著者名: | 日本乳酸菌学会 編 |
ISBN: | 978-4-425-98371-1 |
発行年月日: | 2020//6/28 |
サイズ/頁数: | 四六判 212頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,980円(税込) |
近ごろ菌活や腸活がブームである。いずれも微生物の働きを利用して私たちの健康に役立てようとする活動のことであるが、中でも乳酸菌はその代表格といえます。現に、特定保健用食品(トクホ)市場の約半分を乳酸菌発酵乳、すなわちヨーグルトが占めています。もともと乳酸菌には整腸作用があることが認められてきていましたが、近年はアレルギー抑制作用、血圧調節作用、感染防御作用なども報告・承認され、乳酸菌の研究や乳酸菌を利用した商品開発が盛んです。
本書は、乳酸菌とはどのような生き物なのかから、ビフィズス菌との違い、ヨーグルトやチーズの作り方、乳酸菌が多く含まれる食品、保健効果、自分に合った乳酸菌の選び方に至るまで、乳酸菌研究の第一人者たちがわかりやすく解説しています。通読すると、乳酸菌が人類にとっていかに身近で有益な存在であるのかが理解できるでしょう。最近は健康面で注目されがちだが、乳製品、漬物から酒造りに至るまで世界中の食文化を豊かにしてきたことも見逃せない部分です。
食文化や健康に興味を持つ人にとっては、ワンランク上の食生活や腸活を目指すうえで有益な一冊であるとともに、専門家や研究者にとっても新たな視点やヒントを与えてくれる一冊です。
【はしがき】
乳酸菌は謎の多い微生物です。テレビや新聞で乳酸菌という言葉を見たり聞いたりしない日が無いぐらいに私たちにとって身近な微生物ですが,乳酸菌についてどれぐらい詳しい知識を私たちが持ち合わせているのか疑問です。乳酸菌はフランスのパスツールという偉大な微生物学者が発見して以来,未だ1世紀余りしか経っていないため,大腸菌や病原性の細菌に比べて,まだまだ未知の部分が多い微生物です。
そもそも乳酸菌という菌株は存在しません。乳酸菌という名称は特定の細菌を指すのではなくて,また,分類学上の呼び名でもなく,単なる慣用的な呼び名にすぎません。以前は糖を菌体内で代謝して最終的に乳酸を生成する微生物を乳酸菌と呼んでいました。しかし,腸内細菌として有名な大腸菌でもわずかな乳酸を生成しますので,これを乳酸菌と呼ぶのは奇妙です。現在は乳酸菌の定義の一つとして,菌体内で資化された糖の50%以上が乳酸に代謝生産される細菌を乳酸菌と呼んでいます。善玉菌として有名なビフィズス菌は市井では乳酸菌と思われていますが,実はビフィズス菌は資化した糖の40%しか乳酸を生成せず,それ以上に酢酸を多く生成しますので,乳酸菌のグループには入らないわけです。
一般に乳酸菌とされている細菌は現在,およそ30 属ほどあり,発酵食品を生産する菌の多くが属するラクトバチルス属や口腔で虫歯の原因となる菌が属するストレプトコッカス属などはよく耳にする属の乳酸菌ですが,まだ,未知の乳酸菌が存在する可能性があり,多くの研究者がその探索に努力しています。私たちが何気なく乳酸菌と呼んでいる細菌ではありますが,非常に多種多様な微生物であり,まだまだわからないことが多い微生物であります。
このように多彩な乳酸菌の働きについては読者の皆さんがよくご存知の通り,多量の乳酸を産生することによって,疾病などを引き起こす腸内の悪玉菌を駆逐して腸の働きを整える整腸作用があることが知られていますが,近年はヒトの健康に大きな貢献をする微生物であることがわかってきました。すなわち,乳酸菌にヒトの免疫を賦活する作用やアレルギーを低減する作用があることなどが明らかになってきました。そのために,これまでの乳酸菌飲料や乳製品を製造する発酵生産菌として利用されるばかりでなく,プロバイオティクスと呼ばれる生きたまま腸に届く有用な細菌として利用するために,さまざまな飲料や食品に添加されるようになってきました。しかし,すべての乳酸菌にこのような働きがあるわけではありません。同じ属で同じ種の菌株でも,ある菌株には有用な作用があっても,他の菌株にはそのような作用が全く見られないことが多々あります。すなわち,菌株の特異性が著しく見られるのが乳酸菌の特徴です。したがって,すべての乳酸菌がヒトの健康維持に役立つわけではありません。このような菌株による特異性が乳酸菌にあることは実に不思議なことで,謎でもあります。
このようにさまざまな謎の多い乳酸菌に対する疑問を,乳酸菌を研究している研究者だけでなく,企業で実際に乳酸菌を扱っている方々にも,できるだけわかりやすく解説してもらおうという意図で刊行されたのが本書です。乳酸菌についての基本的な疑問から乳酸菌を用いた製品についての疑問,食品に含まれる乳酸菌に対する疑問,それに最近,とりわけ興味を集めている乳酸菌の保健効果に対する疑問や乳酸菌を摂取することについての疑問など,読者の皆さんが持たれているいろいろな疑問に対してそれぞれの領域を専門とする執筆者が,それぞれの立場からお答えしています。乳酸菌についての初歩的な疑問から専門的な疑問にまで網羅的にお答えすることによって,皆さんに乳酸菌をよりよく理解していただくとともに適切な理解によって乳酸菌をより身近に感じていただきたいと強く思っています。
本書は設立から30年を迎える日本乳酸菌学会の強力なバックアップによって刊行されるもので,執筆者の方々の深い知識に敬意を表するとともにご協力ご尽力に深く感謝する次第です。
2020年5月
京都大学名誉教授,石川県立大学名誉教授
第4代日本乳酸菌学会会長
山本憲二
【目次】
Section 1 乳酸菌について
Question 1 乳酸菌とはどんなもの?
Question 2 乳酸菌はどうして酸っぱいの?
Question 3 乳酸菌に違いはあるの?
Question 4 乳酸菌の仲間はどのくらいいるの?
Question 5 乳酸菌はどんなところに住んでいるの?
Question 6 乳酸菌とビフィズス菌との違いは?
Question 7 乳酸菌を探すのはどうやるのですか?
Question 8 乳酸菌はなぜヒトの健康に役立つの?
Question 9 乳酸菌はいつ頃見つかったのですか?
Question 10 乳酸菌はなぜ善玉菌なのか?
Section 2 乳酸菌を使った製品
Question 11 乳酸菌飲料とはなに?
Question 12 ヨーグルトの作り方は?
Question 13 チーズはどうやって作るの?
Question 14 発酵食肉製品とは?
Question 15 発酵バターってなに?
Question 16 ヨーグルトは自分で作れるの?
Question 17 糠漬けと乳酸菌とは?
Question 18 ワインと乳酸菌?
Question 19 乳酸菌はなぜ牛乳が好きなの?
Question 20 日本酒造りに乳酸菌はどんな役割を果たすのですか?
Question 21 味噌や漬物にも入っているというのは本当ですか?
Section 3 食品に含まれる乳酸菌
Question 22 チーズに使われている乳酸菌は?
Question 23 ヨーグルトに使われている乳酸菌は何が違うのか?
Question 24 ヨーグルト以外に乳酸菌はどんな食品に含まれている?
Question 25 乳酸菌は何に多く含まれるの?
Question 26 海外の特徴的な乳酸菌発酵食品とは?
Question 27 お漬物の乳酸菌はどこからくるの?
Question 28 加工食品に含まれる乳酸菌は生きているの?
Question 29 食品の保存に乳酸菌が利用される?(バクテリオシン)
Section 4 乳酸菌の保健効果
Question 30 乳酸菌の効果は本当ですか?
Question 31 プロバイオティクスとプレバイオティクスとは?
Question 32 乳酸菌の成分によるさまざまな機能とは?
Question 33 機能性乳酸菌を用いた製品とは?
Question 34 乳酸菌の便秘改善効果とは?
Question 35 乳酸菌の免疫機能とは?
Question 36 女性向けの乳酸菌とは?
Question 37 インフルエンザ予防に効果があるのですか?
Question 38 花粉症に効くと言われていますが本当ですか?
Question 39 病原菌(悪玉菌)を減らすと言われていますが?
Question 40 乳酸菌のユニークな機能研究とは?
Section 5 乳酸菌を摂取する
Question 41 乳酸菌はたくさん食べても安全ですか?
Question 42 自分に合った乳酸菌をどう選べばよいの?
Question 43 乳酸菌によってチーズの味も変わる?
Question 44 乳酸菌を多く摂っている国は?
Question 45 見えない乳酸菌をどう捉える?
Question 46 乳酸菌は単菌,複合菌どっちがいいの?
Question 47 乳酸菌は死んでいても効果があるか?
Question 48 乳酸菌と気候風土は関係あるの?
Question 49 口腔向け乳酸菌とは?
Question 50 乳酸菌を生きて届けるための工夫とは?
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