六分儀を用いて太陽や星を観測して船位の決定し、大洋を航海する「天文航法」について、乗船実習や海技試験で必要となる知識を網羅的にまとめ、天測の初心者や学生が押さえておくべきポイントと基本事項などをわかりやすく解説する。
1990年代に実運用が開始されたGPS(Global Positioning System)は、測位にとって正に画期的な存在といえる。GPSが出現してからは、測位は常に自動で行われるものとの認識が一般的になった。さらに、2018年には準天頂衛星「みちびき」の運用が開始され、日本を含むアジアとオセアニアに限定されるものの、数cm単位の測位が簡単にできるようになった。
GPSが運用される前の大洋航海中の船舶における測位は、天体観測による船位の決定、いわゆる「天測(Celestial Navigation)」によるしかなかった。しかも、天測は天体の高度を測定するため、天体だけではなく水平線も同時に目視により認められなければならない、という条件が伴う。そのため、天測は常に、もしくは、任意の時機に位置を求めることはできない。さらに、六分儀の操作が必須であり、人間の技術と労力が求められる測位方法である。そして得られる測位の精度は理論上0.1海里(1ケーブル・約185m)である。現在のGNSS(Global Navigation Satellite System)の測位精度の数m から数cmと比較すると足元にも及ばない。
しかしながら、精度が1ケーブルとは、船橋から見渡せる範囲内のどこかに真の位置があるという意味であり、大洋を航行している際の、実運用上の誤差は“ 無い” に等しい、といえる。天測は、六分儀とグリニッジの時刻を知る術(時辰儀・クロノメータ)、および、そのときの天体の位置を記す暦と大気等に由来する高度の補正値さえあれば、自船長のオーダで位置を求めることができる方法である。著者は、天測は十分に精度のある、かつ、他者に依存しない自立した測位システムであることを改めて認識するべきだと考えている。
過去、IMOのSTW(現在はHTW)小委員会で、GPSの進展に伴い、船員の資格要件から「天文航法」を削除してはどうか、との発議があった。しかしながら、米国からは衛星の経年劣化を根拠にサービスの継続性に保証ができない旨の発言があり、この提案が撤回された経緯がある。
そして現在、GNSSとして、米国のGPSを筆頭に、ロシアのGLONASS、欧州連合のGALILEO、中国の北斗(BeiDou)、日本のみちびきが運用されているが、いずれもが各主権国(連合)によるサービスである。つまり、GPS はそもそも米国の軍事的な利用を目的として開発されたことを鑑みるとき、複数のGNSSが存在しているという事実は、主権国(連合)のそれぞれが他のサービスに依存せざるを得ない状況になることを忌避、すなわち、測位の独立性を確保する、という意図が根底にあると捉えるべきであろう。
2017年には黒海付近においてGPSに対する妨害の事実が報告されていることから、各主権国(連合)がそれぞれの国益を優先するために、他サービスへ明示的な干渉をして、その結果として、船舶が致命的な影響を被る危険性が潜在しているといわざるを得ない。
現在、その利便性からGNSSの利用が常態となっている。これは、測位という船舶にとって重要な機能を他者に依存している状況下にあるといえる。万が一にそれらが利用できなくなったとしても、大洋航海を継続させるため、自立した測位システムとしての天測の技術は、船上では維持されていなければならない。
天測は電子計算機が出現する遥か以前に確立されたグローバルな「測位システム」である。天体と地球の運動を、自分の位置を特定するという目的に向けて系統的に利用しようとする、人類の知恵の結晶の一つである。本書は、航海士を目指す諸姉・諸兄に天測を理解していただき、この技能の維持・継承に寄与することを目的としている。
第1章では、天測についての基本概念を整理する。これを踏まえて第2章では、暦の利用方法を紹介する。第3章で計算高度の根拠を整理して、第4章で真高度を得るための一連の方法を解説する。第5章では、4章までを踏まえて「測位の実際」として天測により船位を確定するために必要な種々のトピックを確認し、この章で天測に関する理解の統合を図る。第6章は、測位とは別の側面として天体を用いたコンパスエラーの検知方法を紹介する。第7章では、具体的な計算例を提示しながら読者の理解が深まることへの寄与を試みる。最後に、巻末ではいくつかの理論式についての導出を解説する。
近年、私たち「成山堂書店」を深く揺るがせた出来事があります。海上保安庁から発行されていた『天測暦』が令和4年版をもって廃刊になると発表されたのです。海上保安庁のサイトには、「近年GPS等の衛星航法が普及することにより、国際条約等で船舶への備置の必要がなくなった」ためと書かれていて、今後航海目的で天測計算が必要な場合は英国等の刊行する天測暦(The Nautical Almanac)を使ってくださいということでした。これに伴い、海技試験においても天測暦は使われることがなくなってしまいました。
古来、星は船が方角や自分の位置を知るために用いられてきました。星の読み方を知ることは、船乗りにとって欠かせないスキルのひとつだったのです。衛星が整備され便利なナビゲーションシステムが使えるようになった最近でも、天測航法は必要な教養であり続けていました。
今回ご紹介する『天文航法のABC』の著者も、冒頭でGPSの普及に伴い「今後は天文航法を船員の資格要件から削除してはどうか」という意見があることに触れつつも、天測は道具と暦、補正値さえあれば自船長の裁量で位置を求めることができる「他者に依存しない自立した測位システムである」という点に注目し、その重要性を主張しています。
便利な技術革新はその都度取り入れて利用しつつ、船員が自船の位置を知るこれまでの技術についての知識を身に着けておくことは、これからの船員にとっても重要です。天測暦を参照しない海技試験を受ける方も、船乗りの昔からの知恵の詰まった技術をマスターし、継承してみてはいかがでしょう。
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『天文航法のABC』はこんな方におすすめ!
- 航海士を目指している方
- 船に関係する学校・学部等で学ぶ学生
- 学生を指導している方
『天文航法のABC』から抜粋して3つご紹介
『天文航法のABC』からいくつか抜粋してご紹介します。六分儀を用いて太陽や星を観測して船位を決定し、大洋を航海する「天文航法」について、乗船実習や海技試験で必要となる知識を網羅的にまとめ、天測の初心者や学生が押さえておくべきポイントと基本事項などをわかりやすく解説します。
位置の表現
《地球上での位置の表現》
(1)地球上の座標系(測地系)
地球上での位置を表現するためには、世界的に統一された座標系が必要です。「測地系」と呼ばれるモデルがいくつか存在します。
GPS測位サービスは2000年以降測位精度が向上し、急速に普及しました。GPSの基準となっている測地系は米国が構築した「世界測地系1984(WGS84)」です。現在の地球上の位置に関する座標系は、船舶についてはWGS84 に統一されているといえます。
(2)緯度
地球の自転方向に右手の人差し指~小指を向けたとき、親指が北極を指します。つまり、回転(自転)方向は東です。緯度の基準は赤道で、赤道は地球の自転を根拠に定まっています。緯度は子午線に沿って与えられ、赤道が0°で極に向かって増えます。
緯度には、北半球を「北緯」、南半球を「南緯」として赤道からの方向を識別する場合と、北に向かって大きく、南に向かって小さくなる定義に従って、 正(+)と負(-)の符号で表す場合があります。
赤道から北極までの角度は90°なので、測者から北極までの角度は(90°-測者の緯度)となります。この角度(測者の子午線上の距離)は「余緯度」と呼ばれています。
(3)経度と経度時
経度の定義は人類の歴史的に由来していて、英国のグリニッジを通る子午線が基準となっています。グリニッジの子午線は「本初子午線」と呼ばれ、0°0′0″と表されます。そのほか極から延びる子午線が無数に存在します。
経度は北極で形成され、本初子午線と各地の子午線に挟まれる角度として与えられます。経度は、本初子午線から東側を「東経」、西側を「西経」として方向を識別する場合と、東に向かって増え、 西に向かって減るとの定義に従って、 正(+)負(-)の符号で表現する場合があります。
東経と西経の最大値はそれぞれ180°で、自転軸の周り360°を覆っています。地球の自転周期は24時間なので、360°と24 時間は一対一の関係です。経度の角度は時間で表現することができ、時間単位で表された経度の差を 「経度時」と呼びます。本初子午線の 0°0′0″ は、0時0分0秒です。
《天球上での位置の表現》
(1)赤緯
天球の中心は地球の中心と共通です。地球の自転軸を南北に延長し、天球を貫く点を想定し、これらを「天の北極」「天の南極」といいます。また地球・天球の中心と赤道を通る平面が天球と交わる線を「天の赤道」と呼びます。
天球にある天体を通る天の子午線は「赤緯の圏」と呼ばれます。「赤緯の圏」上における「天の赤道」から天体までの距離を「赤緯」といいます。緯度と同じように「北」「南」 で識別する場合と、正負の符号で識別する場合があります。
地球上の測者を通る子午線を天球上へ投影すると天頂を通る天の子午線となり、これを 「測者の天の子午線」と呼びます。
(2)地球からみた太陽の動き
地球は公転軸に対して自転軸が約23°26′傾いたまま運行しており、年間を通して、自転軸が傾いている方向と地球から太陽を望む方向との関係が変化していきます。
視点を地球・天球の中心に置き換えてみると、地球・天球の中心から地位の方向の延長上に太陽があるので、太陽の地位の変化は、そのまま天球における太陽の移動を表しています。
特に自転軸が傾いている方向の正面に太陽を望むとき、自転軸の北が公転軸側に傾いている場合は、太陽の赤緯は北半球にあります。太陽の赤緯が「北」の値として最大となるときが「夏至」です。逆に自転軸の傾いている方向が太陽を望む方向と反対側にある場合は、太陽の赤緯は南半球にあります。「南」の値として赤緯が最大になるときが「冬至」です。
夏至から冬至までの間に、太陽の赤緯が 0°となり、太陽が北半球から南半球に移行する瞬間があります。この点が「秋分点」です。逆に太陽が南半球から北半球へ移行する点を、「春分点」といいます。
(3)赤経
「赤経」とは「天の北極」で形成される「春分点」の方向と、天体の「天の子午線(赤緯の圏)」に挟まれる角度です。日本では赤経の角度は経度時と同じ時間単位で表現されます。赤経の値は東方向を正(+)つまり東に向かうほど大きくなります。180° (12h00m00s)の方向は「秋分点」を示します。秋分点を超えても、経度とは違って数値はそのまま増加します。23h59m59sの次の角度1秒分で、春分点に戻ります。
《時角(経度と赤経の相対関係)》
経度は地球の北極を中心として与えられ、赤経は天の北極を中心として与えられます。地球の北極と天の北極は、地球・天球の中心を貫く直線上にあるので、経度と赤経の関係はこの中心(北極・天の北極)で形成される両者の差として求められます。
地球上のある経度と天球上のある赤経との差を「地方時角」といいます。経度はグリニッジ子午線を基準としているので、測者と天体との間の地方時角を得ようとする場合、まずグリニッジと天体との時角を特定し、その後、測者の経度を加味すればよいのです。
グリニッジ子午線からみた天体の天の子午線(赤緯の圏)までの赤経上の差を「グリニッジ時角」といいます。グリニッジ時角は、西方向が正(+)となります。グリニッジ時角の値に測者の経度の正負をそのまま加算すれば、測者からみた地方時角を求めることができます。
《地方時角位置の三角形・計算高度》
① 地球上にいる測者の位置は緯度と経度で表現される
② 天球上にある天体の位置は赤緯と赤経で表現される
③ 測者の経度と天体の赤経の差は地方時角として与えることができる
ここで、新たに天頂と天体を通る大圏を想定することができます。「高度の圏」です。すると、天頂・天体・天の極の三つの頂点で形成される球面三角形が得られます。これを天測では「位置の三角形」と呼びます。「天の極」から天頂までの角度は、余緯度(90°-緯度)です。一方、極から天体までの角度(90°-赤緯)を 「極距」と呼びます。
地方時角は 「位置の三角形」において 「天の極」 で形成される内角であり、この対辺が頂距(90°-高度)です。地方時角を挟む二つの辺がそれぞれ、余緯度と極距です。これらの要素は球面三角形の余弦定理の関係式に当てはめることができるので、この関係式を解くことで、高度の値を求めることができます。測者の緯度と経度は推測位置となるので、この計算で得る高度が計算高度となります。
位置を示すために使われている様々な基準点は、実は少しずつ動いています。春分点は天球に固定されているわけではなく、時給の自転軸のふらつき(歳差運動)によって徐々に西に移動しています。星占いの十二星座と今現在の黄道十二星座にずれがあるのもそのためです。春分点のことを英語で「The First Point of Aries」と呼ぶことがありますが、春分点は昔牡羊座にあったためなのですね。現在は魚座にあります。
六分儀の構造
六分儀の基本的な構造部材はフレーム(Frame)と呼ばれ、扇型になっています。扇の角度が60°で、円周の6 分の1 であることが名前の由来です。
フレームの円弧(フレーム・アーク)の部分には「分度目盛」がふられており、0°~ 120°(125°の機種もあります)までを「本弧」、0°~-5°(俯角)の目盛りの部分を「余弧」と呼びます。
弧の中心を軸として、インデックス・バー(指標悍)が分度目盛に沿って揺動できるようになっていて、インデックス・バーには、インデックス・ミラー(動鏡)が取り付けられています。インデックス・ミラーは、揺動面に対して垂直です。
フレーム・アークの外周には、ウォーム歯車を受ける刻み(ラック)があります。マイクロメータを回すと歯車が回転し、インデックス・バー自体を移動させるようになっています。ウォーム歯車はバネで押し付けられていますが、「接・離」のクランプをつまむと、インデックス・バーを自由に動かすことができます。
フレームには、望遠鏡とホライゾン・ミラー(水平鏡)が取り付けられています。ホライゾン・ミラーは右側半分だけが鏡となっていて、インデックス・ミラーで反射した光を望遠鏡の対物レンズへ向けて反射します。
ホライゾン・ミラーの左側半分はガラスなので、望遠鏡の軸方向からの光を素通りさせます。望遠鏡の対物レンズには、インデックス・ミラーとホライゾン・ミラー(右半分)で反射された光線と、ホライゾン・ミラー(左半分)を通過してきた光線が同時に導かれるのです。
マイクロメータの外周には60分割の目盛がふられていて、マイクロメータの1回転すると、インデックス・バー自体は0.5°移動します。インデックス・ミラーが0.5°傾くと、天体からの光を受ける鏡(反射面)において入射角と反射角を同時に0.5°ずつ変化させるので、実際には高度1°の変化を与えることになります。マイクロメータの1回転は、高度1°の変化に対応しているのです。マイクロメータの目盛の間隔は1′に相当し、目測でこの間隔の1 / 10 を読み取ります。
また、望遠鏡の視野において、水平線に天体が接するようにインデックス・バーの位置を決定するとき、分度目盛の値(°数)とマイクロメータの値(′数と1 / 10′数)を合わせたものが、「六分儀高度(Sextant Altitude)」となります。
太陽の高度を観測する場合には、眼を保護して観測をしやすくするため、インデックス・ミラーとホライゾン・ミラーの間にシェードを置いて光量を減らす必要があります。また太陽と同じ方向の水平線付近には、海面のぎらつき(Sun Glitter)があるので、ホライゾン・ミラーの前面に配置されているシェードを用いて、水平線の視認を容易にします。)。
実際の書籍には画像と説明図がついていますので、六分儀の概観と基本構造、動かす部位についても詳しく知ることができます。六分儀は精密な計測機器ですが、工業製品ですので、製造過程に原因があり調整不可能なもの、計測時に調整できるものを含め、様々な誤差を把握し念頭に置いた上で実際の計測を行う必要があります。この誤差をどう扱うかが天測の醍醐味ともいえそうです。
測位の実際
《天測の全体の流れ》
実際の天測には、「準備」「高度の測定」「位置の決定」の3つの段階があります。
(1)準備の段階
① 世界時の把握
天体の計算高度を求めるためには、天球における天体の位置が必要です。天体の位置は「天測暦(Almanac)」に記載されています。世界時(UT時刻)の時刻に基づいて、対象とする天体の位置を検索します。天測を行うには世界時を把握する必要があるため、専用の時計(「船用基準時計」「クロノメータ」)を用意しています。この時計にも、誤差(クロノメータ・エラー)が生じる可能性がありますが、この誤差も把握している必要があります。クロノメータの時刻表示が12時式の場合は、UT時刻について午前・午後の判定が必要です。
② 六分儀の器差(インデックス・エラー)の把握
③ 船内時間の管理
六分儀を用いる天体の高度の測定には、水平線も視認できることが条件です。昼間か薄明時にしか観測の機会はありませんので、観測時機の選定には考慮が必要です。
天測の時機(時刻)は、船内使用時の時刻です。船内使用時はその日の正午前後に太陽が正中(子午線を通過する瞬間)するように時刻改正が加えられています。
④ 索星
観測する天体を特定します。太陽、恒星、惑星、月が候補となります。観測するタイミングでの天頂から真水平までの90°の範囲内にある天体から観測の対象を選びます。「位置の線」同士の交差角を考慮しながら、天体の等級や光線の屈折の程度を総合的に勘案しましょう。あらかじめ選定していた天体が視認できるとは限らないので、見えた天体を特定し、「位置の線」を得ることも求められます。
⑤ 計算高度と方位の予備計算
観測する時機とその時の推測位置が定まれば、あらかじめ各天体の方位と計算高度を求めることができます。観測の際は、方位と本船の針路を勘案して、索星した天体が本船のどちら側に見えるのかを確認しておくことも重要です。
(2)高度の測定の段階
① 高度改正に必要な諸量の計測
測定した高度の改正(高度改正)をより適切に行うため、大気の状態(気圧、気温と海水温度)を観測する必要があります。眼高も高度改正に必要な要素なので、観測する甲板上での目線の高さも確認しておきます。
② 高度測定の実際
六分儀の望遠鏡内において天体と水平線が一線になった時の示度(六分儀高度)とUT時刻を記録します。天体の高度は刻々と変化するので、高度が変化する先の値に示度を合わせておき、望遠鏡内に天体をとらえつつ水平線に接した(合わせておいた高度になった)瞬間のUT時刻を得るのが現実的なやり方です。
UT時刻の記録は、同じ当直に入っている甲板手に依頼しましょう。天体と水平線が一線になった瞬間にホイッスルを吹き、クロノメータの前に構える甲板手がその時刻を読み取ればずれがありません。
③ 観測中の移動量の把握
薄明時の観測では、複数の天体についてそれぞれの六分儀高度とUT時刻を得ます。本船は僅かに移動しているので、各位置の線には微調整が必要となります。観測時の針路と速力も確認しておきましょう。
(3)位置の決定の段階
① 計算高度の再計算
高度を測定したときの船内使用時とUT時刻から、改めて推測位置と天体の位置を求め、これらを元に計算高度と方位を再計算します。予備計算した計算高度は、実際に測定した時刻とずれています。時刻のずれが大きいと、修正差も大きくなります。そうなると推測位置から離れたところに「位置の線」の交点が現れます。交点と推測位置の間が離れるほど、直線で近似する際の誤差の影響が現れます。これを避けるために再計算を行うのです。
② 高度改正
高度を測定した際の六分儀の読み取り値が六分儀高度です。これに器差(I.E.)を加減して、「観測高度(Observed Altitude)」を得ます。この値に種々の高度改正を加えれば、真高度が得られます。
③ 位置の決定
真高度から計算高度を減じて、修正差を得ます。修正差と方位から位置の線を特定し、作図または計算により、真の位置としての緯度と経度を確定します。
(4)高度緯度法の併用
北半球における薄明時の観測では北極星高度緯度法を、太陽の観測においては子午線高度緯度法を併用して、「位置の線」としての緯線を得ることができることも考慮しましょう。
衛星を利用した測位に比べると、星を利用して自船の位置を知る技術は時間や視界に縛られ、いかにも不自由そうに見えます。しかしアクション映画好きの私(担当M)からすると、ピンチのときこそ古い技術が助けになるものだ!とワクワクするのも確かです。著者の言う「自立した測位システム」の実力は、こうしたときに発揮されるのではないでしょうか。
『天文航法のABC』内容紹介まとめ
最新技術に頼らず、既に確立されているグローバルな測位システム、「天測」。天測についての基礎知識から、暦の利用方法、計算高度と六分儀を使った真高度の求め方を学んだあと、後半では実際の測位の流れ、コンパスエラーの測定について解説します。航海士を目指す人々に、この技術の理解を促し、技術の維持・継承を目指しています。
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海を測る、自船の位置を知る おすすめ3選
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『基礎航海計器』
学校の教科書として使われる『航海計器シリーズ』の1巻目です。本書で取り上げられた六分儀をはじめ、電磁ログ、ドップラーソナー、音響探深機や磁気コンパスといった航海計器について解説します。後半では、自差・傾船差等の原理や取り扱いについても学びます。
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『新訂 初心者のための海図教室』
こちらは小型船舶操縦士向けの解説書ですが、海図について知るための最初の一歩としてご紹介します。海図の読み方、航海計画の立て方、三角定規やデバイダーの使い方、線の引き方など、海図を深く知り、使いこなすための入門書です。
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『平成27年 練習用天測暦』
海技試験で天測暦が用いられることはなくなりましたが、海技士を目指す方の自習教材用としてどうぞ。日月出没時の計算、太陽子午線高度緯度法および北極星高度緯度法による緯度の計算、日出没方位角法・北極星方位角法および時辰方位角法による自差測定、隔時観測による船位測定などの問題に対応しています。