました。また、わかりやすいように、カラーページも口絵に加えさせていただきました。
この本を読み終えたあとに、台風博士とまではいかなくても、「台風について、基本的なことはしっかり理解できた。誰から聞かれても一通りは答えられる」といったミニ台風博士のレベルまで到達していただけるのではないかと思っています。それでは、しばらくの間、台風についてのよもやま話に、おつきあいのほど、よろしくお願いします。
2019年9月
中澤哲夫
【目次】
第1章 台風とは何か
1.1 台風の定義
1.2 台風の一生
コラム1 台風の発生域
コラム2 コリオリ力
コラム3 モンスーントラフ
コラム4 台風の発生過程と柳井先生の先駆的研究
コラム5 大気(空気)の重さ
コラム6 潜熱と顕熱
コラム7 角運動量保存の法則
1.3 台風と温帯低気圧はどう違う?
コラム8 低気圧にもいろいろある?
第2章 台風の発達のメカニズム
2.1 不安定な大気とは?
コラム9 乾燥断熱減率
2.2 大気の上昇
2.3 二種類の条件付不安定
2.4 CISK(対流とより大きな場とのコラボ)で台風が発達
コラム 10 摩擦収束
コラム 11 積雲対流の組織化と原子核分裂反応
第3章 台風をとらえる
3.1 台風強度を衛星から推定 ―ドボラック法―
3.2 宇宙から台風を見る
コラム 12 ひまわり8号 ―世界最先端の静止気象衛星―
3.3 航空機から台風を測る
コラム 13 航空機から台風を測る―日本で初めて台風の眼に入った航空機
コラム 14 Aeroclipper(エアロクリッパー)
第4章 台風を予報する
4.1 台風をどうやって予報するのか?
4.2 台風はどこまで精度よく予報できているのか ― 進路予報
コラム 15藤原(ふじはら)効果
4.3 観測のツボ
4.4 台風はどこまで精度よく予報できているのか ― 強度予報
コラム 16NICAM
4.5 台風予報の現場では
4.6 アンサンブル予報とは?
4.7 研究目的に自由に使えるアンサンブル予報データ
4.8 MJOの予報改善で台風予測が1ヶ月先まで可能に
4.9 近未来の天気予報 「位置について、用意、ドン!」
コラム 17季節間〜季節予報(S2S)プロジェクトとMio博物館(Museum)
第5章 地球温暖化と台風
5.1 そもそも温暖化とは?
コラム 18温室効果
5.2 台風発生数や強い台風の数はどうなる?
5.3 これまでの観測データから台風の変化傾向について言えること
5.4 21世紀末に台風はどうなる?
5.5 IPCCの第5次評価報告書より
5.6 今後の課題
第6章 台風の国際協力と将来の台風観測
6.1 世界気象機関(WMO)
6.2 台風委員会、地域特別気象センター
6.3 熱帯低気圧に関する国際ワークショップ
6.4 国際共同研究プロジェクト
コラム 19台風メーリングリスト
6.5 新しい台風観測
6.6 新しい台風予測―台風の発生予報
第7章 台風災害を減らすには
7.1 主な台風災害
7.2 大雨や強風、高潮の予報が良くなれば災害による被害者はゼロになるか?
7.3 気象庁の出す警報、情報にご注意を
7.4 地方自治体の防災業務
7.5 「自助」「共助」「公助」
7.6 「避難三原則」と人間の心理特性
書籍「台風予測の最前線 気象ブックス045」を購入する
カテゴリー: