著者名: | 重松 徹 監修/株式会社 浅井市川海損精算所 編著 |
ISBN: | 978-4-425-36191-5 |
発行年月日: | 2020/3/28 |
サイズ/頁数: | B5判 272頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,960円(税込) |
共同海損とは、航海中に発生した損害をその航海に関わる荷主・船社等の関係者で負担し合う制度。共同海損下では、たとえ自分の積荷が損害を受けていない場合でも一定の金額を負担することになる。近年は、ハード・ソフト両面からの安全対策が充実したこともあり共同海損発生件数が減少傾向にあるが、それ故に共同海損に精通した実務者が減ってきており、実際に発生した際に対応に戸惑う荷主・船会社等も多い。
本書は、共同海損に必要となる知識や段取りを専門家が分かりやすく解説したものであり、共同海損になじみのない(初めて関わる)海事関係者(荷主・船社・保険会社等)には特に役立つ。
【はじめに】
浅井市川海損精算所は1925 年(大正14年)に浅井義晭(よしてる)氏が市川牧之助氏と共に神戸に設立した会社であり、現存する日本最古の海損精算事務所です。二人の名前が社名の由来です。浅井氏は大阪商船(現在の商船三井)に入社後、大阪海上火災保険(現在の三井住友海上火災保険)へ転じ、同社で専務取締役として活躍し、退職後イギリス海損精算人協会の会友、アメリカ海損精算人協会在外会員を務めました。また、市川氏は朝日海上火災保険(現在のあいおいニッセイ同和損保)の海上営業部長として活躍し、退職後、大連海務協会嘱託精算人およびアメリカ海損精算人協会在外会員を務めました。1934年(昭和9年)には、ルドルフ原著の「(1924年)ヨーク・アントワープ規則」を二人で翻訳し、出版致しました。この二人で日本における本格的な共同海損精算業務を始め、その後1979 年には本社を東京に移転しました。当社は現在に至るまで、日本における海損精算業界のリーダーとして多くの海損精算事案を手掛け、実績を残してまいりました。株式会社となった1955年(昭和30年)以降、当社が所有する記録によれば、2017年までで1040件の共同海損事案の精算を行っています。
お陰様で当社は2015年には創立90周年を迎えることが出来ました。その後、共同海損事案に直面された複数の関係者の方々より、今までの実績を活かして「共同海損の理論と実務を分かりやすく解説した本」を出版して欲しいとの要望がありました。そこで、共同海損精算人の立場から、そのご要望に応えるべく2016年3月に社内プロジェクトチームを立ち上げ、3 年余りをかけて執筆し今回の出版に至りました。執筆の中心は当社共同海損精算人の梅野浩二でありますが、共同海損部の片山静剛、船舶損害部の守川勝、貨物損害部の小山裕昭他当社のメンバーも分担し、当社を挙げての取組みとなりました。編集会議を合計で60回以上開催し、執筆した原稿は編集委員・校正委員全員で読み合せました。校正は全体を俯瞰した(敢えて執筆陣に加わらなかった)鴻野立明が中心となり、用語および振り仮名の統一等を行いました。会議では規則の解釈等をめぐり多くの議論があり、とりまとめに苦労する場面もありましたが、十分な議論を重ねることで解決致しました。
最終の監修は日本海損精算人協会の会長をあわせて3期務められ、当社の社長を19年余り務めながら数多くの共同海損精算実務を担ってきました重松徹氏にお願い致しました。
また、法律・規則関係の確認を戸田総合法律事務所にお願い致しました。
本書は共同海損の実務を分かりやすく解説する手引書となることを主眼とし、一般的に難解と思われがちな「共同海損」について、できるだけ平易な言葉で説明することを心掛け、また、実務にお役に立てていただくために実際の例も引用しながら執筆致しました。共同海損の精算は国際統一規則であるヨーク・アントワープ規則に従って行われることとなりますが、本書では現在最も広く使われている1994 年規則に基づいて解説しています。ヨーク・アントワープ規則は2004年規則および2016年規則もありますが、これらの規則が実際に船荷証券に採用されているケースは極めて少ないことから、本書では1994年規則に基づく解説と致しました。様々な技術の進歩により、海難事故は減少する傾向にあるものの、共同海損事案はまだまだ続くものと思われます。本書が海上保険および海事関係者の皆様にとって共同海損のご理解の一助となりましたら、幸いです。
執筆に際しては海事関係者の方々および成山堂書店様にも様々なアドバイスを頂戴致しました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
2020年2月
株式会社 浅井市川海損精算所
特別顧問 和氣秀樹
【目次】
第1章 共同海損とは
1.共同海損の分担に関連する用語
2.共同海損の分担のイメージ
3.1994年YARの構成
コラム:江戸時代の共同海損精算書
第2章 共同海損の成立要件
1.YAR A条
2.共同海損の成立要件
3.YAR B条(参考)
第3章 共同海損犠牲損害
1.船舶の犠牲損害
2.積荷の犠牲損害
3.船舶火災の場合の犠牲損害(船舶/積荷共通)
4.運送賃の損失
第4章 共同海損費用
1.主な共同海損費用
2.救助報酬
3.避難港諸費用
4.代換費用・仮修繕費
コラム:各国の海損精算人協会について
第5章 共同海損負担価額
1.共同海損負担価額決定の原則
2.主な財産の共同海損負担価額
第6章 共同海損の一般的な流れと手続(船社編)
1.基本方針の決定と共同海損を宣言するか否かの検討
2.共同海損精算人と協議を要する事項(共同海損宣言状提出まで)
3.共同海損精算人の任命
4.共同海損を分担する利害関係者の確認
5.積荷関係者からの必要書類の入手
6.積荷の引渡し許可
7.GAサーベイヤーによる検査
8.船貨不分離協定
9.共同海損費用保険
10. 共同海損精算に必要な書類
11. 関係者の役割
コラム:コンテナ船の共同海損(1)【その特殊性】
第7章 共同海損の一般的な流れと手続(荷主編)
1.共同海損の宣言と関係書類
2.積荷を円滑に受取るための手続き
3.積荷が損害を受けた時の手続
4.共同海損分担額の請求を受けたときの手続
5.無保険の場合の手続
コラム:コンテナ船の共同海損(2)【必要手続きと関係者】
第8章 救助報酬
1.共同海損と救助報酬
2.英国・日本における海難救助の考え方
3.海難救助に関する国際条約
4.救助契約の締結
5.救助契約の類型
第9章 空船共同海損・小額共同海損・略式精算
1.空船共同海損
2.小額共同海損精算
3.略式精算
第10章 精算地・適用規則
1.運送契約上の精算地・適用規則の規定
2.精算地とは
3.精算地・適用規則・準拠法を判断するプロセス
第11章 共同海損の時効
1.YAR上の規定
2.準拠法と各国の法規
3.英法準拠で共同海損盟約書・共同海損分担保証状が差し入れられている場合
4.まとめ
第12章 海賊への支払金と共同海損
1.海賊への支払金とは
2.海賊への支払は合法か
3.海賊案件は共同海損として成立するか
4.乗組員の人命の価値は共同海損(海賊への支払金)の分担利益になり得るか
5.共同海損費用となり得る費用
6.海賊に拘束されている期間中の各種費用
第13章 共同海損精算人の精算実務
1.事故の第一報から共同海損行為の完了まで
2.共同海損精算に必要な書類の案内から入手まで
3.共同海損精算書の作成から完成まで
4.利害関係者への共同海損精算書送付から共同海損分担額の精算まで
第14章 共同海損の精算例
1.設例(サンプル事案)の概要
2.精算書の概要
3.諸費用欄
4.共同海損精算書の精算例
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